第3話
金髪イケメン騎士の戦いはそれはまあすごかった。
あんなに重そうな鎧を着ていながら、俺の全力ダッシュなど比べものにならないような速さで走れるのもだが、オークやらミノタウロスやらがうじゃうじゃいる所に単身で飛び込んだと思えば、舞うように剣を振るい、次々と化け物を屍に変えていく。
魔王も苦い顔で話し始めた。
「彼奴らが我が臣民に危害を加える害虫どもだ」
魔王がそう話している隙にも、魔法で何体ものオークが焼き殺され、雨あられと降り注ぐ矢に打たれてミノタウロスが倒れる。戦士の大斧にワーウルフが叩き潰されたかと思えば、トロールの首が跳ね飛ばされる。
「カイトよ、我はあの塵虫どもを消し飛ばしてくる。そなたは聖痕を解放して待っておれ」
魔王はそうおれに言い残すと、ものすごい速さで騎士の元に行ってしまった。
「聖痕を解放ねぇ」
俺はそう呟きながら、ライトノベルでしばしば聖痕はスティグマと称されることがあるのを思い出した。
「聖痕解放」
俺が試しにそう呟くと、右手にあった聖痕が青い光を放ちながら浮かび上がった。
(これであってるのか?)
そう疑問に思うことしかできなかったが、魔王に確認を取ることもできない。
等の魔王といえば、勇者の元にたどり着いたようで、腕を組んで勇者を見下ろしていた。
「性懲りも無く現れおったな塵虫が!!今日という今日は手加減せんぞ!!」
俺の立っている場所から100メートルは確実にあると思うのだが、魔王の声はなんの問題もなく聞き取れるくらいの大きさで俺の耳に届いた。
「いくぞ!!」
魔王の放つ威圧に勇者たちは一瞬怯まされたものの、直ぐに気合いを入れ直すと、五人がしっかりと連携を取りながら魔王に襲いかかった。
「女神の炎よ、我が力なりて魔を焼け、聖炎球」
神々しい炎が魔王の体を捉える。
その瞬間、矢の雨が魔王を襲った。
そして、それに合わせるように、騎士と剣士が両サイドから斬りかかる。
「風神斬!!」
「豪炎斧!!」
それらは、外れることなく魔王の体に叩き込まれた。
しかし、離れたところからそれを見ていた俺には分かっていた。
あんな攻撃では、魔王に傷はおろか痛みすら与えるに至らないことを。
「やはりそんなものか」
魔王の蔑みの声とともに、大気がいや、星がビリビリと揺れ始めた。
「あえて受けてやったというのに……どうする、今逃げるのであれば殺すまでは至らんぞ?」
「誰が逃げるか!!」
騎士は己を鼓舞して、仲間の前に立つ。
「そうか……」
魔王はめんどくさそうにそう吐き捨てると、右腕を前に突き出した。
「蒼炎より出でし悪魔の龍よ、我が力なりて敵を焼け、灼熱の蒼炎龍の憤怒!!」
炎より熱く、魔王よりも大きい、煉獄の蒼炎が龍を成した。
それは、目視も叶わないほどの閃光となりて、周囲のありとあらゆるものを焼き尽くしていく。
「ちょっ、タンマタンマ!!俺死んでまうって」
距離など関係ないと言わんばかりに届く熱風に、俺は皮膚を焼かれるような感覚に陥る。
否、皮膚が焼かれる。
だが、俺の身が本格的に焼け始める寸前、光の壁が熱風と俺を隔てた。
「バリ……ア?」
「全く、鈍臭い方ですね」
驚く俺の隣にいつのまにか、銀髪褐色ダークエルフメイド、アレスティナが立っていた。
「ありがとう、アレスティナさん」
「ティナでいいですよ」
「そうか。ありがとう、ティナ」
俺は素直に礼を告げ、友好の握手をと手を差し出す。
しかし、ティナは不審そうに俺の手を睨む。
「あれ?こっちは友好の証に握手とかしないの?」
「ああ、そういうことだったんですか。てっきり、その手で私の体を撫で回して、ご自身の愚息を慰めになるのかと」
「なぁ、俺のことどうんな風に思ってるの?」
「イヤラシイ異世界の変態」
「さっきの発言の方がよっぽどヤラシイわ!!」
俺は思わず、全力で突っ込んでしまう。
いや、なんかこの流れで漢字で突っ込むとか、あんまり良くなさそうなのでこっちにしておこう。ツッコンでしまう。
そんなことをしていると、戦闘というより虐殺を終えた魔王が、スッキリした顔で帰ってきた。
「アレスティナ、戦後処理は頼んだぞ」
「了解致しました、魔王様」
ティナは深く礼をすると、高熱のあまり大地が解けてマグマ化してしまった場所を迂回し、大荒野の奥へと駆けて行った。
「ほう、カイトよ。そなた意外と落ち着いておるな」
「どういうことだ?」
「いや、平和な世界からきたのなら、吐き気など催しても仕方がないと思っただけだ」
言われてみればそうである。
「まあ、そんなことはどうでも良い。肝が座っておる方が良いわ!!」
魔王はそう言って、俺の方を叩く。
その瞬間、さっきの浮遊感が俺の体を包み、大荒野から石造りの広間にテレポートした。
「カイトさん、大丈夫ですか?」
帰ってきた俺の姿を確認するや否や、メアリアは俺の元に駆け寄ってきた。
「大丈夫大丈夫」
俺は魔王からの殺気を感じ、笑顔でそれを制す。
そして、俺は先程から気になっていた疑問を魔王に問いかけた。
「なぁ、なんで俺は召喚されたんだ?」
先ほどの戦いを見れば明らかだが、あれほどまでに強大な力を持つ魔王が、一介の高校生でしかない俺を呼び出し、挙げ句の果てに土下座までする理由が全くわからないのだ。
「今日はちと疲れた、明日話そう」
魔王はそう言って、ぷらぷらと手を振りながら、大広間の奥の扉に消えて言った。




