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第36話 アンディ王子とのフラグ

「ところで、君が私の誘いに応じなかったのはどうして? 理由があるなら知りたいな」


「あの……私がアンディ王子のダンスの誘いをお断りしたことからも分かると思うのですが、私は目立つことが苦手でして、人の噂にのるのも苦手なのです。アンディ王子の招待に応じて、あれこれ誤解されて噂されるのが嫌なのです」


 ここは無難に回答しておくべきだとと判断した。そうして徐々に距離を置いていく。そういう作戦に出ることにしたのだが。


「そんな噂など放っておけばいい」


「そうはいきません。私はしがない子爵の娘です。安易な噂で押しつぶされてしまうような立場です。ご理解いただければ」


 そうして困ったような顔をしておいた。

 遠回しに迷惑なのだ、と。

 これ以上自分に関わってくれるな、という気持ちよ伝われ、と願っていたのだが。


「ならば」


 アンディ王子はテーブルの上で手を伸ばし、ベリンダの手に自分の手を重ねた。


「ならば私が君を守ろう」


「は……?」


「これでも王子だ。君を守ることなど造作ない」


 そして王子に少しでも気がある者だったメロメロになりそうな、爽やかな笑みを浮かべ、テーブルの上に置いていたベリンダの手に自分の手を重ねた。


(さすがゴム製フラグ! 折ろうとしても凄まじい勢いで戻ってくるわね!)


 一体どうしたものかと迷っていると、ふとした視線の隅にヒューバートの姿を認めた。

 ベランダから斜め下に見える部屋は、どうやら会議の間らしく、そこに立ってなにやら国王に進言しているらしき彼の姿が偶然見えたのだ。


(こんなベランダから見える場所に会議の間が? 狙撃されたらどうする……じゃなくて!)


 今はヒューバートのことを気にしている場合ではない。

 だが、彼を気にするあまり、ついつい不用意な発言をしてしまう。


「あの……実は私には思う方がいるのです」


 ベリンダはアンディに重ねられていた自分の手をテーブルの下にさっとしまった。


「思う方……? とは?」


「ええ、宰相のヒューバート様です」


 そうだ、初めからそうすればよかったのではないか。

 ヒューバートと結ばれるエンディングなどない。どうあがてもフラグなど立ちようもないのだ。

 ならば彼のことを好きだと告げればいいのだ。

 それに、これは偽らざる気持ちである。良心の呵責もまるでないし、一番自然な方法だ。


「ヒューバートだって? まさか……」


「もちろん! 憧れているだけです。秘めた恋なのです。どうか、このことはご内密に」


「いや、内密は分かるのだが、ヒューバートだって? 彼となにかあったのか?」


「ですから、憧れているだけです、一方的に」


「ファンだということか?」


「ええ! そうです、そのようなものです」


「だが、一方的な憧れにすぎないのだろう? そんなものに構っていては、結婚の機会を逃してしまうぞ」


 アンディ王子の言っていることは尤もである。アイドルの追っかけに現を抜かして、婚期を逃すようなものである。


「それは重々承知しているのですが……そう、彼に結婚するだとか、せめて恋人ができるですとか、そんなことがないと諦めきれないのです」


「ああ、なるほどなあ。だが、残念なことにヒューバートにはそんな噂はないな」


「ですから、安心して憧れ続けることができるのです」


「いや、彼に恋人ができないと諦められなくて結婚できなくて困るのではないのか?」


「それはそれ、これはこれです」


 アンディ王子は理解しがたい、という表情ながらもそれを否定するような気配はなかった。


「女性の心は理解しがたいところがあるなあ」


 そう漏らしながら、近くにいた従者を呼んで、紅茶のおかわりをと申しつけた。

 今日は先ほどアンディ王子が言っていたようにとてもよい天気で、吹く風も心地よい。


「――そうか。だったら私の誘いなど断っても当然だったな。あの場にはヒューバートもいた。彼の前で誰かの誘いにのるなどできなかったわけだ」


 正確にはそうではないのだが、そういうことにしておいた方が穏便に済みそうだったので遠慮がちに頷いておいた。


(やったわ! これで、これで遂にフラグが折れた! そうか、最初からそうすればよかったわ)


 他の人とのフラグも、この意気でどんどん折っていけばいい。

 そう意気込み、ようやく誰とも結ばれずにバッドエンドへとたどり着く兆しが見えたと思ったのは束の間であった。

 これからフラグを折るとかそんなことなど些細なこと、と思えるようなことになってしまうからだ。


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