お嬢様は世間知らず
龍の鎧と巫女衣装をシルバと一緒に巣穴へと運び終わると日が傾きだしていた。
全員が偽った姿になったものの兄ちゃんだけが、なんだか執事ではなくどこぞの貴族か王族に見える。
兄ちゃんに俺が着ているワンピースを進めようかと思ったが、魔王のような無言の圧力に屈して閉口した。
さすが、兄である。
弟の考えなんて御見通しなんだね!
執事で通すには少し無理があるかもしれないが、お嬢様である俺が見初めて側に置いている従者という事にした。
どんだけ俺の印象を悪くするんだろう。
旅をするのに真っ白なワンピースとブーツ。
左手には宝石の付いた存在感のある指輪。
王子のような従者。
可愛い侍女二人。
屈強な護衛二人。
高級そうなデカい犬。
俺が第三者だったら最悪なお嬢様だと思う。
関わり合いたいとも思わない。
ぅう!居た堪れない!
更に、皆で詰めた設定が最悪すぎる。
俺は、宝石商の我が儘娘で、隣の国に初めての商売に出かける世間知らず。
最悪だけど無理がない!!
くそ!なんてことだ!話がややこしくならずに、スッと周囲が納得する設定だ!
「おい、サフランは俺の髪で何やってんだ?」
「え?当然、お嬢様なんだから髪をまとめているんですよ?」
「お嬢様って生き物は、髪をツインテールにしないと生きていけないものなのか?」
「髪のどこかに必ずアクセサリーを付けているものですよ。幸い、ブルーノが持ってきた宝箱の中に対の髪留めがあったので…」
結局、あの宝箱は、俺の設定上必要だろうとシルバがブルーノに持たせたのだった。
太っ腹な上、気遣いが神レベルですね、シルバさん。
この髪留めの話がきっかけになり、俺は金持ちの事情などまったくわからないので、サフランからいろいろ聞いて学ぶことになった。
ツインテールの嫌な感じのお嬢様の完成です。
心の中で大号泣していたことは秘密だ!
シルバの背中で俺たちは、設定固めに力を入れた。
偽名を決めることを忘れていたので、コードネームのような即席感が半端ない名前になった。
エル→エミル
ライル→ライ
アジュール→アンジュ
ポール→黒
サラ→白
サフラン→ラン
因みに途中合流のブルーノは、そのままブルーノだ。
サラは、女だとばれないように、話すときは俺を通して話すこと。
ブルーノは、人前で話さないこと。
犬のふりをすること。
俺もわざとエラそうな態度をとらないといけないなって呟いたら、ポールが賺さず問題ないだろとツッコんできた。
あらあら、黒ってば扱き使われたいのね。さすが、変態騎士だわー。
先ほど見た村がまた見えてきた。
そろそろ、シルバともお別れです。
役立たずを二人置いて、シルバを連れて行きたいですが、そうもいきません。
シルバは、この広大な森のボスです。
それに、どう見てもデカいモンスターです。
連れて歩いていたらとんでもないことになります。
「ぅぅううう…寂しい!!!」
《息子と一緒ならまた会える。そう寂しがることもない。》
ブルーノよりは固くこしがある毛皮に顔を埋めてグリグリとすり付いて別れを惜しんだが、あっさりした返答が返ってきてより一層寂しくなった。
他に付いてきていたモンスター達も、俺たちがシルバから降りると集まってきた。
ああ、もふっこたちと離れるのは寂しい!
一匹ずつ撫でてから俺たちは村へ歩き出した。
振り返ると、シルバ達はまるで初めからそこに居なかったかのように音もなく去っていた。
居なくなっていたことを確認してから、色々なモンスターを撫でてべたついた手を自分で水を出して花石鹸で洗い流す。
「さて、参りますわよー…って感じでいいのかな?」
「エルは、いつも通りの話し方でいいだろ。」
「どういう意味だよ!」
「はいはい、村の入口が近いですから気を引き締めてくださいね、エミルお嬢様。」
ポールとふざけているとお兄様が、優しく忠告してくれた。
マジかっこいいわー…絵になるなー…
俺の前にポールが歩き、兄ちゃん、俺とブルーノ、サフランとアジュ、サラの順番で歩き、村の門番の前に立った。
「その者たち、旅のものか?」
「はい、お嬢様をこの先のキースルへとお連れするところです。」
「村に入るのに、一々立ち止まらなくてはならないの?足が疲れたから早くベットで休みたいわ。」
「お嬢様、少々お待ちください。
お嬢様のおっしゃる通り、何故こんなに警戒しているのですか?」
「いや、別に警戒など……どうぞ、お通りください。」
普通、村の門でこんな風に聞かれることはないはずだ。
俺の村だけなのかとも思ったが、兄ちゃんのアシストでも分かった。
二人の門番が、持っていた紙と俺たちを見て通した。
俺は、動揺しても平気なようにブルーノをモフモフ撫でていたが、意外にあっさり通したな。
しかし、あの紙には俺たちのことが事細かに書いてあるようだった。
やっぱり俺たちを必死に探しているんだろう。
「そうそう、この村で一番いい宿に泊まりたいの。どこがいいかあなた達探してきて頂戴。」
まだ、見てくる門番たちに不自然に思われない様振る舞うが、口調が慣れないな。
アジュとサフラン、それにサラを付けて村の様子を探らせるため促した。
「それでは、宿だけでなくその他の名物なども聞いてまいります。」
「ええ、何かあったら白に出てもらいなさい。
私たちは、お茶でも飲んで待っていましょう?」
「はい、お嬢様。足がお疲れでしょうから黒に抱えてもらって待っていてください。食堂を探してまいります。」
目の前の黒い鎧が、動揺したのかガッシャンと音を立てて揺れた。
四人を見送り、ポールに抱きかかえられるべく両腕を広げた。
「ふふふ…黒、遠慮はいらない…早く抱きかかえろ。」
「お嬢様、地が出てますよ。」
ひょいっとポールに抱きかかえられたが、これは女性なら誰でも憧れる騎士様にお姫様抱っこされちゃった!ではないか!
こんな嫌な返しをしてくるとは中々だな…
てっきり肩に俺を乗せるかと思ったのに!
抱きかかえられながら周りを見てみると、やはり村のものではない兵士が多い。
それと好奇の目がちらほら。
村も少年や女性何人かと目が合い、悪い印象を持たれないようにと、あざと可愛い俺お得意のスマイルで返した。
みな、頬を染めて顔を伏せて去っていくんだから悪い印象を少しは払拭できたのではないだろうか。
見てもいない兵士数人はデレデレ笑ってきたけど。
お前ら仕事しろ!
俺の仲間ですら、今現在皆仕事してるぞ!




