12話「兄妹の告白」
あれは・・・。あれはなんだったのだろう。
暗闇の中1人で意識を彷徨わせる。
暗闇を浮遊して動いているような・・・いや、地を這っているような。
俺は、何とも言えない感覚にとらわれていた。
闇はいくら彷徨っても消えず、どこまでも無限だった。
無限の闇の中、どこからか少女のような声が聞こえてきた。
「・・・・・聞こえていますか」
?。俺はためしに「聞こえる」と答えた。しかしその声は・・。
響かない。
疑問を感じ、自分の声帯から、もう1度音を出そうとしてみる。
何度やっても結果は同じで、声帯は振動するが、声は響かない。
すると、謎の少女は俺を無視し、自分の言葉を続ける。
「貴方は・・・選ばれた人。大・・切な・・・義務・・がある」
途切れ途切れの声で、正直聞き取りにくい。
ただ、相手に聞き取りにくいという旨を伝えることもできない。
俺は適当に聞き流すことにした。
「貴方・・・は・・争い・・を・・防ぐ・番人・・・この・・争・・・いを・・防ぐこと・・・こそが義・・務・・・・」
WHAT?思わず英語で問いたくなった。
どういう意味だ?。この少女は何を言いたい、俺が番人?。ふざけないでほしい。
しかし、少女はかまわず話し続ける。
「お願・・い・・・“・・・・”を止め・・て・・・」
?。たぶん固有名詞であるところが、よく聞こえなかった。
「お願・・い・・・“―――――――――
光が見えた。
闇ばかりの世界が消え去り、おれの目には白い天井が飛び込んできた。
さっきの話の続きも気になるが、今はそれよりも状況確認だ。
ここは間違いなく俺の家ではない。
しかし、俺は白いベッドで寝かされていた。
俺は今までなにをしていたんだろう。
「あ!、お寝坊テンパーグルがやっと起きた!」
少女の声が聞こえる、しかしそれはさっきのものとは違う。
さっきのものは大人しいものだったが、今のものは正反対、活発な声だった。
でも、この声どこかで聞き覚えが・・・・。
「・・・?。もしかしてあたしのこと忘れてる?。うわー記憶喪失!?まさかの!?。まぁ確かにあんな戦い見たらねぇ・・・。気持ちもわかるけど・・・」
思い出した。
ここは、光華総合病院だ。
俺は、友人に連れられてここに来たのだ。
そして謎の2人組み、藍須奈那子ともう一人の相棒(名前聞き忘れた)に襲われ、さらに意味不明な戦闘に巻き込まれて、挙句の果てには気絶してしまったのだ。
・・・俺の名前は?、鬼紅雷正弥。よし思い出せる。自分の名前を忘れてたら大惨事だ。
「どうしたのテンパーグル?ボーッとしちゃって、まさか何も覚えてないの?」
「気絶したところまでなら覚えている」
華凛にそう伝えると彼女はため息をついた。
「はぁ・・。そのあとは覚えてないのかぁ」
気絶していたので、当たり前です。
「まぁまずはお兄ちゃんにお礼を言ってよ、あの異世界からこっちにテンパーグルを運んできたのお兄ちゃんだし」
え?そうなのか?。そう思いあたりを見渡す。
すると、壁に背中を預けたクラスメイトがこっちを闇の瞳で見てきた。
いつ見ても、この瞳には怖気づいてしまう。
「あ・・あぁ、天鐘寺。ありがとよ」
礼を言っても完璧な無視だ。何の反応もない。
・・・どうすればいい?。本当に途方に暮れそうだ。
俺は体を適当に動かしてみて、どこも傷まないことを確認した。
少なくとも怪我はしていないようだ。
しかし、ベッドを出ようとすると華凛に猛烈に止められた。
「あんたは病み上がりなんだから!!」と言って。
病み上がりもクソもないのだが。
「ところでさ、あの藍須奈那子ってどういう人間なんだ?」
俺は仕方なくベッドに入りながら華凛に聞いた。
「そんなに気になるの?」
華凛は少し表情を曇らせて聞き返してくる。
いつも笑顔の華凛のこんな顔は、とても珍しい。
よほど、重要はことなんだろうか?
「・・・聞かない方がいいのか?」
俺はそう尋ね返す。世の中には知らない方がいいこともたくさんある。
「・・・まぁいつかは言うつもりだったのよ。こんな早いとは思わなかったけど」
華凛は兄を手招きし、こちらに連れてきた。
椅子を二つ並べ、俺のベッドの脇に置き、そこに2人で座った。
俺はベッドの上で体を起こす(華凛には止められなかった)そして2人の話を聞く体制になった。
「話すわ、藍須奈那子のこと。そして、あたし達のこと」
華凛の表情は、今まで以上に真剣だった。
「まず何処から聞きたいの?」
華凛の問いに俺は少し戸惑った。
奈那子やその相棒の正体についても知りたい。
しかし、華凛は自分や天鐘寺のことも話してくれるようだ。
どっちを先に聞きたいと言えば―――――――――
「まず、お前らの事を聞かせろ」
―――――もちろん後者にきまっている。
「いいわ、そうね・・。まずあたし達の目的から話すわ」
「目的って?。お前らそんなもの持って生きてるのか?」
正直、俺は毎日が退屈なだけだ。
「テンパーグルには目的無いの?。まぁいいや、あたし達の目的は、世界征服よ」
は?。
「世界征服ってあれか?。あのよく出て来るありがち設定のやつか?」
「そうよ。世界全てを手に入れるってやつ。でも、今は別の目標を持ってる」
ホッとした。もうそんな事は考えていないのか。
「今のあたし達の目標は《無限の力》を手に入れること」
「そりゃぁまた、ありがちだな」
「違うわ、この力は持つものすべてに無限に力を与えるもの。これで、世界を征服しようってわけ」
違わねぇじゃないか。
普通の漫画に出てくる、ありがちな悪役の野望・・・。
世界征服といえば、その代名詞じゃないか。
「でも待て、普通それは悪役の台詞だろ。お前らが無理矢理世界を潰すとか言い出したら、俺は止めるぞ。全力で止めるぞ」
止められる自信は無いが。
「だから、テンパーグルは頭が固いのよ。その台詞を言うのは悪役だけじゃないわ」
「じゃぁ誰が言うんだよ。主人公か?。俺はそんな主人公嫌いだぞ」
「誰も主人公が言うなんて言ってませーんー!善役よ。主人公の隣とかにいる奴」
「でも、大体そうゆう奴って闇落ちすr」
「そうじゃない。世界征服=悪って言う考え止めれば?」
いや、皆そう思ってるだろう。
「あたし達の世界征服は平和的世界征服なの!」
へいわてきせかいせいふく→へいわてき世界征服→平和的世界征服。
長げぇ・・。って違うだろ、俺。
「お、お前!平和的に世界征服しようって言うのか?。馬鹿だろ」
「馬鹿じゃないわよ、そっちが頭おかしいんじゃない?。世界を1つに統一して、平和にしようっていう素晴らしい考えなの」
自分で素晴らしいっていうのもどうかと思うが。
身の安全のため黙っておこう。
「ま、まぁそこは1億歩譲って信じよう。簡単に言うと、お前たちはその《無限の力》っていうのを使って、平和的世界征服をしようとしているってことだな!?」
「そうよ、ちょっとは頭良くなったんじゃない?」
お前より悪くはねぇよ。この小学生。
「でも、俺が知りたいのはお前らの目的なんかじゃない。本当に知りたいのは、お前らの今持ってる力の正体だよ。お前らは何者?、普通の人間じゃねえよな」
そう、本当に俺が知りたいのは天鐘寺兄妹の正体だ。
「あたし達の正体?。言っとくけどあたし“は”人間よ」
は?。ってことは・・・。
「まぁあんたの言う“普通”ではないけど」
「ちょっと、待て!。お前今、あたし“は”って言ったよな。“は”ってお前。それじゃまるで・・
」
お前以外が人間じゃないみたいじゃないか・・・。
続きの言葉は声にできなかった。
しかし、華凛はさらに俺に追い打ちをかけてくる。
「あたしがこの土地に産まれたのは・・・えーと・・・」
迷うのか!?。お前どっからどう見ても小学生なんだが!?。
「そうねぇ・・・キリストの誕生の頃は小さくてよく覚えてないけど生きてたはず、邪馬台国や聖徳太子は、生で見たのが記憶に残ってる。あと平安時代の寝殿造りは綺麗だったなぁ。あと・・・」
「ちょっと待て。それはおかしいだろ」
我ながら気の抜けた声になった。
いや、だっておかしいだろ。こいつ見た目小学生なのに。
歴史の教科書レベルになってる。
「おい・・お前何歳だよ」
「うっわ!テンパーグル!レディに年齢をズバズバ聞くなんて酷い!」
もうレディ発言にも突っ込めない。
「・・・しかも突っ込んでくれないし」
意外と傷ついたようだ。
「まぁ普通に2000年以上生きてるけどね。あ、これ秘密よ」
いや、誰にも言いません。言っても誰も信じません。
でも、俺は実は信じてしまっていた。
華凛の得体の知れぬ力を見た後だ。
信じてみても・・・・悪くない。
「年齢不詳!。そういうのって格好良くない?」
「そうか?」
「・・・もういいわよ」
でも、こいつが言うには、華凛はかなり長い間生きていることになる。
「じゃぁお前の変な能力は、生まれつきなのか?」
華凛は馬鹿を見る様な目つきになった。
「馬鹿じゃないの?。あたしが普通に産まれた人間じゃない事ぐらいわかるでしょ。変な能力なんて、持ってても全然いいのよ。だって普通じゃないし、平和的世界征服には必要だし」
その言葉を聞きながら、俺は1つの結論を出した。
「・・・信じてみよう」
「え!?嘘!信じてくれるの!?」
意外と向こうも驚いていた。
「まぁ、信じてくれないと困るし、これであんたの質問は終わり?」
「いや、まだある」
そう、重要な質問が残っている。
数日前から、俺の事を戸惑わせ続けた問題。
あれを今日こそ解決してやる・・・!。
「なによ、他にもあるの?」
「あぁ、でもお前にではないんだ。俺が聞きたいのは・・・天鐘寺恢霧の正体だ」
そう、俺の事を2度も救った異能の力。
天鐘寺の正体を知らなければ、今までと変わりがない。
「お兄ちゃんの正体?。え~面倒くさい」
「お前の意見はどうでもいい。もしかして、天鐘寺もお前と同じように2000年近く生きてる人間なのか?」
本当に嫌そうな顔をしていた華凛だったが、観念したように口を開いた。
「わかった、お兄ちゃんの正体ねぇ・・・。言っとくけど、お兄ちゃんは普通に14歳よ。あたしみたいに何千年も生きてないわ」
「そうなのか!?。じゃぁなんで天鐘寺はあんな力を?」
すると華凛は、勿体ぶるように間を置いた。
「・・・お兄ちゃんはね」
俺はどんな事を言われても平気でいられる自信があった。
今さら、“お兄ちゃんは選ばれた人間なの”のような妄言を吐かれても、動じないつもりだった。
だから俺は、余裕の表情を浮かべていた。
「なに勿体ぶってんだ?。早く言えよ」
俺は華凛を急かした。すると華凛はゆっくりと真実を語った。
「お兄ちゃん―――天鐘寺恢霧――は、人工知能なの」
すまん、それは許容範囲じゃなかった。
その通り、俺はすっかり動揺してしまっていた。
人工知能とは・・・なんて説明するまでもないだろうが、その事実を受け止められないのが真実だ。
「お兄ちゃんは、あたしの造り出した人工知能。だから、常人の出来ない事を簡単にやってのけるのよ。異能の力もそこから」
余計に追い打ちをかけられながら、俺は天鐘寺の顔を見た。
どっからどう見ても、普通の人間だ。瞬きもするし呼吸もしている。これのどこが人工知能だと・・・。
・・・見つけてしまった。
俺はもう一度、天鐘寺の顔を見る。
感情の全く浮かばない顔。今現在は瞬きをしている目以外は微動だにしていない。
感情の全くこもらない声。まるで、機械のような・・・。
俺の前で見せた、異能の力。
そして・・・・。
“暗黒の瞳”
天鐘寺には、人間より機械に近い部分が多すぎる。
喜怒哀楽を全く表さない、感情の無い機械に。
こいつは造られた、機械だったのだ。
酷く永い時間黙っていた気がする。
すると、華凛が口を開いた。
「は~いテンパーグル。そんなしょげないの。奈那子達の正体も知りたいんでしょ」
「・・あ、あぁまぁな」
「うっわ、テンション低!。まぁいいわ、手短に話してあげる」
俺はさっきのショックから抜けられないが、話を聞き続けた。
「正直、あんな奴らの話なんかしたくないから。藍須封奈那子兄妹は、あたし達の敵なの」
あぁ・・。あの相棒封っていうんだ。そしてあいつら兄妹なんだ。
そんな感想しか抱けない。
「あの2人は、あたしと一緒の人間よ。私よりも少し年下、でも弥生時代にはもう生きてたはず」
年下とか・・・。関係あんのかそれ?。
「2人は、本当の意味での世界征服を目的にしてる。“自分の欲望のために世界を我が物に”の方。2人とも《無限の力》を狙ってるから、あたし達と対立してるの。だからうかつに近付いちゃ駄目よ」
「はいはい」
適当な返事。もうそろそろ、何でも良くなってきた。
「本当に分かってるのかしら?、まぁいいわ。今日はもう遅いからお開き!。じゃぁねテンパーグル」
強制的に帰らされた。俺、病人じゃねぇの?。
放課後に来たのに、戦闘したり、気絶したり、変な事言われたりしていたからなのか。
気がつけばPM8:30だった。
やべぇ。親に怒られる。
家に着く。PM9:00
「正弥、何であんたこんな遅くまで家出てたの!?。ちょっと来なさい!!」
親の攻撃から逃亡し、自分のベッドに飛び込む。
疲れ切ったせいか、すぐに眠りに落ちてしまった。
「・・・鬼紅雷・・聞・・こえま・・すか?」
!?。
総合病院で聞こえた声だった。
もちろん、自分の声は聞こえない、確認済みだ。
「・・・番人の・・・貴方に・・伝・・えます」
・・・今度は何だ?。もう疲れたんだが。
「・・楽斗・・の・・腕・・輪を・・守っ・・て」
楽斗!?。あの馬鹿な林堂楽斗か!?。
本人が聞いたら泣きそうな事を思いながら、話を聞き続ける。
「・・楽斗の・・・腕輪・・は・・とて・・も・・大事・・な・・物・・・今日・・の様・・な少女達・・には・・・渡さ・・な・・い・・で・・」
相変わらず聞き取りづらい。
けど、“今日の様な少女達”というのは、天鐘寺兄妹のことだろうか。
“渡さないで”って・・・。あいつら悪人扱いじゃねぇか。
平和的世界征服主義者じゃねぇのか?。漢字長げぇ。
あと、林堂の腕輪って・・・。
それを考えた時、1つの心当たりがあった。
青いリストバンド。
あれに触れた暁が急に倒れたが、あの件はリストバンドのせいなのだろうか?。
大事な物ってことは、なにか特別な力でもあるのかもしれない。
しかも、林堂は少女に話しかけられる夢の話をしていた。
これは、林堂と同じ夢かもしれない。
「おい、お前が林堂の夢に出て来た女か?。同一人物か?」
もちろん、相手には伝わらない。
「楽斗・・・を・・よ・・ろし」
また光が見えた。
夢が覚め、次の日になった。
昨日は色々ありすぎたうえ、夢の中まで命令された。
・・・普通に生きていくつもりだったのに。
なにか、厄介なことに首を突っ込んだようだ。
今日、林堂や天鐘寺とどうやって会おう。
・・・無視しよう。昨日の事は知らない事にしよう。
いつも通りだ。退屈だが、厄介なのは御免だからな。
この時は知らなかったが、俺はもう厄介事に浸かりきっていたらしい。
俺がその事を知るまで、あと――――――――
こんにちは。蒲沢公英子です。
12話更新しました。
よかった、この回早めに執筆できて。
9話の時にもいいましたが、これも長いです。
9話より長いです。
でも、自分的に恢霧の謎が解けたのですっきりしています。
自己満足すいません。
完全カミングアウトとか、無理でした。
本当は、少女が正弥に話しかけるシーンはなかったのですが入れました。
そのせいで、長さ倍増です。
本当にすいませんでした。
更新日時について。
これから、晴嵐は中間部を大改造します。
なので、13話更新は、多分極端に遅れます。
お許しください。
では、今回はここまでです。
次回お会いできたら幸いです。
次回予告
夢の少女は、楽斗・正弥以外の人にも助けを求める。
しばらく出番のなかった彼等にスポットライトが!。
3話連続夢の少女編、第一話は白雪目線です。
晴嵐が昇る時に、13話「Your duty~白雪編~」。
白雪修羅の役目とは!?。