表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/44

親父バトル

 夜中と言うにはまだ早い時間。社峠入り口のコンビニ駐車場で、まどかは一人、S15に寄りかかり、紅茶を飲みながらスマートフォンをいじっていた。

 そこにスポーツマフラーの重低音を響かせながら、一台の黒いR32型GT-Rが駐車場に進入し、S15の隣に駐車した。

 「クソッ!やられた!」

 R32の運転席から出てきたのは、なんと陸斗だった。

 「え!?陸斗さん!?・・・車、どうしたんですか?」

 「ああ、今日、F市にある実家に帰ったんだが・・・」

 

 「じゃあ、お袋、俺帰るわ。」

 約一時間前。陸斗はM町のアパートに帰宅する為、家の奥にいる母に声を掛けて玄関のドアに手を掛けた。

 「あー、ちょっと待ちなさい。」

 奥から母が呼び止め、小走りで玄関まで出てくる。

 「はい、これ。お土産。」

 母が手に持っていたビニール袋を差し出す。中には市販品のクッキーやチョコレートが入っていた。

 「おー、ありがとう。じゃあ、帰るわ。」

 「はーい、気を付けて。」

 外に出ると、慣れ親しんだ住宅地は夕焼けに染まっていた。

 「え?」

 玄関先から、FDがある筈の駐車場を見た陸斗は目を疑った。

 駐車場には、父のR32と母の軽自動車が停められており、陸斗のFDが無くなっていた。

 「おいおいおい!マジかよ!?」

 陸斗が慌てて駐車場に走り、FDが停められていた、R32と軽自動車の間の空間を見下ろす。

 「盗まれた・・・?いや、まさか・・・ん?」

 視界の端にある、黒いR32のフロントガラスに貼り付けられた、メモ用紙の存在に気づく。


 ちょっと車借りるから、代わりにお父さんのGT-Rを使いなさい。父より


 メモ用紙にはそう書かれていた。

 「あのクソ親父・・・。」


 「・・・と、言うわけだ。」

 一通り説明をした陸斗は、一息つくと、煙草を一本取り出して口にくわえる。

 「陸斗さんのお父さんも走り屋だったんですね。」

 R32をまじまじと見ながらまどかが言う。

 「まあ、話でしか聞いたことはないがな。」


 「ごめんください。」

 数日後。陸斗、まどか、岩木の三人で店番をしていると、頭に白髪の混じった初老の男が訪ねてきた。

 「は~い、いらっしゃ~い。」

 「いらっしゃいませー!」

 岩木とまどかが挨拶をする。しかし、陸斗は無表情で止まっていた。

 「・・・親父。」

 陸斗が重い口を開く。

 その男は陸斗の父、臼井進太だった。

 「おう、陸斗。邪魔して悪いね。」

 「それより車!」

 「返す返す。・・・ほら。」

 進太がFDのキーを差し出し、陸斗もR32のキーを進太に渡す。

 「それにしても、うちの陸斗がお世話になってます。」

 進太が岩木に頭を下げる。

 「あーどうも。陸斗君はいつも真面目にやってくれてるんで、こちらとしてはすごく助かってます。」

 「そうですか、ありがとうございます。これからもちょっと、陸斗をお願いします。・・・お、この店って可愛い娘もいるんだね。・・・何?陸斗の彼女?お母さんに報告しないと・・・」

 「とりあえず、出禁でいい?」

 「いやいや、冗談だよ。」

 進太が無邪気に笑う。

 「ごめんください。」

 煎餅屋に新たな客が入店する。

 「あ、お父さん。」

 幸造だった。

 「やあ、まどか。・・・ん?」

 幸造が進太を見て固まり、目を丸くする。

 「もしかして、進太か?」

 「あれ?幸造?・・・久しぶりだな。」

 「ああ、久しぶり。ここで何してんだ?」

 「うちの小僧に車を返しに来たんだよ。」

 「小僧?え?」

 幸造が困惑した様子で、陸斗と進太を交互に見る。

 「知り合い?」

 陸斗が進太に聞く。

 「かつてのライバルだ。」

 「ライバル?俺とのバトルを逃げ出した奴が?」

 幸造が進太を恨めしそうに見る。

 「おい、まだ言うのか?あの時は前日に免取りになったって、何度も言ったろ?」

 「その後でも再戦のチャンスはいくらでもあっただろうが。」

 「その後にも色々あったんだよ・・・じゃあ、再戦するか?」

 進太がうんざりしたように言う。

 「そうこなくちゃ。」

 幸造がニヤリと笑う。

 「じゃあ、来週土曜の夜十時、社峠でどうた?」

 「いいね。今度は逃げるなよ?」

 「逃げねぇよ。」

 そして、連絡先の交換をした進太と幸造は、それぞれ煎餅の詰め合わせを購入して帰っていった。


 「お前、うちの小僧を負かしたそうじゃねえか。」

 翌週の土曜日。社峠下りのスタートラインにつく、R32の運転席から進太が、隣のアルテッツァの運転席に座る幸造に話しかける。

 「ん?ああ、負かした。」

 「そうか、小僧に代わって借りを返してやる。」

 「こっちこそ、娘のまどかがお宅の陸斗君に世話になっているから、たっぷりお礼をしてあげよう。」

 「おぉおぉ、すげぇ睨み合い・・・。」

 半ば呆れたように煙草を吸いながら、二人の様子を見てスターターの陸斗が呟く。

 「・・・ん?」

 ポケットのスマートフォンが振動し、電話着信を告げる。

 「どうした?」


 「・・・ああ、陸斗さん、まずいっす。今、入り口のコンビニに居るんですが・・・。」

 社峠入り口のコンビニ駐車場から、陸斗に電話を掛ける笹端の視線の先には、交差点のど真ん中で峠から下りてくる走り屋を待ち伏せする、パトカーの姿があった。


 「そりゃ、まずいな・・・。わかった、ありがとな。お前はそのまま帰っていい。後はこっちで何とかする。・・・ああ。じゃあ、また・・・。」

 陸斗は電話を切り、ポケットに仕舞うと、両手を大きく振って、その場に居る親父二人とまどかにバトル中止の旨を伝える。

 「どうした?」

 三人が陸斗の周りに集まり、進太が聞く。

 「入り口の交差点で警察が張ってるって。」

 「え!?じゃあ、逆方向に逃げましょう。」

 まどかが慌てて言う。

 「多分、逆方向もダメだね。」

 表情がやや険しい幸造が口を開く。

 「じゃあ、どうすれば・・・。」

 「まあ、ちょっと危ねぇけど、どうにかは出来るかも・・・。」

 「どうするんですか!?」

 まどかが陸斗の提案に食いつく。

 「手伝ってくれるか?」

 「勿論です!」

 「よし。親父、最悪捕まったら罰金の支払いとお袋への言い訳を頼む。」

 「・・・何する気だ?」

 「俺とまどかとゴール地点にいる芳文の三人で、警察の気を引いて親父達を逃がす。」

 「ダメダメダメ!それはお父さん許さない。」

 「じゃあ、どうすんだよ?」

 「お父さんがやる。子を守るのが親の務めだ。・・・な?幸造。」

 進太が幸造の肩をポンと叩く。

 「あ、やっぱ俺もやるんだ・・・。」

 「当たり前だ。」


 社峠入り口交差点。走り屋を取り締まる為、交差点の真ん中で待ち伏せをする一台のパトカー。

 そこに複数の排気音とスキール音が、峠から響く。

 音に反応し、赤色灯を回すパトカー。

 ほどなくして、粘着テープでナンバーを隠したR32とアルテッツァが駆け下りてくる。そして、二台がパトカーの周りを定常円旋回で回り始めた。

 「おい、こら!やめんか!貴様ら!」

 スピーカーで怒鳴り声を上げる警察を嘲笑うかのように、白煙を撒き散らす二台。そして、後から下ってきたFD、S15、ワンエイティー、エボ5の四台が交差点を三方向に離脱し、それを見届けた後、R32とアルテッツァが二手に別れて離脱する。


 峠から遠く離れたコンビニの駐車場に再集結した六台。

 「いやー、久しぶりに無茶したな。」

 粘着テープを剥がしながら、進太が楽しそうに言う。

 「全く・・・再戦が台無しだよ。」

 進太とは対照的に、文句を言いながら粘着テープを剥がす幸造。

 「まあ、また近いうちにやりゃあいいさ。」

 「近いうちって・・・あれじゃ当分峠には近づけねぇぞ。サーキットでやった方がいい。」

 陸斗が缶コーヒーを飲みながら言う。

 「いいね。じゃあ、今度行こうか。」

 「それにしても、あんな子供みたいなお父さんを見るのは、初めてですよ。」

 「いやあ、つい楽しくて・・・。」

 幸造が恥ずかしそうに頭を掻きながら言う。

 「まあ、男っていうのは大体そういうもんだ。」

 そう言って陸斗は、残りのコーヒーを流し込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ