備品のチェックをするだけの、簡単なお仕事です……?
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翌日、中央ギルドに出勤したところで、シエラはばったりとサーシェに出くわした。
「あれ?シエラさん??今日まで調査に出てるんじゃなかったっけ?」
「サーシェさん!おはようございます!実はちょっと予定より早く終わったんで、今日は今度の学園の討伐訓練の時に必要な備品が揃ってるかどうか、最終チェックをしに来たんです」
「あぁ、なるほど。結構色々と必要なものがあるから、うっかり足りなかったりしたら大変だもんね」
サーシェの言葉に、シエラは間違いないです、と頷く。
「備品倉庫の場所は分かる?」
聞かれてシエラは、初日に案内してもらったので大丈夫です、と頷く。
解体場所と備品倉庫は割と近くにあるので、途中まで一緒に行こう、と誘われたので、シエラは彼女と並んで歩き始めた。
「……ところで、その肩に乗ってるのって……シエラさんの従魔のコッカトリス?」
チラリとシエラの肩に乗っている鶏を見て、サーシェが聞く。
「あ、はい。コッカトリスのコーカスです」
「その……普通の個体とちょっと羽毛の色が違う気がするんだけど、もしかして、特殊個体?」
サーシェに聞かれて、シエラは少し目を見開く。
「そうなんです。それにしてもさすがですね、サーシェさん。コーカスに関しては、割と通常個体と羽毛の色が似てるんで、気づかれないことが多いんですよ」
シエラの言葉に、ふふん、と少し得意げな顔をして見せるサーシェ。
「これでも解体の仕事して長いからね。それなりにコッカトリスも捌いてきてますから」
彼女の言葉に、シエラがすごい!と、手をパチパチと叩いていた時だった。
「……あれ?シエラさん?」
「はい?……あ、ロウさん!?わぁ、お久しぶりです!」
「あれ?シエラ、ロウ先輩の知り合いなの?」
シエラが久しぶりの再会に、喜んでいると、サーシェが少し驚いたように聞いてきたので、そうなんです、と頷いた。
「前にモルトの調査に来られてた時にちょっと一緒に調査をする機会があったんです」
「あぁ、あの時!そっか、そういえば行き先はモルトだって聞いたっけ」
サーシェがポン、と手を叩いて言うと、ロウは物凄く複雑そうな表情を浮かべながら、こくんと頷いた。
「あの時はほんと、お疲れさまでした……」
「いや、それはお互い様だよ……」
一体何があったんだろうか、と少し気になって二人に聞こうとした時だった。
「サーシェ!居た!ちょっと今日依頼が多そうだから、早めに朝礼してほしいんだけど!」
解体場の入り口のところから、ぶんぶんと手を振って大声で叫ぶ職員。
「わかった!すぐ行く!」
詳しい話が聞きたかったのに、と思いきり残念そうな表情を浮かべながら、彼女はそれじゃ私はこれで、とそのままパタパタとその場を去っていった。
「解体部署は相変わらず大変だなぁ……そういえば、シエラさんはどちらに?」
「あ、私は今日、備品チェックをする予定で」
「あぁ、それなら聞いてるよ。業務内容を私から伝えるようにと、ミュシカさんからさっき言付かってきたところだったんだよ、ちょうどよかった」
「そういえば、備品チェックをするって指示は受けてたんですが、こちらのやり方とかを伺うの忘れてました」
ロウの言葉でその事実に気付いたシエラ。
「あはは、まぁ、備品チェックなんて、ギルドに限らず、どこでもやってることだと思うし、そうやり方とか、やる内容については変わらないから」
「そうですよね、それなら問題ないと思います」
彼の言葉に、胸を撫でおろす。
「ただ、今回、シエラさん一人で対応するって聞いたんだけど……大丈夫?」
ロウが心配そうに聞いてきた。
「はい、大丈夫だと思います!備品のチェックですし、問題ないかと」
ふん、と意気込んで答える彼女を見て、今度はロウがホッとした表情を浮かべた。
「そっか。ならよかったよ。まぁ、シエラさんのスキルなら、確かにサクサクとチェックも進められるか」
うんうん、と頷くロウ。
「私のスキル?ですか?」
今度の討伐訓練に必要な備品がきちんとそろっているかどうか、その確認をするのに、スキルの何が一体関係してくるんだろうか?と疑問に思って首を傾げるシエラ。
「うん、シエラさんは鑑定レベルがMAXだろう?それなら、ざっくりと備品の状態をチェックすることが可能だろうし、ひとつひとつ確認する、なんて手間もいらないだろうし」
「……備品の状態をチェック、ですか?」
まぁ確かに、持って行く予定にしている備品に問題があったら困るので、確かに状態は調べるつもりではあったけれども、そんなスキルでざっくりとチェックして、なんてことをしなくては時間が足りなくなるほどの量を持って行く予定はない。
「あ、着いた。ここが備品倉庫だよ」
ロウがそう言って、入り口の横に設置された魔道具、にポケットから取り出した魔石のハマった板をかざす。その板に反応して魔道具が光ると、カチリ、と音が鳴り、そのままドアが開いた。
「はい、これ、ここの鍵。中に入ったら、自動的にロックがかかるから、昼食とか、何か用事とかでここを出る時は、これを扉にかざしたら出られるよ。外に出たら、また自動でロックがかかるから、その時はまた、これをかざして中に入って」
「はい、わかりました。結構、厳重ですね」
モルトのギルドでも、一応備品倉庫の出入り口には施錠をするルールにはなっているが、ここのように魔道具で自動ロックがかかるようなものではなく、物理的に鍵を自分でかけるタイプのものなので、少し羨ましくなるシエラ。
「そうだねー、正直、備品倉庫自体がこの広さじゃなければ、こんな自動ロックなんてしなくてもいいと思うんだけどね」
「え?」
そう言って、ロウの後について中に入ったシエラは、目の前の光景に、思わず喉がひゅっと鳴った。
「奥の方だと、出入り口の方なんて全く見えないし、過去に何度か、うっかりロックを忘れてしまってトラブルが起こったこともあったから、それならいっそ、自動ロックを導入しようって話になったんだよ」
「あ、あはは……た、確かにこの広さだと、ちょっと正直、鍵を閉め忘れて奥で作業してたら、他の人が入ってきても気づかないでしょうね……」
ずらりと並んだ棚に所狭しと置かれている備品たち。
正直、モルトの受付部分よりも広いんじゃないだろうかと思われる備品倉庫に、シエラは愕然となる。
(え、待って。もしかして、この大量にある備品たちの中から、今回必要な備品を探し出して、チェックしないとダメ、ってこと!?)
一気に大量の汗が噴きでてくるのを感じるシエラ。
「あ、あの。ちなみに、備品ってどこに何があるかとかって……」
「それなら、一応棚にそれぞれ書いてあるから、わかると思うよ」
「あ、そうデスカ」
パッと見たところ、棚にそんなものは書いてなくないか?と思って近くの棚のところまでいくと、棚のところに「ポーション」や「解毒ポーション」などとそれぞれ書かれた紙が貼りつけられていて、その棚の上に、それぞれ書かれたものが置かれているようだった。
「いやぁ、備品倉庫のチェックするときって、大体ギルドの職員何人かで区画ごとに担当を分けてチェックするから、時間がかかって大変で大変で。それをシエラさんが一人でやってくれるなんて、ほんとにありがたいよ」
「…………え?」
ロウの発言に、思わずフリーズするシエラ。
「あぁ、もちろん、全部やってくれなんて無茶なこと、僕も言わないよ!でも、ちょうどそろそろ備品チェックをする時期だったところに、アオさんからシエラさんができる範囲でやってくれるって聞いて。それだけでもほんと、すっごく助かるよ」
嬉しそうにありがとう、とにっこりと笑って言うロウの表情を見て、シエラはただ小さく呻いた。
「………………あー……」
そして、シエラは悟った。
昨日アオに言われた備品チェックだが、シエラは今度の討伐訓練で必要なものが揃っているかをチェックするだけだと思っていたが、アオが言っていたのはそれを含んだ備品倉庫にある備品のチェックを指していたのだ、ということに。
(……どうりで、道理で!おかしいと思ったよ、そんなすぐにサクッと簡単に終わるような仕事だけでいいなんて!そんなわけなかった!てっきり、足りないものが出てきたときに、その備品を取り寄せたりするための時間やらを想定してのことだと都合よく思ったあの時の自分を殴りたい!)
今なら確実に言える。
もし、あの時に戻れるのであれば、絶対に、討伐訓練で必要なものを揃っているかチェックし、準備するのでいいんですよね、と確認を事前にしただろうと。
そして、もし、できる限り全部を、と言われたら、それは無理だと確実に交渉しただろう、と。
「それじゃぁ、これが備品倉庫の目録。チェックが終わったら、今回はここの欄にチェックを入れていってくれたらいいから。もし何かあった場合は、この横のところに書いておいてくれればいいよ」
「……はい、わかりました……」
ロウから目録を受け取るシエラは、もうすでに生気が完全に抜け落ちていた。
「それじゃ、頑張ってね!僕も仕事に戻るよ。よろしくね!」
「あ、はい。頑張りまーす……」
ロウが部屋を出て行ったのを見送った後、シエラはその場に崩れ落ちた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ、嘘でしょ、誰か、嘘だといってぇぇぇぇぇ!」
シエラの叫び声が、むなしく部屋の中で響いたのだった。
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