高性能だから良いってもんでもないもんで
久々の更新ですみません!遅くなりました。。。
「おい、シエラ。そろそろ交代の時間ではないのか」
「うぅん……コーカス……?」
目を擦りながら体を起こして、大きく伸びをすると、思わずあくびが出てきたので、シエラはそっと口に手を当てる。
「いけるか?」
「うん、大丈夫、すぐ起きる……」
そう言って、シエラは体にかけていた毛布を畳んでテントから出る。
「ふわぁぁ……駄目だ、眠い」
今回、野営を3組で交代することにしたが、一番できれば避けたかった2番手になってしまったシエラは、肩を抑えながら、グイっと首を伸ばして何とか眠気を飛ばす。
「うぅ……あそこでパーさえ出していなければ……」
終わったことをいつまでも引きずってもしょうがない、と思いつつも、あの時じゃんけんで思わず手を開いて差し出した数時間前の自分を憎む。
「腐ってても仕方ない。よし、やるかー」
そう言ってシエラはパシッと両頬を軽くたたくと、ハルとニュークの所へと移動した。
「すみません、交代します」
「あ、もうそんな時間だっけ」
ハルが言うと、ニュークが、特に異常はなかったよ、と続ける。
「コーカスが一緒に警戒してくれてたおかげで、こっちも助かったよ」
「え、あ、そうなんですか」
(私の知らないところで、勝手にコミュニケーションを取り出してるな、この鶏)
決して心の内を悟られないようにと、ニコニコと笑いながら答えるシエラ。
「お、ちょうどフィーヴも来たし、それじゃ俺たちも休ませてもらうな」
「辛かったら、エディ様を早めに叩き起こしてもいいからね」
「あ、あはは、お気遣いありがとうございます(?)」
ニューク達を見送ると、シエラはふぅ、と一息つきながら、平らな石の上に腰かけた。
「そう言えば、フィーヴもコーカス達みたいに、寝てても自分の近くの気配に気づけたりするの?」
少し火が小さくなってきた焚火に、木の枝をぽきぽきと折って放り込みながら聞くと、彼はそうだね、と笑って答えた。
「まぁ、害があるかないかもある程度は分かるからね。問題がなさそうだったら気にならないから、すべてに反応してるってわけじゃないかなぁ。あ、明らかに害意があれば、そこは分かるから問題ないよー」
「へー……便利でいいなぁ、それ」
そんなことができるのであれば、野営の際にわざわざ交代で周囲の警戒をする必要なんてないよね、と呟く。
「シエラもできるようになりたいの?」
「え?いや、私はいらないよ?というか、そんなのが必要な状況になりたくないし」
ぶんぶんと頭を思いきり振って否定する。
「ただ、冒険者の人たちは、きっとそういうスキルというか能力というか、欲しいだろうなって」
「ふーん……?シエラができるようになりたいっていうのなら、教えてあげようかなって思ったのに」
「え……?ほんとに?……ち、ちなみに、どうやるの……?」
ゴクリと喉を鳴らしながら、シエラはフィーヴの方を見つめた。
「意外と簡単だよ?常に周りに魔獣なり魔物なりがいる場所で、暫く一人で寝泊まりするの。そだねー……一ヶ月もあれば、できるようになると思うよ!」
「できるか!」
思わず手に持っていた木の枝を地面に叩きつけるシエラ。
「そんな状態で一人で寝泊まりって、自殺行為じゃない!」
はぁ、と深いため息をつきながら、シエラは叩きつけた枝を拾い集めて、足元にまとめて置いた。
「もうちょっと簡単だったら、方法を冒険者講習で有料提供とか思ったけど……絶対普通の人には無理なやつじゃない」
うっかり忘れそうになるが、そう言えば目の前の人物は規格外の存在だったわ、と改めて認識するシエラ。
「ちょっと念のため、索敵するね」
「うん?僕やってるよー?」
シエラに言われて、フィーヴはこてんと首を傾げて答える。
「うん、もちろん、フィーヴにも索敵で周囲の警戒はしておいてほしいんだけど、ただ、フィーヴが脅威に思ってなくても、私には脅威だったりする場合もあるから、自分でもやっておこうと思って」
そう言って、シエラは深呼吸をして、索敵スキルを展開する。
(正直、私よりフィーヴの方が確実に範囲も精度も高いと思うから、意味ない気はするんだけど、やっとかないとね……。うん、周辺の反応は私たち以外には特になし。小動物と思われる反応はいくつかあるけど、それは問題なさそう。特に魔物や魔獣もいなさそうだし、例の魔物と思われる反応も見当たらない)
一通りスキルが及ぶ範囲内で索敵してみて、シエラはふぅ、と一息つく。
「特に問題ないと思ってるけど、シエラはどう?」
フィーヴに聞かれて、シエラはこくりと頷いた。
「うん、私の方も問題ないと思う。とりあえず、コーカス達に交代するまで、警戒の意味で、引き続き、索敵は展開しておこう」
暫く二人でいろいろと索敵を展開しつつお喋りをしていると、特に何事もなく、時間が刻々と過ぎてゆき、気づけば交代の時間になった。
「索敵以外、特に何かしてたわけじゃないけど、なんか疲れた……」
シエラは立ち上がって大きく伸びをしながら、腕をぐるぐると回す。
「フィーヴはどうする?朝まで一休みする?」
シエラが聞くと、することもなくて暇だから寝る、と頷き、さっさと自分のテントの方へと移動していった。
「さてと。エディ様を起こしに行きますか」
エディのテント迄移動したシエラは、外からエディに声をかけた。
「エディ様、交代の時間が来ましたので起きてください」
だが、返事はなく、どこかで鳥がホーホーと鳴いている声だけが聞こえてきた。
「……エディ様?交代の時間なんですが……」
勝手にテントを開けるわけにいかない、と思い、何度か外から声をかけたが、全く反応がないため、シエラは仕方がない、とテントの入り口を開けた。
「エディ様?交代の時間ですけど、起きてらっしゃ……なんじゃこりゃ」
テントの中に顔を突っ込んで、シエラは思わずあんぐりと口を開けた。
そこには、外観とは全く異なる広い空間が広がっており、少し離れた場所にはベッドまで置かれて、そこでエディと思われる青年が、黒い鶏と一緒に仲良くすぴすぴと寝息を立てながら横になっているのを発見した。
「……いや、まぁ、ね?そりゃ、身分ってもんを考えれば、まぁ、こんな空間魔法がふんだんに施されたテントの一つや二つ、持ってらっしゃるでしょうけれども」
シエラはブツブツと呟きながら、テントの中に入ってエディの傍までやってくる。
「でも、ですね」
キッとエディを睨みつけながら、シエラはスゥっと息を吸うと、思いきり大きな声で、叫んだ。
「見張りの交代に自分で起きてこれないなら、防音なんてついたテント使ってんじゃないわよ!」
「うわぁ!!!」
「な、なんだ!?」
シエラの声にエディとトーカスがびょんとベッドから飛び起きた。
「え……え?し、シエラ?」
「おい、シエラ!いくら何でも勝手に異性のテントに一人で入ってきたらマズい……きゅぅ」
トーカスの言葉に顔をひくつかせながら、シエラは彼の首をきゅっと絞めた。
「こちとらじゃんけんで負けたから甘んじて真ん中での警戒対応をしてたっていうのに。時間になっても来ないから呼びに来てみたら、勝手に入ってきたらマズいですって?」
「あ…………」
シエラの表情に、エディはガタガタと震える。
「テントに防音の魔法なんか付与してるから、外から声かけても気づかないんですよ!そんなもん使うくらいなら、起こされる前に、自分でちゃんと起きて来てもらえますかね?」
思いきり額にビキビキと青筋が立っているのが分かったエディは、ごめんなさい!と平謝りする。
「ちょっと、トーカス達とはしゃぎすぎて、起きれなかったみたいだ。悪い!」
エディの言葉を聞いて、トーカスの首を絞めていた手をパッと離し、シエラはふぅ、と息をつく。
「構いませんよ、とにかく、準備が整ったら出てきてください」
「ああ、すぐに支度する」
エディの言葉を聞いたシエラは、テントの外に出る。
「……あぁ言って思わずキレてしまたけど、よく考えたら、依頼を受けてるのはギルド側で、ぶっちゃけ、依頼主側にも警戒対応を何やらせてんだって話ではあるんだよねー……。まぁこれも事前訓練ってことで……。しっかし、さっき、あんなに大きな声で叫んだのに、誰も起きてきた様子がない……ってことは、これ、別空間につなげてるとか、そっち系のテントってことか」
いくらするのか想像しただけで吐きそう、とブルブルと体を震わせていると、エディがお待たせ、と言ってテントから出てきた。
「特に警戒している間、問題はありませんでした。ハルさんたちから引き継いだ時も同じくですので、大丈夫かと思いますが、後はよろしくお願いしますね」
「あぁ、了解した」
「任せろ」
エディが頷き、隣でトーカスがドンと胸を叩いた。
「それでは、よろしくお願いしますね」
そう言って、シエラはその場を去ろうとしたのだが、ふと、気になったことがあったので、寝る前に聞いてしまおうと、シエラは足を止めて、エディの方に向き直る。
「あの、ちょっと気になったんですが……まさかと思うんですが、実習であのテント、使用されないですよね?」
シエラが聞くと、エディはなんでだ?と首を傾げる。
「いや、いつも野営をするときに使ってるのはあれだからな。今度の実習の時もあれで予定にしてるけど」
エディの言葉を聞いて、シエラは小さく眉を顰めた。
「……余計なお世話かもしれませんが、実習で野営をするのに、このテントは使わない方がいいかと思います」
「え?」
きょとんとした表情のエディに、シエラは少し悩んだが、そのまま思っていることを伝えることにした。
「まずですね、さっきちょっと言ったことになるんですけど、外から声をかけても気づかなかったですよね?さすがにそれは問題があると思うんです。普段、エディ様が野営する場合は、護衛の方がいて、護衛の方が警戒対応もするから問題ないですが、討伐訓練に関しては、護衛は生徒全員、みんな連れて行けませんし、当然、警戒対応は学生同士で順番を決めて、持ち回りで対応をするわけですよね?その時に、絶対に今回みたいに寝過ごさないって自信ありますか?」
「あ…………」
シエラに言われて、エディはハッとなる。
「それに、これ、中の声も外に漏れない特殊な作りになってますよね?」
「あぁ、外だと誰に聞かれているかわからないからないし、気も使うしな。なかなか便利だぞ」
「……ですと、今回の私みたいに、テントに勝手に入られても、誰も気づけないし、そこで何かあっても、助けも来ないってことになりますよね?」
「あー…………」
言われてエディは、頭をガシガシと掻く。
「普段はハル達護衛も一緒にテントを使ってるんだよ。だから、その辺りは問題がないというかなんというか……」
「でも、今度の訓練授業では、護衛の方は」
「いない、な……」
肩を落とすエディ。
「先ほども言いましたが、このテントはエディ様のテントですので、使って問題があるわけではないです。むしろ、これが野営?ってくらい、十分な睡眠がとれそうな快適環境ですし」
「えへへ……」
褒められたと思ったエディは、思わず照れて笑うが、そんなエディを見て、今度はシエラが肩を落とす。
「ただ、環境を快適にした分、他に気を付けないといけないことが出てくるってことは、ちゃんと頭に入れて置いてください」
「はい、わかりました……」
しゅんとなるエディを見て、若干の居心地の悪さを覚えたシエラは、それじゃ、後はよろしくお願いします、と言って、自分のテントへと向かった。
「はぁ……使えるもんなら、私もあのテント使いたい……」
だが、確実に高等魔法が施されているだろあのテントは、自分のお給料ではもちろんのこと、ギルドの経費で買いたいと言っても、申請が通るとは思えなかった。
「どうにかギルドで1つくらい買えたらなぁ……」
シエラは自分のテントの中に入ると、畳んでおいた薄い毛布をかぶり、またゴロンと横になった。
「くぅ、地面が堅いし冷たい……あぁ、私だって許されるならベッドで寝たい」
「くぅん……?」
うぅ、と呻いていると、寝ていたポチがシエラに気付き、心配そうに彼女の顔のところふんふんと鼻を近づけてきた。
「ごめんね、ポチ。起こしちゃったね。何でもないよ、一緒に寝よう」
そう言って、シエラはポチを抱きしめながら、そっと目を閉じる。
「流石にあのテントが基本ってことはないと思うけど……、学生たちの野営、ほんとに大丈夫なのかなぁ……」
一抹の不安を覚えつつ、シエラはまた、眠りについたのだった。
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