第1話 主人公?チェンジで。
「ストレス解消するいい方法教えよっか?」
女子トイレの個室の外からそんな会話が聞こえてくる。
「あのウザいクソ上司の名前をトイレットペーパーに書いて、クソ拭いて流すの」
「でもそれだとさ、上司が自分のケツ触ってるみたいで嫌じゃない?」
「うわっ想像しちゃったじゃん、まじ最悪〜」
一ーここは虚楽制圧部本部。
女子トイレ。
ギャル隊員たちはひと通り上司の愚痴を吐いたあと、ヒールの音を響かせながら賑やかに去っていった。
静まり返るトイレ。
蛇口の雫が落ちる音だけが響く。
そして個室に残された少女が一人。
「なんでこんなタイミングで始めんのぉぉ……っウプッ気持ぢわる……」
便器を抱えてうずくまっていた。
はい、私が本作主人公です。
「こんなことになるなら……ハァハァ、シンクに流したそうめん……食べるんじゃナカッタ……うぅ」
鏡に写った自分と目が合った。
さっき愚痴を吐いていたギャル達が
かわいく思えてくる。
『てかいつまでゲーゲー、シャーシャーしてんの?
もう物語始まってんだけど。』
急に頭の中に直接声が聞こえてきた。
「え?……誰あんた……」
『天の声だよ。主人公だってのに、これじゃあ話にならない!』
水分不足で幻聴まで聞こえてきたのだろうか。いや、天の声だろうが、幻聴だろうが、冷静に考えて第1話でこの状況はまずい。その通りだ。
「でも、さすがにムリぃぃ……しばらくはこのまま便器とルームシェアしなくちゃ……」
『じゃあもう埒が明かないから、いっその事主人公交代しよっか!!準主人公をメインに……と』
それ以降、頭に響く声は聞こえなくなった。
「いや待って、第1話から主人公交代とか聞いたことないよ?!雑過ぎない!?そんな軽く人生切り替えられる!?
まだ私名乗ってすらいないのに!?」
ポチャン……。
再びトイレに静寂が戻る。
「って聞いてんのかコラァァァァァ!!!!!」
その時ーーー
ガチャ。
おっと誰か入ってきたようだ。
慌てて口と胃から込み上げてくるモノを抑える。
「ねえ、あの子大丈夫かしら。あんな怪我で……それでも1人でも行くって言い張っちゃって。」
「烈日隊の八木茨くんだっけ?さすがに誰か止めたんじゃない〜?それにほら、全隊長緊急招集してもう対策済みって聞いたし」
(ん?なにそれ、呼ばれてないんだけど)
いつの時代でも、女子トイレとは優秀な情報収集機関である。特に、上層部から情報が回ってこない腫れ物扱いの隊長には。
(八木茨……。さっき医務室で揉めてた……もしやあいつが主人公に……?いやいや、ありえない……あ、でも)
数分前のことを思い出す。
やばいな。
(考えてみたら、あっちの方が主人公してるんだけどぉ?!こんなことしてる場合じゃないわ!!!)
少女は急いで服を整え、水を流す。
「ルームシェア解消ね!さらば便器!」
「きゃあ!?!?」
そうだった、噂好きのレディたちがまだいるの忘れてた。
冷たい視線に耐えながらも、しっかりと手を洗う。
(この後変な噂が流れませんように。絶対に兄さん達には聞かれたくないからね)
そして少女はササッと扉を開けて、そそくさとトイレを出ていった。
噂好きのレディたちはコソコソと会話を続ける。
「さっきの変な子ってさ、もしかしなくても……八課の隊長じゃなかった?」
「多分そう。珍しく本部に来ちゃって、何か用事だったのかしら?」
あの子に招集がかかってると思えないよ〜と笑い声が聞こえてくる。
ーーまるで最初から数に入ってないみたいに。
(はーやっぱり、これだから本部には来たくないのよ。くだらないわ)
背筋を伸ばし、廊下を歩き出す。
ーー吐き気を押し殺しながら。
『ピンポンパンぽーん!
天の声からお知らせです!
次回から、ちょっと時間を遡って、
新主人公にチェンジしまーす!
さて。
本当の物語は、ここからだよ』




