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君と歩いた、ぼくらの怪談 第1部  作者: tempp
第5章 俺の日常と梅雨の幽霊

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私と?

「ねぇ、アイさんが明日いなくなっちゃうならさ、今晩パーティしようよ」


「パーティ?」


「そう、お別れパーティ、それから、期末テスト終わったのも記念して」


藤友君が不審げに眉をひそめる。

僕も転校する時たまにお別れパーティーしてもらうけど、楽しい。思い出にもなるし。


今朝、坂崎さんから明日の朝アイさんがいなくなると聞いた。

そういえば、晴れの日が増えてきていたのに、今週はテスト対策であんまりアイさんとお話もできていなかった。

さすがに1学期の最初の期末で成績悪いわけにもいかないし。


今日の夜に最後の雨が降った後、南からくる高気圧に梅雨前線は大きく北に吹き飛ばされていく。

梅雨があける。


「おお、いいな、楽しそうじゃん」


「ケーキ食べよう!」


ナナオさんも乗り気だ。坂崎さんも多分?

ちょうど今日で期末テストは終わりで、午後は休みになる。

だから僕らは教室でなんとなく集まって話をしていた。

窓の外はガラリと晴れ上がり、強く明るい太陽の光が教室を照り付けている。

本当に、もう夏だ。


お菓子を買って、ついでにケーキも買おう。

テスト後で、ちょっとテンション上がっているのかも。

場所はやっぱり僕の部屋かな。

ちょっとギューギューだけど、仕方がない。

片付けないと。飾りつけまでは、難しいかな。


「プレゼントとかって用意しても、もってけないよね」


「わぁ、ちょうだい♪」


坂崎さん用じゃないんだけど。でも、多分もってけないってことなのかな。

うーん、坂崎さんはわからないな。


「そのパーティ、アイは望んでるのか」


あ……。

そういえば、アイさんの気持ちを考えていなかった。

ひょっとして、こういうの苦手だったりするのかな。


「どっちでもいいんじゃない? ケーキあるし♪」


「……なら反対はしない、俺もなんか軽いもんつくるわ」


えっ藤友君の手作り? すごくおいしそう。

なんか、こういうみんなで何か用意するのっていいな。楽しい。

ちょうど明日は土曜日だから、朝までさわごう。

ゲームも用意……してもアイさんが独走としか思えない。

人生ゲーム的なのだと、楽しいかな。

七夕には、1日足りなかったな。アイさんも星を渡っていくんだろうか?

アイさんが何かは結局よくわからなかったけど。





僕は久しぶりに校門で待ち合わせてアイさんと新谷坂の長い坂を下る。

新谷坂山を下るこの長い坂は、そのまま新谷坂と呼ばれていて、まっすぐ南にのびている。


久しぶりのアイさんのデフォルトの姿は、少しナナオさんに似ていた。

午前中にお願い事を聞くときは顔を変えているみたいだけど、最近僕らと合う時はだいたいこの顔。ナナオさんも一緒だと、なんとなく姉妹っぽく見える。

ナナオさんはパーティグッズもってくる! といって一足先にこの坂を下って行った。


アイさんはパーティを了承してくれた。うれしいっていわれると、はりきりたくなっちゃうよ。

ほしいものを聞いたら、ライオ・デル・ソルのルバーブタルト。

ケーキのテイクアウトはしていた記憶だけど、今日はあるのかな。


「おい、そこのお前」


目をあげると、背の高い男の人がいた。

真昼の太陽を背に受けて、影になって顔がよくわからない。


「僕に何か用でしょうか」


「アイちゃんはどこだ。……そっちのお前がアイちゃんか?」


「そうです。何か御用でしょうか」


アイさんは一歩前に出る。


「お前に用がある。タツのことだ。ちょっと顔をかせ」


「わかりました。東矢、7時までには戻りますね」


アイさんはその背の高い男についていく。

タツさんというとこの間会った人だ。何かあったのかな。

そういえばあの背の高い男の人、前にアイさんがあの人の顔になったことがある。

確か、マサヒコさんを消すように言った人……だ。タツさんはジンさんって言っていたかな。

坂の下に停車された車にアイさんが乗り込み、走り去った。

その瞬間、僕はこめかみに衝撃を受けてストンと意識を失った。



「ねえねえ、ハルくん、ケーキないと嫌!」


「はぁ? ケーキは東矢が買いにいっただろ?」


アンリが突然騒ぎ出した。

突然騒ぎ出すのはいつものことといえばいつものことなのだが。

今俺は厨房を借りてパーティ用の料理を作っている。

夕方になると寮の料理人が晩飯を作るから、今しかつくるタイミングはないし、夕食時間後になると管理上の問題でキッチンは借りられない。

あまり時間もないから正直邪魔してほしくないし、今は火を使っている。危ない。

なぜかアンリの部屋の冷蔵庫にあったブロック肉をローストビーフに加工している途中だ。

もう少し茹でればこちらは冷やしておけばいい。

さて、あとは何をつくるかな、冷えていてもうまいもの。

プチトマトと玉ねぎ……バジルもあったな。マリネにしてブルスケッタでも作るか。


「ケーキないとだめなのに。ひどくない?」


「いや、だから東矢が買いに行ってる」


「買ってこれないんだってば」


何?


「どういうことだ?」


俺はアンリを振り向いた。



僕は目を覚ますと、どこかの部屋のソファに寝転がっていた。

ううん、頭が痛い。ちょっとまだフラフラする。

なんだろ、ここ。なんとなく、事務所の一角っぽい雰囲気のところ。事務机とファイルの詰まったスチール棚。

ええっと、何でこんなとこにいるんだ? 確かに新谷坂で……。んー。


キョロキョロしていると扉が開いて大柄な赤い髪の男の人が入っていた。

この人はタツさんと初めて会ったときに一緒にいた人だよね、タツさんは兄貴って呼んでいた。


「おう、起きたか。手荒なことして悪かったな」


「えっと……兄貴さん?」


男はプッと噴き出す。


「ククク、なんだそれ、お前おもしれェな。俺はタイゾウ、タイとでも呼んでくれ」


「僕は東矢一人といいます。あの、どうしてここに?」


「そうだな……お前、タツとはどんな関係だ?」


タイさんの声は明るくて親しみやすそうなものから急にガラリと重く冷たいものに変化して、視線に底冷えがするような怒気がこもる。つられて部屋の空気が5度くらい冷えこんだような気がする。

僕とタツさんとの関係? ほとんど無関係だよね?

また、プッと吹き出す音がする。


「本当お前おもしれェな、肝座りすぎだろ。なんでこれでビビんねぇんだよ、学生だよな? まあいいや、そんな困った顔されるとは思わなかったが、無関係そうだな? 親戚かなんかか?」


タイさんの雰囲気がさっきの親しみやすいものに戻る。

まあ、こないだあった腕だけ連続殺人事件の時にくらべると、全然怖くはないかな。殺されそうな感じは全然ないもの。


「ふう、どうすっかな」


「あの、タツさんに何かあったんでしょうか? さっきアイさんがジンさんという人に連れて行かれたみたいなんですが」


タイさんの視線がまた鋭くなる。


「お前、なんでジンさん知ってる? アイさんってなんのことだ」


そういえば、前にタツさんがアイさんを連れてった時に一緒にいたから、アイさんのことは知ってるんだよね? うーん、話してもいいのかな。USBのこととかも?


「あの、その前に聞きたいことがあります。あなたはタツさんの味方なんでしょうか」


「……お前バカだろ、よくバカっていわれるだろ、直球で聞くバカがあるか、ったく。あー、うーん、敵か味方か、ね。なんでみんなそんなどっちかに分けたがるんかね? ちょっと待て、考える」


僕、最近バカって言われすぎじゃないかな? 知らない人にまで言われたよ。みんなひどい。

タイさんは懐からタバコを出して火をつけた。ハーブっぽい独特の香りがする。タイさんは手元のライターの火をつけたり消したりして何か考え始めたようだ。

改めて見回すと、いつのまにかしとしと雨が窓を打っていた。これがこの梅雨最後の雨。灰色の空に灰色の部屋。


僕も今のうちに考えてみる。

この間会ったときにタツさんはジンさんという人を知っているみたいだった。

タイミング的に、タイさんはアイさんが連れて行かれるところを見ていたはず。でもアイさんだと思っていないなら、タイさんはアイさんが顔を変えられるのを知らない。逆にジンさんは知っている。タツさんも。

情報が共有されてないってことは味方じゃないのかな。

そんなことを考えてると、タイさんと目が合う。タイさんがじっと僕を観察していたことに気がついた。


「お前、真にバカだな。ここを敵地だと思ってないだろ、ぼーっとしすぎだ。お前、殴られてさらわれたんだぞ?」


あ、そういわれればそうだった。

なんか最近変なことが起こりすぎていろいろ麻痺してる気がする。


「俺はそんなバカは嫌いじゃねぇ、仕方ないな。……俺はタツの味方じゃない、ただ、無駄に死ぬのも気分悪りぃと思ってるだけだ」


「あなたはジンさんの味方なんですか?」


「ん……ジンさんは上司だからな。味方っちゃ味方だな。だがタツも部下なんだ、な、ここで争うのはバカバカしいだろ?」


「なんで僕をさらったんですか?」


「お前、このタイミングでそれ聞くか、普通。…………そうだな、まあ最初はなんかタツの関係者で事情知ってんのかと思ってさらったんだ。……うーん、バカは匂わせても察しねぇからな、しゃーねぇ、誰にもいうなよ? まあ言ったとこで信じねぇだろうけどな」


なんかものすごくひどい言われようだけど、タイさんの話した事情はこんな感じ。


タイさんはマサヒコさんの友達で、マサヒコさんが失踪してマサヒコさんの部下だったタツさんを引き受けた。

この前会った日、タツさんが敵対組織の人を殺したって聞いてその場所に行ったら、本当に死体があって、タツさんがやけに興奮して敵対組織を皆殺しにするって息巻いていた。

それでタツさんは敵対組織の人間を殺したのがアイちゃんっていう奴で、もっと殺せるとかわけのわからないことを言っていた。

死体があることは確かだけど、事情がさっぱりわからないから敵対組織の下っ端を手下に拉致らせたけど、やっぱり事情はさっぱりわからなかった。仕方がないからタツさんとアイさんを探したら見つかって、連れて事務所に行ったら本当に化け物で、ジンさんが命令していろんな奴を殺して回らせた。

だけど、その後のタツさんの様子が変で、部下の人にタツさんを見張らせていたら、何回か僕に会っていることを知った。

今朝タツさんがジンさんの部屋に入ったのを見たけど、そっから電話も何も通じなくなって、ジンさんを不審に思ってバイクで追っていたら、僕の連れが連れ去られたから、とりあえず事情を知りたくて僕をさらった。


「あの、マサヒコさんってどういう人だったんでしょうか。タツさんはすごく慕ってるみたいで、探してました」


タイさんは灰皿を引き寄せて短くなったタバコを押しつけて、新しい一本を出して火をつける。薬っぽいにおいのする煙を長く吐き出して、思い出すようにつぶやく。


「マサはなぁ、難しい奴だったな。外面はすげぇいいんだけどよ、でも中身は糞だった。自分がよけりゃいいタイプの典型だな。優しい言葉かけてだまして崖から蹴落とすタイプっての? だから友達とか全然いねぇ。でもまぁ極少数馬が合う奴もいてな、俺とか」


「僕はアイさんと友達なんです。僕と一緒にいた人は、毎回見た目は違うけどアイさんなんです」


「……まじかよ? あれ、アイちゃんか」


タイさんは信じられないような、納得したような、複雑な表情をして、灰皿にタバコの灰を落とす。


「タツさんはアイさんを探してました。マサヒコさんを殺したのがアイさんかって聞いて、アイさんがそうだと言ったら、誰が頼んだんだって聞きました。アイさんはジンさんが頼んだといいました。証明はできないけど、本当だと思います」


「……やっぱりそういうことかよ、じゃあタツはジンさんに直談判に言ったのか。まあ、ジンさんはしらばっくれるだけだろうな」


タツさんはしらばっくれ……られない証拠を持っている。

USBメモリ。言ったほうがいいのかな、言わないほうがいいのかな。

顔をあげると、僕を鋭くにらむタイさんと目が合った。そういえば藤友君は、僕は考えていることが全部顔に出るタイプって言っていた気がする。


「全部話せ」


「……帳簿があります。タツさんが持ってます」


「あの野郎っ、やっぱ隠し持ってたのか」


「違います! あれはアイさんが持ってたんです」


勢いよく立ち上がるタイさんに僕は急いで声をかける。


「あ゛? ……ああそうか、マサを殺したのもアイちゃんか、だがパスワードかかってたはずだぞ」


「アイさんにはパスワード意味ないと思う、僕には数字ばっかりで意味がわからなかったけど、内容をタツさんに説明してたし」


「ハァ、ったく、わけわかんねえな、さすがうわさの化け物だ。……ハハ、そっか、じゃあタツは死んじゃってるな。ジンさんすげぇ割り切り早ぇんだ。合理的っていうのかな。ジンさんにとっちゃタツなんてなんの価値もねぇ。情報のほうが断然価値が高ぇ。リスク減らす方取るだろうな、ハァ、なんで最近こうなんだよ、なんでみんな死んじゃうんだよ? もうちょっとこう、カラっと楽しくいかないかな」


バカばっかりだ、と乾いた笑い声を立てながら、タイさんは雨が降り続ける灰色の窓に目を移した。タイさんの横顔はなんとなく悲しそうに見えた。


「まあ、事情はわかったよ。黙ってここにいてくれりゃ、明日には家に帰してやる」


そう言って、タイさんはタバコをしまって立ち上がった。

僕は気になっていたことをタイさんの後ろ姿に尋ねる。


「あの……、アイさんは吸収した人の記憶を読めるんです。それで、マサヒコさんはあなたと長崎っていう人に罪をかぶせて逃げたって言ってたんですけど、そうなんですか?」


僕の言葉に、タイさんの背中はピクッと反応した。


「……間違っちゃいない。でも俺がなんも関係ねぇのはすぐわかる。本当に関係ねぇからな。それに長崎は死んじまってるし、マサ自体がばっくれちゃ、バレバレだろ? 底が浅いんだよ、あいつ」


まあ、そうなのかも。

そしてタイさんは吐き捨てるようにつぶやいて振り向いた。


「でもまぁ、お前イカレたレベルでバカだな? 俺はもういいって言ったのによ。俺は別に誰かに死んでほしいとかちっとも思ってねぇんだよ。なのになんでそんなこと言っちゃうんだよ? 記憶が読めるって全部知ってるってことじゃねぇか。お前、俺の話聞いてたのかよ? ヤバイ情報知ってるってバレて、素直におうちに帰れるとでも思ったのか? せっかく無関係だってジンさんに報告して帰そうと思ってたのによ?」


振り向いたタイさんは苛立ちがこもった苦しそうな目で、僕を見た。

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