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冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた 作者:門司柿家

帰って来た娘

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二十.部屋の中はしんとしている。いつもの


 部屋の中はしんとしている。いつもの癖で夜明け前に起きたベルグリフは、まだ眠りの深い雑魚寝部屋をゆっくりと出て、ぶらぶらとロディナの村を散歩した。
 筋肉痛は少し和らいだくらいで未だ消えない。もしかしたら筋肉痛というよりは、単純に体が悲鳴を上げているのかも知れない。よほどあの動きは体に無理をさせたのだ、とベルグリフは嘆息した。
 ベルグリフは仕事に向かう農夫たちとすれ違い、朝餉の支度の煙が立ち上るのを見た。こういう所はトルネラと変わりがない。

 そこかしこで豚の臭いがする。羊や山羊とは少し違う臭いだ。体臭なのか、糞便の匂いなのか、その区別はつかなかったが、嗅ぎ慣れていないと少し鼻に付く。そういえば、かつてロディナに立ち寄った時もこんな臭いがしていたっけ、と思い出すようだった。

 陽が昇り始めた頃に宿に戻った。出立が早い旅人たちはもう起き出して飯を食っている。
 雑魚寝部屋に戻ったが、昨晩話した男の姿はない。食堂にも姿がなかったところを見ると、もう出発したのかも知れない。昨晩は咄嗟に誤魔化して寝てしまったが、少し気の毒だったかとも思う。しかしいないのではもうどうしようもない。

 ベルグリフは二階に上がり、少女たちのいる部屋に向かった。まだ扉に辿り着く前に、扉が開いてアンジェリンがひょこっと顔を出した。

「おはよう、お父さん」
「ん、おはようアンジェ……足音が大きかったか?」
「うん……二階だと特に」

 木の義足は木の床を叩くと実に大きな音がする。下に空間がある二階だと尚更のようだ。ベルグリフは苦笑して顎鬚を撫でた。

「先に布を巻いた方がいいかもなあ……」
「ふふ」

 アンジェリンはぎゅうとベルグリフに抱き付くと、すうすうと匂いを嗅ぐように息を吸った。そして満足したように顔を上げる。

「よし……朝ご飯!」
「うん。アーネちゃんとミリィちゃんは……」

 ベルグリフが言いかけると、二人もひょいと顔をのぞかせた。

「起きてますよー」
「ベルさん、おはようございます」
「ん、おはよう。朝食を取って、出発しようか」

 名産品だけあって、ロディナは流石に豚肉がうまい。春先は新鮮な豚肉はあまりなく、塩漬けや燻製などが主だが、それでも十分だ。
 厚切りの燻製肉の炙った奴を、出始めのクレソン、酢漬けの辛子の実と一緒にパンに挟むと、素晴らしくうまい。素朴なトルネラの食事と違って、脂っ気たっぷりのボリュームある味わいだ。尤も、値段もそれなりにするけれども。

 しかし、Sランク冒険者と一緒だけあって、金の心配がない。だから遠慮なく朝からうまい飯が食える。
 こういう食事に慣れると後が怖いなとも思うし、旅先の醍醐味だとも思う。しかし今までの生活が素朴だったから、こういった贅沢が何だか罰が当たるような気がして、ベルグリフは少し身震いした。少女たち三人は何でもない顔をしてぱくついている。

 朝食を終えて、花茶を飲んで少し休んだ。
 ベルグリフは剣の素振りがしたかったが、昨日の男の事がある。あの男に限らず、もし見られてしまったら少し面倒だ。
 別に立ち合いが嫌なわけではないが、“赤鬼”として悪目立ちするのは気が引ける。第一、そこまで評価される自覚がベルグリフにはない。胸を張って称賛を受けようという気にならないのだ。誰から何と言われようと、自覚がない以上釈然としないものはしない。
 それに、相手が期待感を抱いている事を裏切るようで、ちょっと腰が引ける。
 男に無駄足を踏ませるのはやはり申し訳ない気もしたが、所詮旅人など一期一会。自分だって無用の面倒を被りたくはない。ベルグリフは心の中でそっと男に謝った。

 食休みの後、出かけた。馬もまぐさをたっぷり食い、ゆっくりと休んで元気いっぱいだ。馬車は悠々と進んで行く。
 朝から良い天気で、陽射しがぎらぎらとしている。しかし幌に遮られてそこまで気にはならない。
 ロディナからボルドーまでは馬車でも丸二日かかる。中途にはまた山岳地帯がある為、そこで時間を食うのだ。丁度アンジェリンがセレンを助けた所である。人の行き来が多い為、トルネラからロディナまでの道ほどではないものの、やはり歩みは遅くなる。

 山越えで一日かかり、次の村で休んだ。翌日に出発し、いよいよボルドーに到着という段であるが、次第に分厚い雲がかかって、とうとう雨が降り出した。
 雨粒が幌を叩いてばたばたと音を立てる。春先の雨にしては大粒である。北部地域では冬の雪こそ珍しくないが、降っても霧雨が多いのだ。こんな風にまとまった雨が降るのは珍しい。
 風が弱い分吹き込む量は少ないが、それでも荷車の中は濡れた。雨粒同士がぶつかって霧のようになり、辺りに漂っている。馬の歩みも遅くなった。

「やれやれ、参ったな」
「うう……寒くなって来た……」

 アンジェリンはもそもそとベルグリフにくっ付いた。髪の毛がしっとりと濡れている。雨粒が砕けて細かな霧のように漂っているらしい。荷車を引く馬の体からは湯気が立ち上っている。

 震えながらボルドーに辿り着いた時にはもう日が暮れていた。雨はまだ降っている。
 ボルドーは北部地域では最も大きな町だ。領主であるボルドー家のお膝元というのも大きいだろう。周囲には田園地帯が広がり、石塀で囲まれた町の中は賑やかだ。規模ではオルフェンに及ばないものの、活気では負けていないように思われた。ヘルベチカが集めているという優秀な人材がきちんと仕事をしているのかも知れない。

 流石に濡れたみすぼらしい恰好でボルドー家を訪ねるのは気が引けた。
 ベルグリフたちはひとまず宿を取って体を休め、翌日改めてボルドー家を訪ねる事にした。馬車は座ってこそいられるが、振動などで意外にくたびれるのだ。

 ボルドーの宿はロディナのものとは比べ物にならないほど大きい。
 一階部分の酒場も賑やかだ。どうやら冒険者たちの溜まり場になっているようで、そのような恰好をした者たちの姿も多く見受けられる。
 濡れ鼠の一行を見て、宿の主人は明らかに侮った態度を見せたが、ムッとした表情のアンジェリンがSランク冒険者のプレートを見せると態度が反転した。

「ささ、どうぞどうぞ」

 と荷物を持って部屋に案内する。アンジェリンは自慢げにベルグリフを見てにやりと笑った。ゲンキンなものだなあ、とベルグリフは苦笑しつつ、後に続いた。

 部屋はそこそこの大きさがあり、ベッドも二つある。これなら二人ずつ別れて眠れそうだ。
 考えてみれば藁の寝床ばかりで、ベッドの上で眠るのは久しぶりだ、とベルグリフは驚く。触れてみて、その柔らかさに何となくドギマギした。眠れるだろうか。
 荷物を置いて、濡れた服を取り替え、一階に降りた。たいへんざわざわしている。ジプシーの旅芸人の一座が音楽を奏でており、食器の触れ合う音、談笑する声、笑い声や怒鳴り声などが混然となって渦巻いている。

「賑やかだな」
「うん……お腹空いた」

 テーブル席は空いていなかったのでカウンターに並んで腰を下ろす。大きな宿屋だけあって設備も立派だ。高価な冷蔵魔法庫(フリッジ)まである。メニューも多いようだ。海からは離れている筈なのに海鮮の名前もある。
 しかしベルグリフは料理の名前だけ見ても何だか分からない。昔見たような名前もあるが、イマイチ記憶に残っていないようだ。
 主な注文はアンジェリンたちに任せて、ボルドーの特産だというエール酒、それと、魚の名前だと分かるカタクチの料理を頼んだ。

 エール酒は麦の酒だ。ワインとも林檎酒とも違う苦みのある味で、飲んでみて少し面食らった。
 カタクチは塩漬けの小魚で、少し発酵しているらしい、独特の臭みのある味でベルグリフは目を白黒させた。アンジェリンたちがくすくす笑う。

「お父さん、カタクチの塩漬けは玄人向け……」
「……そういう事は最初に言ってくれないか?」
「えへへー、だってベルさんがどんな反応するかなーって」
「すみません……けど、好きな人もいるから、もしかしてと思って」

 ベルグリフはやれやれと苦笑した。少し苦手だが、頼んだ以上は食べてしまわなくてはなるまい。
 冒険者時代は何でも食えなくてはいけないと、色々なものを食べていたが、トルネラに戻ってからはすっかり味覚が固定されてしまったようだ。

 渋い顔をしてカタクチを食っていると、隣に座っている客が何か言っている。

「ふん、カタクチの良さが分からないなんて、だからお前は田舎者なのよ」

 自分の事を言われたのかと思って驚いて見ると、横に座った小さな少女が向こうを向いていた。年齢は十歳そこそこで、雪のように白い長髪だ。

「いいこと? この深みのある味わいがカタクチの醍醐味なんだから。しょっぱいだ臭いだなんて言うのは自分が田舎者なのを露呈しているだけよ、ビャク」

 どうやら連れらしい少年に言ったのだ、と分かってベルグリフはちょっとホッとした。
 少女を挟んでベルグリフの反対にいる少年は、不機嫌そうに顔をしかめている。十五、六といったところで、髪の毛は少女と同じく白いが油っ気がなくバサバサで、少女のそれとちがって薄汚れた印象がある。

「……知るか。不味いもんは不味い。それにあんたはルクレシアの出身だから慣れてるだけだろうが」

 ルクレシアはローデシア帝国の南東側に接するヴィエナ教の総本山である。総主教を中心とした宗教国家体制を二百年以上続けている。大陸から突き出た半島と、その周辺の群島を領土としており、海との関わりが深い。
 大陸全土に信者のあるヴィエナ教の中心部というその国柄から、周辺国への影響力も強く、その分政治に於けるドロドロした噂や事件も絶えない。

 ルクレシアからボルドーまではかなりの距離がある。こんな若い二人がここまで旅して来たのか、とベルグリフは感心した。

 少女はカタクチの塩漬けをパンに乗せてかじりながら、なおも喋っている。

「ま、ルクレシアのカタクチに比べれば全然味なんか劣るけどね。あーあ、早く帰りたいわ。何が悲しくてこんな北のド田舎に来なくちゃいけないのかしら」
「……黙って食え。喋り過ぎだ」
「ちょっとビャク! 主人に対して何よその態度は!」

 少女は憤慨したように椅子をぎいぎいと揺さぶった。
 すると椅子が古かったのか、接続部が音を立てて外れ、少女の体が後ろにかしいだ。

「ひっ……!」

 少女の目が恐怖に見開かれる。
 ベルグリフは咄嗟に手を伸ばして背中を支え、倒れるのを止めてやった。少女は何が起こったのか分からず、口をぱくぱくさせている。

「大丈夫かい?」

 ベルグリフの言葉に少女は驚いて彼の方を見た。真っ白な肌が少し朱に染まっている。

「あ、あがっ、ありっ、あが、ありがっ、あ……ぅ…………よ、余計な事しないでよッ!」

 礼を言おうとしていたらしいのが一転して怒り出すから、ベルグリフは訳が分からない。はてと首を傾げた。しかし相手が子供だからちっとも腹が立たない。
 少年が引き受けて少女を床に降ろした。少年はにこりともしないが、それでもベルグリフに小さく会釈した。

「悪りぃな……こいつちょっとコミュ障でよ」
「ちょ、何よコミュ障って! そんな口の利き方――むぐっ」

 少年は少女の口を手で塞ぎ、うんざりした顔で嘆息する。兄妹みたいだ、とベルグリフは微笑んだ。

「どうしたの、お父さん……?」

 アンジェリンがひょっこりと顔を出した。その顔を見た少年が微かに眉をひそめた。

「……邪魔した。行くぞ聖女様」
「むーっ! むぐーっ! むぅうーっ!」

 少年は暴れる少女を抱きかかえたまま出て行った。何だか賑やかな二人だったな、とベルグリフは笑いながら顎鬚を撫でた。
 その時、反対側から怒声が上がった。

「んだとコラァ! 下手に出りゃあ付け上がりやがって! 俺が誰だか知ってんのかあ! “迅雷”のゴート様だぞ!」

 冒険者らしい男が騒いでいる。酔っているのか目つきが怪しい。絡まれているらしいアネッサが面倒臭そうな顔をしてしっしと手を振る。

「井の中の蛙もいい加減にするんだな。お前みたいのなのは沢山見て来た」
「ふざけんな! 女だからって容赦しねえぞ!」

 男は腰の剣に手を伸ばす。
 だがその前にアネッサが素早く手を伸ばして男の手首を掴み、捻った。男は悲鳴を上げる。

「相手の力量も分からずに喧嘩を売るとはな。それじゃ早死にするぞ、“迅雷”さん?」

 あくまで余裕を崩さないアネッサに、周囲の冒険者連中が笑い声を上げたり、感嘆の声を上げて拍手したりした。どうやらこの男はこういった悪い面で有名なようだ。
 男は羞恥で顔をゆがめながら、そそくさと出て行った。ミリアムがにやにやしながらアネッサをつつく。

「カッコつけちゃってー」
「うるさい。ああいうのがいるから冒険者の評判が悪くなるんだ……」
「……後衛のアーネに近接で負ける剣士。ホントに異名持ち……?」

 アンジェリンが首を傾げると、カウンターの向こうでバーテンダーが笑った。

「そんなわけないだろう。あいつはCランクだよ。異名も自分で勝手に名乗ってるだけさ。まあ、あれでも腕は立つ方なんだがね……」
「ふーん……カッコわる……」

 アンジェリンはそう呟いてワインを飲んだ。
 ベルグリフは何だか妙な恥ずかしさを感じて頭を掻いた。娘よ、同じような事をお前はお父さんにしているじゃないか、と思った。
 見目麗しい少女が男を手もなくあしらったというのに感心したらしい冒険者たちが、一杯奢らせろとやって来たのでカウンター回りが騒がしくなった。

「いやあ、スカッとしたぜ。姉ちゃん、冒険者やってんのか?」
「ああ、オルフェンでな。こっちがパーティだ」
「へえ、女の子ばっかりとは華やかでいいや!」
「ゴートを一発で捻っちまうとは、高位ランクだろうが、どこなんだ? A? AA?」

 アネッサは少し目をやってアンジェリンとミリアムの了解の意を見て取ると、言った。

「わたしとこいつはAAA。あっちの黒髪はSランクだ」
「……嘘だろう?」
「い、いやいや、待てよ。黒髪で少女っつったら……まさか“黒髪の戦乙女”?」
「ま、魔王殺しのか!?」

 アンジェリンが面倒臭そうに頷くと、まるで爆発でも起こったように酒場の中が騒がしくなった。冒険者ならば誰しもが憧れる最上位ランクの冒険者の到来に、冒険者だけでなくバーテンダーまで喜んでいる。店に箔が付くのだろう。
 誰もがSランクパーティに酒を奢ったという土産話を欲しがって、三人の前には次々にジョッキやコップが置かれた。

 がやがやと持て囃される少女たちの脇で、ベルグリフはのんびりとエール酒を飲んだ。初めは驚いた苦みも舌に慣れると中々うまい。
 興奮した様子の男が一人、ベルグリフの横に座った。

「いや、すげえ。まさか生きててこんな機会があるとは思わなかったぜ。なあ、あんたもそう思うだろう?」
「ん? ああ、そうだな」

 その時アンジェリンが振り向いて、ベルグリフに話しかけた。

「お父さん……こんなに飲めないからお父さんも飲んで」
「随分貰ったなあ……お父さんもこんなには飲めないぞ」

 このやり取りを聞いて、隣に座った男が口をぱくぱくさせた。

「……あんた、“黒髪の戦乙女”の父親なのか?」

 ハッとした表情のベルグリフが答えるよりも前に、アンジェリンが得意気に身を乗り出した。

「そう……わたしのお父さん……“赤鬼”のベル――むぐ」

 ベルグリフは咄嗟にアンジェリンの口を手で塞いで、誤魔化すように笑った。
 しかし手遅れだったようで、男は目を剥いてベルグリフを指さした。

「赤髪に……右の義足! じゃ、じゃあ、あんた本当に“赤鬼”! ボルドー最強のサーシャ様すら手玉に取る男か!」
「て、手玉……い、いや、俺はそういうのじゃ……」
「おーい皆! 今夜はすげえぞ! “黒髪の戦乙女”だけじゃなくて、“赤鬼”までご来店だ!」

 一気にベルグリフの方に注目が集まった。ベルグリフは慌てて縮こまるが、直ぐに人の群れに囲まれた。
 野次馬の喚き立てる所によると、サーシャが事あるごとに喧伝する為、ボルドーの冒険者で“黒髪の戦乙女”と“赤鬼”の事を知らぬ者はいないそうである。
 サーシャも余計な事をしてくれる、とベルグリフは頭を抱えた。帽子でもかぶるようにしようか、と本気で思う。
 得意気にしているアンジェリンにそっと耳打ちした。

「アンジェ……あまり広めないでくれと頼んだじゃないか」

 アンジェリンはハッと思い出したような顔をした。

「そうだった……ごめんなさい」

 しかし既に手遅れである。それに、一緒に旅をしている時点で手遅れの感はあった。止むを得ない、と分かっていてもやはり居心地は悪い。

 身の丈に合わぬ称賛と期待の眼差しに耐えがたくなって来た時、「失礼!」と人ごみをかき分けるようにして誰かが割って入って来た。

「アンジェリン殿! 師匠! 先輩方!」

 聞き覚えのある声に顔を向けると、サーシャが息を切らして立っていた。雨の中を走って来たのか、前髪から水が滴っている。冒険者たちがどよめいた。
 サーシャはつかつかとやって来てアンジェリンの手を取った。

「こちらにいらっしゃると噂を聞きつけて飛んで参りました! 来られているのに一言もないとは水臭い! 一報いただければ迎えに行きましたものを!」
「ん……濡れてたし、服も汚れてたから、明日にしようと思ったの」
「そんな事! ボルドー家の大恩人が濡れていようと汚れていようと、何を気にするものですか! どうぞ、皆さん屋敷にお出でください! 姉にもご紹介したい!」
「んー……どうする?」

 アンジェリンはベルグリフたちを見る。アネッサとミリアムは肩をすくめた。

「向こうが良いと言うなら、いいんじゃないか?」
「うん。きっとここよりもベッドがふかふかだよー」
「……お父さんは?」

 ベルグリフは少し考えていたが、頷いた。

「元々手紙を届けに来たわけだからな。招待していただけるなら断る理由もないだろう」

 何よりも、この居心地の悪い所から逃げ出したい。
 ならば、とボルドー家の屋敷に行く事になった。これで本物だという事は確定した、と冒険者たちは大興奮である。

 Sランクパーティと“赤鬼”が泊まったという箔を逃した宿の店主は悔しそうだったが、サーシャがキャンセル料を上乗せしたから文句も言わずににこにこと送り出した。上手い売り出し文句を考える事だろう。

 外はまだ雨が降っている。
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