第五節:リトライ
足音の聞こえた方向——つまり遺跡の方を振り向くと、そこには深い緑色をした巨大な躯が聳え立っていた。
そして片方の手には、樹木をそのまま削り出したような巨大な木製棍棒。
——ハイオークだ。
「えっ……は、ハイオーク……!?」
ドスン……ドスン……ッ!
重い足音を響かせながら、巨体がミリアとペルセウスの方へと近づいてくる。
「なるほどな……。以前お前を襲ったハイオークは、この遺跡——ダンジョンから湧いてきていたわけか」
「……ペル。ボクにやらせて」
ミリアはいつもの明るい雰囲気を消し、真剣な眼差しでペルセウスに告げた。
ペルセウスは何も言わず数歩後ろに下がり、ミリアの背中をどこか懐かしそうに眺める。
——チャキンッ!
剣を抜き放ち、膝を軽く曲げて身構えるミリア。
ハイオークの動きを冷静に観察し、深く息を吐いて心を静めた。
(大丈夫……大丈夫。ボクはもう、絶対に負けないっ!)
「グアァァァッ!!」
ハイオークが咆哮を上げたその刹那。
ミリアは果敢に地を蹴って走り出し、一閃を振り下ろす!
——ザシュッ!
「アガァァァーッ!?」
左足へ深々と刃を叩き込まれ、激痛に悲鳴をあげるハイオーク。
血眼でミリアを睨みつけ、怒りのままに我を忘れて暴れ出した。
(怒ってる……。でも、だからこそ今がチャンスだ!)
恐怖を捨て、普段とは打って変わって冷静に現状を分析する。
怒り狂うハイオークが、巨大な棍棒をミリア目掛けて力任せに振り下ろしてきた。
——ドゴォォンッ!!
「ふっ……!」
頭に血が上った大雑把な攻撃など、今のミリアには見切るのも容易かった。
すんなりと攻撃を躱すと、棍棒は空を切り、勢い余って地面へ深く突き刺さる。
その隙を逃さず、ミリアはすささっと間合いを詰め、右足へ速攻の刃を叩き込んだ。
「はぁぁぁっ!」
——ズバァッ!
「グア゛ァ゛ァァッ!?」
両足に深い傷を負い、ガタガタと体を揺らして動きの鈍るハイオーク。激痛から再度咆哮を上げる。
ミリアは攻撃の手を緩めない。さらにスピードを上げて距離を詰める。
痺れを切らしたハイオークが丸太のような拳を振り下ろしてきたが、すべてを見切っているかのような無駄のない動きでギリギリ回避。
そのまま振り下ろされた腕の上を駆け上がり、首元へと躍り出た。
「これで……終わりっ!」
——ブシャァァッ!!
切断には至らないものの、首筋を深く切り裂かれたハイオークから大量の鮮血が噴き出す。
言うまでもなく、致命傷の一撃だった。
ドスンと大きな音を立てて、ハイオークの巨体が倒れ伏す。
「やったよっ! 見てた、ペル!?」
「よくやったな。ハイオークを倒せたということは、Cランク相当の魔物なら十分相手にできるということだ」
「Cランク……! Cランクの魔物をボクが!?」
褒められて、飛び跳ねながら大喜びするミリア。
「たった一度の修行で、ここまで魔力を使いこなしてみせるとはな。まあ剣術の方はまだまだだが……戦闘中に冷静に対応できたのは流石だな」
「えへへ、そんなに褒めるととけちゃうよぉ〜?」
デレデレと照れるミリアを見て、ペルセウスはふっと息を漏らした。
「一度休憩を挟むか。肉もあることだしな」
ペルセウスは周囲に落ちていた適当な木の枝を集めて山を作ると、静かに手をかざした。
「——インフェルノ」
彼が短く呟いた瞬間、紅蓮の炎が爆発的に燃え上がり、集めた薪も枝もまとめて吹き飛ばした。
——ドカァァンッ!!
「ふぇっ!? な、なんで吹き飛ばしたのぉーーー!!!?」
「……いや、すまん。威力をギリギリまで抑えたつもりだったんだが、ダメだったらしい」
不器用そうに手をもみながら、ペルセウスは気を取り直してもう一度手をかざす。
「……ファイアボール」
今度はポンッと小さな火が灯り、無事に焚き火が出来上がった。
ペルセウスは淡々とした手つきで、先ほど仕留めた肉を焼き始めていく。
「ねぇペル、これが魔法……?」
「そうだな。火属性の初歩的な魔法だ」
焼き上がる肉を見つめながら、ミリアはふと気になったことを尋ねた。
「じゃあ、さっきの吹き飛ばしたやつは……?」
「……あー、あれは悪魔の……いや、火の上位魔法だ」
ほんの一瞬、ペルセウスは慌てたように言葉を濁し、露骨に視線を逸らした。
ミリアはそれ以上追求しなかった。ペルセウスの言葉を、そして彼自身を心から信じているから。
香ばしく焼き上がった肉をたっぷり食べてお腹いっぱいになると、軽く休憩を挟んで装備を整え直す。
「よーっし! 初ダンジョン攻略、行っくぞー!!」
「飯を喰ったらすぐに元気になりやがる。……いや、いつもうるさいか」
「ひっどいぃー!」
いつもの賑やかなやり取りを交わしながら、ミリアとペルセウスの二人は、静まり返るダンジョンの闇へと足を踏み入れていった。
あとがきだよー!
やっほー! ミリアだよ!
今回はボク、大活躍だったでしょー!
……まあ、あれくらい倒してもらわないと困るがな。
もうっ! ちゃんとストレートに褒めてくれたっていいじゃん! ふーんだ!
それよりさ、あの薪を吹き飛ばしたのなんなの!? ボク、本当にびっくりしたんだからね!?
ああ……。お前と違って、俺は魔力の操作が得意なわけじゃないからな。つい出力が出すぎた。
……へぇ〜? ん? 今、ボクのこと実質褒めてくれた感じ……!?
うるさい。先に行ってるぞ。
あっ! 待ってよ〜! 照れてるんでしょー!!




