24話 『ビッグ・ゲーム・ハンティング』
聖堂騎士団工作部、会議室。
会議室と名がついていながら、詰め込んでもせいぜい二十人ほどしか入れないこの部屋は、いわゆる会議やミーティングには適さない。
代わりに内装がそこそこ豪華で、遠見や盗聴などに対して多少の防御がなされているため、各種政府機関からの情報連絡や任務依頼を受ける際に応接間として使われている。
だが今日はずいぶんと様子が違う。
壁と床には普段以上に慎重な防音や魔力遮断が施され、六人の男女が小声で話しているのだ。
人数こそ少ないが、まさに会議である。
なかでも、一番上座に居る男は特別熱心だ。
「……これは極めて、極めて重要なミッションだ。
そう、僕ら工作部隊全体にとっても、あんたら三人の収入にとっても」
ここでの会話を始めてから、もう何度目になるかわからない鬼気迫る囁き。
聖堂騎士団工作部隊長にして“勇者”のエリクである。
彼の両横に座る“聖女”ジョゼと、副隊長マリエットも同意を示すように真顔で頷いた。
一方、向かいの三人は微妙な表情を浮かべており、特に“信頼できるドワーフ”というだけの理由でリュミエラを通じて連れて来られたバスチアンの顔は渋い。
リュミエラ達とてエリクを信じていないわけではないが、いまだ本題に入っていないのがあまりに怪しすぎる。
「重要なのはもうわかったから、俺達が何をすりゃいいのか教えてくれ、“勇者”様よ」
「そもそもさ隊長、怪人がらみでも政府からの任務でもないのよね?
何でこんな内密に内密にな話になってんの」
「まあまあまあ、落ち着いていただきたいのですわ。
でもエリク、そろそろ詳細を話さないとダメでしょう」
肩をすくめるリュミエラと今にもエリクに詰め寄らんとするバスチアンをジョゼが制する。
そこでようやく、エリクが何らかの資料らしきファイルを取り出した。
机の上に置かれたのは、一枚の絵……いや、大判写真だ。
カラーではあるが映りが荒く、相当小さな写真機、あるいは新型動画記録装置“目”から抜き出した静止画であろう。
写体はどうやら、大きいが低い丘状の岩山だ。
しかし、その平たい頂上は妙に暗い。
よく注意してみれば、その暗闇には形があり、おぼろげに細身のドラゴンの形を取っている。
頭部らしき部分から、僅かに赤い光。
目を細めたバスチアンが自身の立派な黒髭を弄りながら呟いた。
「…………シャドウ・ドラゴンか?」
「そうだ、まだ若い個体だけども。
最近どこからかやってきて住みついたんだ。
おそらく、もっとずっと山奥で他のドラゴンに負けたか喰われたかして再誕したのだろう。
撮った場所は僕の故郷、フォルティ砦から少し行ったところ。
故郷が危険なのは困るが、だからこそ第一報が僕に入ってきたわけで、ある意味感謝すべきだな」
ドラゴン。
様々な種類に分かれていると言われるが、それは育った環境や個性によるものであり基本的に単一の種族だ。
明らかに特徴や大きさが異なるドラゴン同士でも、交配可能なのである。
凶暴で強力ではあるものの基本的に他の知的生物から離れて生きるため、通常はそこまで恐れられない。
とはいえ、偶然にしろ意図があるにしろ街の近くに巣を作ったものは災禍を撒き散らす。
そういった場合は全身が様々な武器や触媒、薬用として役に立つこともあり、決死の討伐隊が組まれるのだ。
現役時代のロドリグ率いる聖堂騎士団と激闘を繰り広げた老レッド・ドラゴン“大牙”などは、その代表的なものといってよい。
一応魔物に分類されるが、その強さのわりにはクリスタルの備蓄量が少なく、ドラゴンならではの特徴が多いので厳密には違うのだろう。
何にしろ、街の近くにドラゴンが出たということは大事件だ。
「ドラゴンは魔法に極めて高い耐性を持ち、数マイル先の魔力の動きを視る事すらできる。
また、ドラゴン製の武器で殺すと、ドラゴンがドラゴンを倒した時のようにどこかで生まれ変わってしまう。
なので、選りすぐりの戦士を組織的に動かして足止めし、魔法要素の少ない銃火器なりバリスタなりの集中砲火で仕留める……それが通常の対策だ。
遥か昔は数千数万の弓と槍を使ったらしいが。
結局、倒すのにどうしたって大金がかかるから、ドラゴンの素材は高いわけだな、うん。
さて本題だが、この写真の奴を処理しようと思う。
いくら若いといっても雛ではないわけで、六人で素材を分ければ大金だ、予算をケチられて貧困に喘ぐ我々聖堂騎士団工作部の運用資金の助けにもなる。
決して無茶なことはないぞ、都合がいい事にシャドウ・ドラゴンは熱にやや弱い」
「待って、ちょっと待って隊長、その言い方だとあたしの熱線が火力担当になるのよね?
そりゃ金は必要だし、作戦としては間違ってないと思うけど、さすがにシャドウといえどもドラゴンを仕留める威力が出せるかは怪しいわよ。
ついでに、情報は確かなの? ほんとは居ませんでしたとか罠でしたとか洒落なんない」
「うちの現地連絡員からの情報であるし、更に僕の故郷の知り合いからも流れてきているから情報精度に問題はない、はずだ。
んで威力だが、そのためにドワーフを、バスチアン氏を呼んできてもらったんだ。
リュミエラさんは光を吸収することでチャージ速度と威力を底上げできるだろう?
そこで、その…………こう……バスチアン氏がこれを…………」
熱に浮かされたように語り続けるエリク。
エリクの中に潜む異世界技術者のツチヤまでも会話に割り込んできて、典型的ドワーフであるバスチアンと同調した。
様々な専門的会話が飛び交い、議論はヒートアップしてゆく。
結局、エリク(と、予算関連が切羽詰まっているマリエット)の勢いに水晶集めのプライドが刺激されたリュミエラが肯定派に回り、バスチアンもツチヤの異世界技術により買収されて話はまとまった。
サンカントはずっと退屈そうにしていたが。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして数十日後。
一通りの準備を終え、シャドウ・ドラゴン討伐隊がフォルティ砦を出発し、巣へと進む。
しかし、全員が移動するわけではない。
リュミエラとバスチアンはシャドウ・ドラゴンの巣となっている岩山から数マイル北の高い山に、エリクはそれよりいくらか巣に近い山に陣取り時を待っている。
巣に向かうのは残りの三人だ。
「大丈夫かな……若いつって、五十フィートぐらいあるし犠牲者も数十人出てるんだろ?」
「余裕ですわよサンカント、エリクが大丈夫と言ってる相手なのですから確実に大丈夫なのです」
「ジョゼ様はエリク隊長を信じすぎだと思いますがね。
まあ、私達の仕事は適当に挑発するのと、隊長とバスチアン殿に連絡入れるだけで気楽なもんよ」
「まあ、そりゃそうなんだけどな、俺だってリュミエラさんが討ち漏らすとは思ってないさ。
けど……」
スリーマンセルの“二軍“チームが、辺りに注意を払いつつ件の岩山へと接近してゆく。
彼女たちの役割は、ターゲットであるシャドウ・ドラゴンを釣り出し、その様子と移動方向を通信機でエリクとバスチアンに連絡する事。
場合によっては足止めも行うが、それはあくまで非常時の話だ。
シャドウ・ドラゴンの肉体特徴は細身の体に青白い鱗、そして赤い瞳である。
全体的にはホワイト・ドラゴンに似ているが、ホワイト・ドラゴンのように鱗に元素化された魔力を備蓄しているわけではない。
色が抜けているのは単に白子だからであり、膂力や知能もドラゴンとしては低めだ。
しかし、その代わりというべきか“シャドウ”の名の通り、全身が黒煙状の魔力膜に包まれていて通常のドラゴン以上に魔法に強く隙が少ない。
そして当然、ドラゴンである以上接近しすぎるのは危険だ。
三人はジョゼにより厳重な魔力隠蔽を施してはいるが、件のドラゴンはこちらの存在に気づいているとみるべきだろう。
だが、それは織り込み済みの事象だ。
「見えてきたぜ、あの影の中心部にいるんだよな?」
金と黒の改造瞳を細めたサンカントがやや平坦になっている岩場を見上げた。
そこにはうっすらと雪が積もっており、中央部から黒い影が立ちのぼっている。
「これ以上近づくのはまずいぞ、ここから奴を起こす」
「そうですわね、私はエリクとバスチアンに連絡を入れます」
「じゃ投げるぜ」
サンカントは背負っていた大きな包みを地面に下ろし、十数本の投擲用金属槍と、妙な加工が施された二本の棒を取り出した。
今回の作戦のため、エリクとバスチアンが調整したもののひとつだ。
槍の穂先は重いドワーフ合金製で、持ち手はエリクとその体内に潜むツチヤが調整して飛びやすい形になっている。
小さめの三枚のヴェインはきっちり百二十度ごとに取り付けられ、集中力も高い。
使い捨てるには惜しい品だが、それでも榴弾や対物銃を連射するよりはずっと安くあがる。
棒状器具の方は同じくバスチアン製の投槍器だ。
サンカントとマリエットの超人的な身体能力を“聖女”ジョゼが強化し、投槍器がさらに増幅する。
実に原始的な高威力遠距離攻撃だが、今回のように移動しながら攻撃する必要がある上に獲物が魔法に強く、経費も節約しなくてはならないとくれば最適解だ。
濃厚な“聖光”の粒子が行き渡り数倍に強化された肉体の調子を確かめたサンカントとマリエットは、逃走経路を確認したのち投槍と投槍器を構えて“その時”を待っている。
ジョゼは通信機を操作した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……こちらエリク、了解、では三ポイント後に攻撃開始で……ふむ、予定より影のオーラが少し大きい?
問題ない、過剰火力で準備してある、うんうん、こちらは既に終わっている、ん、それはだな…………」
ツーツーツー、必要事項を確認したエリクは通信機を待機状態にした。
姿こそ普段のカーキ色鎧だが、様々なレーダーや遠見のレンズが内蔵された大型のバイザー付きヘルメットを被り、砲撃で発生する音から耳を守るための小型シェルターのごときドーム壁に覆われている。
ドームからは芋蔓を連想させる無数の太いコードが辺りへと伸び広がっていた。
それに繋がっているのは、周囲の地面に埋め込むように複数設置された大口径の迫撃砲。
経費節約の範囲内ギリギリまで威力を追及したものであり、制御は魂の同居人であるツチヤと共同で行う。
だがこれらはあくまで補助、シャドウ・ドラゴンの魔力膜を吹き散らすためのものだ。
真打は隣の山に陣取っている。
エリクはいまだ静かに眠るレンズの先の黒い塊を見つめ、ついで別の通信機でバスチアンに連絡を入れた。
今回のキーマンであるリュミエラに直接連絡できれば楽なのだが、通信機の耐熱限界の関係で不可能だ。
微かな電子音が響く。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おうエリク隊長、こちらバスチアン、都合よく雲一つねえからリュミエラ氏のチャージも捗る。
問題? 今のところは無いぞ、しかしよくもまあこんな装置を考えたな、ソーラデスレイ?
こんなもんリュミエラ氏にしか使えねえだろうに」
「んー? バスチアンさん、隊長は何て言ってる?
あ、パワーはいい感じ」
ドワーフ水晶集めのバスチアンが奇妙な機械を操作しながら通信機でエリクと連絡を取る。
その横には巣近辺が映し出されたクリスタルモニター。
少し離れた岩場には、エネルギーの大量チャージによりぎらぎらと光り輝くリュミエラが立つ。
ここまでの高熱に耐えられる衣類が彼女自身以外に存在しないため、彼女は足元に竜牙剣を置いている以外生まれたままの姿だ。
もっとも、その肌を見ることは通常の生物ではかなわないだろう。
ちょっとした建物ほどもある、巨大な放物面反射器により収束された太陽光の焦点に佇むさまはまるで第二の太陽。
リュミエラは周囲の岩をも溶かしながらチャージを行い、力をコヒーレント光に変換して解放するタイミングを待っているのだ。
「これから対象を覚醒させた後、エリク氏の砲撃で魔力膜を一部解除、そこでリュミエラ氏がとどめだな。
しっかしまあ、放物面反射器とやらは凄いもんだ」
「もうちょっと出力落としていいから小型化できないのかしらね?
あたしの体力回復に便利そうだ、っと。
んでシャドウ・ドラゴンのどこを撃てば一番素材が残せるわけ」
「狙うは首の根元だ。
にしてもこの感覚たまらんの、新たな技術とアイディア」
「了解、善処するわ。
この距離だと単独で精密な狙いは厳しいから、ちゃんとガイドよろしく」
「おうよ」
バスチアンが笑う。
リュミエラもその声に釣られて笑みを浮かべたが、表情の変化を認識できるものは居ない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ROOOOARRRRRRRRRRR!!
黒いドラゴンじみた塊が叫び、のたくりながら飛翔する!
“彼”は困惑していた。
遥か南方で縄張り争いに敗れて肉と色を失い、魂からシャドウ・ドラゴンとして再誕し、長い旅を続けようやく住めそうな場所を手に入れたばかり。
彼は決して強欲というわけではなく、むしろドラゴンとしては極めて臆病で少食と言えるだろう。
とはいえ、それは決して美点とはならない。
臆病さが呼び寄せた戦いの数々は今語られるべきものではないにしろ、臆病こそが彼をここまで追い込んだ主要原因である事は間違いのない事実だった。
今まで一度も成熟した事が無い、彼の幼い頭脳ではそのことに気付けない。
今回もだ。
数匹の命知らずを追い返し、夜闇にまぎれて必要最低限の獲物を食べる。
それだけしかしてこなかったはず。
自分は善良。
なのに、一体全体どういうことだろう?
気持ちよく寝ていたのに、魔法は感知できなかったのに、鱗が傷ついている。
肩に刺さっている銀色の針のせいだ。
痛い。
恐らく鱗無し連中の言う“矢”とか“槍”とかいうやつだろう。
ドラゴンとしてはそれほど優れてもいない彼の視力だが、決して盲ているわけではない。
黒い煙の下の赤い瞳は、しっかりと三匹の敵性存在を捉えていた。
逃げてしまいたい。
だが、いかに臆病な彼といえども、僅か三匹の鱗無し相手に巣から逃げ出すほどはドラゴンを捨てていなかった。
彼は息を大きく吸い込んだ。
「GRORRRRR!」
凶暴な咆哮が大気を揺らす。
体表を覆う暗黒魔力膜が脈動し、太い咽喉に力を送り込んだ。
直後、細く鋭い牙が煌めいて地獄じみた吐息が放たれた。
灰色の煙が減衰しつつ広がり、周囲の物質に滲み込んで消えてゆく。
燃えず、凍らず、痺れもしない静かな攻撃。
だが、それは当然無害を意味しない。
見るがいい! 煙が滲みた岩が、草が、みるみるうちに風化してゆくではないか!
彼はやはりドラゴンなのだ。
通常の生物がまともに喰らえばひとたまりもないだろう。
しかし、地獄の吐息が到達する前に三匹は散開していた。
なんという臨機応変スリーマンセルだろうか?
彼は歯噛みした。
再び銀の針が投擲される。
加速された針は恐るべき速度で彼の肩や首を狙う。
一本は爪で叩き落す。
もう一本は鱗を三枚破壊し、左脚に刺さった。
彼は低く呻いた。
痛いは痛いが所詮鱗無しの針による軽症、我慢できないほどではない。
何十本刺さろうとも少し寝れば戻る程度のもの。
臆病な彼を突き動かすのは怒りだ。
しかし。
「GRRAAAUGHHH!!」
KABOOM!
予想もしなかった方向から脅威はやってきた。
爆音、そして痛みと衝撃。
彼は歯噛みした。
BOOM! BOOM! KABOOOOOM!!!
知らない、こんなものは知らない。
飛ばなければよかっただろうか?
遠方から、おそらくは北から放たれたのは、無数の砲弾だ。
魔法を吹き散らす影の防御膜が削られている! 鉄と火薬の力!
爆風で露出した白い地肌を覆う鱗が割れ始めた。
BOOM!
彼は悲鳴を上げ、防御膜を再生させようとした。
叫びに応じて割れた鱗から魔力が噴出し、斥力が発生するが追いつかぬ。
爪で、牙で必死に弾を弾き、後ずさる。
怒りと怯えで歪む彼の視界が、自身の生成したものでない煙で覆われ始めていた。
こんなことはあってはならない。
彼は火薬の煙を噴き散らすと、望遠レンズのごとき瞳で北の山々を注視した。
強力な二つの力を別々に感じる。
まず、今も砲弾を吐き出す暴力的な鉄の力。要塞じみた高硬度の魂を感じるこちらが当面の敵だ。
しかし彼の視線は、さらに北、もっと高い山に鎮座する発光物体により引き付けられた。
不思議な、懐かしいようで恐ろしいオーラと、高熱。
得体の知れぬ危険を感じた彼は、砲弾をどうにかこうにか捌きつつ反転しようとした。
予想もしていなかった厳しい戦いだ。
焦る彼の不運は更に続く。
逃げようとしたその先、巣と砲撃者からは反対側、十四マイルほど先の森の中から黒褐色の何かが複数体飛び立った。
大きさは、恐らく彼の三分の二ほどだが、“それら”は異質だった。
彼は“それら”に類似した生物を、魔物を見たことがない。
強いて近いシルエットのものを挙げるならば鳥だが、妙な接続脚を持ち、鎧に包まれ、背面から炎を噴く羽ばたかない鳥など。
もはや、地上の鱗無し三匹などに注意を払う余裕は失われていた。
怯え狂った彼は、煙を噴きながら高く舞い上がり吐息を。
KABOOM!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
通信機がビープ音を立てながら激しく震動している。
エリクは顔をしかめ、カーキ色の軽鎧から針金のようなサブ腕を生やし、通信を開始した。
彼はその間も、超人的な器用さと二つの魂を利用したマルチタスクで無数の砲台のリモート操作を続ける。
「エリク! エリク!!」
通信機から、叫び声が響く。ジョゼだ。
シャドウ・ドラゴンの釣り出しが明らかに成功しているにもかかわらず、このタイミングでの連絡は異常の発生を意味していた。
打ち合わせとずれている。
「こちらエリ、なんだジョゼ! どうした?! 今手が離せんぞ」
「退避に関しては全員無事に終了しましたわ、問題ない……いや、そうではなく。
エリク、あれは何? 聞いてませんわ! サンカントが反応しないから怪人でもないし、一体」
「何を言っている? こちらに異常はない」
「ハ? 見えてない? 馬鹿な、あ!
エリク! れーだーと遠見レンズの魔法を切って、目視」
「何だと、それでは精密な、む、わかっ……ぬあ?!」
ジョゼの警告を受けたエリクの行動は早かった。
気休め程度にヘルメットの防音を強化し、ドームを破る。
砲撃の轟音に耐えつつ、彼は立ち上がった。
直後、口元が歪む。
顔のほとんどはヘルメットに隠されているが、唇だけで彼の困惑と怒りが感じられた。
フォルティ砦方面から、編隊を組んだ何かが飛来してきている。
クリスタル燃料を利用したジェットエンジンで飛んでいると見られる流線型シルエット甲冑が、一、二、三、四……合計九体。
彼の瞳から情報を得た、魂の同居人ツチヤからアラートが飛ぶ。
ツチヤは好奇心旺盛だ。
(おい、VTOL機だぞ、形は妙だしちんまいが間違いねえ。“エリク”、あんなもんがあるなら早く教えてくれりゃあ)
(VTOL? 飛行機械ならもちろんあるが、見たことのない形だ……。それよりも問題はなぜいるかだ)
(まあいいだろ、面白い。援軍かね、それともベルトランかね、“エリク”)
(悟ってんのかなんか知らないけど、お前は気楽だよな、ほんとに。こっちは予算と公務がかかってるんだ)
見事なアクロバット飛行で地獄の吐息を回避した高速移動する飛行編隊が、シャドウ・ドラゴンに攻撃を加えはじめている。
共闘のつもりであろうか?
だが、もちろん、不明な増援はエリクの作戦にない。全く予想外の出来事だ。
どうでもよさげなことで食い下がるツチヤの思考を聞き流し、いや思い流しつつ自問自答した。
無論、砲台他の操作は止めずに。
(情報精度……シャドウ・ドラゴンは実在したのだから確か。フォルティとの情報共有も問題無し、水晶集め支部とフォルティ自治部からの許可も取得済み。サンカントによる怪人反応チェックも問題無し、地盤も確認済み。カピテーヌとかいう怪人反応無し機械兵に関しては、聞いている話と明らかに異なり恐らく別件……僕は何を見落としている?
シュバルドか? いや、それならば此方やフォルティを無視してドラゴンを攻撃するわけがない。うむ……むむ……)
結論は出ず、時間の余裕も無い。
一旦思考を切ったエリクはツチヤに戦闘用操作を全て押し付け、ジョゼ達にフォルティ砦から離れるよう指示した後、バスチアンへの通信準備を開始した。
風に乗って聞こえてくる飛行機械編隊の微かなエンジン音が、とても不吉だ。
無意識のうちに唇の端を噛み切っていることに気付いたエリクは、通信機を操作しながら不機嫌そうに血混じりの唾を吐き捨てた。
この世界のドラゴンは強力な魔法バリアを纏っており基本は物理で殺します。




