ここって学園と書いてダンジョンと読む場所でしたっけ?
更新がなかなかできておらずすみません!!
「エディからまだ場所を聞いていないが、問題ないのか?」
足早に校舎の中に駆け込んだシエラに、コーカスがこてんと首を傾げながら聞いてきたので、シエラはにっこりと笑って答えた。
「学園長室がわからない、っていう問題以外はないよ」
一度行ったことがある場所であれば、マッピングスキルで確認ができるのだが、ここには初めてやってきたので、学園長室なる場所は分からない。
だが、何とかできなくはない問題をとることで、どうにもできない問題を回避できるのであれば、もちろん、前者を取る、とシエラは思う。
「なら、その辺の人間を誰か適当に捕まえて聞くか?」
「そうだね、そうしよう」
コーカスに言われて、きょろきょろとあたりを見回してみる。
側にいたのは、
・男子生徒数名(朝からテンションが高い集まり。その分、コミュ力は高めと思われる)
・女子生徒数名(こちらは誰かを待っているのか、その場を動く気配がないが、入り口の方を見ながらお喋りをしている)
・教師と思われる男性一名(目の下に立派なクマができており、下手をすれば数日寝ていないと思われるが、ふふふと、笑みを浮かべていた。ちょっとシエラが親近感を覚えたことは、心の中だけに留めておく)
・女子生徒一名(ちょうど登校したてと思われ、若干眠そうな表情を浮かべているように見える)
だった。
シエラはすかさず、眠そうな顔をした女子生徒に声をかけながら駆け寄った。
「あの、すみません!学園長室の場所を教えていただきたいのですが」
シエラに声をかけられた少女は、少し驚いた顔をする。
「おい、名乗るくらいはした方がいいのではないのか?」
コーカスに耳打ちされて、ハッとなり、シエラは慌てて自己紹介をする。
「あ、あの、私は中央ギルドの受付職員をしている者なのですが、今度行われる実習訓練のための打ち合わせで本日は訪問しておりまして、学園長にまずは挨拶をしたいのですが、学園長室を教えていただけないでしょうか?」
シエラが言うと、彼女はなるほど、という表情で頷き、こちらです、と歩き出した。
(え、もしかして連れてってくれるの……!?助かる!!)
シエラは目をキラキラと輝かせながら、前を歩く赤毛のふんわりウェーブの髪を綺麗にまとめた少女に、ありがとうございます、とお礼を言って後をついて行く。
少女の後ろをついて歩いていると、途中、すれ違った生徒達が、こちらを見て何やらひそひそと話していた。
(あ、しまった。いくらなんでも、明らかに外部の人間がコーカスを連れてたら驚くか)
トーカスをエディに連れさせていたので、特に疑問にも思っていなかったのだが、普通はあまり学園に従魔を連れてくる人間はいないということを失念してしまっていた。だが、それに気付いたからといって、どうにかできるわけでもないので、シエラはそうそうに諦めた。
廊下を進み、階段を上り、曲がってまた廊下を進み、曲がって少し進んだところの階段をまた昇り、そして少し歩いたところの階段を下りて、を何度か繰り返し、もうかれこれ30分くらいは経過したのではないかと思われたころ。
「……おい、学園長室というのはかなり離れた場所にあるのか?」
コーカスがそう言って、ぴたりと歩みを止めた。
「ちょ、コーカス!?」
突然のコーカスの突っ込みに、シエラは動揺する。
確かにこの学園は広い。そして校舎も大きく、本館の他にもいくつか分かれているっぽい、というのは外観からなんとなく察してはいた。
(いや、まぁ……そりゃぁね?私も少し前からなかなか到着しないし、なんかちょっと、おんなじところをぐるぐると回っているのでは?とか感じたりもしたけれど!)
前を歩いていた少女も、コーカスの言葉にぴたりと足を止めて振り返る。
「あ、いや、その」
「今の声、何ですか!?まさか、そこの鶏から……!?」
「へ?」
つかつかと、シエラの方へ少女が詰め寄ってきたかと思うと、そのまましゃがみ込んでコーカスをじぃっと見つめだした。
「いや、そんなまさか、言葉を発するなんて文献でしか見たことが……でも、そう言えば昨日おじい様がそういった個体がいたと言ってたわ。それなら他にもそんな個体がいてもおかしくない?いや、でもそうそうそんな特殊個体は」
「近い!」
「ぶえ!」
ブツブツと何かを言いながら近寄ってきた少女の顔に、コーカスは思わず脚で遠ざけようとした。
「ちょ、コーカス!?」
「ふ、ふふふ……微かに魔力を感じます。ということは、やはりただの動物ではなく魔獣……!」
「え……?」
驚いたシエラが、慌ててコーカスを彼女から引きはがそうとしたのだが、少女は不気味な笑みを浮かべながら、コーカスの脚をガシッと掴んできた。
「「ひぃ!!!」」
思わず悲鳴を上げるシエラとコーカス。
少女の様子に、思わずシエラは後退る。
コーカスも脚を引っ込めようとしたが、なぜか少女の手が振りほどけず、バタバタと翼を動かしてもがく。
「おい、そこで何をしている!」
「ぎゃん!!」
突然、少女の後ろに一人の男子生徒が現れたかと思うと、彼は少女の頭に手刀を落とした。
その衝撃に、彼女はコーカスの脚を掴んでいた手を思わず放してしまい、しまった、と頭を撫でながら呟く。
コーカスは、助かった、とシエラの肩までバタバタと飛んで移動する。
「すみません、こいつまた何かご迷惑をおかけしてたようで……」
「ちょっと、何するのよ!痛いじゃない、エルヴァン!」
エルヴァンが頭を下げていると、少女がキッと彼を睨みつける。
「何するのよ、じゃねーだろ!ノエリア、お前、また暴走して迷惑かけてたじゃねーか!」
「迷惑なんてかけてないわよ!道案内をお願いされたから案内してただけ」
「は!?」
ノエリアの言葉に、エルヴァンが目を大きく見開いて驚く。
彼がシエラの方を向いて事実かどうかを目で確認してきたので、シエラはこくこくと頷いた。
「……はぁ」
「!?」
シエラの肯定のしぐさに、彼が特大のため息をついたので、シエラは訳がわからず困惑する。
「あ、すみません。見たところ、学園の生徒ではないようですし、知らなかったですよね」
「えっと、何のことでしょうか……?」
エルヴァンの言葉に、シエラは頭に?を飛ばしながら聞く。
「俺はエヴァン、こいつ……ノエリアの兄です。実はこいつ、重度の方向音痴なんですよ」
「…………はい?」
エルヴァンによると、彼女は幼いころから方向音痴が酷かったそうで、どこへ行くにも一人では目的地に到着することができないため、常に家族の誰かが付き添わないとすぐにどこに行ったか分からない状況になってしまうのだそう。
「今朝も一緒に学園に登校してきたんですが、少し目を離したすきに居なくなってしまって」
「あ……」
シエラはなんとなく察した。
たぶん、普段であればあと少し待っていればエルヴァンが迎えに来るところを、うっかりシエラが声をかけてしまい、彼女は道案内を頼まれたので、それに答えようとして、そのままその場を離れてしまった、ということなのだと。
「ご、ごめんなさい!私がお願いしたばかりに……」
「いえ、普段はこういう案内をお願いされても断ってるんですけど」
そう言って、エルヴァンはちらりとノエリアの方を見る。
すると、彼女はぷくぅっと頬を膨らませる。
「だ……だって。私もこの学園に通うようになってもう一学期も過ぎたし、案内くらいできると思ったんだもん」
彼女の言葉に、シエラは良い子だな、なんて思っていたのだが。
「彼女が従魔を連れてたから近くで見たいとか思ったからじゃないのか」
そんな彼女をジト目で見つめながら、エルヴァンが言うと、彼女はさっと視線をそらした。
「……え?」
流石にそんなことはないでしょう、と思っていると、彼が続ける。
「お前、昨日もおじい様と遅くまで通信魔石でやり取りしてたようだし、また魔獣が見たい欲が大きくなってきてたんだろ。いい加減、その魔物や魔獣を見たら何でもかんでも吸い寄せられる癖、どうにかしろ。今回だって、絶対に案内できないってわかってたくせに引き受けたせいで、彼女に迷惑をかけてしまってるだろうが」
「うぅ……ご、ごめんなさい……」
「き、気にしないでください」
(ほ、ほんとにそんな理由だったの!?)
心の中で激しく動揺しつつ、必死でそれが顔に出ないよう取り繕うシエラ。
「ほんとにすみません……ええと、それで……結局、どこに向かおうとしていたんですか?」
「あぁ、学園長室に案内してもらっていたところで」
「え”」
「え?」
エヴァンに聞かれたので、シエラが答えると、彼は真っ青な顔になる。
「……が、学園長室なら、そこ、少し戻ったところにある階段の向こう側、二つ目の右手の部屋がそうです」
「!?」
彼の言葉に、シエラは大きく目を見開き、絶句する。
彼は本当にすみません!と何度も頭を下げてきたので、シエラは、気にしないでください、と心の中で涙を流しながら、乾いた笑いを浮かべたのだった。
この度、コミカライズされることとなりました!
これも皆様の応援のおかげでございます、本当にありがとうございます!!




