美味しいご飯が食べたいです
トーカス達の報告を受けたあと、シエラは彼らに、引き続き周囲の探索をしてくるようお願いをし、確認作業に戻った。
「おい、シエラ。そろそろ日が暮れるぞ」
何度目かの作業の繰り返しを終えたところで、コーカスに言われて、あたりが少し薄暗くなってきていることに気付く。
「ほんとだ…」
シエラはふぅ、と息を吐くと、今日はここで野営することにするよ、と言って、寝袋を取り出し、野営の準備に取り掛かった。
と言っても、簡単にあたりに落ちている枯葉や乾燥した小さな木の枝などを手早く集めると、小さな魔石をぶつけ合って極小の爆発を起こして火をつけた。
コーカスとポチには周囲を警戒してもらい、その間に虫よけと魔物よけのお香を焚く。
「…そういえば、魔物よけのお香を焚いてるけど…コーカスもポチも、平気…?」
うっかり忘れそうになるのだが、よくよく考えれば二人とも魔物なのだ。嫌な臭いがすると思うかもしれない、ということを完全に失念していたシエラは、慌てて聞く。
「くぅん?」
「なんだ?変わった匂いがするな、とは思うが、別にどうということはない。ポチも問題なさそうだぞ?」
「あ、そうですか…」
二人の様子に、シエラは若干、品質に疑問を持つが、まぁ、コーカス達がいれば、よっぽど高ランクの相手でなければ、心配はいらないだろう、と自分に言い聞かせることにした。
「まぁ、寝袋の感想を伝える時にでも、一緒に報告しておこう」
マジックバックからまたまた大量の野菜を取り出し、並べて置く。ポチには大量のお肉を用意した。
「あとは私の分で…」
起こした火でお湯を沸かしていると、トーカス達が戻ってきたので、先にみんなには食事を始めてもらった。相変わらず、大量に食べてるな、と横目で見つつ、シエラは沸いたお湯に乾燥した味付け用の粉末と細かく折られた麺を入れて少し煮込んだ後、トマテに切り込みを入れて、鍋に投入しぐしゃぐしゃと潰し、塩で味を調えて出来上がったものを火傷しないよう気を付けて食べた。
「はぁ…やっぱり自分で作るのって面倒くさい」
基本的に、食事はお店でとるか、寮の食堂でとるかのどちらかなので、自分で作ることはほぼない。だが、時々研修などで、一緒に野営をすることもあったので、一通り、簡単な食事を作ることはできる。
「美味しくないんだよなー…」
「…それ、食べ物なのか?」
トーカスに言われて、シエラは言葉に詰まった。
赤くドロリとした液体に、少しぶよぶよとした物体が見え隠れしているそれは、お世辞にも、美味しそうとは言えないものだった。
これは、安くて簡単にご飯が作れると、味付け粉末と麺が1セット銅貨10枚で販売されている、初心者冒険者の野営の味方と、ギルドで販売されている代物だ。
「失礼だな、一応ちゃんと食べれますぅー」
「美味しいとは言わないんだな」
痛いところをついてくるトーカスに、シエラは思わずチッと舌打ちをした。
「しょうがないじゃん。さすがに生野菜とか生肉食べれないし、あったかい物もちょっとほしいし。これでも、トマテが入ってる分、まだいつもよりましなんだから」
そう言うと、なんだかトーカスが憐みの目を向けてきている気がして、シエラはムキィ!と怒った。
「何よ!なら、トーカスもご飯は現地調達とかにする!?明日から野菜出してあげないんだから!」
「な!?横暴だぞ!?」
ギャーギャーと喧嘩をする二人に、やれやれ、と言った風に、コーカスがそこまでだ、と止めに入った。
「トーカス、うかうかしてると野菜がなくなるぞ」
ちらりとサクラたちの方を見て言う。山盛り置いてあった野菜が、残り僅かになっているのに気づいたトーカスは、慌ててまだ食べるぞ!と、残っている野菜をつつきに行った。
「人は我等と違って、なんでも食すことができるわけではないから大変だと思うが…まぁ、頑張れ」
「慰めが雑!」
「ほれ、せっかく作った食事が冷めてしまうぞ」
「くっ…」
冷めてしまっては食べられたものではなくなってしまうそれを、シエラは諦めて食べることにした。
(…この食事問題も、何とか改善できたらいいんだけど)
携行食がまずい、作れる食事が限られる、といった問題は昔から根強くあり、そのため、高ランクのパーティーでも、長期間、町や村にすら寄れないことが分かっている依頼は、嫌がられることが多い。
「ギルドの仕事じゃ確実にないんだけど…改善されないとギルドも困るってのが頭の痛いところだわ」
はぁ、とため息交じりに作った料理(?)を食べながら呟く。
(ま、今はそんなこと考えてる場合でもないんだけどね)
空になった小鍋を水で綺麗に洗うと今日1日の調査結果をもう一度見返し、ながら、こめかみをぐりぐりと抑えた。
「やはり昼前に報告した内容と同じだ。ゴブリンがいない」
冒険中に遭遇しない、と言うのは良いことであるはずなのに。むしろ遭遇したくない、とすら思う相手なはずなのに。
今回に限っては、一度も遭遇していないことに、シエラはますます頭を抱えた。
「嫌な予感しかしないよー…」
そう言うと、シエラはごそごそとマジックバックから通信魔石を取り出し、起動させた。
『ジェルマだ。どうした』
起動し、淡く光りだしたところで、ジェルマの声が聞こえてきたので、シエラがちょっと報告が、と切り出し、ゴブリンの件を伝えた。
『………………』
「………なんか言ってください」
沈黙に耐え切れず、シエラが言うと、特大のため息が返ってきた。
『ちょっと他のところにも連絡して状況を聞いてみる。またあとで連絡する』
「え?あ、ちょ」
光が消えて通信が途絶えた。
シエラ達と反対側から調査を始めているメンバーがどういう状況かが、確かにシエラにはわからなかったので、諦めてジェルマからの返事を待つ。
数分後、通信魔石がまた、淡く光りだしたので、シエラが応答すると、ジェルマからは、向こうはゴブリンに何体か遭遇しているそうだ、という回答が返ってきた。
「それって…」
『まぁ、おそらく、原因の何かが、お前ら側にいるとみていいだろうな』
ジェルマの言葉に、シエラはがっくりと肩を落とした。




