防犯カメラ
「殺害されたのは西野圭介、四十歳。西野建設社長で——木全の後援会会長です」
音尾は深くため息をついた。
そのため息に違和感を覚えた千早は「他に何かあるのですね」と言って、佐藤圭太の靴が置かれていた場所にしゃがみ込んだ。
「ボランティア部OBで、卒業後はトラックを貸し出したりしていたそうです」
崖下で砕ける波が、花火のように身体に響いた。
水平線の彼方からやって来た過去が、大きく波頭をもたげて現在に叩きつける。
そんな錯覚を見たような気がした。
「佐藤圭太の遺留品は、いつ見つかりましたか?」
音尾は手帳のページをめくった。
「通報が入ったのは昨日の午前九時二十分。発見した観光客自身の通報なので、発見も同時刻だと」
「彼はどうやってここへ来ましたか?」
「佐藤圭太名義の軽四輪が駐車場に放置されていたので、この車に乗って来たと思われます。設置された防犯カメラによると昨日の午前二時八分です」
音尾は、ここからは防風林の陰になって見えない駐車場の方に顔を向けた。
千早も立ち上がると同じ方を向いて「一人でしたか?」と尋ねた。
「一人ですね。佐藤以外、車から降りていません。流石に映像を千早さんに見せる訳にはいかないのですが——」
音尾は残念そうな表情をみせると佐藤圭太が駐車場を訪れた時の様子を語ってくれた。
定点カメラは駐車場の端の水銀燈に取り付けてあった。
真下こそ映らないが、接する道路まで撮影されていた。
時刻は一時五十分。
黒いミニバンが駐車場に停まっていた。
その五分後、右から速度を落とした白い軽四輪が駐車場入口を通過した。
運転席以外に人は乗っていない。
二時五分。
ミニバンに男女二人が乗り込んで、駐車場を右折で出て行った。
二時七分、画面左から白い軽四輪が駐車場に入ってきた。
軽四輪が二時八分に枠内に停車すると、運転席から男が降りた。
男は一度水銀燈を見上げると、そのまま崖へと歩いて行った。
「そして同位置に停車していたのが佐藤圭太名義の軽四輪でした」
「刑事の記憶力というのはものすごいですね」
千早は素直に感心、いや感動すら覚えた。
「ところで、二時八分以降に駐車場の前を横切った車はありませんか?」
「えっ」
不意をつかれた様子で、音尾が目を大きく開いた。
「靴を置いて、駐車場を迂回して道路に出る——五分、いや八分後くらいでしょうか」
「少し待ってください」
音尾はそう言ってスマホを取り出し千早から少し離れた。
繰り返し聞こえる波が爆ぜる音。
喉元にまとわりつくような潮風に、誰かの悪意を感じた。
「千早さん!」
通話を終えた音尾の興奮した面持ちで、自身の推論が正しかったと確信した。
「二時十五分、二名以上が乗った白い乗用車が通過しています。画面右からです」
「今すぐミニバンの特定と、ドラレコの確認を指示してください」
千早は音尾にそう言うと駐車場に向かった。
これが偽装自殺なら、これ以上居る意味もなかった。
ただ、違和感もあった。
何故わざわざ水銀燈を——
防犯カメラを見たのか。
完璧に偽装するのなら、カメラを見るべきではない。




