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フラグとは、回収されるためにあるものです。

「では、今日も1日頑張りましょう。よろしくお願いします」


『よろしくお願いします』


今月の朝礼担当者である、ルーの後に続いて、職員全員が大きな声であいさつをすると、ワイワイとそのまま各自持ち場へと移動して行った。

ギルドの日常の始まりである。


「で、シエラは今日はどんな感じで動くの?」


ルーがシエラの方を向いて聞いた。昨日、ジェルマから聞いた話では、2・3日留守になると思う、という話だったのだが、普通にいつも通り出勤していたので、彼女の動きを確認して、今日の動きと、内容次第で明日以降の動きを他の受付嬢たちと調整しなくてはならないと思ったからだった。他に出勤していた受付嬢たちも同じだったようで、ルーが声をかけているのに気づくと、みんな、わらわらとシエラの側へと集まってきた。


「とりあえず、今日は通常業務の予定。ただ、ステイタスボードの再発行対応が1件あるから、それ次第で、どこかでちょっと抜けないといけないかも」


「あ、そうなの?てっきり、これからまた出発するのかと思ったわ」


ポロっとこぼすアミットに、シエラは思わず、不吉なことを言わないで!と叫んだ。


「まぁまぁ。なら、昨日みたいに急に駆り出されることはなさそう?」


苦笑しながらルーがシエラを宥めながら再確認する。


「……ない、と信じたい」


断言できない自分が憎い、と思わずにはられない。

シエラは死んだ魚のような目をしながら小さく答えた。


「実は私たち、ジェルマさんから昨日、もしかしたら2・3日以上かかるかもって聞いてたのよ。なのに、出勤したらギルドにいるもんだから、ちょっとびっくりしたのよね」


「え、ジェルマさん、そんなこと言ってたの!?」


1泊程度は覚悟していた。だが、そんなに何日も向こうにいるつもりはそもそもなかったし、時間がかかることだとも聞いていなかったのので、それならそれでそう言うことは言ってよね、とシエラはジェルマに対し、心の中で盛大に舌打ちをした。


「ま、とりあえず、大丈夫そうならよかった。シエラ、今日を乗り切ったら、明日は休みでしょ?ゆっくりできるんだし、頑張りましょ!」


ルーの言葉にシエラはハッとなり、目を輝かせた。


「そう、そうだった…!私、明日休みじゃない!!」


ありがとう、神様、と両手を組んで感謝を述べるシエラを見て、シエラ以外の受付嬢たちは、少しだけ複雑そうな顔をする。


「そうとわかれば、まずは今日の仕事をしっかりと終わらせないとね!コーカスとトーカスの予定は……」


シエラがコーカス達を呼び、今日の予定を伝えている姿を見て、アヤがルーに小さな声で話しかけた。


「ねぇ……明日、シエラは休み取れると思う?」


「そうねー……今までのパターンから行けば、取れる5%、ステイタスボードの再発行手続きが入って半日くらい潰れる15%、その他の理由で休みが潰れる80%ってところかしら?」


ルーが答えると、それを聞いていたアミットが会話に参加する。


「正直なところ、最近、シエラだけじゃなくて、うちのギルド全体が、休み潰れることが多いじゃない?だから、何かあるんじゃって思わずにはいられないんだけど……」


「やだ、アミット。そういうことは、思っても絶対に、口にしたらだめなんだから!」


ルーに言われて、アミットが慌てて口をふさぐ。


「もう手遅れ感が満載だけど……」


3人はシエラの方をちらりと見やった。

ニコニコと笑顔で話しかけるオーリと、へにゃっと顔を崩したシエラが楽しそうに会話をしていた。


「シエラ姐さん、明日の休みは何するんですか?」


「いやー、それが、まだ特に何も考えてないんだよねー。色々買い物にも行きたいし、せっかくだから、ゆっくりとお風呂に入ってくるのもいいよね」


「良いですね!最近、姐さん忙しそうだったし、ゆっくりしてくださいね」


「ふふ、ありがとう、オーリ!よし、今日を超えれば休みだし、頑張るぞー!!」


「はいー!」


二人は仲良く拳を握ると、一緒におー!っと片手を突き上げて笑いあっていた。


「……あれ見たら、何も言えないわ」

「とにかく、無事に明日、休みをとれることを、私も祈っておいてあげよう」

「まぁ、休みが潰れると決まったわけじゃないし、できる限り、私たちも明日休みが潰れないように気遣ってあげましょう」


そう言って、3人はうんうん、と頷きあった。



*****



「はい、フォレストスパイダーの糸100g(グラム)確かに受領しました。これでFランクの依頼10件が完了になるから、来月にある昇級試験、受けられるけどどうする?スミレちゃん」


ポンポン、と2枚の書類に判子を押し、そのうちの1枚をスミレに渡しながらシエラが言う。


「え、ほんとですか!?」


嬉しそうに耳をぴょこんと立ててスミレが聞く。


「うん。これまでの依頼は全部丁寧にこなしてくれてるし、失敗もないからね」


「あ……でも、実はまだちょっと、ゴブリンが苦手で……」


スミレが少し不安そうに答えると、シエラはゴブリンかぁ、と少し困った表情を浮かべた。


「まぁ、正直なところ、ゴブリンが好き、とか、得意って人は聞いたことないけど……でも、冒険者としてやっていくなら、避けては通れない道だからなぁ」


腕を組んで、ううん、と考えるシエラ。


「こっちには、ゴブリンスレイヤーとかはいないのか?」


「ゴブリンスレイヤー?なに、ゴブリンが得意な人ってこと?」


きょとんとした顔でトーカスに聞き返す。


「いや、得意というか、ゴブリン退治の依頼ばっかり受けてる、というか」


トーカスの言葉に、シエラは思わず目を大きく見開く。


「私は聞いたことないけど……え、なに、そんな貴重な人、王都にでもいたの?いたなら是非、モルトに来てもらいたいんだけど!」


ゴブリンはお金にならない、手間がかかる、大変、臭い、群れだった場合には命を落とす可能性もある、と、デメリットだけは上げればきりがない相手である。

なので、そんな相手の依頼ばかりこなしてくれるだなんて、なんて素晴らしい人なの!?と、シエラが目を輝かせながらトーカスに聞くと、いや、そういうのがいたりしないのかなって思って、と明後日の方向を向きながら答えるので、シエラはがっくりと肩を落とした。


「……まぁ、そんな神様みたいな冒険者の人はやっぱり現実には存在しない、ってことだったけど。スミレちゃん、残念ながら、ゴブリンに関しては慣れるしかないと思うんだ。ただ、一人で対処するよりは他に仲間がいたほうが、やっぱり対処できる幅も広がると思うから、そろそろ、パーティーを組むとか、誰かのパーティーに入れてもらうってことも考えてみてもいいころなんじゃないかな?」


ニコッと笑ってシエラが言うと、スミレは少し不安そうな表情を浮かべる。


「で、でも、私はまだFランクですし、それに、同じくらいの年の子達はもう、みんなある程度の人数でパーティーを組んでしまってますし……」


少し俯きながら答えるスミレに、シエラは笑顔のまま答える。


「そんなときのための受付嬢(わたしたち)じゃない!パーティーメンバーの紹介なんかも、時々やってるんだよ?」


シエラの言葉に、スミレはそっと顔を上げる。


「それにね?スミレちゃんが、最終的には、冒険者ランクをもっともっと上げることを考えているのなら、ソロでやっていくのだとしても、他の冒険者たちと一緒に仕事をこなす大規模依頼をこなすときのことも考えて、他の人たちと一緒に仕事をこなすっていう経験は絶対にしておいた方がいいと思うのよ」


シエラに言われて、スミレはゴクリと喉を鳴らした。


「…………わ、私、そんな依頼が受けられるくらい、強くなれますか……?」


恐る恐るスミレが聞いてくる。

シエラは真剣な表情でふるふると頭を横に振った。


「ごめんね、厳しいことを言うかもしれないけど、頑張れば必ず強くなる、なんて保証はどこにもないから、その問いに私は、うん、とは頷けない」


シエラの言葉に、スミレの耳が垂れる。


「でもね?強くなるために絶対に最低でも必要な、努力をするってことを、スミレちゃんができる子だっていうのは知ってる。だから、可能性はゼロじゃないと、私は思ってる」


二ッと笑って言われたシエラの言葉に、思わずスミレは頬が赤くなる。


「スミレちゃんが強くなりたい、もっともっと上を目指したいって言うのなら、私はもちろん、全力で応援するし、サポートするよ?で、話が戻るけど、スミレちゃんの今後を考えるなら、パーティーを実際に組むかどうかの判断は置いておいても、誰かと一緒に依頼をこなすってことは、ゴブリン云々を抜きにしたとしても、できるようになっておいた方が絶対に良いと思う」


「はい!!」


元気よく返事をするスミレに、シエラはにこっと微笑む。


「うん、いい返事だね。まぁ、今日、明日中に何が何でもパーティーを組めって話でもゴブリンを平気になれって話でもないから、一緒に頑張っていこう、ね?」


「ありがとうございます、シエラさん!」


嬉しそうに耳をぴょこぴょこさせながら帰っていくスミレの後ろ姿をほっこりとした気持ちで見送っていると、「何やら嬉しそうな顔をしていますね」と、急に後ろから声をかけられて、シエラは思わず「うひゃぁ!」と叫んだ。


「あ、アオさん!?急に後ろから声かけないでくださいよ!」


振り返るとそこには、中央ギルドのギルドマスターのアオの姿があった。


「明日、シエラさんはお休みでしたよね?」


「え?はい、そうですけど……」


なんでアオがそんなことを聞いてくるのか、と、警戒心をむき出しにして、シエラは答える。


「ちょうどよかった。君が申請を上げているフィーヴ君のステイタスボードの発行手続き、明日になったから」


「え!?」


全然良くないんですが、と答えようとするシエラよりも先に、アオが続ける。


「で、その発行手続き、僕も一緒に同行するから、よろしくね?」


「…………え???」


アオの言葉の意味が一瞬理解できず、脳がフリーズを起こす。


「神殿には、明日、朝一で行かなくてはならないので、中央広場に9時に集合となります」


続けてアオの後ろに控えていたミュシカが言う。


「おーい、シエラちゃん、お待たせ!今日はちゃんと17時前に戻ってきたぜ~」


シエラが何かを質問する前に、担当している冒険者で、いつも定時過ぎに戻ってくる常連パーティーのリーダーに声をかけられる。


「仕事中にごめんね。それじゃ、そういうことで、明日はよろしくね」


「では」


「え!?いや、ちょ、ま、え!?」


シエラが混乱する頭で呼び止めようとするも、ひらひらと手を振って、アオたちはその場を去っていった。


「おーい、シエラちゃん、大丈夫か?後でまた来た方がいいか?」


立て込んでいるのかと、気を聞かせて彼が言うと、シエラは慌てて、大丈夫ですから!とすぐに手続きに移った。


しかし、頭が混乱している状態で手続きをしたせいで、ミスを連発し、せっかく定時前に帰ってきてくれた彼らの依頼完了の受付が終わったのは、17時をしっかりと過ぎた頃だった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

誤字脱字につきましても、適宜修正いたします。いつもご報告いただきありがとうございます。

感想、いいねいただけると嬉しいです!


かきくけ虎龍様

もったいないくらいのレビュー、ありがとうございます!めちゃくちゃ嬉しいです!

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