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聖女もどきと模造勇者  作者: 岡本
第六章 アウェイクニング
65/101

59話 『歩く旱』

 フォルティ森地下保管庫入口、跡地。

辺りの木々はなぎ倒され、瓦礫が散らばり、各所から上がる岩石成分を含んだ危険な煙は、淀んだ血のような沈みかけの夕陽に照らされ不吉な色に染まっている。

なかでも恐ろしいのは、破壊の中央部に空いたシンクホール状の深い穴だ。

時刻に関係なく光など当たるはずもない角度の縦穴がぼんやりと明るい。高熱。

そんな地獄じみて黒と赤に彩られる景色の中、四人が、いや四種類の怪物が睨み合っていた。


「ヌウーン、カトゥ、横」


 怪物のうちの一匹、常人の数倍の身長を誇る巨大棒人形が、鋼の柱のごとき四肢を点検しつつメカニカルに呟く。

自身のパーツ内に埋め込まれた特殊チップを活用し、主人との通信を瞬時に終えた機巧悪魔(サイバー・デーモン)レクタニカだ。

かれにはいくつかの追加指令が下っており、それが不満だった。

だが、実際問題として拠点から持ってきた兵器類を半分以上消費してしまっている。

かれは体側面に暗号文字を這わせ、今回の相棒であるカトリエムに通信内容を掻い摘んで伝えた。


「……仕方あるまい、が、このまま背を向けるわけにもいくまい」


「アア、マダ早エエ」


 ジェットパックで低空を浮遊する大型怪人が、バイザーの下の金色の虹彩をレクタニカの六面体パーツに向け、表示されたのたくる線虫のような光文字を素早く追う。

こちらも、予定より消耗している。

重機のような機械四肢とジェットパックにこそ目立つ欠損は無いが、主武器である三連装元素圧縮砲が一門折れ、全身を覆う戦闘スーツもあちこちが損傷して万全とは言い難い。

とはいえ、レクタニカにしてもカトリエムにしても、戦闘能力自体に重大な支障が出ているわけではなかった。

カシャンカシャン、成形水元素弾のリロード音が鳴る。


「うむ。にしてもだ、050の方は俺が止めるとして、あれには何が効くと思うね」


「オレ様ニ、分カルワケネェーダロ」


 怪人の視線の先には、真紅の鱗に覆われた左腕と骨を想起させるフォルムの左脚を持ち、全身が青白く輝きゆらめく裸の女……のようなもの。

つい先ほど縦穴から這い出してきたそれは、外見のみを客観的に見るならばこの場にいる四人の中で()()な方だ。

だが、巨大棒人形悪魔レクタニカや半機械半怪人闇魂族(オーク)のカトリエム、両腕から生やした無数の黄白色粘着糸を蠢かせるサンカントを差し置いて、最も正視しがたい存在でもあった。

なにしろ、視界を悪化させるほどに眩く、熱い。

それが“なに”かはカトリエムにも、通信で情報を取得したレクタニカにもわかっている。

極めて危険な固有形質を持つ要注意対象のひとりで、ベルトラン博士命名のコードネームは(ひでりがみ)

……しかし。


「ヤベェー!?」


 ZZZABOOM!

無言で放たれた不吉な薄緑のコヒーレント光がレクタニカの胸部を撃ち抜き、莫大な熱量で内部構造を灼いた。

有害煙が噴出する。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「あれ、思ったより効いてない?」


 熱線照射時の排熱で周囲の岩石表面を気化させながら跳んだリュミエラは、棒人形レクタニカに投げつけられた金属塊を回避した。

背後で小爆発が起こり、樹と瓦礫が千切れ飛ぶ。

カシャン! カシャン!

熱線により破損したレクタニカ胸部パーツが別箇所のもので穴埋めされる音が響く。

頭以外は全て同じ六面体で構成されており、代替が効くのだ。

続いて落書きめいたレクタニカの巨大な顔が元通りに固定され、口が開く。


「AGHHH! Fire!」


 トラバサミ状の牙の隙間から覗く砲口! BOOM!

極めて魔法技術の扱いが苦手なリュミエラは、最強の風元素増幅器である竜牙剣(ドラゴンキラー)無しには精密空中制御が行えぬ。

初弾は回避手段なし。だが、問題もなし。


「ほい、っとな」


 輝く真紅の左腕が振り回され、発生したオーラと衝撃波が煙を裂き、砲弾を叩き落とした。

さらに反動と爆風を利用して次弾を避ける。

諦めたように口腔内に引っ込んだレクタニカ主砲に代わり、いくつかの六面体パーツから機関砲がせり出す。

BUZZZZZZZZ! 面を抑える掃射!

だがリュミエラが照射する光熱と異様な温度の肌は、20mm口径弾を溶かし崩し、逸らした。ごく軽傷!

レクタニカはこれ以上の深追いを諦め、体表から煙とフレアを撒き散らして放射を遮断するとともに反撃を妨害。

空中はあまり良くないリュミエラも、無理はせずおとなしく着地。


「ガラクタのくせに」


「Fuckin'Hot!!」


 リュミエラとレクタニカが、ほぼ同時に悪態をつく。

二者は少し離れた空中で繰り広げられているサンカントとカトリエムのメレー戦闘に一瞬だけ注意を向け、戻した。

支援したいのは山々だが、現状不可能だ。


「そこで待っといてもらえない」


「オレ様ノ台詞ダァー……」


 煙と熱の向こうから、レクタニカのメカニカルな罵声。

サイバネティック棒人形は最初の熱線でリュミエラの危険性を見抜き、生成可能なあらゆる煙、粉塵、チャフ、フレアを散布していた。

呻き、ちらつく金属柱の巨体が夕闇の荒れ森を彩る。

一方のリュミエラも軽口を叩きながらとはいえ、渋い顔だ。

大量のレンファニウム燃料を食った今の彼女ならば、偽りの(False)聖女(Saint)の力のみで目の前の物体を丸ごと鋳潰しスクラップに変えることもおそらく可能だろう。

しかし、さすがにそれをやるとパワーソースの残量が危うい。

隣の戦いが終わり、二対一になれば一気に楽になるのだが。

……と、青く太い怪人と煌めく少年が揉み合いながら突っ込んできた!

チャンス。 


 ZAP! BLAM!


「痛えええ!?」 


「ウオーッ!?」


 直後、サンカントとカトリエムが同時に吹き飛んだ。

幸か不幸かどちらも致命傷ではなく、立ち直って木々を引き裂きながら殴り合いを再開。

何が起こったか? 

もちろん支援攻撃だ。ただし、双方の!

リュミエラは熱光線を、レクタニカは砲撃を、味方に当たっても問題ない程度に調整して放ったのだ。

一瞬の隙を突いたそれは恐るべき精密さで狙い通りの相手に命中したが、残念なことに思考回路が似通っていた。

状況に変化なし。

そして、後の目的のために力を出し惜しんでいた二者が、今すぐ、なんとしてでも殺すべき相手を確定させた瞬間。


「Dammiiiiiiiiiiit! ア゛ア゛、モ、モウ知ラネーッ!」


 KABOOOM!

神を呪うメカニカルシャウトの直後、レクタニカの棒人形ボディが爆ぜた。

猛烈な煙幕とともにバラバラに分裂拡散した六面体パーツから様々な武器が飛び出す。

いわゆる悪魔(デーモン)としての本気、魂の姿ではなく、単純な最大火力モード。

かれの魂の姿がきわめて特殊な形態であり、今のような状況ではまともなパフォーマンスを発揮できないための苦肉の策。

とはいえ、決して侮れるものではない!

相棒の変化に気付いたカトリエムが退避するかのように進行方向を変える。

リュミエラが叫ぶ!


「メェルトオ゛ォぉー……」


 舞い踊る六面体を睨むリュミエラが発する光熱が大幅に増加した。

レンファニウム燃料から得た過剰なパワーソースを直接攻撃に使うのではなく一旦濃縮し、偽りの(False)聖女(Saint)を活性化させて温度と身体能力にコンバートしているのだ!

周囲の温度は一気に上昇し、爆発するかのように大地の水が蒸気と化して抜けてゆく。

干乾びた地面が恒星の表面さながらに溶け、泡立ちはじめる。

あまりの光量で左腕の鱗の紅さすらも隠れた。

陽光の力そのものが輪郭の定かでない肌から蜜じみて滴り、空気と地面を焼き焦がす。

相棒の変化に気付いたサンカントが退避するかのように進行方向を変える。

レクタニカが叫ぶ!


「Firアアアアアア!!!!」


 BLAM! BLAMLAM! BANG! BUZZZZ! BOOM! BAOOOM! BATATATATATA!

コマンダーである頭部パーツの指令を受け、数十個もの六面体から迫り出した多種多様な砲が火を噴いた。

鉄と炎のカーニバル!


「うふはははぁー、無駄あははは! 全部! 全部! 全部効かない!」


 狂乱じみてハイテンションに笑う光の塊が、降り注ぐ弾と火薬の雨のなか、溶解どころか蒸発すら始まっている地表を滑るように歩く。

その言葉は決して大言壮語ではない。

ごぼごぼごぽり、実体と見紛う程の超高エネルギーが分厚いバリアと化して実体弾を焼失させ、放射線は仮想物質をも灼き焦がす。

ここまでの高熱空間ともなると、魔力干渉も火元素か光の要素を濃厚に含まない限りまともに機能しない……そして、リュミエラは両方に対して完全な免疫を持つ!

むろん、通常の状態ではこのなかば無敵に近い高出力を維持することは不可能。

少々無理をして取り込んだ膨大なパワーソースと、相棒と無事に再会した昂揚の相乗効果が制御を可能にしているのだ。

しかしレクタニカもさるもの、ただ無駄撃ちしてはいなかった。


コレデモ(Fuck you)喰ラエ化け女( asshole)!!!」


 煙と光の隙間から、レクタニカの頭部パーツが罵声と共に顔を出した。

カション、落書き口が大きく楕円に開いてトラバサミが打ち鳴らされる。

リュミエラは(コア)に該当するものが存在するであろう頭を撃ち落とすためパワーソースを振り分け、照射準備。

が、今回はレクタニカの方が速い。

虹彩の無い三角形の瞳が照準代わりに輝き、光を吸い込む暗い口腔が、巨大な釘を思わせる異様な弾丸を三連続で吐く!

細長いそれは一直線に飛ぶ。


「おおっ!?」


 ZZABOOM!

リュミエラは、反射的に三本の黒い矢を迎撃していた。

激しい熱線に炙られた弾頭から奇妙な音が響き、燃える飛沫が散る。

排熱で更に体温が上昇、沸騰する地面。

とっておきを外されたレクタニカの頭部は、悪態と榴弾を吐きながら煙の中に引っ込む。

奇怪な弾を処分したリュミエラが加速し、敵を処理すべく突っ込む。


「Huh! Huh!? 如何ナッテヤガンダ、Tungsten弾芯ガ!」


「溶ぉけて死ね!」


 青白い身体が煙を焼き、風を踏み越えてゆく。

BOOM! BOOM!

爆発する榴弾も足場代わりだ。

弾丸だけでなくレクタニカの部品が焼け、溶け、叩き壊される!

だが、まだだ。

砲撃を諦めたレクタニカはパーツを生け贄にして質量攻撃を行い始めた!

六面体パーツの質量は流石にリュミエラを怯ませる能力を持つ。

激突が繰り返され、そして。


「やっと捕まえた、ガラクタ!」


「AGHHHHHHH!」


 散々暴れた敵の頭部パーツを白く燃える鉤爪で溶かし引き裂こうとしたその時、近くの丘で幾つかの小さな閃光。

ソリオン系列特有の照準光と、マジカルキャノンの波長。狙撃だ。

大した威力ではなく光熱防御の前に霧散したが、リュミエラの注意は僅かに逸れた。

瞬間、残っていたレクタニカの浮遊パーツが燃え上がり、囮じみて煙と粉塵を噴く。


「あ゛」


 気の抜けた声を発したリュミエラの爪は、一応頭部パーツに沈んだが、手応えが無い。

既に、それは抜け殻だった。

彼女は悔し紛れに丘の狙撃者に照準を投げて過剰火力の熱線をぶち込み焼き殺したのち、溶けた地面に座り込んだ。

排熱が終了するとともに冷静さが戻り、体温が降下しはじめる。

余力がないではないが、予想よりもパワーソースの減少が激しい。

彼女は周囲に妙な反応が無いことを確認し、安堵の溜め息をついた。

半分ほどレクタニカの爆撃が原因とはいえ、随分と破壊を振り撒いてしまった。

特に、地下倉庫施設跡に空いた大穴の温度低下にはしばらくかかるだろう。


「あーあ、まあ、すぐそばに誰か住んでるわけでもないしいっかな……あ、そだ、サンカント!」


 いつのまにやら完全に日が沈み、空よりもそこらで燃えている残骸や地面の方が明るくなっている。

近場で戦闘しているような雰囲気もない。

()()()も勝負がついていたようだ。

リュミエラは、かなり消耗していた事を考慮に入れてなお、サンカントが負けるなどとは微塵も思っていなかった。

しかし、いずこかへと逃げ去った機械人形が随分と相棒を信頼していたように見えたのも確かだ。

やはり彼女と同じような思考を持っていたのだろうか?

わからない。

瓦礫の間からこちらを呼ぶ声が、慣れ親しんだ怪人少年のものであることだけは間違いなかった。


 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――



【ベルトラン地下研究所量子魔力通信記録:八千弐百五拾七号】


RTN:ピーガ■■■! コール! コー■■■■返答シロマ■■ー、モニ■■グ■■■■ォ? ■■■! Hurry! Hurry! Fu■■!

SZM:アラートを連打するな、増設神経が痛い

RTN:■■事態ダ■ッテ■ダ! ■■■■■■■■!!! ■■■!!

SZM:当然、貴様の眼から確認済み。フォルティ砦地下のソリオン・コマンド小隊を支援に向かわせた

RTN:■■■! ■■■! ■■■! ■■■! ■言■テン■! ■ス■ー■■カ■郎■! 足■■カ!

SZM:そうだ、足りん、二番目の丘から射撃させる、隙を見て撤退せよ、可能ならカトリエムも

RTN:ア゛■? コノ■■様ガ■■、イヤ、マ■タ■、アア、ア

RTN:■■対応■■■過■ル! F■■e! ■ex! ■■■■コ■光■■■、■藤■■ウ■■ダ!

SZM:急げ! 貴様に今ロストされるとシルヴェストルが立ち行かん!

RTN:■■トカ■エ■! ヤ■イ■ダッテ! 余■ガ■■■■■■■!!1!!11!

SZM:例の弾頭以外兵装廃棄

RTN:ア゛■ア゛■ッ■■! ■生ォー!!

SZM:さっさとやれ、指令だ

RTN:■ンファ■■ム■■隔■■ノ■理■■■■■■■マスター、■■■態■ゼ

SZM:博士は(ひでりがみ)がR燃料を吸収して地下保管庫下層を崩壊させたと推測している、処理は実質完遂だ、最低限ルクスコリ軍にR燃料と施設を奪われることはない

RTN:U■■mm……■KD■

SZM:無論可能なら殺せ

RTN:Y■ah!


【ベルトラン地下研究所量子魔力通信記録:八千弐百五拾八号】


RTN:脱出成功、支援感謝

SZM:カトリエムは

RTN:KIA

SZM:RIP

怪人図鑑そのにじゅうろく


〔機巧悪魔『レクタニカ』〕

怪人セジエムの玩具であった小型ソリオンを魔王アンドレアスが気まぐれな実験で加工したことで誕生した、コミカルで奇妙な小型悪魔。

完全なヒト型にすらなれないが、偶然に開花した極めてユニークな能力を活かし、建造物の破壊やベルトラン地下研究所・シルヴェストル支部のインフラを担当している。

また、副次的特性として全身が代替可能なブロック状のパーツで構成されており、ダメージコントロールに優れる。

戦闘行動時は近場の鉱物や機械式兵器を取り込むことで巨大化し、破壊を行う。


・おおきさ

身長、体重ともに可変。

コア部分は1フィート、20ポンド。


・装備

大抵の無機物と融合あるいは共鳴できるぞ。

ただし、本質が寄せ集めであるため、個人用に特化したカスタマイズ兵器や輸送艇リベルテルをはじめとした巨大かつ精密なものとの接続は難しい。


・特殊魔法と能力

「機巧浸食」

「格納」

「悪魔基本セット」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



第六章「アウェイクニング」終。

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