『不運』の推測
藤友君から着信があった。
「犯人は『サニー』だ。近づくな」
「えっなんで」
予想外の答えに混乱する。
サニーさんは襲われそうになっていたんじゃないの?
「そもそも目的はキーロが被害にあわないこと。それなら『腕だけ殺人事件』が『本当に無差別殺人の場合』は考慮にいれても仕方がない。俺も東矢も同じように巻き込まれる可能性があるってだけだ。それに無関係の場合は正直対策が立てられない。とりあえず1人になる状況を作らないことくらいだな」
「まあ、確かに本当に無差別なら、出歩かないくらいしか対策はないよね」
でもそんな偶然があるのかな。
被害者はキモオフの参加者ばかりだし。
「3~5本目の腕の発見場所で同じ怪異の存在を感じた。廃墟にはその気配はなくキーロのストラップからは同じ気配がした」
「うん、全部同じ。すごく気持ち悪かった」
「そこから『腕だけ連続殺人事件』とキーロは関係がありそうだということは導かれる。けれどもキモオフと無関係の可能性もなくはないん」
「そんなことありえるの?」
「例えばより広範囲に呪物が無作為に配られていたり、お互い行ったことを認識していない別の場所で何かの対象となる切欠と遭遇したのかもしれない。確率を度外視した場合、より多くのターゲットの最初にキモオフメンバーの何人かが固まっていただけの可能性も捨てきれない。目的はキーロが襲われないことなんだからリスクは広く検討しないとだめだ」
うう、反論ができない。
そんなこと全然考えてなかったよ……。
「そもそも被害者が参加者かも確定はできない」
「どういうこと?」
「なりすましの可能性がある」
3本目の腕のブレスレットが『くまにゃん』さんのものだとしても、『くまにゃん』さん自身かブレスレット作成者が犯人で、違う人物の腕にブレスレットだけをつけた可能性。
4本目が『でりあの彼氏』さんという根拠は全くない。無関係の可能性も高い。
5本目は『神津ペッカー』さんの携帯から位置情報が発信されただけで、腕が誰のものかわからない。たまたま腕を発見した『神津ペッカー』さんが面白半分にメッセしただけの可能性もある。
だんだん何が本当なのかよくわからなくなってきた
「けど、さっき見たメッセから犯人は『サニー』だと思う。LIMEの『サニー』の言動が不自然だ」
「不自然?」
「そうだな。前提として第1に、参加者の全員又は一部がターゲットとなったと仮定する。犯人が参加者を襲うためにはその相手、対象を特定する必要がある。けれども、参加者は企画の直前に集められ、しかも飛び入りがいる。事前に参加が確定できたのは『でりあ』、『でりあの彼氏』、『神津ベッカー』、『くまにゃん』の4人。すでに死んだと目される5人にも1人足りない。あとは匿名か飛び入りだ」
うん、そこまではわかる。
匿名のだれかはキーロさん、『よっち』さん、『サニー』さん、えーとそれから『みちとし』さん。
「少なくとも、『飛び入り』の1人分はそれが『誰』かという情報すら現地でないと手に入らない。IDで判別したとしてもIDは被りうる。飛び入り含めて全員分、少なくとも5腕分の情報がないと誰を襲っていいのかすらわからない」
「襲う相手……がわからないと襲えないのか」
「加えて殺すためには会わなければならない。被害者の居場所がわからないと話にならないんだ。そのためには連絡先が必要だ。各個人の連絡先を得られたのは、実際に参加した参加者だけだろう。だから犯人又はその共犯者がキモオフ参加者の中にいる」
えっ、ああそうか、相手がだれかわからないと襲えないのか。
襲う方のことなんて全然考えてなかったよ。
なんで藤友君そんなスラスラでてくるの? ちょっと困惑。
「参加者に犯人がいる場合、それは誰か。つまり犯人は生き残っている誰か、だ。キーロが『よっち』と『サニー』を声で確認している以上、成りすましの可能性は低い。だから犯人は2人のうちのどちらかだ」
被害者じゃ……なくて?
「『サニー』を怪しむ根拠は2つある。最初に感じた違和感は、そんなものの見分けがつくのか、ということだった。『サニー』は写真の腕が『くまにゃん』のだと断定したんだよな? お前の話だと『サニー』は参加者全員と初対面でグループも『くまにゃん』とは違ったんだろ?」
確かに僕はそう聞いている。
ううん? つまりどういうこと?
いつのまにやらスマホを持つ手に力がこもっていた。
「場所は夜の廃虚だ。暗い。初めて会って行動も一緒にしていない。それなのになぜブレスレットが『くまにゃん』のものだと断定できるんだ? 人のブレスレットなんてそんなに注視するところなのか? 普通、写真を見ただけで判別できるものなのかな」
確かに僕だと他人がどんなアクセサリーをつけているかなんてそもそも見ていない。
それどころか、翌日になればどんな服を着ていたかもあやふやだ。でも。
僕は情報を組み合わせてなんとか他の可能性を考える。
「でも『サニー』さんはアクセサリーを作る仕事をしてる。特徴的なブレスレットだとわかるんじゃないかな」
「昨日はその可能性を考えた。2つ目だ。『サニー』のLIMEの奇妙な点」
「何かおかしいかな。怖がってるように見えるけど」
「3本目の腕がブレスレットによって『くまにゃん』のものと判別できたとする。けれどもそれをキモオフに結びつけるか? 突発的に開催されたオフ会だぞ? 普通なら単に偶然、知人が猟奇事件に巻き込まれたか、万一狙われたとしても『くまにゃん』の人間関係が原因と思わないか? 何度も言うが、初めて合ったんだろう?」
あれ? 確かにそういわれれば。
僕は最初からキモオフ参加者が狙われてるって聞いたからそう思ってた。
けれども普通に考えたらどうなるんだ?
「普通はこの流れで『くまにゃん』が『腕だけ連続殺人事件』の被害者だと思っても、キモオフ参加者だから狙われたとは思わない。キーロも最初は『くまにゃん』が狙われたと思ったわけではなく、単に被害者が『くまにゃん』のものか確認したくてメッセしたように見える。多分これが普通だ」
「そういえば確かに……」
「おかしなところは他にもある。メッセの流れが強引すぎないか?」
心配してるみたいに、不安そうに、……見えるけど。
「キーロが写真が『くまにゃん』の腕かと聞いたら、『サニー』は間違いないと断定した。その上で、『でりあ』と『みちとし』が被害者で、『キモオフに行ったメンバーが狙がわれている』と言い切っている。この2人については3から5本目のようなヒントすら何もない。なのにこんな風に言うのは、よほど思い込みが強いのでなければ」
藤友君の声は静かに断定する。
「2人が1,2番目の被害者であり、LINEに返事がないことを知っている。つまり犯人だからだ。社会人なんだからすぐにレスがつくほうがおかしい。『くまにゃん』をブレスレットで断定したのもおそらく同じで、切断した腕に特徴的なブレスレットがあるのが目についただけじゃないかな」
考えもしなかった可能性に青くなる。
急に強い風が吹き、怪異の残り香が舞った。
座っていたコンクリートの車止めからじとりと冷気があがってくる。
「不自然な部分は他にもある」
他にも?
まだあるの?
「腕の写真のアップ時間は10:30。キーロのLIMEが11:30。そして『サニー』のレスも11:32。この時点でキーロは既に『でりあ』と『みちとし』に電話したという。いくらなんでも早すぎないか? 『くまにゃん』かもしれない腕が見つかっただけで、一度しか会ってないやつらに生存確認の電話なんてかけるか?」
一度しかあったことがない人……。
「仮に電話をして出なくても月曜日の10時半とか11時半とかの時間帯だ。働いていれば仕事をしている。俺もお前も授業中だ。出なくてもおかしくない。普通多少時間をおいて、もう一度電話しようとするものじゃないかな。キーロ以外が返事をしたのも12時を回ってからだ。それに『よっち』が言うように、終わった企画の未読スルーはおかしなことじゃない。普通はこんな拙速な判断をしないと思う」
そういわれると、そうなのかな。
足元が崩れていくような感覚。信用していたものが崩れていく。
疑問にも思っていなかったことが、不確かになっていく。
「ペッカーも同じだ。『助けて』というレスだけでペッカーも襲われたと言う。例えば東矢は俺から「助けて」って連絡があっても襲われたと思わないだろ?」
「困ってるとは思うかもだけど、確かに襲われたとまでは思わないかも」
「普通、助けての一言で『連続殺人事件の被害者になった』とは考えない。それに『サニー』がどの発言にレスをしてるかもわかりやすい。『サニー』は『腕だけ連続殺人事件』の話題にはレスしているが、5月28日の事件と関係ない話題にはレスしていない。興味がないからじゃないかな」
確かに『神津ペッカー』さんと『よっち』さんの会話にはレスがない。
「以上から、『サニー』が『キモオフ参加者が被害にあっている』という方向に誘導していることは明らかだ。『よっち』の感想が普通だと思う。だから誘導に成功したのは写真を見て動揺したキーロだけだ。ここまで不審な行動が積みあがれば、『サニー』が犯人又は犯人の共犯としか思えない」
藤友君はいったん息をついて、続ける。
「で、今後の見通しを考えよう。『サニー』はキーロと『よっち』に個別に会いたいって連絡してきたんだろ。『サニー』が犯人なら、参加者に会う理由は誘い出して殺すためだ。おそらく『神津ペッカー』は2人で会って殺された。あのレスの様子なら呼ばれたら飛んでいきそうだろ?」
誘い出して殺す……ため……?。
『殺す』という具体的な単語におののく。
「神津ペッカーのメッセージと位置情報を発信したのも『サニー』かもな。罠をはってLIMEで『よっち』かキーロがくるのを待っていた可能性もある。それで、連絡が来てるってことはキーロはタゲられたままだ。ただしキーロが友人といるというと強引には迫らなかった。だから『サニー』は相手と2人で会うことを希望している。まあ、普通そうだよな、殺そうっていうんだからリスクは低いほうがいい。あるいは参加者以外は殺すつもりはないのかもしれない。だから『サニー』と1人で会っちゃだめだ」
えっちょっと待ってよ、それ『よっち』さんやばいじゃん。
思わず携帯を握る手に力がこもる。
「今日の夕方、『よっち』さんが『サニー』さんと会うことになってるんだ! 複数で大丈夫なら合流したほうがいいよね!?」
藤友君は電話口でしばらく黙った後、予告する。
「複数が安全という保障はない。相手は死体を隠せるからな。慎重を期しているだけの可能性がある。俺なら、行かない。ただ、そっちは末井がいるんだろ? じゃあ……やっぱり行くんだろうな。会うなら必ず複数で会え。1人になるな。あと、リスクは考えて、やばいと思えばお前がキーロを引きずって逃げろ。キーロのためといえば末井は納得するだろう」
ナナオさんは困っている人は助けようとする人だ。
以前も自分を襲った怪異ですら助けようとしていた。
僕は一度電話を切って2人に顛末を話す。『サニー』さんに会わないほうがいいという説明に、『よっち』さんの危険性を抜かしてうまく話すことはできなかった。それに僕も電話口で『よっち』さんの名前を発言していた。
予想通りナナオさんは『よっち』さんを助けに行くと言い、キーロさんもためらいながら助けに行きたいと言った。昨日話したばかりの人だから。




