命名
しばらく、オレのことを話した。
面白くもない話だと思うが、幼竜は面白そうに聞いている。
「もう勘弁してくれ、ネタ切れだ」
「えー、まだ聞きたいのに」
そう言われても、ないものはないのだ。
「いい加減寝ろよ」
「やだ、まだ聞きたい」
そういえば、こいつは生まれたばかりだって言ってたな。
まだ我慢を覚えてない子犬みたいだな。
腕の中の幼竜は話の続きを心待ちにしているみたいだ。
ほかの竜はわからないが、こいつはすぐに顔に感情が出るタイプみたいだ。
しつけは大事だが、今日一日頑張ってくれたこいつに厳しくするのはどうかと思う。
かと言って、もうネタはないしなぁ。
そういや、聞きたいことがあったのを思い出した。
「本体さんのことを管理者って言っていたが、具体的になにをしてるんだ?」
「なにもしてないよ、基本見てるだけ」
「見てるだけ?」
「そう見てるだけ、何もしないよ」
「そもそも管理者といってもやることがないんだよ、だって管理しなくても君たちは普通に生きていけるし、世界が滅ぶようなことも滅多に起きないしね」
「今回のことだって、働いたのはかなり久しぶりだったらしいよ。それ以外は寝たり、お菓子食べたり、いろんな世界から娯楽を集めて遊んでいるらしいよ」
まるでニートだな。
「なに、ニートって?。」
声に出してしまったみたいだ。
「本体さんみたいなやつのことだよ」
説明しようと思ったが、よく知らないのでやめた。
これで十分伝わるだろう。
「へぇ、本体さんみたいのをニートっていうんだ」
概ね間違ってないはずだ、たぶん。
これ以上、この話を続けるのはやめよう。
なぜかわからないが、嫌な予感がする。
新たな話題を考えるが、思い浮かばなかった。
話題を考えながら、腕の中の幼竜をボーっと眺める。
まだ満足していないようだ。
そして、あることを思いついた。
「お前の名前はなんだ?」
「名前?」
「そういえば、聞いていなかったしな」
オレはこいつのことを一度も名前で呼んでいなかった。
ていうか、聞くのを忘れてたしな。
「ないよ、だって生まれたばかりだもん」
「じゃあ、何て呼べばいい?」
「イツキが考えて」
名前かぁ、なにがいいだろう。
たしかこいつは残り香から生まれたみたいなことを言ってたな。
匂い系の名前が良いかなぁ。
「納豆なんてどうだ?」
「いや!」
即答かよ、日本風でいい名前だと思ったんだが。
「じゃあ、臭豆腐とかどうだ」
「却下!」
「だったら、シュールスト……」
「ふざけてるの!?」
どれも個性的で傑作だと思うんだけどなぁ。
それから、何個か候補を挙げたがどれも却下されてしまった。
ドリアンとか最高だと思うんだが。
ほかに匂いを放つものかぁ。
そういえば、あれを忘れてたな。
「花の名前とかどうだ?」
「いいね、それにしよう」
「だったら、ラフレシアなんて良くないか?」
我ながら最高のネーミングセンスだと思う。
「いい加減臭いものから離れようよ……」
これもダメかぁ……
名前は一生ものだから妥協はしたくない。
押し付けるなんて真似したくなかった。
知っている花の名前を次々と羅列していく。
しかし、どれも気に入るものがないようだ。
「うーん、なかなか決まらないな」
「もうなんかなんでもよくなってきたよ」
「なんでもいいわけないだろ、一生ものだぞ」
幼竜は疲れてきたみたいだ。
だが、いい加減な名前なんて付けたくない。
こうなったら意地でも気に入る名前を付けてやる。
「それじゃあ、ユキダルマキングとかどうだ?」
「なんか、ダサいよそれ」
かなりの数の花の名前を挙げていったが、お互い納得するものが出なかった。
ていうか、オレもよくこれだけの数の花の名前を憶えていたものだ。
自分で言うのも何だが感心してしまう。
ユキダルマキングはたしかなんかの漫画で出てきた花の名前だったはずだ。
こんなものまで憶えているとはすごいな、オレの記憶力。
記憶力が良くても、肝心の名前が決まらなかったら意味がないんだがな。
「なら、イリスなんてどうだ?」
たしかアヤメの学名だったはずだ。
幼竜は少し悩み、結論を出した。
「いいね、それにしよう!」
やっと気に入る名前だったみたいだ。
少しインパクトに欠けるが、なかなかいい名前だと思う。
イリスはブツブツと何度も自分の名前を繰り返している。
相当気に入ったのだろう、オレも気に入ってくれて満足だ。
「僕の名前はイリスだよ、よろしくイツキ」
イリスは嬉しそうに自己紹介した。
「オレの名前はイツキだ、よろしくなイリス」
オレも同じように再び自己紹介した。
そうするべきだと思ったからだ。
しばらく、イリスは嬉しそうにはしゃいでいた。
「名前も決まったことだし、そろそろ寝よう」
「そうだね、寝ようか」
イリスはようやく落ち着いたみたいだ。
はしゃいだからか少し疲れているように見えた。
オレも今日は本当に疲れた、クタクタだ。
「おやすみ、イツキ」
「ああ、おやすみ、イリス」
オレはイリスを抱き枕のように抱きしめた。
そして、徐々に意識が遠のいていった。




