61話 『復隊』
カッカッカッカッカッ、ソレイエル中央神殿付属研究所の魔法建材製灰色床を一人の男が速足に歩く。
カーキ色の軽鎧の上に各種許可証がピンで留められた白衣を羽織う彼、“勇者”エリクの表情は渋い。
現在の彼が極めて多忙かつ不機嫌であることに加えて、急いでいるにもかかわらず廊下の速度制限のせいで走ることができないからだ……なにしろ、警報が鳴る。
先の襲撃事件のせいで、元々厳しかった研究所の警備とルールは以前に輪をかけて煩雑化していた。
仕方がないこととはいえ、忌々しい。
進むことしばし、突き当たりの金属扉に許可証のうちの一枚を押し当ててロックを解除。
ザリザリと重い音を立ててゆっくり開く扉にもフラストレーションを感じる。
「まったく、複雑な気分だ」
エリクはぼやきつつ、三日前にあった副隊長マリエットからの連絡を思い出す。
時間を無理やりあけて研究所に来る理由にもなったそれは、しばらく前から行方不明となっていた部下、リュミエラ・ド・サン=ウラガンと怪人サンカントの発見と回収完了だ。
聖堂騎士団工作部隊長“勇者”エリクにとって必要な人材という意味でも、単に知人が無事であったという意味でも良い知らせではある。
だが、それでも彼は頭を抱えざるを得なかった。
発見時の状況からして、かなりの破壊を伴った戦闘に巻き込まれていたのが確実だからだ。
安否がどうこうとは関係なく、彼のやるべき仕事がさらに積みあがってしまう。
現時点で既に、ここ半月ほど散発的に発生している“魔国”シュバルド王国からと思われる攻撃への対処にルクスコリ共和国陸軍ともども追われているというのに。
心情的には嬉しいにもかかわらず、溜め息が止まらなかった。
ただし戦闘とそれに伴う多忙は、職業軍人かつ“勇者”であるエリクにとって降って沸いた理不尽、というほどではない。
実際のところ二国は極めて長期にわたって紛争状態にあり、過去に遡れば両手両足で数え切れないほどの大規模戦闘が発生しているのだから。
なお、国としての歴史は古代超魂族が建国したシュバルドの方が長いが、いがみ合い自体はどちらが原因、というわけでもなく互いに侵略したりされたりの関係だ。
現在も特に休戦協定などを結んでいるわけではない……しかし、国境近辺での小競り合いを除けば数十年間は静寂が続いていたのも事実。
大軍同士の衝突こそまだ起こっていないが、国境付近の町がいくつか消え、工場地域に対する爆撃もあった。
無論ルクスコリ側も黙ってやられているわけではなく、各種の声明を出して軍を動かし対処をはじめているが、攻撃の狙いがいまだ不明なこともあり後手後手に回っている。
彼にとっても、彼以外にとっても面倒事は増える一方だ。
「おう、遅かったな、聖堂騎士団工作部隊長“勇者”エリク殿」
ガコン、プシュー。エリクの入室と同時に空気圧で勢いよく扉が閉まり、低い声が出迎えた。
顔すら向けず、皮肉がこもりつつも親しげな挨拶をした声の主は、椅子に深く掛けた痩身の中年男性だ。
光神ソレイエルの意匠こと銀の楕円を刺繍された研究者白衣めいた白ローブを羽織り、青いモニタに流れる細かな文字を凝視している。
「ええ、時間を作るのに手間取りましてね。
カルヴェさんやジョゼほどじゃないですが、僕も開戦の関係でてんてこ舞いなもんで」
「冗談だエリク、それに俺は付属研究所所長を兼任する羽目になったことだって恨んじゃおらんよ。
研究を引き継げる知識量とコネの持ち主つうだけなら他にも居るが、自衛能力や民衆からの信頼をも要求されるとなるとな、必然ってわけだ」
ゆっくりと振りむいたカルヴェ所長の顔は、疲労を滲ませつつも力強い活力と安らぎを内包したアルカイクなものだ。
白髪混じりの茶髪は奇麗に刈りそろえられており、直前まで背を曲げてモニタを凝視していたとは思えない清潔感と威厳を感じさせる。
それも当然、彼は純粋な学者ではない。
首都ルクス最大を誇る中央神殿の長、カルヴェ・デュ・カンジュその人であり、付属研究所が半壊したために仕方なく所長を兼任しているのだ。
ただし、ルクスコリが共和国化して以降の上位神官は必ず魂形質学を高度に修めているため、所長の方の立場も飾りではなく実際に研究への参加も行う。
魂と魔力についての解析がある程度進んでいる現在では、神学も信仰も科学の一分野だった。
閑話休題。
「……ええ、まあ、ご愁傷様と言いますか。
で、あいつらや他の職員の方々は?」
普段は数十名が詰めているはずのメイン研究室は、隅の方のデスクで通常業務と思しき事務作業に追われている数名の男女を除けば、エリクとカルヴェしか居ない。
いや、この部屋だけでなく神殿付属研究所全体でみても随分と数が少なかったように思われる。
確かに襲撃事件の影響で職員の全体数が減っていはするのだが、いくらなんでも静かすぎるし、先に来ているはずの忙しい相棒、“聖女”ジョゼの姿もなかった。
「職員連中はあんたら軍やら調査部やらから次々持ち込まれるもんの捜査で、大部分が別の研究室やら治安維持庁やらに出向中だ。
知っての通り、付属研究所は研究と技術実験だけしているわけではないからな。
ああ、ジョゼ君なら例の件で、ちと奥で手伝って貰っとる。じき出てくるだろう。
サンカントは外で待機中じゃないかね」
「なるほど、まあ迎えにきただけなので近くに居るなら問題はないです。
む、手伝いですか?」
「うむ、“光の聖女”の固有形質でないと試せないことがある、とリュミエラ・ド・サン=ウラガンに頼まれてな。
それぐらいの独断許可出しは許してくれ、ほら、俺は中央神殿長だからな、一応直属の上司よ上司。
ごほん、でだエリク、どこまで聞いている」
「拉致から脱出戦闘に関するおよその経過と、二人が無事だったことはマリエット経由で確認してますがね、詳細はさっぱり。
なにしろ、昼前まで防衛システムの調整と補強工事に追われてたもんで」
「人の事は言えんが随分と面倒な仕事を押し付けられておるな……ああ、技術方面が勇者化で伸びたのだったか。
まあいい、なら皆が戻ってくる前に説明しておこう、座って茶でも飲みたまえ」
「頂きます」
熱い液体を注いだ使い捨てのコップと干菓子をエリクに渡したカルヴェが、己のデスクに近い場所にある、仕事場には少々不似合いな柔らかく大きな椅子を指差す。
泊り込みで作業する職員が多いためか、あるいは研究者らしい単なる不精か、部屋から出なくても休憩や軽食がとれるようになっているのだ。
“勇者”の強靭な肉体を活かして煮え滾る茶を一気飲みしたエリクは、二杯目を要求したのち椅子に深く腰掛けた。
「腹がへっとるのかエリク、飯もないことはないが、何、いらん?
なら話を進めるかね、まずは怪人の、サンカントの方は、例によって別怪人の撃破による固有形質の強化と変質が起こっている。
まあそちらは既知だが、重要な点として遂に今までの検査で不明だった部分の魂機能が判明した。
正確には検査で判明したというよりも開示されたと表現すべきで、コード化して正確に表示できるわけではないのだが。
そうだ、“それ”の吸収装置と推測されとったやつだ。
あのブラックボックス記述な、悪魔の魂吸収や“勇者の儀式”の亜種ではないぞ。
うむ、怪人からの記憶の回収や捕食時にパワーソースが回復するのは、副作用とまでは言わんがメインとは違う。
吸収装置説は、先入観でしかなかった……あれは、あれはな、最初から取り込むべき固有形質コードが決まっていたのだよ。
いわばコードの保管庫、もしくは設計図。
通常のベルトラン怪人が“先代勇者”を解体したコードを使用して製造されているのに対して、サンカントは逆に“先代勇者”のコードを組み立て直すための怪人だ。
わかるか? この差は極めて重要だ、俺は確信したよ、奴は単に洗脳されていないというだけではない。
元々怪人を狩るように、いや、ベルトランの組織を倒すため秘密裏に設計され、怪人製造ラインで生まれたのだ……そして、経過は知らんが最終的にリュミエラちゃ……ロドリグの娘と思うとどうもいかんな、いや、うむ、何でもない、リュミエラ・ド・サン=ウラガンに拾われた。
研究者という人種が苦手なのは相変わらずで会話じゃ濁されたがな、もっと色々知っていると見るね、俺は。
いずれにせよ、新判明分のデータ的にも性格的にも今更背信はなかろ」
「理解しました、そのまま運用できそうで何より。
しかしカルヴェさん、サンカントは明らかに種族も人格も記録にある“先代勇者”とは異なりますよね、コードの回収が続いていったその先には何があるのでしょう?
あれと会う前に僕や陸軍が倒した怪人が居る以上、保管庫部分が完全に埋まることは無いにしろ……」
「解らん、解らんが、“先代勇者”は儀式の時点で既に老成していたようであるし、仮に上書きが起こっても旧帝国支配者のような横暴がなければ暴走の可能性は低いのではなかろうか」
「いえ、あくまで可能性の話で、僕も問題が発生する可能性はほぼないと見てはいますが、仕事柄心配性なもので」
頷き合うエリクとカルヴェ。
性格も役目も異なる二人だが、他人の上に立ちリスクとリターンと情をうまくコントロールするという点で共通だった。
とはいえ、彼らとて何もかも割り切れるわけではない。
「……怪人の方は以上だ、もとよりほぼ秘密裏に動かしとるんだから何かあっても大体揉み消せるしの。
さて、あれよ、本題の方、なのだが、ああ、雇い続ける事に問題はないぞ、ピンピンしている……が、ううむ」
「随分と言いよどみますね、偽りの聖女が生物離れしているのは今更でしょう」
「むう、それはその通りだとしか言えん、のだが。
俺は、俺は十一、いや十二年前だったか? 最初の検査にも立ち会っているのだ、実際、確かに、間違いなくエリク、お前より詳しいだろう。
しかしな、だからこそ出てくる謎も多い、そもそも、リュミエラ・ド・サン=ウラガンの特性は固有形質以前の問題だ。
確かに魂に刻まれた形質の影響でボディが変化すること自体は特別に、と言うほど珍しいものではない、お前や聖女君にしても、団長にしても常人とはかなり異なるしな。
それでもだ、アレの肉体構成は想像を絶する、あまりよい表現ではないがね、根本的に違う。
まあ、この文章化されたデータと……後はリュミエラちゃん自身からも話を聞いて判断してくれ」
難しい顔をして立ち上がったカルヴェが鍵のかかった棚から様々なラベルが貼られたケースファイルを取り出し、開く。
中身は十数枚の上質紙で、数値や専門用語がびっしりと書き込まれていた。
カルテに似ていなくもないそれら全てが、リュミエラの検査記録だ。
やや古い紙、つまり彼女の父であるロドリグが少女時代のリュミエラを首都ルクスに連れてきた時代のものは、記述のほとんどが魂の固有形質コードについて。
無論おかしなことではなく、中央神殿付属研究所の業務内容を考えればむしろ当然である。
ところが“勇者”エリクに雇われて以降の再検査では、逆に体機能に関するデータの占める割合が増え、推測や感想じみたあやふやな書き込みも多い。
そしてリュミエラの検査担当はロドリグとの縁もありカルヴェ自身……つまり、プロらしいとはお世辞にも言えない内容のメモ書きも彼による。
しかし彼は、間違いなく公務に携わる者としても学者としてもエリート中のエリートの一人。
偉大なるルクス中央神殿長にして(臨時とはいえ)付属研究所所長という肩書は飾りではない。
そんな彼に困惑、再検査や根拠のない推測記述をさせるほど、異常な数値が複数出ているというだけだ。
「あれカルヴェさん、もう最新の計測分がそこに入ってるんですか?」
「ん? いやこいつは前回の、“大牙”竜爪剣が上腕骨と化した時点までだな。
直近のはもうじき本人が持って戻ってくるだろう」
「なら、この間チェックしたばかりですね、細かな数値はともかく変化分は記憶、あ、いや、一応再確認させていただきます、有り難い」
「それがよかろう」
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各種計測機材を全身あちこちに貼り付けたシルバーブロンドの女が、診察台らしきものにもたれかかっている。
透けるように白い肌が白化個体を連想させるが、世界の光を飲み込むかのような漆黒の虹彩がそれを否定する。
顔の造作は“聖女”にもやや似て端正で見目好い……ただし、修羅場を何度も潜り抜けてきた存在特有の鋭さがあり、美より先に恐怖を覚える者も多かろう。
また、スマートかつ引き締まった筋肉質な印象を受ける身体つきと、いくつかの傷痕から近接戦闘者であることを推測できる。
しかしその女最大の特徴は、体型やら顔やら髪ではなく、一度見たら忘れようもない婀娜やかな真紅の鱗に包まれた左腕。
……つまり、首都ルクスに帰還し、神殿付属研究所にてデータ取りを行っているリュミエラだ。
「う゛、ぐあ、切断分離、終了。ジョゼさんお願い、できれば痛覚遮断してる間に、ね」
呻くような呟きとともに、ガラン、ガランと金属的な重い音が静かな室内に響く。
リュミエラが、データ取りの最終段階にある“目的”のため、左脚を己で切断したのだ。
一応局所麻酔をかけてはいるが体質上効果は薄く、痛みの軽減は彼女自身が持つ戦闘技術としての特定感覚遮断に依存している。
だが、決して興味本位の危険な実験や自傷癖ではない。
無茶をした上で“聖女”ジョゼの協力を受けてでも、試さねば気が済まない理由があった。
そもそも、切り落とした脚が何故金属音を立てるのか?
勿論、それには(不可解とはいえ)明白な原因がある。
いくつかの不可避な要因が重なって先日、一時的に囚われの身となったリュミエラはベルトラン地下基地のひとつ、フォルティ森地下保管庫での左脚を上腿の半ばから切除されていた。
それだけなら、後でジョゼの聖光による再生修復を行えば元に戻る……はずであった。
問題は安全に脱出するため有毒重金属燃料レンファニウムを取り込み、パワーソースを補給したことにある。
その際、体力とエネルギーが回復するのみならず、勝手に脚が生えてしまったのだ。
正確に言えば、脚のようなものが。
形状は脚というより骨と表現するほうが近く、色は銀がかった白、極めて高い靭性と比重を持つ。
関節は見当たらないが、膝と足首にあたる部位はやや太くなっており、意識すれば曲げることが可能だ。
足指とかかとは無く、接地部位は緩くカーブした板状。
配色と表面の滑らかさのおかげで、義足と思えば相当に美しい部類なのだが、この新たな脚にはフォルティで暴れていた時点では気づくことのなかった欠陥があった。
具体的には、燃料機関じみて一定以上の力を注がない限り、靴の有無に関わらず金属的な軋み音を発する。
本職が水晶集めであるリュミエラにとって、隠密行動を行うのに余計な体力を消費するというのは到底無視できず、なるべくなら“慣れる”以外の方法で改善したい。
……彼女は、基本的に超がつくほどの荒くれ者であり、必然的に発想も同様となる。
一周回って常人では決して思いつけないほどに。
要は、再度切除してジョゼに元の脚を生やして貰おうとしているのだった。
「はぁ、聖光の修復能力は魂までは及ばないので、あまり期待なさらない方が。
私の感覚では魂が既にその姿を認知していると思うのですよね」
「実行してみないと、わからないじゃない」
「やるだけやってみますけど……」
少しばかり投げやりに返したジョゼが、聖光の粒子を束ねた触手を紺色のローブの下から伸ばした。
それはふわふわと神秘的に揺れながら、リュミエラ左上腿にある、血がほとんど流れず肉はうっすら発光している不気味な傷口にまとわりつく。
干渉により光の泡がはじけてスパークし、静かにモニタに表示される数値を眺めていた計器担当の研究所職員を慌てさせた。
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研究室の扉がノックされ、主たるカルヴェが返事をするより早く開錠コマンドが打ち込まれた。
優美なシルバーブロンドを靡かせて浮遊するジョゼが、滑り込むように入室。
少し遅れガチャガチャした雑音とともに、赤黒いフードマントを纏ったリュミエラも現れた。
こちらは極めて不機嫌、というほどではないが残念そうな様子だ。
「カルヴェ様、終わりましたわ。まあ、リュミエラの希望からすると失敗でしたけど、興味深いデータが取れたのではないかしら。
あ、あらエリク、意外と早く来れたのね、本業の進捗はどうなってるの」
「おう、ジョゼ君ご苦労さん」
「どうにもなっとらんぞ、お前の顔を見たかったから少し速めに切り上げてきただけだ。
そっちもじき中央病院の方に戻らんといかんのだろ」
「ええ、でも私は今日明日乗り切って大規模戦闘がなければ聖女法で連休ですし。
っとカルヴェ様、これ先の検査結果と、実験の方は……ま、本人からお願いしますわ」
「そんなのもあったなあ、なるべく休み合わせたいが当分無理そうだ」
「仕方ありません、近い現場なら顔出しに行きますわ。
さて急がなきゃ、お先に失礼しますカルヴェ様、エリク、リュミエラもね」
ジョゼは宙に浮いたままクリップボードをカルヴェに差し出し、ついでエリクに顔を近づけると、あっという間に去っていった。
彼女は一応研究所職員でもあるため、ゲストのエリクやリュミエラと異なり制限速度を超えても警報が鳴らない。
“聖女”は多忙だ……特に、今のような状況では。
「はえー、話には聞いてたけど本当、忙しくなってんのね。
ジョゼさんが先に全部言っちゃったけど、それが結果ですカルヴェさん。
隊長もあたしなんかのためにお疲れ様で……ともかく、二人で戻れたわ、色々手を回してくれてたみたいで、うん、迷惑かけました」
溜め息とともに椅子にかけたリュミエラから、再びカチャリと金属音が鳴る。
フードマントがはだけられると、普段着であるラヴァ・ワーム革製の短い上下と締まった白い腹、そして不可解な左脚が現れた。
既に知っており、調べてもいるカルヴェはともかく、話に聞いていただけのエリクが不思議そうに骨じみた金属質を見つめた。
「気にするな、元気そうで何よりだ、マリエットから説明受けた限り不可避だったようだし。
何にしても本調子に戻ったらなるべく働いてもらうぞ、人員が足りないなんてもんじゃないからな。
しかし、それは…………生身……なのか?」
「どうかしら、ただ体の一部になってんのは確かみたい。
ぶった切ってジョゼさんの聖光を浴びるってのを三回ぐらいやってみたけどね、引き寄せて綺麗にくっついちゃう。
気を抜いてると金物みたいな足音が出る以外はあんまり困らない、と思う、ので、仕事に問題はないはずです……はぁ」
「ふーむ…………事務作業ついでに工作部会議室の方でサンカントも入れて話を聞こうか。
確認しないといかんことが多すぎる」
「わかりました、今から?」
「ああ」
「了解しました隊長。
サンカントは外で警備の手伝いしてるんで、通信機で呼べばすぐ来るはず」
「なんだ、もう行くのかエリクもリュミエラちゃんも。
全く、世間話をする時間もないというのだから……シュバルドで大飢饉でも起これば少しは暇になるかね?
いや引きとめはせんよ、こちらとてふざけた忙しさなのだ、また会おう」
「急にごたごたさせて申し訳ない、では失礼します」
「お世話になりました」
カルヴェは、自身のデスクに向かい直して本来の業務、つまり神殿側のスケジュールを確認しはじめた。
見るだけで憂鬱になる、等と呟きながらも彼の手先と目は素早く情報を吸収してゆく。
あっというまにスケジュールの再構成を終えた彼は、半ば研究所に定住しかけている連中に檄を飛ばしたのち、自身も中央神殿に戻るべく立ち上がった。
はっきり言って過密この上ないが、エリク達が居るような現場はおそらくもっと酷いのだろう。
「下には下が居る、か、うむ」
“研究者”から“神殿長”の顔に変化したカルヴェは、中央神殿に戻るべく立ち上がった。




