第4話
「おはようございます、カイト様」
朝、銀髪褐色巨乳美女に起こされるという、最高のシチュエーションながらも、俺の気分は沈んだままであった。
「やっぱり、夢ってわけじゃなさそうだな……」
俺はそう割り切ると、気合いを入れ直し、やたら豪華な客間のベットから体を起こす。
「朝食の用意はできておりますよ」
俺はティナにそう言われて始めて、こちらに転移させられてからまだ一度も食べ物を口に入れていないことに気がついた。
昨日は驚きに次ぐ驚きで、疲れ切ってしまい、客間に通されるとすぐに寝てしまったのだ。
「おはようございます、カイトさん」
食堂というには些か豪華すぎる食事処に足を踏み入れると、メアリアが笑顔で出迎えてくれた。ちなみに魔王の姿はない。
「おはよう、メアリア」
俺はメアリアに挨拶を返すと、机の上に置かれている美しい細工の施された皿に目をやった。
細工こそ地球とは比べ物にならないほど美しいのだが、その上に乗っているものは、それ以上に地球のものとは比べものにならなかった。
紫色の肉に真っ赤な肉汁。そして所々に青色の粘液のようなものがこべりついている。
「これは?」
「シーポイズンフロッグの肉の丸焼きです」
「……」
メアリアが丁寧に教えてくれるが、どんな生命体なのか皆目見当もつかない。
「どういたしました?食べないのですか?」
メアリアは、引きつった顔をしているであろう俺を不思議そうに見ながら、ナイフでシーポイズンフロッグの肉の丸焼きを切り分け、上品に口に運んだ。
どうやら、毒はないらしい。
しかし、人間は食べても大丈夫でも、他の動物が食べると中毒症状を引き起こす食材だってあるので、一概に大丈夫とは言い切れないが。
ただ、こっちに来てから全く物を口にしていないので、空腹が抑えられそうもない。
俺は、満を持してシーポイズンフロッグとやらを頂く事にした。
「…………まじぃ」
ゴムのような肉を何度もなんども咀嚼して、ようやく飲み込む。
客人として、出していただいた料理にケチをつけるのは本当であればしたくないのだが、これはそうせずにはいられないのだ。
なんか、生臭い上に固い肉。ねとぉっと口に絡みつく青色の粘液。そして、中途半端に美味い肉汁。その3つが、融合する事でなんとも言えない不味さを醸し出している。
「これは、俺の舌がおかしいのか?」
「いや、そなたの舌は正しいぞ」
俺を召喚した張本人、魔王様が食堂に入ってくる。
「そう、ここの料理は異常なほどまずいのだ。そして、それがそなたをこちらに呼んだ原因でもある」
「どういう事だ?」
俺はますます召喚された理由がわからなくなった。
ただ、それがろくでもない事なのは想像がついてしまった。
「そのですね、私たち魔族の住む、魔界の料理は何故だかとてつもなくその……美味しくないのです」
メアリアが辛そうな表情を浮かべながら、話し始めた。
「私は旅行が趣味なのですが、魔界の各国を回って美味しい料理を探していたのです。その時、たまたま人間の営む食堂を見つけまして、その時食べた『パン』がビックリするくらい美味しくて……」
メアリアの顔はさっきの辛そうな顔から一変し、恍惚とした顔になっている。
因みに、これは後になってわかった事なのだが、その時メアリアが食べたパンは、人間の住む聖界から運んでくるため、保存用に作られたもので、日本という美食大国から転移してきた俺からすれば、『まあ、魔界のものよりはましだけど、固いししょっぱくて美味しくない』程度のものだそうだ。
「それから、メアリアが聖界に行きたいと言って聞かなくてな、我も聖界に興味があった故、ここ聖界に進出を開始したのだ」
「旅行のために侵略される人間の生活領域って……」
一人で早合点している俺に、魔王は勘違いはするなよと付け加える。
「間違えてもらっては困るのは、別に我は聖界を侵略したいわけではないし、侵略しているわけでもないのだぞ?」
「そうなのか?」
「はい、私が人間だって生きているんだからそんなひどいことしないで欲しいって頼んだんです」
驚く俺に、メアリアは笑顔で答える。
「人間など滅ぼしたほうがらくであろうに「父様!!」むぅ」
愚痴をこぼす父親をメアリアが鋭く制す。
「……兎に角だ。心優しいメアリアの提案により、魔界と聖界の間、我々は混沌領域と呼んでいるのだが、そこの荒野に城を建てたのだ」
「なるほど」
魔王が娘の前で堂々嘘をつくとは思えないので、魔王の言葉を信用する事にしよう。
確かに、昨日転移させられた場所は、なにも無い大荒野だった。
おそらくだが、痩せた土地の上に、近くに魔界もあるという理由から放置され続けていたのではないだろうか。
「それなのにだ!!人間どもは宣戦布告もなしに大軍を差し向けて来おったのだ!!しかも、何故か知らんが勇者どもは何度殺そうとも蘇りおる。一般兵もすぐにではないが一月もあれば元どおりだ」
「復活はせこいと思うけど、軍を差し向けてくるのは仕方がないな」
「何故だ!」
「そりゃ、近くにいきなりとんでもない力を持った生物が現れたんだ。危険があると思わられても仕方ないだろ」
「むぅ、確かにそうかもしれんな」
魔王は案外物分りが良いようで、すんなり納得してくれた。
「して、異界の賢者よ、そなたはここからどう立ち回るのが正解と見る」
「そうだな……」
俺は、顎に手をやって少し考える。
「まず、人間を滅ぼすのは止めるべきだろうな」
「ほう、してその心は?」
「簡単だ。人間がある程度はいないと、人間の文化をなくしてしまうから、聖界に進出する意味がないだろう」
「確かに……」
「でも、撤退するのはもっと良くないな。もしかしたら、人間が調子に乗って、魔界まで進軍してくるかもしれない」
「ではどうするのだ?」
「そんなの簡単……」
俺は出来るだけ悪者っぽい笑みを浮かべて、告げる。
「勇者どもを堕とします」
「「「えぇ〜」」」
この場にいた俺を除く全ての人が、ドン引きである。
しかし、すぐに魔王は真面目な顔になって話を続ける。
「して、方法は考えているのか?」
「ああ、問題ない。ただそれには勇者の捕縛は絶対に必要だ」
俺がそう答えると、魔王はその顔に難色を示した。
「あんな雑魚ども、捉えるのは簡単であるが、弱すぎて殺しかねない」
「それについては大丈夫。罠を張ろうと思ってる」
「そうか」
俺の話を聞き終えると、魔王は高らか宣言する。
「異界の賢者、カイトよ!!我が頭脳となりて人間の勇者をどうにかせよ!!」
俺は一瞬断ろうかとも思ったが、魔王の琴線に触れれば何が起きるかわからないし、帰れる保証もない。
そして何より
(こんな面白い状況を楽しまないとかもったいなすぎるだろ)
俺はそんな考えを胸に、邪悪な笑みを浮かべて答える。
「わかりました魔王様。必ずや無限に蘇る勇者どもを始末して見せましょう」