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君と歩いた、ぼくらの怪談 第1部  作者: tempp
第3章 5本の腕と向日葵のかけら

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『サニー』の後ろ姿

 僕らは急いで引き返し電車に乗って神津駅へ向かう。

 日はまだ高いけど少し斜めに傾きはじめて、街並みを影の中に深く鎮める。キーロさんは『よっち』さんにメッセした。けれども返事はなかった。大丈夫だろうか。

 僕は電車の中だけど、小さな声で藤友君との会話を再開する。


「注意したほうがいいことはある?」

「怪異はおそらくそれなりに強い。だからできれば武器を用意したほうが良い」


 武器っていっても。困惑する。僕の生活に『武器』という発想はない。


「何でもいい。モップでもホウキでも。ポリバケツのフタでも身を守るには役に立つ。何もなければカバンを体の前に回せば」


 そのくらいなら……なんとかなるかな。


「強いという根拠はあるの?」

「昨日体格を聞いただろ。『でりあの彼氏』と『神津ペッカー』は大柄だ。小柄な『サニー』が殺すのは難しい。だから『サニー』が犯人なら力仕事の担当が必要だ。大柄な男を殺せる協力者。少なくとも、お前より怪異は強い」


 なんか、やっぱ『よっち』さんのところに行くのはやばいのかな。ちょっと鼓動が早くなる。


「次に、キーロが逃げ切る方法があるか検討しようか」

「えっ。襲われない方法があるの?」


 その言葉に驚く。

 さっきの話ぶりだと、襲われ確定のように思えたんだけど。


「人を殺すというのはそれなりに億劫な作業なんだよ」

「億劫って……」

「現状、なんで『サニー』が参加者を襲っているのかわからない。動機によっては説得は可能かもしれない。ターゲットが特定されているなら無差別殺人じゃない。それなら『サニー』がキーロの動機から外れれば可能性はなくもない」

「でもそこは全然わからないんだ、本当に」

「動機に関連するかはわからないが、この事件は不可解な点がある。腕も隠せるなら全て隠すべきだ。わざわざ『腕を残す』意味、わざわざ危険を知らしめるのはリスクにしかならない。自分が狙われていると思わせないほうが殺しやすい」


 殺しやすいって……。

 さっき言ってた、腕を残す意味?


「まぁ殺そうと思うなら、こっそりやった方がいいような気はするけどさ」

「呼び出すだけなら少しでも警戒させない方がいい。何もない方が呼び出すのは楽だ」


 あれ?

 でも。


「キーロさんも『よっち』さんも、『サニー』さんが怖がってるから会いにいくんだよ? 普通あんまり知らない人に呼び出されて、会いにいくかな?」


 藤友君はその疑問をあっさり覆す。


「『サニー』は呼び出す準備も周到だ。ストラップを配っている。使用感を聞きたいとか、不具合があったから回収または交換しないといけないとか、まっとうな理由で呼び出せる。キーロが写真に気づかなければ個別に呼び出されていただろうし、少なくとも最初の被害者はこの理由で呼び出されたんだと思う。『サニー』は全てを隠せるのにリスクを犯してまで腕を置いて、わざわざメッセージを残した。腕という『死』と『向日葵』の柄の布」


 『向日葵』の柄の布?

 そこででてくるの?


「そもそも、腕が包まれている布の柄が『向日葵』であることは犯人以外認識することは困難なんだ」

「でも腕は向日葵の柄で包まれていたんでしょう?」

「お前、この間俺が怪我した時、ハンカチで止血しただろ? その時、ハンカチの柄なんかわかったか?」


 花子さんのときのこと? 記憶をたぐる。

 そういえば、僕も大分てんぱってたけど、藤友君の傷口に巻かれハンカチは、流れ出る血ですでに赤く黒く染まって柄なんてちっとも見えなかった。


「布っていうのは血を吸う。血っていうのは赤くて固まれば黒くなる。黄色い柄があったって見えやしないんだよ。BBSで写真をアップした奴のIDと、スレの最初で『街BBSで向日葵の柄の布に包まれてるとうわさされている』と書いた者のIDは同じだ。街BBSもみたけど、写真のアップ以前に時々『向日葵』の話を始めるIDも同じIDだった。ただ言ってるだけじゃ何の根拠にもならない。だから柄がわかるように包んだばかりの腕の写真をUPしたんじゃないかな。腕が切断されていることは知れ渡っている。だから犯人にとって重要なのは腕の写真より『向日葵』の柄の写真なんだと思う」


 少し考えるような間が開く。

 ガタンと揺れる音がして太陽は大きなビル郡に遮られ、電車は辻切駅に吸い込まれた。


「『サニー』は写真がアップされる前に、LIMEで『向日葵』の布とか柄とかいう単語を出してないか?」


 一旦電話を切って地下鉄に乗り換えながらキーロさんのLIMEを確認すると『サニー』さんの『向日葵』についてのレスが何か所か見つかった。


「なら犯人は『サニー』で確定だ。布が『向日葵』柄なのは犯人しか知り得ない。それに普通は腕が切り取られた事をスルーして、布の柄なんて話題にしないだろ?」


 会ったこともない『サニー』さんに恐怖が浮かぶ。

 僕の頭の中のシルエットの『サニー』さんは、何も知らないふりをしてLIMEに恐怖を拡散させる死神のイメージに変化した。


「話を戻そう」

「話?」

「キーロがターゲットから外れる方法だ。LIMEを見ると『サニー』は話を誘導しながら話の流れを監視していたんじゃないかと思う。参加者の反応を」

「監視?」

「『サニー』は事件関係のレスが異様に早い。『サニー』は腕、もっというと『向日葵』の柄に対する反応をLIMEで伺ってたんじゃないかな。もともキモオフは街BBSの企画だから、参加者が同じカテゴリの腕の写真に気がつく可能性はある。だからBBSとグループLIMEを見張ってた。それで、キーロが気づいたから乗っかってメッセージを伝えようとしたんじゃないかな、お前らも関係者だって」

「関係者? なんのこと?」

「結局のところ、『サニー』は『向日葵の柄』が示す者が腕になる、つまり殺されることをターゲットに伝えたかったんじゃないかな。ターゲットにとって『向日葵』の柄はメッセージになるはずなんだ。『自分が狙われている』とわざわざ伝える目的は恐怖を伝えることだろうか。それは死の予告になるんだろうから。だからこのメッセージが伝わらないキーロは本質的にターゲットじゃない」


 ターゲットじゃないのに狙われているの?

 キーロさんには本当に心当たりが全くなさそうだった。だからキモオフ参加者と腕つながりがわからなくて困っている。


「『サニー』のタゲから外れるという最終目的に到達するにはキーロがタゲられた理由が重要だ。じゃあ、キーロ、もっというと『参加者全員』がタゲられているという前提を諦めよう」


 諦める?


「『向日葵』の柄の意味が通じるキモオフ参加者の誰か、おそらく最初から名前が特定できた『でりあ』、『でりあの彼氏』、『くまにゃん』、『神津ベッカー』、あるいは募集掲示板の36又は121がIDで特定できる場合、このうち少なくとも誰か1人はそもそもの『サニー』のターゲットだったんだろう。キモオフ募集の掲示板は月に何件か立っている。だからターゲットがいなければ『サニー』は『この』キモオフに狙いを定めない」

「最初から狙われてたってこと?」

「そう。『サニー』はキモオフ参加者のうちの『向日葵の柄』の意味が分かる複数人を殺したかった。1人はわかっても、他が誰かはわからなかった。だから全員を殺すことにした。この点ではある意味無差別殺人」

「そんな無茶な……。じゃあキーロさんは完全にまきこまれただけってこと? なんで関係ない人まで? ちっとも意味がわからないよ」

「そんなことは簡単だ。『サニー』にはターゲットを殺すという『目的』のほうが大事なんだろう。自分を含めた無関係な人間の命よりも。わざわざ危険を冒して腕を残し、証拠となり得る写真をアップするほどに。随分捨身だけど、本当に大切なものというのは、他人に理解される必要はない。理由を考えるのも理解しようとするのも無駄だ。そうだな。俺だって、目の前に5人いてその誰かが俺を殺そうとしている、と確信すれば、殺される前に全員殺そうとするかもしれないぞ? 死にたくはないからな。……わからなくは、ないだろう?」


 わからなくは、ない。のかな。でも僕はそんな風にきっぱり言い切るなんてできないよ。


「『サニー』は自分のリスクを犠牲にしてまで、ターゲットに恐怖を与えることを望んでいる。逆にいうと『サニー』は目的のために動いているから、おそらく真に無関係な他人の命は興味がない。さっきの例で、確実に味方とわかれば俺だってわざわざ殺したりしない。キーロが全く関係ないと理解すれば興味を失う可能性はある」


 そうか、話ができれば、説得は可能かもしれない。

 『口だけ女』も『花子さん』も、一応会話は成り立った。


 時刻は4時。ちょうど地下鉄が神津に到着した。

 『よっち』さんと『サニー』さんは夕方に会うって言ってたからひょっとしたらまだ間に合うかもしれない。

 地上ではまだ太陽は青い空を照らしていた。


「ただし話が通じるかはまた別の問題だ。わからないから全員殺そうっていう発想をするやつは基本的にまともじゃない。だから俺は、神津に行くのはすすめない。お前はそのキーロとかいう女以前に、自分の心配をしろ。リスクはちゃんと考えろ」


 藤友君との電話を切る。

 僕が電話をしている間、キーロさんは何度も『よっち』さんに電話をしたけどつながらなかった。『よっち』さんが待ち合わせ場所に選んだのは北口のオフィス街にある喫茶店。そして、僕は喫茶店に向かって途中の小さな路地を足早に通り過ぎようとしたとき、その古びたビルとビルのすき間から怪異の気配を強く感じた。


 その路地はやはり薄汚れてよどんでいた。

 駅から喫茶店へ向かう途中。

 28階建の神津スカイオフィスによって6月のまだ明るいはずの日差しが四角く切り取られ、ここだけ深い影に沈んだ一帯。その中でもさらに暗く、闇がこぼれるような結界に沈んだ2メートルの路地。

 この路地の奥に、僕と怪異をつなぐ糸がまっすぐに繋がっていた。これは僕が解決しないといけない問題。

 僕はキーロさんとナナオさんに警戒を促す。


「二人は一旦駅に戻ってて。絶対ここに入らないで」

「どうしたボッチー、ここに、……いるのか」


 うなずいて二人に退去を求める。

 ナナオさんはそんな僕の様子に気づいて、緊張した面持ちでキーロさんの背中を押す。

 2人が歩き去るのを確認して、僕は一歩、小道の影に足を踏み入れる。

 とたん、路地に広がる闇がそのままねっとりと僕の足に絡みついてきた。けれども構わず足を進める。

 目の前で、小柄な人影が振り向く気配。そして、その方向から血のような、鉄臭いような、生魚のような、さまざまな匂いがまじりあった不愉快な匂いが流れこみ、思わず眉間に力が入る。


 グギッという何かが折れるかのような音と同時に、ギィという人の声のような鈍い音が聞こえ、僕は急いで影をかき分け近づいた。

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