プロローグ
滲み出る汗に、小男は何度も手を滑らせた。
制服の袖から覗く手首を強く掴み直すと、こちらの熱を奪い取るよう冷やかだった。
最期に自分を見た少女の、凍てつくような視線を思い返して身震いをした。
この噎せ返るような熱帯夜に——
青白く透き通った肌は、つい数刻前までは薔薇の色を宿していた。
運搬する中で乱れた胸元の鎖骨が、月明かりに影を落とした。
「なぁ、本当に大丈夫か」
足元に掘られた穴の中。
そこで待つ男に囁くように尋ねた。
「明日には基礎の下だ」
穴の男は泥だらけの顔を上げると、月明かりに目を細めた。
「足からだ」
穴の男は、下から両手を伸ばしてそう言った。
ふくらはぎを脇に抱えた大男が、手首を持つ男に顎をしゃくると位置を変えた。
「降ろすぞ、お前は両脇を持て」
大男の言葉に小男は少女に覆い被さるようにして、腕を回した。
開いたままの光の無い瞳と目が合って、小男は息を飲んだ。
大男は縁に引っかかるスカートを直しながら、ゆっくりと穴に入れた。
穴の男は少女の身体に両腕をまわすと、穴を崩さないよう慎重に引き入れた。
密着する身体の甘い香りの奥に、鉄錆と僅かな死臭が漂う。
眉根を寄せて思わず唾を吐いた。
硬直の広がる身体を力任せに折り曲げて、穴の高さに合わせた。
木が軋むような音が耳に残った。
「気色悪いな」
穴の男は少女の身体を踏み台にして這い出でると、そう吐き捨てて土を戻した。
石混じりの土がカラカラと落ちていった。
「ヤニ」
穴から出た男はそう言って手を伸ばした。
手渡されたタバコを咥えると、ポケットから取り出したカードを火で炙った。
顔の泥が赤く照らされた。
男たちは炎をあげるカードでタバコに火を着けた。
全員のタバコに火が灯ると、カードは穴へ投げ捨てられた。
赤く揺らめきながら落ちるカードの欠片は、一瞬だけ少女を照らして闇に飲まれていった。
「捨コンのガラが先だ」
固まりかけたコンクリートの欠片と吸殻を少女の上に落とした。
無機質な音がドスドスと、少女に当たって鳴った。
踏み固め入れられた土が最後に頭を覆っていったた。
「セメント流せ」
斫った段差をセメントで埋め戻すと、慣れた手つきのコテでならしていった。




