生態調査開始-3
三度目の作業が終わったところで、シエラ達に近づいてくる複数の気配を察知するすると、彼女はにっこりと笑って、声をかけた。
「お帰りー。ご苦労様」
「ただいま戻りました!」
ちょうど、一息つこうと軽食の準備をしていたところだったので、シエラはマジックバックから大量の野菜たちを取り出し、彼らの前に置いていく。コーカスは、うむ、と一言呟くと、ガツガツと野菜を啄み始めた。
「報告はとりあえず、食べ終わってから聞くから、先にどうぞ」
「おぉ、助かる!ちょうど腹が減ったところだったんだよ」
シエラにお礼を言うと、トーカス達も一斉に野菜を食べ始めた。ポチがくぅん、とすり寄って僕にも、とねだってきたので、シエラはミルクと干し肉を用意してあげた。
「流石に私も小腹が空いた…」
マジックバックから、持ってきていた一口サイズのサンドイッチを取り出すと、それをもしゃもしゃと食べていく。
「今のところは特に問題はなさそうだし、やっぱりはぐれの可能性が高いかなー。この分だと、案外サクッと終われちゃったりして」
食べながら、少しニマニマと笑うシエラ。
頭の中で地図を再展開して、内容を確認する。
(出てきた魔物はどれもよく見かけるのばかりだし、特別その規模が大きくなってたり小さくなってたりするのはいない)
水袋からコップに水を入れて、それを口に含んで一気に喉へと流し込む。
(まぁちゃんと最後まで調べてみないとだけど、これなら…)
「シエラ、報告、いいか?」
トーカスに声をかけられて、意識を戻したシエラは、お願い、と頷く。
「まず、オークだが、俺を含め、他の奴らも姿を見たのはいなかった。それらしい痕跡や、気配も特になかった」
予想していた通りの報告に、シエラはうん、と頷く。
「見かけた魔物は、よく見かけていた奴らばかりで、目新しい奴はとくにいなかった」
これもまた予想通り、とシエラはまたうんうんと頷く。
「ただ、気になる点が」
「……ん?何かあった?」
シエラが聞くと、トーカスはあぁ、と頷き、続けた。
「ゴブリンを見かけていないんだ」
「…ん?ゴブリン?」
シエラが首を傾げると、トーカスはそうだ、と頷いた。
「基本的に、ゴブリンはどこにでもいる種族だし、それこそ見つけようとしたらすぐにみつけられるだろう?」
「まぁ…。でも、基本的には見つけたら即座に潰してもらうよう依頼も随時出してるから、偶々なんじゃないの?」
彼らは人や家畜を襲撃することが多いため、どこのギルドでも、ゴブリンの目撃情報が入ると、即座に討伐依頼がギルドから発行される。売れる素材が全くない為、ゴブリンの討伐依頼は不人気だが、それでも、新人冒険者たちの腕試しとして、一定のペースで消化はされている。
が、消化されているはずのゴブリンの依頼は、ギルドの依頼から消えることは1日たりともない。
なぜか。
ゴブリンはいくら討伐しても、なぜか絶滅することが決してなく、次から次へとすぐに湧いて出てくるからなのだ。そのため、一般人の間では、ゴブリンは、1匹見つけたら30匹はいると思え、とすら言われている。
「妙だと思わないか?」
トーカスの言葉に、シエラは意味がよくわからない、と眉をハの字に下げる。
「あいつらは基本的に、どれだけ殺したところで絶対にいなくなることはない。前に、ゴブリンが集落を作ってた時に、かなりの数を駆逐したが、それでも、どこから湧いてきたのか、ゴブリンはちょこちょこ見かけられてただろう?」
トーカスに言われて、ゴブリンキングを討伐していた時の悪夢がよみがえり、シエラの顔が若干曇ったものの、確かにそうだね、と頷いた。
「あれだけの規模の集落を駆逐した時ですら、少し歩けば、ゴブリンをすぐに見つけてた。なのに、今はこれだけ歩いても1匹も見かけてない。俺たちの誰も、だ」
だからそれは偶々では、と言いかけて、シエラは口を噤んだ。
(…偶々で片付けちゃダメ。だって、そもそもこの生態調査自体が、そのためのもの。偶々って言いたいなら、そう言えるだけの根拠がいる)
「確か、オークがゴブリンと一緒にいたって話だったろう?もしかして、他にもオークがいて、ゴブリンを従えてるせいで、この辺りに野良が出てないって可能性もあるんじゃないか?」
トーカスの言葉に、ひゅっとシエラの喉が鳴った。
(いやいや…そんな、まさか…)
乾いた笑いを浮かべつつ、その可能性を否定できるだけの材料も、今持ち合わせていない、ということも事実なわけで。
「オークがゴブリンを従えるなど、聞いたことはないがな。だが、この間の出来事では、そう、見えなくもない状況だったことは確かだ」
たっぷりと野菜を堪能し終えたコーカスも、会話に参加してきた。
シエラはコーカスの言葉に、嫌な予感を覚える。
「…いやいや、ほんとに、勘弁してよ…?だって、そんな…オークが他にもいるって?しかも、ゴブリンを従えてる?そんな、いくら何でも…」
あり得ない。
そう言いたいのに、そう言い切れない根拠が目の前に並べられていることに、シエラは愕然とする。
「…とにかく、もうちょっと調べてみよう。結論をだすにはまだ早い。偶々の可能性だって否定できないし」
シエラが言うと、そうだな、とトーカスが頷いた。




