ストイックな走り屋
「へぇ・・・そんな速えのがいたのか。」
「速いなんてもんじゃないですよ。」
週末の夜。社峠の運送会社前で笹端が陸斗達に先日の走行会の土産話をしていた。
「やっぱり笹端君じゃ歯が立たなかった?」
まどかが興味深そうに聞く。
「何言ってんの朝木ちゃん。普通に追いつけなかったよ。」
「いや、歯が立たなかったんじゃん。」
「お?誰か来たかな?」
呆れ顔のまどかを尻目に笹端はエキゾーストが響く麓方向の道路を見た。
「ボクサーエンジンだな。」
「インプですかね・・・え?」
陸斗の言葉に予測を立て、答えを言い切らない内に姿を現した音の主。それを見て笹端は固まった。
現れたのは野田の青いGC8だった。
「こんばんわ。」
車を停め、社峠に降り立った野田は口元にわずかに笑みを浮かべて挨拶をした。
「どうも、こんばんわ。」
それに反応し、各々が挨拶を返す。
「この間はどうも。」
アイリが一歩前に出て野田に声を掛ける。
「ああ、この間の・・・先日はお疲れ様でした。」
「全然追いつけなかったッスよー。」
アイリに便乗し、笹端も野田に話しかける。
「えーと・・・ごめん、覚えてない。」
「は?え?」
「今日は遠征ですか?」
野田のそっけない反応に目を白黒させる笹端を横目に芳文が聞く。
「まあ、ドライブがてらこの間の白いGC8のホームでも見とこうと思ってね。・・・ここじゃないよね?」
「ああ、まだ先ですよ。」
「そうか、ありがとう。」
「ついでにバトルしてきませんか?」
野田からのあまりの扱いにやる気満々な笹端が提案する。
「うーん・・・この中に車を貸してくれる心優しい人はいる?」
少し考えた野田はそこに居合わせたメンバーを見まわした。
「ワンエイティでよければ・・・」
パチ文が名乗りを上げる。
「OKOK。」
「野郎、舐めやがって・・・」
スタート位置についた笹端が目の前の野田が乗るワンエイティを睨む。
「カウント始めまーす!」
ワンエイティの斜め前に立つアイリが両手を上げて叫ぶ。それと同時にスポーツマフラーが奏でるエキゾーストが辺りを包み込む。
「五!四!三!二!一!ゴー!」
アイリが両手を振り下ろすのと同時に二台が飛び出していく。
「笹端の奴、スタートで既に引き離されてんだけど・・・」
ステアリングを握る陸斗の前で笹端のエボ7はワンエイティからじわじわと離されていた。
「笹端君、腕が落ちたのかな・・・」
助手席でまどかは首を捻った。
陸斗とまどかは野田のGC8をゴール地点まで運ぶため、二台の後ろを追走していた。
「いや、笹端が下手なんじゃねぇ。野田が圧倒的に上手いんだ。」
「てか、その笹端にすら離されてますよ?」
「三人も乗ってんだからそりゃ当たり前だ。」
後部座席に座るパチ文に陸斗がツッコむ。
「マジかよ。なんて速さだ・・・」
圧倒的大差で敗北した笹端は車を降りるなり、大きく息を吐いた。
「さて、約束通りチームのステッカーを貰おうか。」
遅れて到着した陸斗に、野田がカッターナイフをちらつかせながら某漫画のようにステッカーを要求する。
「いや、そんな約束はしてない。」
「冗談だよ冗談。次やる?君の場合はさすがにGC8を使わしてもらうけど」
笑いながら煙草を吸い始めた野田が静かに陸斗を誘う。
「いや、出来ればあんたとはサーキットでやりたい。」
「そうか・・・じゃあ、その時はよろしく。車、ありがとな。」
そう言うと野田はGC8に乗り込み、高林のホームである秋野山方面に去っていった。
「・・・すげえプライベーターって噂は聞いてたけど、予想以上にストイックな走り屋だったな。」
「どうにか追いつきたいですね。」
GC8が消えた道の奥を見つめながら笹端が言った。
「まあ、やりようによっちゃいつか追いつけるだろ」
陸斗は煙草を一本取り出し、口にくわえると火をつけた。




