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備品チェックー3

昼食を終えて、備品倉庫に戻ってきたシエラは、ロウが来るまでに、できるだけポーションの鑑定を終わらせてしまおうと、気合を入れた。


「これはアウト、これもアウト、こっちはー……判断迷うからいったんセーフ、こっちはオッケーだけど期限がギリだから優先使用でわかるように印付けておいて、これとこれはアウト、こっちはオッケー……」


まずは、オッケー判定(問題なく使用可能)、セーフ判定(使用期限を少し過ぎている、効能が若干落ちている、等、状態に問題があるが、使用ができなくはないもの)とアウト判定(廃棄確定(期限が切れていて、且つ、効果がほぼなくなっているもの))の3つに分類していく。


「コーカス、次、そこの箱持ってきて」


立ってるものは何でも使え。

それがシエラの持論である。

従魔である以上、コーカスにも働いてもらうべし、と、シエラは手元の箱の中身がなくなってきたところで、コーカスに次の箱を持ってくるようお願いする。


「ほら」


器用に風魔法で箱を持ち上げてシエラの前にふわりと箱を移動させる。


「ありがとう」


そう言って、シエラはまた、ブツブツと呟きながら、仕分けを続ける。


「終わったー!」

「ごめん、シエラさん。お待たせ」


シエラが大きくガッツポーズを取った瞬間、ロウが倉庫の扉を開けて入ってきた。


「…………」

「…………」


シエラのその様子に、見てはいけないものを見たかもしれない、と思わず視線が泳ぐロウ。


「……ロイさん、ポーションの仕分け、終わりました」


まるで初めての冒険者(お客様)に向ける時のような微笑みを浮かべつつも、シエラはさっきのことをなかったことにしようと、圧をかけながらロウに言う。


「あ、ありがとう」


シエラのその雰囲気に、これはもう、なかったことにするなら、今彼女に乗っかるしかない、と、空気の読める男(ロウ)はもちろん、何も見ていませんよ、という雰囲気を前面に押し出しながら答えた。


「それで、結果の方は」


ロウが聞くと、シエラはすっと視線をそらして、そちらが結果です、と手で指した。


「……右から、問題なし、問題なしだが早めの使用を推奨、使えなくはないけれど判断に迷うもの、廃棄処分、の順番です」


「え……?」


シエラの言葉に、ロウは固まった。

何故なら、シエラが指している先にあるのは、右から順番にまとめられている数が少ないからだ。

全体の比率で言えば、右から1:2:2:5といった感じで、半数ほどが廃棄処分に該当する、とシエラの鑑定結果では出た、ということになる。


「ま、待って。それ、ほんとに?間違いなく……?」


「間違いないと思います。……正直、この量の廃棄については、信じられない、という気持ちもわかりますので、必要でしたら再鑑定をしていただいたらいいかと思います」


「いや、再鑑定って言っても……だって、シエラさんの鑑定レベルって……」


真っ青な顔でシエラを見つめるロウに、シエラはさらに目を瞑って顔を背けながら、「MAXですね」と小さく呟いた。


「最高レベルのスキル持ちの鑑定結果を再鑑定とか、意味ないし……というか、うちのギルドで同じレベルの人間捕まえようと思っても、該当者は上層部の人間になるので依頼して対応してもらえるまでに時間がかかる……」


頭を抱えてその場に崩れ落ちるロウに、シエラは少しだけ同情の目を向けながら、ポン、と彼の肩を叩いて小さく頷いた。


「ロウさん、ここで現実逃避をしても、仕事はなくなりません。ちゃちゃっと始めちゃいましょう」

(正直、中央ギルドの備品の話だし、後はもう、私のいないところでやってくれって話だしね)


「あ、今なんか突き放された気がする」


「ほらほらー、まずは使用期限があるものから始めますよー。私は魔石を集めてきますので、ロウさんは携帯食をお願いしますねー」


恨みがましい視線を向けてくるロウを無視して、先ほど習得したサーチを使って、対象製品の位置を特定し、倉庫内の色々な場所に点在している魔石をかき集めてきた。


「しっかし……ほんとに、なんでこんなにバラバラに置いてあるのよ」


サイズや色、含有魔素の量でなぜかいろんなところに分けられていたせいで、倉庫内のありとあらゆる場所に魔石は点在していた。


「ロウさん、中央ギルドで一番よく備品の魔石を使うのってどういう時ですか?」


籠に山盛りの携帯食を机に置いて、肩で息をしながら放心状態のロウに聞く。


「魔石……?そう、だね、魔石はー……いろんな部署で使ってるから、一概にこれが一番って言うのは難しいんだけど、やっぱりよく使うのは解体部署と総務部かな」


「解体と総務、ですか?」


シエラが首を傾げながら聞くと、彼は大きく深呼吸をして息を整え、そうだよ、と頷いた。


「解体部署の方は、主に冷凍保管庫の稼働のために使ってるかな。一定の温度に保たせないといけないし、安定した魔力供給が求められるから、大きさも一定以上のものを使うことが多いね。総務は基本的に、ギルド内で使われている魔道具全般の管理をしているから、例えば魔石の魔力が切れてしまったりしたものの交換なんかで使ってるんだけど、なんせ数が多いからね。結構いろんな魔道具があるから、それなりの数使ってるんだよ」


シエラはロウの言葉を聞いて、今こんなにいろいろな場所に魔石が点在して保管されている理由がなんとなくわかった。


「……なるほどですね。だから、妙にサイズや種類毎にいろんな場所に分かれて保管されてたりしてるってことなんですね」


遠い目をしながらシエラは続ける。


「……こんな保管の仕方してたら、めちゃくちゃ管理が面倒なのに……」


「いや、わかってはいるんだよ……」


ぼそっと呟いたシエラの呟きを聞き逃さなかったロウが、苦笑しながら答える。


「ただ、ここを本気で整理しようと思うと、正直、日数も人数もかかるわけで、そんなに人も時間もかけられないよね、って話なんだよ」


「……そもそも、誰がそれをやるのか問題が出てきますからね」


「それね」


誰だってこんな面倒なことはやりたくない。

でも、誰かがやってくれるというのなら大歓迎。

で、それは誰がやるの?

え?言い出しっぺがやれって?

結果、誰もやらない。


「モルトですら丸一日かかりましたからね」


「おぉ、誰がやったの!?」


「……受付嬢のアヤとキリル監修の元、各部署から選出されたメンバー総出でやりました」


因みに、受付部署では厳選なるくじ引きの結果、もちろん、シエラが選出メンバーに選ばれていた。


「あの時のアヤとキリルはほんとに……」


そう言ってあの時のことを思い出して、がくがくと震えだすシエラ。

みるみる顔色も悪くなっていく様子に、ロウは慌てて、話題を変えようと切り出す。


「そ、そう言えば、シエラさんってどうやって鑑定のレベル上げていったの?」


ロウの言葉にハッと我に返ったシエラは、鑑定のレベルですか?と聞き返す。


「そう。ほら、シエラさんってまだ若いのに、もうレベルがMAXまであがってるでしょ?俺も色々鑑定の数をこなしてはいるんだけど、レベルが4にやっと上がったけど、そこから中々、上がらなくて」


そう言って肩を落とすロウに、シエラはうーん、と少し考える。


「そうですねー……これはあくまでも私見なんですが、鑑定に関しては、たぶん、一定のレベルまでは鑑定の数をこなすことで上がると思うんですが、そこから先に関しては、鑑定するものに対する知識を深めてやると、上がりやすくなる気がします」


「知識を深める?」


籠から携帯食料を取り出し、種類別に分けながらロウが首を傾げていると、シエラはこくりと頷いた。


「例えばですけど、ロウさんが今手に持っている携帯食料を鑑定した場合、どういう判定になります?」


シエラに聞かれて、ロウは手にある携帯食料をじっと見つめて鑑定すると、傍に置いてあった魔法板に魔力を流し込んで鑑定結果を表示させた。


名称:携帯食料

消費期限:まもなく

味:悪くはない


「とりあえず、この鑑定結果であれば、オッケーかな?」


「なるほど。ちなみに、私の鑑定結果だと‥‥」


今度はシエラが鑑定をして、魔法板に鑑定結果を表示させる。


名称:携帯食料(乾燥固形タイプ)

製作元:フォレストエターナル

消費期限:後二週間ほどでカビが生えてくる可能性あり。

味:すでに落ちているが、食べられなくはない。シエラの握り飯の方がまだ美味い。

原材料:問題物質の使用なし。詳細必要な場合は別途鑑定要。ただし、機密項目に該当の為、情報の取り扱いには注意が必要。

備考:袋(底の角部分)に破損あり、早めの消費を推奨。


「って感じで出ますので、正直、味の鑑定結果がヤバすぎると思うので、モルトであればアウト(破棄)対象になりますね」

「嘘だろ」


想像していた以上の鑑定結果の差に、ロウは思わず目を見開く。


(そもそも、味の鑑定結果の『シエラの握り飯の方がまだ美味い。』ってなんだよ。そんな個人の作った物との比較なんて、鑑定で出てくるとか聞いたことないんだが!?)


彼女の鑑定スキルのレベルについては中央ギルドでも有名で、もちろん、ロウ自身、疑っているわけではない。だが、常識では考えられないようなその鑑定結果の内容が、どうしても信じられなかった彼は、意を決して、手に持っていた携帯食料の袋を開け、がぶりとそれにかぶりついた。


「え!?ちょ、ロウさん!?」


シエラは彼の突然のその行動に驚き、戸惑っていると、ロウの動きが一瞬止まったかと思うと、次の瞬間には手を口に当てて、カッと目を見開いて作業台にもたれかかった。


「ま……マズい…………!!」


元々、携帯食料自体がそんなに美味しい物ではないが、なんとも言えない、想像を絶する味が口の中に広がって、ロウはバタバタと悶えだした。


「み、水!水飲んできて下さい!あと、無理せず吐き出してきたほうがいいですよ」


シエラが言うと、ロウは涙目になりながら、ぺこぺこと頭を下げながら、部屋を急いで出て行った。

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