再発行手続へ
雲一つない青い空に眩しく光る太陽。
さぁっと風が吹くと、少しだけひんやりとした、心地いい空気が、体を撫でていく。
「……こんなにもいい天気なのに」
ボソリと呟くシエラ。その表情は、おおよそこの素晴らしい天気に似つかわしくないものだった。
「まぁまぁ、代わりに別の日に休みは振替てもらえるんだろ?なくなるわけじゃねーんだし、元気出せよ!」
トーカスが肩に乗って、ポンポンとシエラの頭を軽くたたく。
「……今日の休日自体が、そもそも、前の休日出勤分の休みが潰れた振替だったのよ?もう、いつになったらちゃんと休みが取れるのよ……。コーカスもポチも、寮を出る時もまだベッドで気持ちよさそうに寝てたしさぁ……」
「あー……まぁでも、ポチは連れてけないだろ?うっかりほら、なんかあったら……」
遠い目をするシエラに、トーカスは何とか慰めようと言葉をかける。
「まぁまぁ、今日はステイタスボードの再発行手続きが終わったら、後は自由なんでしょ?」
フィーヴが寮の食堂のおばちゃんからもらったクッキーをポリポリと食べながら聞いてくるので、シエラは小さく頷いた。
「そうだけど……でも、なんでかその再発行手続きに、アオさんも同行することになってるし」
「なんだ、アオのこと、嫌いなのか?」
きょとんとした顔でトーカスが首を傾げながら聞いてくるので、シエラは慌てて、大きく首を横に振った。
「ま、まさか!!違うわよ、嫌いとかそう言うことじゃなくて、中央ギルドのギルドマスターなんて、言ってみれば、この国のギルドのトップに近い人なんだよ?普通は、お目にかかることがあるかどうか、くらい雲の上の存在の人なの!そんな人と一緒に、あんまりやる機会のない業務をしないといけないなんて、緊張しすぎて吐きそうになるでしょ、普通」
ため息とともにシエラが言うと、トーカスが、わからんでもないな、と頷いた。
「そう言うもんなのか?」
「そう言うもんなの!」
フィーヴに聞かれて、シエラは大きく頷きながら答える。
「そんなに緊張する必要はないですよ?」
「いやいや……そんなこと言われて、ハイそうですねってなるわけ……!?」
自嘲気味に笑いながらシエラが答える。が、トーカスでもフィーヴでもない、でも聞き覚えのある声に、思わず体が硬直した。
「おはよう、シエラ嬢。今日もいい天気だね」
「おおお、おはようございます!」
「おわぁ!!」
振り返るとそこには(案の定)アオとミュシカの姿があった。
シエラは心の中で、終わった、と呟きながら勢いよく頭を下げて挨拶をした。
その勢いで思わず肩に乗っていたトーカスがバランスを崩して落ちていったことは気にしない。
「おはようございます。そちらが、今回再発行手続きを行う冒険者の方ですか?」
ミュシカに聞かれて、シエラはそうです、と答えた。
「あともう一人の方は、まだ来られてないので、そちらの方が来次第、神殿に向かうとしましょうか」
「…………もう一人??」
ミュシカに言われて、シエラは誰のことだ?と首を傾げる。
その様子に、アオとミュシカは顔を見合わせる。
「……もしかして、ジェルマから聞いて」
「すみません、遅くなりましたー!!」
アオが言いかけたその時だった。
遠くから全力疾走で近づいてくる少女の姿があった。
「遅れてすみません、ちょっと、場所を間違えてしまってて……」
「ん?あれ、ヘネシーじゃねーか。久しぶりだな」
はぁはぁと息を切らせて登場したその少女を見て、トーカスが声をかける。
が、シエラは見覚えのないその少女を見ながら、トーカスに知り合い?と小さな声で聞いてみる。
「あ、トーカスさん。お久しぶりです」
はぁ、と大きく深呼吸をして、少し呼吸が落ち着いてきたヘネシーは顔を上げてにっこりと笑う。
「貴女が、ヘネシーさんで間違いないですか?」
「はい!」
ミュシカが少女に聞くと、彼女は大きく頷いた。
「あ、そうだ。これ、ジェルマさんからシエラさんに渡すよう預かってきた手紙です」
ヘネシーがズボンのポケットから一枚の紙を取り出してシエラに差し出す。
シエラはそれを受け取ると、ガサガサと広げて、内容を確認した。
『ヘネシーのステイタスボードが古い仕様になっているみたいなんで、今回の再発行手続きのついでに、仕様の更新をしてもらってきてくれ。よろしくな! ジェルマ』
手紙の内容を読み終えると、シエラはぐしゃりと手紙を握りつぶしながら、小さな声で、『いつか絞める』と呟いた。
「すみません、村で発行されたステイタスボードだったんですが、どうもかなり古いタイプだったみたいで……お手数をおかけして、本当にすみません」
謝るヘネシーに、シエラは慌てて、全然大丈夫ですから、と答えた。
「ステイタスボードの仕様更新はすぐにできるんで、大丈夫です。それより手間がかかる再発行手続が今回はありますし、気にしなくて全然大丈夫ですよ。ジェルマさんが、昨日のうちにきちんと共有してなかったことを、明日きっちり締め上げようと思っているだけですから」
にっこりと笑うシエラの後ろに、なぜか仁王が見えた気がして、トーカスは小さく悲鳴を上げた。
「ひとまずこれで、全員集まったことですし、神殿へ向かいましょう」
ミュシカがそう言って、アオと一緒に歩き始めたので、はい、と頷き、シエラ達もその後に続いた。
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