人を馬鹿にしちゃいけません
「えっと、何なんですかあれ、なんですかあれ!?」
担いでいた体を床に下ろして彼女の顔を覗くと、酷い怯えと混乱を含んだ表情のスヴェンがぎゅっと僕の袖を掴んで離さない。
ここで彼女を置いていくのはいい判断とはいえないな。
「キャッ!!」
スヴェンの腕をグッと引いたと同時に窓ガラスが割れた。
三本の矢がバキっと音を立てて床を貫いている。
ここでスヴェンを置いていこうかと悩んだが狙われてる彼女を置いていって何かあったら後が怖い。
そう考えている間にも矢はガラスを砕き板を折っていく。
次のガラスが割れる時、僕は1番重要なことを思い出した。
…………あっそうだよ……魔術があるじゃん。
いつのまにか身も心もヴァンパイアになっていたと錯覚していたらしい。
不安そうな彼女の方を向いて痛む心臓の音を無視して言葉を発した。
「ねぇスヴェンちゃん、ちょっとここで待っててもらってもいいかな?」
「えっ……」
大きな目からボロボロと涙が頬を伝う。
ハンカチをスヴェンの手に握らせた。
「不安ならお父さんの元まで全力で走るなり飛ぶなりして欲しい。スヴェンちゃんが逃げてる間、私がしっかり護るから」
沈黙の後、ゆっくりと首は縦に振られた。
非常に便利な異次元空間から魔術書を取り出してページを捲る。
「フェアタイディグング」
指先から光が溢れ、スヴェンの体を包む。
しっかり術がかかったのを確認すると扉に近づき彼女に目配せを送る。
僕が出ると同時に彼女は飛び出した。
矢が雨のように降り注ぐがスヴェンには当たらず跳ね返って地面に落ちる。
次の矢はスヴェンのいる方向とは全く違う場所に飛んで行った。
乾いた破裂音が辺りに響く。
かっこよく片手撃ちといきたいところだが生憎そんな事が出来る実力は持ち合わせていない。
ボウガンが硬い土の上に落ちる。
狙いを定めてもう1発、今度は羽を突き破った。
「うっ」と小さな呻きが聞こえて彼はふらりと落下する。
落ちた弾丸を拾う。
試し撃ちしてなかったけどちゃんと機能してくれてよかった。
「ありがとね、桂さん」
自動式拳銃を優しく撫でて、服の中のガンホルダーに仕舞う。
名前を付けたのは旧友がよく物に名前を付けていた癖が移ってしまったのが原因だ。
「先に攻撃したのはそっちだからな」
銃口を僕より小柄な少年に向ける。
灰色の髪に1本のメッシュが入ったヴァンパイアが威嚇するようにこちらを睨む。
が、全く怖くない。
顔が可愛らしいからだろうか。
「これ以上撃つならこっちもただじゃおかない」
そう脅し文句を言うと彼はフッと嘲笑った。
「お前は馬鹿か?ヴァンパイアに銃なんて効かねぇよ」
「ボウガンの矢もヴァンパイアには効かないぞ?」
ジッとこちらに視線を外さずに彼はまた口角を上げた。
心底馬鹿にしたような笑みに共感性羞恥が背中を駆け巡ったが、すぐに大きな雑音で掻き消される。
「この矢はアイツらに当たったら光を出しながら爆発する……つまりは閃光弾だ!!!」
「…………そっかぁ、凄いねぇ」
笑いそうになるのを必死で堪えようと太ももをつねった。
こんなやつ久しぶりに出会ったなぁ……。
ひょいっと床に落ちていたボウガンの矢を投げつける。
「えっちょわっ!危ねぇだろ!」
「危ないのはそっちだろ」
キレる彼に怯んだりもせずに、僕は1歩1歩距離を詰めていく。
「命知らずなヤツめ!ヴァンパイアを怒らせたらどうなるか分からないようだな!」
別に人間だとバレる事に不利益はない。
ヴァンパイアは血の匂いで種族が分かると言うのは本当らしい。
試しに矢で血を出してみて正解だった。
溢れる赤い液体を魔力で抑える。
「ヴァンパイアはお前らを従えさせることだって出来るんだぞ!!!」
それは髪の黒いメッシュが3本以上ある者にしか出来ない。
彼はせいぜい虫しか従えられない。
「おやすみ」
腹に蹴りを入れて無力化させた。
口から唾が飛び散って腹を抱えてうずくまっている。
首に向かって手を振り下ろす。
そこで彼の意識は完全に途絶えた。
手を縄で括り付ける……外れないようにしっかりと。
一先ず住人達に安全になったことを知らせに行ってからコイツをどうにかしよう。
また僕はスヴェンと同じように担ぎながら一軒一軒回って行った。
「で、彼女を殺そうとしてたのはどういうこと?」
薄暗い洞窟の中で彼が目を覚ました。
ギャーギャー喚いていたけどボウガンの矢を近づけると、黙り込んだ。
怯えからか有難いことにぺらぺらと口を滑らせる。
「あの人から頼まれたんだよ!自分が王になるから邪魔だーって言って」
「殺ってくれって?」
「いや、そこまでは……言われてない」
尻すぼみになっていく語気に怒りを通り越して呆れが顔に出てしまった。
「じゃあなんで殺ろうと?そっちのが罪は重くなる」
「あの人に褒めてもらえるから!!あの人は……俺を救ってくれたんだ!だからあの人が喜ぶことを先にして」
「だからって殺すのか」
押し黙る。
2人の間に沈黙を破るように彼はキレた。
「そうだよっ!それの何が悪い!好きな人の喜ぶ顔見たいから頑張って何が悪いんだよ!!!」
はぁぁっと深いため息が出る。
やっぱし僕は昔から何も変わっちゃいないな。
セインなら巧みな話術でとっくに彼の主人の居場所を吐かせているだろうし、フレアも機嫌損ねさせずにどうにかさせるだろう。
額を押えながらそっと呟いた。
「……すまーんレイラ。やっぱり僕に話し合いという手段は早すぎたみたいだ」
もう1発腹に蹴りを入れる。
静かになったコイツをどうするか悩んでいると、頭が握り潰されているような痛みが走った。
『なーつめ!そっちはどう?……って聞くまでもないかぁ』
きゃはきゃはと到底22歳が出すとは思えない程、子供っぽい声が聞こえてくる。
なんだこれ……脳内からセインの声がするけど……。
幻聴……?
『幻聴じゃなくて魔術ね。棗もいずれ習得するから心配要らないよ〜あっあの親子はルイに任せてるから心配しなくて大丈夫なのと、彼はロイが押さえとくからこっち来な。場所は分かる?』
スマホがピコンッと鳴り、2人の場所が顕になる。
体の上には水で形作られた何かがいるのは明白だった。
深くお辞儀をしてから片手に持っていた魔術書を開ける。
「シュプリンゲン」
踏み出すと体は宙を舞った。
そのまま木に飛び移りながら先を急ぐ。
地面に足を下ろすと既に終わっていたらしい、2人が何やら真剣に話し込んでいた。
改めて棗という人間ついて考えさせられました。
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[おまけ]
・仲の悪さを疑うセインと全否定する棗とフレア
セ「なんで2人ってさ、そんなに仲悪いわけ?」
棗「気に食わないから」
フ「気に食わないからです」
セ「でもさぁ息ぴったりじゃん」
棗「違う」
フ「違います」
セ「ほら今も」
棗「コイツが合わせてきてるだけ」
フ「こいつが合わせてきてるだけです」
セ「……仲良し……あっ喧嘩するほど仲がいいか」
棗「絶対違う」
フ「悪寒がフルマラソンしてます、この話は止めましょうセイン様。ほら、生クリームたっぷりのロールケーキ食べましょうね、ねっ!」
セ「はーい」




