第2話 半額
新年明けましておめでとうございます。
今年もSoLaと『テレポーター』を、どうぞよろしくお願いします。
☆
「ほっほんとに迎えにきてもらえるなんて思ってませんでっ、あのっ、いえ、それは不安だったわけではなくてですねっ!! あの、今日は一日よっよろよろよろ!?」
「……あー、うん。とりあえず移動しようか」
浴衣姿の咲夜の手を引いてこの場を離れることにする。後ろから「ごゆっくりー」と聞こえたのは無視だ。されるがままの咲夜は黙って俺についてくる。顔が真っ赤だ。……少し前までは普通に接することができていたはずなのに。いったい咲夜に何があった。
☆
人混みは建物の中じゃどこに行っても変わらないだろう。そう考えた俺は、いったん本館から出ることにした。混雑していないわけではないが、外でそれも道から多少外れれば自分のスペースくらいは確保できる。
昇降口を通り、何とか外へと抜け出した。
「大丈夫か」
「え、えと、……はい」
咲夜も多少は平静を取り戻したようだ。ちらちらとこちらの反応を窺いながらも頷いてくれた。
何が原因であんなに取り乱すのか興味はあるが、それを聞けばまた先ほどのようになりかねないので止めておく。本当に切羽詰まったら自分から言い出すだろう。それに、下手に突いて藪蛇状態になりたくもない。できることなら関わらずにおきたいところだ。
……怖がらせた憶えは無いんだけどなぁ。選抜試験の刺激が強すぎたんだろうか。
「出てこれたってことは休み時間を貰えたってことでいいんだよな?」
「は、はい」
まあ、文化祭が始まってからまだ1時間経つか経たないかといったところだ。休み時間もクソも無いような気もするが。
「繰り上げという言葉を聞いた。この休み時間には昼食も含まれているんじゃないのか」
「えっと、はい。そうだと思います」
咲夜が頷く。
「休憩時間は?」
「1時間です」
受付の子から「ごゆっくり」と言われたが、本当にごゆっくりするわけにもいくまい。これを理由に1時間で咲夜をお返しすることにしよう。先ほど今日は一日とか言ってた気もするが気のせいだ。そうでなければ慌てていたせいで口にしてしまっただけに違いない。
「んじゃ、食べ物関係の出店でも中心に見て回るか」
「あ、あの、中条せんぱいっ」
「ん? ああ」
呼び止められ、改めて咲夜を見る。
ピンク色を基調とした花柄の浴衣を着た咲夜は、いつもの大人しさとは違った年相応の可愛らしさを醸し出していた。艶やかな黒髪を後ろで結い上げている為、うなじが妙に色っぽく感じてしまう。可愛らしさとその色気のギャップがまた、咲夜の魅力を引き出している。
「似合ってるぞ、浴衣姿。可愛い」
「ええっ!? あのあの、えっとその、あ、……ありがとう、ございます」
ぷしゅーと何かが抜け出るように咲夜は顔を俯かせた。
……少なくともこれは怖がっている相手にする反応ではないな。と、いうよりも、そもそも恐怖の対象を文化祭には誘わないか。俺の思い違いであることを願おう。
「あ、あの、……中条せんぱい」
「何だ?」
浴衣のことを言ってたわけじゃないのか。再び声を掛けてきた咲夜に続きを促す。
「よ、よろしくお願いしますっ」
「お、おう。よろしく」
……。
何だ、ただの挨拶か。律儀なことだ。少しだけ鬼気迫る感じがしたが気のせいだろう。
今日は実に気のせいだと感じることが多い。それだけ神経が敏感になっているということだ。つまりそれは本来の目的を忘れていないということに他ならない。ならば、仮に生徒会の面々と出くわしても問題はないだろう。
……。
……んなわけあるか。
出くわさないよう細心の注意を払っておくことにしよう。
☆
「おぉ、ここも凄い盛り上がってるな」
本館からグラウンド側へと繋がる道には、露店がたくさん並んでいた。部活動をしている学園生が交代で用意しているスペースだ。焼きそばやたこ焼きなどの良い香りが漂ってくる。流石に食べ物を扱うところで魔法の出番は無い。いたって普通の露店の群れだ。
と、思っていたら、学園生が口から火を吹いてフランクフルトを焼いていた。その手前では、たこ焼きが勝手にくるくる回り、自分自身を的確にこんがり焼いている。
お客さんはどんなに簡単な魔法でもいちいち驚いている。流石は奇跡と銘打つだけあって、パフォーマンスに抜かりはないようだ。
「何か食べたいものはあるか? 今日は俺の奢りだ」
「え、えっ!? そ、それは、自分の分は自分で――」
「いいからいいから。ここは先輩としての俺の顔を立てると思って」
予想通り断りを入れてこようとする咲夜を止める。以前、咲夜の父から依頼された仕事をこなした報酬として、それなりの額を俺はもらっている。目の前にいる女の子の父からもらった金で目の前にいる女の子に食べ物を奢るというのはなんとなくというかとてつもなく駄目な感じがするが、まあきちんと稼いだ金なので問題無いだろう。問題無い、はずだ。
「えっと、それじゃあ……」
人混みのなか、きょろきょろとする咲夜。やがて視線が一点へとロックオンされた。視線の先を辿ってみる。
チョコバナナだった。……昼飯、なのだろうか。
「チョコバナナ食べたいのか?」
「えっ!? ど、どうして分かったんですか!?」
いや、分かるから。
普段昼飯に素うどん、お腹が減ってるときはトッピングでお揚げを追加が所定の咲夜の胃袋なら、こういう昼飯でもありなのか。
中条せんぱい凄いです的な視線を無視して露店へ近付く。咲夜も直ぐについてきた。列に並ぶが、それほど待たされることは無かった。時間が掛かるような店でもないしな。
「チョコバナナ2つ」
「はいよ~、400円……って、生徒会の人じゃないですか」
「ん? ああ、そうだが」
俺の知名度も上がったものだ。……いや、視線が腕章に向いてるな。俺の知名度はそんなものか。
「えーと、2本で200円です」
下がった。
「いや、急にどうした」
俺が買いに来たのはチョコバナナだ。別にお前を取って食おうというわけじゃないぞ。
「生徒会の人は半額になります」
特別ルールがあるらしい。いやいやいや。
「そういうものなのか?」
「はい。御堂会長にはお世話になっていますから」
……。
結局、あの男に繋がるわけか。まあ、安くなるのに文句があろうはずもない。言われた金額を支払いチョコバナナを受け取る。それを咲夜に渡そうとして、咲夜の視線が別の方向を向いていることに気付いた。
「リンゴ飴か」
「わ、私別に食い意地張ってないですよっ!?」
……。
「……あ」
自ら墓穴を掘ったと自覚したのか、咲夜は消え入りそうな声色で「ありがとうございます」と言いチョコバナナを受け取った。不憫すぎる。
……仕方が無い。
「ここら一帯の甘い物を全て制覇してみるか」
そう宣言してみる。
「ええっ!?」
俺の宣言に、咲夜はチョコバナナを取り落としそうになった。
「わ、私これ1本で十分満足ですっ! ご馳走様ですっ!!」
チョコバナナを掲げる咲夜。勇者が剣を掲げる構図にそっくりだが、咲夜にチョコバナナなので可愛いだけだ。浴衣姿なのがまたいい。
「いや、俺が食いたいだけだし。全部2つずつ買うから、欲しいのがあったら横から摘まむといい。いらなけりゃ全部俺が食う」
そんな可愛い女の子と2人で食べ歩きなのだ。多少は格好つけたくなるものだろう。『生徒会役員は半額対応』とやらがどこまで適応されるのかは知らないが、適応されずともしょせんは学園祭の露店だ。ぼったくりのような金額にはならない。そんな店があったら企画の段階で副会長様に叩き潰されているだろう。
「じゃ、順番に回ってくか」
歩き出す。遅れて咲夜も続いて来た。はにかむようにして「ありがとうございます」と呟く咲夜の姿が見れたのだ。多少ぼったくりでも目を瞑ることにしよう。
☆
大量の戦利品を抱えて教会前の広場へとやってきた。
思った通りこちら側にはほとんど人が来ていない。噴水のあるこの場所までは立ち入り禁止ではないものの、出し物がまったくないスペースだ。あるのは見学不可の教会だけ(教会としてそれはどうかと思う)。迷ったか、もしくは人混みにまいった人が休憩しに訪れるくらいしか活用方法がないのだから当然だろう。
噴水脇の石段に腰掛ける。
「ここで良かったか?」
「は、はい。ありがとう、ございますっ、ととっ」
おっかなびっくりといった感じで、咲夜が抱えていた物を地面へと下ろす。俺もその横に並べるように置いた。ベビーカステラにミルクせんべい、ワッフル、パンケーキにミニクレープ。今日は少し冷えるので、飲み物にホットココア。そして手にはチョコバナナにリンゴ飴、わたあめまで握られている。見事に甘い物づくしだ。周囲の魔法に疎い人たちにバレないよう、こっそり浮遊魔法を使ってなければ何度ひっくり返していたか分からん。
「じゃあ食べるか」
「はい。あの、本当に良いんですか? その、お金」
「気にするな」
全て半額だったしな。会長様々だ。
なおも遠慮する姿勢を見せる咲夜を無言で拒絶するため、先に食べることにする。
とりあえずチョコバナナにかぶりついてみた。
うん。甘い。バナナ本来の甘さとコーティングされているチョコの甘さが絶妙に絡み合い、凄まじい甘さが表現されている。
続けてわたあめを口にしてみた。
うん。甘い。先にチョコバナナにかぶりついたせいで初めは甘味を感じなかったが、じわじわと砂糖の甘さが広がってくる。とても甘い。
リンゴ飴を舐めてみた。
うん。甘……、いや。味が分からん。多分甘いのだろう。よく分からなくなってきた。
「いただきます」
俺が好き勝手に食べ始めたのを見て、咲夜もようやくその気になったらしい。チョコバナナを口にする。蕩けるような表情をした。幸せそうである。1本100円の半額チョコバナナでこの表情を引き出せるなら、実に安い買い物だったと言えるだろう。
咲夜がチビチビ食べ始めたのを見計らい、こちらも適当に手を伸ばしていくことにする。チョコバナナとわたあめを平らげ、リンゴ飴をベビーカステラのパックに置く。これは後でいい。ベビーカステラ、ミルクせんべいと順番に食べていく。
あま。
……くそう。しょっぱいものが恋しい。何か買っておけばよかった。ソースのあの香りが懐かしく感じるぞ。
「……ん?」
ふと感じた、違和感。
「どうかしましたか? 中条せんぱい」
「いや、何でもない」
首を傾げる咲夜に手で応え、再び甘味を頬張った。
あま。
☆
「食べた食べた」
「凄いです……。あれだけの量が全部無くなっちゃいました」
結局、咲夜が戦力になるはずもなく。
それぞれの甘味にちょこちょこ手を伸ばし、終了。予想はしていたが、予想通りに全部俺が平らげることになった。
当分、……甘い物はいいです。
「あの、御馳走様でした。ありがとうございます、中条せんぱい」
「いいからいいから」
金銭的には、このくらい全然問題無い。問題なのは甘い物を食べすぎたせいで気持ち悪いことだ。
「……それにしても」
咲夜のペコペコ頭を下げる回数がおかしくなる前に、話題を変えてやることにする。
「こっちには本当に人が来ないな」
ちらほらいた人もいなくなり、今は俺と咲夜の2人しかいない。入園時には校内マップが配られているから、ちゃんとマップさえ見ていればこちらに来る人は滅多にいないだろう。こんなものなのだろうか。
「えと……。反対側のグラウンドでは、箒を使った飛行レースとかしているので、多分みなさんはそちらに行っているのではないかと」
そうか。そういえばそんな企画もあったな。
「悪い。そっちの方が良かったか?」
飯を食うなら静かなところの方がいいかと思っていたが、そういった催しがあるのなら観戦しながらというのも面白かったかもしれない。
「い、いえっ。私、静かなところの方が好きですし、人が多すぎると多分目を回しちゃいますし……」
咲夜は慌てたように両手を振って答えた。遠慮してそう答えた可能性も無くは無いが、まあ済んでしまったことは仕方が無い。咲夜の厚意をありがたく頂いておくことにしよう。
「さて、そろそろ時間か」
ポケットから取り出した懐中時計で確認する。混雑していたので飲食系の露店を一回りするだけでも時間を使った。そこから移動して、食べて。ちょうど良い頃合いだろう。
「そうですね。あの、本当にありがとうございます。貴重なお時間を頂いてしまったうえに、そのご馳走にまでなってしまって」
「おう」
ズボンを払って立ち上がる。甘い物を食べて終了になってしまったが、昼休憩1時間でやれる事と言ったらこのくらいだろう。
……それに、先ほどから気になっていることもある。
咲夜と協力して食べ散らかしたゴミを纏め、本館へと戻ることにした。
☆
教会前の広場から階段を下り、再び人混みの激しい通りへと戻ってきた。相も変わらずの混み具合だ。今年の文化祭も大成功といったところだろう。
……あくまで表面上の滑り出しは、に限られるが。
咲夜とはぐれないように歩調を意識的に緩めながら、歩く。行き交う人へ道を譲り、または道を譲られながら進む。普段なら直ぐにでも着いてしまうような場所へも、この状態ではそれなりに時間が掛かる。多少早めに切り上げたのは正解だったと言えるだろう。
「その、ここまでで大丈夫ですっ!! ありがとうございました!!」
昇降口前まで来たところで、咲夜が頭を下げてくる。
「そうか」
立ち止まったのと同時に後ろの人とぶつかってしまった。お互いに頭を下げあい、場所を譲って道の隅へと移動する。
「あの……、誘って頂けてとても嬉しかったです」
「食べるだけになってしまって悪かったな」
「い、いえいえいえそんなっ」
ぱたぱたと手を振っている。仕草1つひとつが小動物みたいで愛らしい。
「クラスまで行かなくて平気か?」
「平気ですっ」
元気よく答えてくれる。まあ、そちらの方が今の俺としてはありがたい。
「じゃ、時間作ってまた顔出しに行くから」
「はい。楽しみにお待ちしてますね。それではっ!!」
咲夜が人混みを縫って本館の中へと入っていく。何度かこちらへ振り返ってきたから、手を振ってやった。とはいえ、この人混みだ。咲夜程度の身長なら直ぐに埋もれてしまう。咲夜の姿は直ぐに見えなくなった。
……。
さて。
「何の用だ。用件があるなら早く話せ」
昇降口の方へと向いたまま、背中から感じる視線の主へとそう告げる。
周囲では様々な人が行き交っている。話し声、笑い声、様々だ。しかし、俺の声はきちんと目的の人物へと伝わったらしい。
「生徒会役員、中条聖夜とお見受けする」
喧騒のなか、その声はしっかりと俺の耳へ届いた。
振り返る。顔も名前も知らぬその学園生は、黄黄魔法学園の制服を着ていた。
ごった返す人混みのなかで、その男は1人ぽつんと立っている。昇降口前にはわずか三段だが段差がある。こちらからは人混みを少し上の角度から見下ろせるため、その男は直ぐに特定できた。
それほど遠い距離ではない。お互いの声がこの喧騒のなかしっかりと届いているのだ。そんなものだろう。しかし、身体強化魔法で距離を詰めることはできない。人が邪魔だ。うまい場所にいるものだ。
「こちらには気付いていないものと思っていたが」
「馬鹿か。そんな稚拙な尾行で何を言い出すかと思えば。人のデートまで監視しやがって」
教会前の広場で感じた視線の主はこいつで間違いないらしい。
「それは失礼を」
男が軽く一礼した。その仕草に違和感を覚える。なるほど、どうにも視線がうつろだとは思っていたが、こいつも操作魔法下にあるのか。
「で、用件は」
「まずはこれを見て貰いたい」
男が、黄土色のブレザーのボタンを外す。そして、少しだけその裏側を見せてきた。カラフルな筒状の何かがぎっしりと付けられている。
魔法の爆竹かよ。
好きだなその手法。……まあ、いざ見つかった時は「いたずらのつもりで」とでも言えば何とでもなる物だし、この人混みのなかでやられたら一般人に被害が及ぶ。悪くはない戦法ということなのか。
「君の自由は俺が握っている」
「そうか」
頷く。
紅赤の学園生・一獲千金は、俺が呪文詠唱できないことを知っていた。そして、身体強化魔法が使えることもバレている。つまり、これで俺の動きを封じることができたと考えているわけだ。
面白くないな。強襲による宣戦布告からここまで、全て相手側の目論み通りということになる。ここでひとつ、向こうの策略を掻き乱してやるか。
「中条聖夜、俺につ――がっ!?」
転移魔法。
使うか否か。
空中。
男の目の前に転移した俺は、何か言っている男の頬を蹴り飛ばした。
人混みのなかに転移することはできない。万が一誰かと重なってしまえば、その人は死んでしまう。何もない空間、頭上なら安心だ。人混みのなか、こちらに集中している奴もいないのだから、何が起こったかなんて誰も分からないだろう。俺がこの男を蹴り飛ばしたところは見られただろうが、それだけだ。
不意の一撃で男は意識を失ったらしい。そのまま倒れ込む。
「きゃあああっ!?」
悲鳴が上がる。一瞬にして俺と倒れた男の周囲から人が消えた。人垣ができあがる。
あ、やべ。魔法に疎い人間ばかりだからという面で安心していたが、それだけじゃなかった。そう言えば、この状況に対する言い訳を考えるのを忘れていた。
「あー、えーと」
寄せられる好奇な視線に何と言うべきか口を濁していると。
「オーウ、タスカリマーシタ!!」
「あん?」
怪しいイントネーションの言葉を放ちながら、人垣を掻き分けて1人の男がやってきた。
ニット帽にサングラス。……見た目も怪しかった。
しかも。
「あ、あんたっ」
絶句した。
衆人環視のなかやってきたのは、ウィリアム・スペードだった。何しに来たんだこの人。自分の知名度がどれほどのものか分かっていないのか。
俺の心情を余所に、ウィリアム・スペードは屈み込んで倒れた男の懐をまさぐる。そして、ブレザーの陰で自分の袖から自分のであろう財布を取り出した。
「アリマーシタ!! ワタシノサイフ、ブジネ!!」
それをあたかも男の懐から取り出したかのように掲げて喜ぶ。
マジシャンか、あんたは。
……魔法使いか。それも世界最高峰の。
「アリガトウゴザマース!! ホントカンシャデース!!」
俺の手を取り、両手でぶんぶん振ってくる。そこでようやく周囲の理解が追い付いたらしく、拍手が起こった。「すげー」とか「流石は魔法学校」とか聞こえてくる。
「ゼヒトモオレーシタイデース」
オレー? お礼か。
「いや、別に俺は」
「オレーオレー」
ふざけてんのかこの男。
「えっと、連れがすまないね」
人垣を分けてもう1人やってきた。同じくニット帽にサングラス。
……今井修だった。ほんとなんなんだこの人たち。
「できれば少しだけ時間、作れないかな。ちゃんとお礼もしたいしさ」
……。
ウィリアム・スペードの方を見る。人を喰ったかのような笑みを浮かべている。周囲の反応を見るに、俺がこの男に助けられたのは間違いない。ただ、この男は慈善活動をする立場にいるような人間ではない。
なるほど、最初からこれが狙いだったか。うまく足元を掬われたのかもしれない。
仕方が無い。
「あー、ちょっと待ってください。このままにしておくわけにもいかないので」
周囲の人間には生徒会の腕章を掲げ、見世物じゃないことをアピールし、散らせる。ピッチを取り出した。
目当ての人間には直ぐに繋がる。
「片桐か。急で悪いんだが昇降口前で1人潰した。引き取ってくれ」
何やら電話越しで叫んでいるようだったがそのまま切った。
超ひっさしぶりのテレポート。
タイトル詐欺もいいところ。
いやあ、自分で作った数ある縛りの中で一番ミスった項目ですね(他人事)
【今後の投稿予定】
1月2日0時 第3話
1月3日0時 第4話