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煎餅屋岩木(自家用)w 後編

 交流戦当日の夜。煎餅屋岩木(自家用)wとライカンスロープの両チームは社峠のF市側の入り口交差点にある、コンビニの駐車場に集結した。

 「それじゃあ、改めてルールを説明します。」

 両チームのメンバーを前に説明を始める陸斗。

 「バトル方式は区間ごとのタイムを競うチーム戦。先行車がスタートしたら、五秒後に後続車がスタートする先行後追いの一本勝負。コースは峠入口のあの信号から、中間の運送会社までを第一区間。第二区間は運送会社から、M町側の出口にある信号まで。第三区間は第二の逆。第四は第一の逆。・・・といった具合で、えー、とりあえず、一服したら移動でお願いします。」

 陸斗の説明が終わると、両チームのメンバーが散開する。


 「あ・・・。」

 陸斗が大型車用の広い駐車スペースに止められた両チームの車を眺めながら、何人かで集まって煙草を吸っていると、赤色灯を付けたパンダカラーの車が駐車場に入ってきた。

 そして、パンダカラーは駐車場の端に駐車し、制服を来た二人の警官が出てくる。

 「なんか走り屋みたいな車が止まってるけど、君達の?」

 年配の警官が、車に最も近い位置にいる喫煙者グループに近寄り、質問する。そして、もう一人の若い警官は車を一台一台チェックしている。

 「そうですけど・・・何か?」

 一緒に煙草を吸っていたインプレッサのドライバー、高林がとぼけたように答える。

 「こんなに集まってどこに行くの?」

 「Hサービスエリアでオフ会です。」

 数十キロ離れた所にある、大規模なサービスエリアの名前を出す。

 「あ、そう。じゃあ、ちょっと車見せてもらって良いかな?」

 「いいッスよ。」

 高林がインプレッサのボンネットを開け、カスタマイズされたエンジンルームを警官に見せつける。

 「どう?すごいでしょ?」

 「いや、そうじゃない!」


 そして、職務質問を一通り終わらせた警官は、安全運転をしろという言葉を残し、帰っていった。

 「そろそろ移動しましょう。」

 警察が来たこともあり、内田の言葉に全員が賛同し、各自愛車のエンジンを始動させる。

 「じゃあ、各自のスタート地点まで移動でお願いしまーす!」

 陸斗はそう叫ぶと、FDに乗り込み、第一区間走者のアイリと高林を残して他のマシンとともにコンビニを後にした。


 第一区間 小山アイリVS高林康太

 第二区間 朝木まどかVS犬山葵

 第三区間 台場芳文VS篠崎聡子

 第四区間 臼井陸斗VS内田裕太


 「第一区間は芳文君にやらせた方がよかったかも・・・。」

 ルームミラーに反射する、インプレッサのヘッドライトを浴びながらアイリが呟く。

 スタートして区間の三分の一も行かない内に、高林に追いつかれてしまった。

 こちらもそれなりに速いペースで走っているが、これ以上のペースアップは危険を伴う為、現状では成す術がない。


 第一区間の結果は高林の勝利。

 「ごめん。負けちゃった。」

 運送会社の入り口にエボ5を止めたアイリが、手を合わせて詫びる。

 「大丈夫だ。気にするな。」

 陸斗が親指を立てて言う。

 「お疲れ様です。」

 「お疲れ様です~。ありがとうございました~。」

 インプレッサから降りた高林が、アイリに歩み寄る。

 「ああ、こちらこそありがとうございました。」

 アイリが礼を言う。

 「それじゃあ、第二区間行きまーす!」

 内田が大声で言う。

 

 運送会社の自販機前でスタートを待つS15とBRZ。

 「勝ち負けは気にするな。安全かつ納得の行く走りをしろ。」

 運転席に座るまどかに陸斗が声を掛ける。

 「わかりました。でも、相手が従兄弟なので、出来れば勝ちたいです。」

 「まあ、無茶はするな。」

 まどかの肩をポンと叩き、陸斗がS15の斜め前に移動する。

 「はーい!カウント行きまーす!」

 陸斗は手を挙げて、後ろのBRZにまで聞こえるよう、大声で言う。

 「五!四!三!二!一!スタート!!」

 合図とともにS15が陸斗の横を通り抜け、社峠を駆け上がっていく。

 「五!四!三!二!一!スタート!!」

 そして、BRZもS15を追って走り出す。


 「このまま走っても多分、後半の下りで詰められる・・・。それなら・・・」

 まどかがぶつぶつと独り言を言いながら、前方の右コーナーに車を進入させる。すると、タイヤがコーナー途中の僅かな段差を拾い、車体が揺れる。そして、段差によって一瞬、宙に浮いたタイヤがホイールスピンを起こす。

 「上りで差をつける!」

 はっきりとそう言ってアクセルを踏み込み、ドリフト状態でコーナーを抜け、第二区間前半の上りを駆け上がる。


 「さすがに上りで追いつくのは無理か・・・。」

 BRZのステアリングを握る葵が、ヘッドライトに照らされる路面を見ながら呟く。

 上りではNAのBRZに比べ、ターボ車のS15の方が断然有利だ。

 「でも、ここからは僕の番。」

 ニヤリと口元に笑みを浮かべる。

 第二区間のバトルは後半の下りに突入した。


 「不味い・・・。」

 まどかが冷や汗をかきながら呟く。

 下りに入ってから、ミラーにチラチラと映り出したBRZのヘッドライトが、徐々に近づいている。

 「下りに関しては葵が上だな。・・・でも、諦める気はないけどね。」

 最終コーナーを抜け、緩やかな右カーブでアクセルを踏み込む。


 結果は僅差で葵が勝利。

 「ま、負けちゃいました・・・。」

 ゴール付近の路肩に停まったS15から降りたまどかが、達成感に満たされた様子で言う。

 「おつかれ。よく頑張った。」

 芳文がまどかに労いの言葉を掛ける。

 「いやぁ、速くなったね。まどか。」

 BRZを降りた葵が、優しく微笑む。

 「次は絶対に勝つ!」

 まどかが葵を指差して言い放つ。

 「僕も負けないよ。」

 ニヤリと口元に笑みを浮かべて葵が言う。

 「それじゃあ、次行こう。よろしくお願いします。」

 「お願いします。」

 芳文が派手なメタリックピンクのS14の運転席に座る聡子と礼を交わし、ワンエイティーに乗り込む。

 

 「割と余裕じゃね?」

 社峠をM町側から駆け上がるワンエイティーの車内で、ルームミラーを確認した芳文が呟く。

 スタートをしてまだ序盤ではあるが、ルームミラーは後方に広がる闇とテールランプの赤い光を映している。

 「お?」

 ルームミラーに小さな白い光が映る。

 「追いついてきたかな。」

 そう言って芳文はペースを上げ、緩やかな右コーナーを抜けていく。

 

 「近づいてはいるけど、勝つのは無理かな・・・。」

 遥か前方を走るワンエイティーを見て、聡子が呟く。

 

 「よし。勝った。」

 運送会社の正門前で、ワンエイティーから降りた芳文がガッツポーズをする。

 「意外と接戦だったぞ。」

 腕時計のストップウォッチ機能を使って、タイムを計っていた陸斗が芳文に腕時計を見せる。

 「うわっ。ホントだ・・・あぶねー・・・。」

 「それじゃあ、最終戦行きましょうか。」

 内田が横から割り込む。

 「待った。」

 それに対し、芳文が手のひらを前に突きだして制止する。そして、カーゴパンツの膝横に付いている大きなポケットからスマートフォンを取り出し、どこかに電話を掛ける。

 「・・・あ、もしもし、朝木ちゃん?来て大丈夫だよ。・・・うん、じゃあ。」

 電話の相手はまどかで、芳文の口振りからして、こちらに来るらしい。


 数分後。二台分の排気音とスキール音を響かせながら、陸斗達の前にS15とBRZが姿を現した。

 「やったー!勝ったー!」

 S15から降りるなり、まどかが飛び跳ねて喜ぶ。

 「まさか、一時間もしない内にリベンジされるとは・・・。」

 やれやれといった感じに苦笑いしながら葵が呟く。

 どうやら、こちらに向かう間にリターンマッチをしていたようだ。

 「はーい!それじゃあ、最終戦始めまーす!」

 高林が大声で準備を促す。


 スタート地点で横に並び、合図を待つFDとR34。

 「あれ?先行後追いじゃないんですか?」

 ワンエイティーの横に立ってスタートを見守る芳文にまどかが聞く。

 「真剣勝負をしたいんだってさ。」

 芳文がスタート地点から視線を逸らさずに答える。

 「真剣勝負・・・。」

 そのとき、ワンエイティーの屋根に置かれていた、芳文のスマートフォンが電話着信を伝える。

 「はいよー。・・・うん、わかった。・・・ゴール地点クリア!」

 電話を取った芳文が短く返事をして電話を切り、道路の真ん中に立つ、スターターの高林に大声で伝える。すると、高林は手を上げて応える。

 「じゃあ、僕の車に乗ろうか。」

 「え?」

 突然、ワンエイティーに誘う芳文にまどかが困惑気味に応える。

 「某漫画じゃないけど・・・、バトルを特等席で見ようぜ。」

 

 「カウント行きまーす!五!四!三!二!一!スタート!」

 FDとR34が、タイヤから上がる白煙の尾を引きながら走り出す。そして、その後を追って、ワンエイティーがホイールスピンをさせながら飛び出していく。

 スタートは加速力で勝るR34が頭を押さえ、FDはその背後にピタリと張り付いている。そして、まるで見えない牽引ロープで繋がっているかのように、二台が同じラインを通り、コーナーを抜けていく。

 「陸斗、珍しく本気走りしてる・・・。」

 タイヤを鳴かせながらコーナリングをするFDを見て、芳文がポツリと言う。


 「・・・ッ!」

 目の前を走るR34のテールランプを睨みながら、滑りそうになったタイヤをステアリングとアクセル操作で制御する陸斗。額にはうっすら冷や汗が滲み出ている。

 「あぶねぇ・・・。内田のやつ、速くなったな・・・。」


 「やっぱ陸斗さん、速ぇーな・・・。」

 内田がルームミラーいっぱいに映るFDをチラリと見る。

 「そのままゴールまで俺の走りを見ててください。」

 そう言ってさらにペースを上げる。


 「離されてますよ!芳文さん!」

 前方のR34とFDが、ワンエイティーからジリジリと離れていく様を見て、まどかが芳文に叫ぶ。

 「わかってる・・・!でも、これ以上ついていくのは無理・・・。」

 「そんな・・・。」

 「大丈夫。バトルはもう終盤だから、ゴールは見れなくとも凄いものが見れるかも・・・。」

 「凄いもの?」

 「FDが34を抜く瞬間だよ!」

 芳文が楽しそうに大声で言う。


 「俺の予想が正しければ、そろそろ・・・。」

 最終区間も終盤に差し掛かり、陸斗は勝負を仕掛けるタイミングを見計らっていた。

 そして、前を走るR34は最後のS字コーナーに突入した。しかし、一つ目のコーナーで外側にずるずる膨らみ、イン側が大きく開く。

 「よっしゃ!ドンピシャ!」

 陸斗は歓喜の声を上げると、開いたイン側にFDの鼻先をねじ込み、一気にR34を抜き去って最後のコーナーに舵を切る。そして、後方ではR34が降参と言わんばかりに減速をする。


 「まさか、タイヤの熱垂れとか、漫画と同じような展開で負けるとは・・・。」

 コンビニの駐車場で、内田が悔しそうに言う。

 「最初、ここで車を見たとき、タイヤがかなり減ってたから、もしやと思ったんだ。」

 そう言って陸斗はポケットから煙草を取り出す。

 「・・・まあ、でも、知らない内にかなり腕を上げてたんだな・・・。良い汗をかかせてもらった。」

 「次は負けませんからね。」

 「なら、次はサーキットだ。」

 内田と陸斗が顔を見合わせてニヤリと笑う。

 「それじゃあ、腹も減ったことだし、ファミレス行きましょうかー。」

 くわえ煙草の高林が、会話の流れをぶったぎって提案する。

 「あー、ちょっと。」

 「ん?あ・・・。」

 不意に声を掛けられ、振り返った高林が相手を認識してフリーズする。

 そこにいたのは、バトル前に職質をしてきた警官だった。

 「君達、まだいたの?」

 「・・・今から移動するところです。」

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