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君と歩いた、ぼくらの怪談 第1部  作者: tempp
第5章 俺の日常と梅雨の幽霊

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俺は……

3日くらい、頭が痛すぎて起き上がれなかった。

何かちょっと考えただけで、知らない記憶が混ざってくる。

あのトーヤってガキが言ってたことがわかったよ。

他人の記憶、まじ辛ぇ。

腹減ったと思ったら、食った記憶のねぇもんが思い浮かぶ。

のど乾いたと思ったら、飲んだこともねぇ酒が思い浮かぶ。

その度に頭がぐらぐら混乱する。

それに俺よりマサヒコさんの方が目が悪かった。マサヒコさんのみてた風景はぼんやりしてて、そもそも気持ち悪ぃ。

でも、ようやく落ち着いてきた。

頭は痛ぇが、なんとなく、俺の記憶とマサヒコさんの記憶を区別できるようになってきた。


タイの兄貴が寝込んだ心配して飯を持ってきてくれた。

タイの兄貴に、すんません、と礼をいうと、タイの兄貴とマサヒコさんが話している記憶がうかんだ。

マサヒコさんの記憶の中では、マサヒコさんはタイの兄貴にいつも毒づいていた。結構ひどいことも言ってた。こんなマサヒコさんは知らねぇ。そう思うと、俺といた時のマサヒコさんが思い浮かぶ。俺といるときのマサヒコさんは、俺が記憶している通り優しい人だった。

なんだこれ、マサヒコさんってひょっとして2人いるのか? そう思うと、俺に「ちゃんと食え」って言ってラーメンおごってくれたマサヒコさんの記憶が浮かぶ。これは本当にあった記憶だ。でもその記憶は俺と別れた後にタイの兄貴と合流して、俺のことを「使えねぇ」とか「糞だ」とかボコボコに言ってる記憶とつながってた。そんで、アイちゃんが流した動画みたく、タイの兄貴は俺のことを引き取るぞって言ってくれてた。

なんだよこれ、どっちが本当のマサヒコさんなんだよ。

涙が出る。でも、なんとなく、わかる。本当のマサヒコさんは多分、タイさんと会ってる時のマサヒコさんだ。マサヒコさんの記憶だもんな。

俺が好きだったマサヒコさんは嘘だったのかよ?


「どうしたんだよ、ちゃんと食えよ」


タイの兄貴が、兄貴の彼女さんにつくってもらったお粥を台所で温めてくれた。

先々週、記憶の中のマサヒコさんが風邪ひいてた時も、タイの兄貴は同じお粥をもってきてた。

鰹節のいい匂いがする。なんでこれに「糞不味ぃ」とか平気で言えるんだよ、マサヒコさん。

めっちゃうめぇじゃんか。

……意味わかんねぇ。


「大丈夫か? なんで泣いてんだ? 変な奴だな。まあとっとと食って風邪治せ。あとポカリ買ってきたからな、ポカリ。ちゃんと飲んどけよ? 治んねえぞ」


「タイの兄貴、ほんとに、ありがとうございます」


「いいからいいから。んじゃ、また様子みにくるわ。ちゃんと寝てろよ?」


タイの兄貴が傘をさして出て行く姿はマサヒコさんの記憶と同じだった。

マサヒコさんと長崎の関係、マサヒコさんは記憶の中で長崎とつるんでて、タイの兄貴とジンさんが管理してた組織のブツを長崎に流して金を受け取ってた。運んでたのは俺だった。そういや何回か、荷物を駅ロッカーに入れて来いって言われた。ヤバくなったら俺を切るつもりだったのかな、マサヒコさん。

わかんねぇ、わかりたくねぇ。


横流ししてたのは少しずつでも数がたまれば結構な量になったんだろうな。

あのアイちゃんが言ってた数字。俺にはよくわかんねぇとこもあったが、すげぇ金だった。

組織の売り上げの管理はジンさんがやってたって聞いてる。マサヒコさんはジンさんに呼び出されていろいろ聞かれて、「ブツ管理してるタイのせいじゃないっすか」っていって部屋から出たあと、長崎との携帯の履歴を全消しして逃げた。

で、ある朝あのアンリとかいう化け物とアイちゃんが現れて、マサヒコさんは「何でここがわかった!?」って叫んだあと真っ暗になって、そっからの記憶はねぇ。


なんか、なんなんだコレ。意味わかんねぇ。

マサヒコさん、何やってんだよ。あんたいい人のはずだろ?

なんでそんな糞みてぇな真似してんだよ、畜生。

意味わかんねぇ。



そっからしばらく、俺はタイさんと一緒に大人しく仕事した。

タイさんは、多分ほんとにいい人だ。……マサヒコさんと違って?


俺の頭んなかには、俺が知ってるマサヒコさんの記憶と、俺が知らないマサヒコさんの記憶がある。両方とも、普通に思い出せる記憶だけど、内容が正反対だ。

どっちが本当かっていうと、多分マサヒコさんの記憶のほうが本当の記憶なんだろうな。だってマサヒコさんの記憶なんだから。

でも、どっちが本当なんだ? 俺の頭が俺に聞いてくる。

どっちが本当なんだ? 俺の記憶のほうが間違ってるのか?

どうしようもない俺に、俺だけは味方だって言って背中叩いてくれたマサヒコさんと、タイの兄貴の前で俺がどうしようもなく使えねぇっていって机を蹴飛ばしてたマサヒコさん。

どっちが本当なんだ?

それとも、どっちかが間違ってんのか? でもやっぱり、俺の記憶とマサヒコさんの記憶は同じくらいしっかりしてて鮮やかだったから、どっちかが間違ってるとは思えねぇ。せめて、酒飲んだ時みたいにどっちかがぼんやりしてればいいのにな。

それじゃあ、どっちも本当なんだ、って思うと、俺の頭は割れたみたいに痛む。これがトーヤの言ってた違和感っていうやつか。正反対の同じくらい確かな記憶がどっちも本当だなんて、意味がわからねぇ。頭ん中がゆらゆらぐらぐらゆれて、わけわかんなくなる。


じゃあ、俺は、どうしたらいいんだ。

俺はバカだからな。覚えもよくねぇ。

記憶、記憶なんてどうでもいいや。バカだしな。

そう考えると、ちょっと気分が軽くなった。

そもそもバカなおれが覚えてることなんて、あてになんねぇしな。へへ。


マサヒコさん。マサヒコさんのことを思い浮かべると、マサヒコさんの姿が思い浮かんだ。

マサヒコさんの姿が見えてるってことは俺の方の記憶だ。

マサヒコさんは俺によくしてくれた。

どうしようもねぇ俺を路地で拾ってくれたのはマサヒコさんだ。


『お前、そんなんじゃ、どこもいくとこないんだろ? 俺んとこくるか?』


俺の記憶のマサヒコさんは、服が汚れるのも全然気にしねえでボロボロになった俺を抱え起こして、事務所まで連れてってくれた。

それは、間違いなねぇ。

マサヒコさんがいねぇと、多分俺はもっとろくでもねぇことになってた。

それも、間違いなねぇ。

じゃあ、やっぱり俺にとってマサヒコさんはいい人なんだ。

マサヒコさんが本当はどう思ってたかなんて知らねぇ。

マサヒコさんがどう思ってたとか、関係ねぇよな?

マサヒコさんは俺を助けてくれたんだから。

俺はマサヒコさんが大好きだ。

俺の頭は、やっとすっきりした。


そうすっと、俺の気持ちも簡単になった。マサヒコさんの仇がとりてぇ。

マサヒコさんを殺したのはジンさんだ。

でも、マサヒコさんは組織のブツを盗んだ。これがやっちゃいけないことは俺だってわかる。

組織は舐められちゃなんねぇんだ。マサヒコさんの記憶もそう言ってた。

だから、その仕方ねぇってところが納得できれば、仕方ねぇってわかる気がする。

俺はバカだから、マサヒコさんがどこでミスったのか、正直わかんねぇ。

だから、その仕方ねぇってところが納得できれば、仕方ねぇってわかる気がする。

俺はバカだから、マサヒコさんがどこでミスったのか、正直わかんねぇ。

だから、ジンさんにメモリを返して、本当のことを聞こう。

本当のことが聞けたら、マサヒコさんが死んだのも、マサヒコさんが死んだのはすげぇ嫌だけど、落とし前つけたんだって、納得できるような気がする。

納得できたらまぁ、あとはどうなってもいいや。

俺にとって、そいつが一番大事だ。

俺はマサヒコさんにあわないと、どっちみちのたれ死んでいた気がするしな。

でも、本当は理不尽な話でマサヒコさんが殺されたんだったら、マサヒコさんの仇を打たなきゃならねぇ。

でも俺じゃジンさんに敵うわけがねぇ。

……アイちゃん、そんときは、ジンさん殺してくんねぇかな。


街BBSをめくると、すぐにアイちゃんのスレが見つかった。


「はいはーい♪ アンリだよー。えっとそこに行くから待っててー」


俺はそこで化け物とアイちゃんを待つことにした。

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