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第37話 ヒロインらしい展開

「どうやら君は私のことが好きらしいと聞いた。気付かなくて申し訳なかったな」


(あのおしゃべり王子が!)


 ついつい心の中で罵倒してしまった。自国の王子だというのに。

 しかしあんまりである。内密だと言ったはずなのに、胸に秘めた思いだと言ったのに、それをあっさりと本人にバラすとは。


 王子とのお茶の時間を過ごした、その翌日のことだった。


 そろそろ花冠の娘となる準備をしなければならない。ベリンダはリリアの店に来て、それらしいドレスをあつらえてくれないかと頼んだのだった。

 リリアはやっとその気になったのかと喜んで、忙しい中ではあるがなんとかドレスを用意すると約束してくれた。忙しいというので、引き続きベリンダも手伝いをすると申し入れた。


 そうして、店の奥でドレスに付ける造花造りの精を出していたところで、俄に店先が騒がしくなったなあと気づき、間もなくしてリリアがやって来て、ベリンダを尋ねてヒューバートがやって来たと言うのだ。


 そうして、彼の口から出た言葉がこれである。


 恐らく、この小さな部屋の外で壁に耳をつけて中の会話を盗み聞きしているだろうリリアとその両親も驚いているだろう。


「念のために聞きますが、そのようなお話をどこで?」


「アンディ王子に聞いた。それとなく、私は結婚しないのか、恋人がいないのかと聞いてきた。どうして急にそのようなことを、と問い詰めたら、吐いた」


 王子を問い詰めて吐かせるなどと、知ってはいたがかなりの手練れである。


「さて、どうしたものか」


 ヒューバートは腕を組み、瞳を伏せて押し黙った。


「ど、どうしたもこうしたもないかと思いますが……」


 きっと『気持ちは嬉しいが今のところ誰かを恋人にするつもりも、結婚するつもりもない』と言われるのがせいぜいだと身構えた。

 知っているのだ、そんなこと。


 だからこの気持ちは気付かれたくなかったのに、と苦しい気持ちになったが、このことをアンディ王子に告げた自分の失策である。更に、ヒューバートの名前を出して他の者にも諦めさせようとしていた。こうなるのは時間の問題だったろう。


「うちの両親は普通の貴族らしく、相手の家柄はかなり気にする。それをどうやって説得するかだ」


「は、はあ……」


「それから、親戚にも家柄うんぬんに関してうるさく言ってくる者がいる。特に叔父が厄介だ。どうやら、自分が侯爵家の次男に産まれ相続権がないことを口惜しく思っているらしく、私の父になにかと『ガーフィールド家の当主として』と偉そうなことを言ってくるのだ。それから、従姉妹にも大反対されそうだ」


「なるほど。それは厄介ですね……ではなくて」


 ベリンダはほてった頬に手を当て、冷静になろうと務めたがなかなか熱はおさまらない。


「な、なんだか私とヒューバート様が結婚するような流れになっていますが?」


「当然そうだろう。私も君のことが気になっていた。そんな人に好意を寄せられていると分かって、逃すような間抜けではない」


「えぇぇぇ? ちょっと……! ちょっと待ってくださいね!」


 そうしてベリンダはヒューバートの方を見ないようにしようと壁に向かい、大きく息を吸って、吐いて、少しでも冷静になってこの状況を整理しようと務めた。

 なんだか、どう考えてもヒューバートに迫られているように感じるのだが、そんなことは決してあり得ないのだ。他の可能性を探ってみる。


(私をからかっている……という可能性が一番高いけれど、わざわざこんなところまで来て? 王宮かどこかでたまたま会って、ならばそんなことも考えられるけれど)


 彼は宰相なのだ。きっと多忙のはずである。

 そんな多忙の彼が、わざわざ子爵の娘をからかうために街まで下りてくるだろうか? 彼の性格からしても、それは考えられないのではないだろうか。


(あるいはなにかの計略のために私を利用しようとしている……。あっ、これは少しあるかも!)


 そうして、とあることを思いついた。

 ああ、それなら分かる、とついつい何度も頷いてしまった。


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