第4話 『黄金色の旋律』中条聖夜vs『ユグドラシル』天上天下
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各章最後のオマケとして、小説家になろう様サイトでは未公開のショートストーリーも掲載していますので、お時間ありましたらぜひお楽しみくださいませ。
※一部描写を修正しました。
☆
古代都市モルティナを抜け、その足で創造都市メルティへと向かう。
師匠達に連絡するか悩んだが、やめておくことにした。
理由は2つある。
1つめは、合流することで余計な知識量が増えてしまうかもしれないということ。『脚本家』の遡りの神法には制約がある。それは、遡りの前後で保有する知識量に差がある程、消費される魔力量も増えてしまうというものだ。俺が危険区域ガルダーへ蟒蛇雀と移動してから、魔法世界で何があったのか俺はほとんど知らない。師匠達と合流して会話をすればするだけ知らなかった知識は増えてしまう。それが原因で消費魔力が増え、遡りできないという結末になったら笑えない。
そして、2つめ。これで万が一遡りを否定されてしまったら、面倒なことになるからだ。俺は遡りの正当性について助言が欲しいわけじゃない。俺の中で遡りをすることは確定事項だ。それなら、否定される危険を冒してまで連絡を取る必要は無い。
どうせ、このルートは消えてなくなる。
そうなってもらわないと困るのだ。
交通手段を使えば足がついてしまう恐れもある。
移動は全て身体強化魔法で行う。
建物の側壁を走り、屋上から屋上へ跳躍する。人気の無いところを極力選択して移動しているうちに、行き交う人達の様子がおかしいことに気付く。最初は、俺や天道まりかが蟒蛇雀と大規模な魔法戦を繰り広げたからだと考えていたのだが、それが間違っていることがすぐに分かった。
どうやらこのルートでも属性奥義が使われたようだ。
しかも、発現されたのは貴族都市ゴシャスらしい。
果たして、アイリス様は無事なのか。王城まで被害は届かなかったらしいが、第1級から第3級までの一部地域が壊滅状態と聞いた。アイリス様は王城を抜け出す悪癖があった。運が悪ければ巻き込まれている可能性だって十分にある。
それに加えて、気になる点がある。
属性奥義は、そう簡単に発現できないということだ。
属性奥義の発現には、通常の魔法発現とは違う縛りがある。1つめに、詠唱破棄や遅延術式の対象外であり、発現までに5分の時間を一律で要すること。2つめに、発現者はその場から動けなくなり集中が途切れると発現が失敗すること。3つめに、発現者を中心とした範囲攻撃であり、遠くを狙い撃ちできないこと。4つめに、準備期間中は、発現者を中心とした半径30mの球体上に幾重もの折り重なった光り輝く魔法陣が展開されるということだ。
ここには師匠もいるし、貴族都市なら王族護衛『トランプ』だってすぐ近くにいたはずだ。そんな場所で、馬鹿でかい光る魔法陣を5分間も展開させられるだろうか。正直、現実的では無いと思う。何らかの理由で、少なくとも師匠や『トランプ』の面々は駆けつけられない状態になっていたと考えるべきか。
それか、属性奥義の発現に抜け道があるか……、だが。
おそらく、今のウリウムならその答えを知っているだろう。エマの死も感知していたのだ。記憶の同期とやらをする前に起こった出来事なら、ウリウムは知っているに違いない。だが、これは聞かない方が良い情報だ。
『答えることはできないが、君にも可能な手法だったとだけ言っておこう』
いつかの遡り前に、『脚本家』はそう言っていた。属性奥義について調べないといけない、と思いながらもすっかり忘れてしまっていた。果たして、『ユグドラシル』はどうやって属性奥義の欠点とやらを克服したのか。遡りに成功したら、今度こそ調べてみる必要がありそうだ。
☆
エルトクリア魔法学習院は、不気味なほどに静まり返っていた。
以前、修学旅行で来た時にウィリアム・スペードやアルティア・エースと揉めた事のある道を歩く。本当に誰もいないかのようだ。豪華な正門を潜り抜け、敷地内に足を踏み入れたにも拘らず制止する者は誰もいない。
正面にある、王城エルトクリアに似た西洋風の城のような校舎を見上げる。至る所が破壊されており、一部からは未だに煙が上がっていた。どうやら、俺が『脚本家』の分身体を連れて転移した後も、『ユグドラシル』は誰かしらと戦っていたらしい。両サイドにもとんがり頭の塔があるが、エルトクリア大図書館があるのは正面に控える城のような建物だ。そちらへと足を向ける。
《マスター》
「……分かっている」
俺が感知した直後に、ウリウムから声が掛かる。
いる。
間違いなく。
俺が目的地としている場所に。
気配を隠そうともしていない。
むしろ、ここにいるぞ、とあえて魔力を垂れ流しているようだ。
俺の『知覚拡大』と『神の書き換え作業術』の合わせ技を使えば、相対する前に仕留めることはできる。しかし、『知覚拡大』を使用するためには、先に『魔力暴走』を使用する必要がある。問題なのは、今の俺が『魔力暴走』を使用した後、もとの状態に戻れるかということである。
このルートに至るまで、俺やエマ、師匠は数えきれないほどの遡りをしてきた。最初の遡りが行われる前までの俺の実力では、一度『魔力暴走』を使用してしまえば、基本的に自らの魔力が底を尽くまで解除することができなかった。それが『脚本家』の神法の不具合とやらで、自らの意志で解除できたことがある、という状態になっている。
その不具合とやらの効果は永続するのか?
そもそも、蟒蛇雀との死闘後、治癒魔法で回復した今の俺はその状態に至っているのか?
答えは、分からない。
実際に使ってみる他に証明できない、だ。
そうなると、ここで『魔力暴走』を使用するのはリスクが高過ぎる。魔力切れになるまで解除できなければ、その後の俺は使い物にならなくなる。折角敵を排除できたとしても、そこで動けなくなるなら意味が無い。俺はここに敵を殺しに来たわけでは無く、『脚本家』に遡りの神法を発現してもらうために来たのだ。
先手必勝で『魔力暴走』を使用するか。
それとも、『魔力暴走』は使用せずに戦闘に突入するか。
どちらにもリスクはある。ただ、ある程度の運が作用したとは言え、あの蟒蛇雀を下したという事実が俺に一定の自信を与えていた。
「正直、頭を使うのは俺の仕事じゃないんだよな……」
頭を掻きながらそう呟く。
《適材適所を自覚できるのは大切よ。でも、1人だけで判断しないといけない時は絶対にあるわ》
「分かっているよ」
つまり、それが今というわけだ。
つくづく、これまでの自分は誰かに頼り切っていたのだということを痛感させられる。
「『魔力暴走』は極力使わない。目的は敵を倒すことじゃないし、『脚本家』に会うことでもない。『脚本家』に神法を発現してもらうことだ。説得に時間が掛かる可能性もあるし、そもそも本体がいる最奥の間とやらにすぐに行ける保証も無いんだ。ガス欠になるリスクは取りたくない」
《概ね同感よ。ただ、マスターに自信はあるの?》
「あるさ。お前もいる」
《……そこまで頼られちゃあ、一肌脱ぐしかないわね》
頼りにしているぜ、相棒。
階段を上る。
静まり返った階段を。
そして、待ち人のいるフロアへと到達した。
「来たか」
その声を聞く前から、俺は待ち人が誰なのか分かっていた。
心の奥底へと沈んでいた怒りが、再びゆっくりと浮上を始める感覚を味わう。
待ち人は、エルトクリア魔法大図書館の入口付近で、壁にもたれかかるようにして待っていた。左手には禍々しい魔力が凝縮された錫杖。その男に右腕は無い。そして、なぜか顔の右半分も包帯で隠されており、眼球部分が赤く染まっていた。
どうやら、俺が転移でいなくなった後の戦闘で負傷したらしい。それは、果たしてこのエルトクリア魔法学習院の中で行われた戦闘なのか、それとも拠点に戻った後でエマとの戦闘なのか。それは俺には分からない事だ。
そして、そんな些細なことを今の俺は考慮する必要もない。
「中条聖夜」
待ち人の顔がこちらへと向く。
全身を漆黒のローブで覆い隠している男。
おそらくそのローブの背には、葉の無い樹木が描かれているのだろう。
『ユグドラシル』創設者アマチカミアキの側近。
その3人のうちの1人。
天上天下。
以前の俺であれば、絶対に正面から相対したくない相手だった。
しかし、今の俺からすれば、敵の中で一番会いたい相手だった。
「まさか、真っ先にここへ訪れるとはな……。ここへ戻ることを了承してくださった我が主に感謝をしなければ」
「感謝? そうだな……、感謝しよう。俺もお前の主とやらに。まさか本当にこの……、そうだな、世界線、とでも言おうか。この世界線でお前に会えるとは思わなかった」
「……何?」
俺の言葉に、天上天下が深く被ったフードの奥で怪訝な表情を作る。
《……マ、マスター?》
俺は、声が震えないようにするのに必死だった。
この震えは、怒りから来ているものでは無い。
――――歓喜だ。
「天上天下。どちらにせよ、お前は俺の手で殺してやるつもりだった」
嬉しい。
この世界線で会えたことが、何よりも嬉しい。
「でも、まさか遡り前に会えるなんて……。こんなに嬉しい事があるか? あはは」
思わず笑いが込み上げてくる。
それでも、足は止めない。
ゆっくりと、天上天下との距離を詰めていく。
俺の様子に何かを感じ取ったのか。
天上天下の目が僅かに細められた。
「よくもエマを殺してくれたな。エマを殺した世界線にいるお前を、今から俺の手で殺してやることができる。あぁ……、嬉しい。初めてお前達の主とやらに感謝の気持ちを覚えたよ」
まあ、そもそもお前らの主が馬鹿な事を考えなければ、こんな事態にはなっていないわけだが。
「……正義の味方が口にする言葉とは思えんな」
「セイギノミカタ?」
こいつは、何を言っているんだ?
「この世に正義なんて無いだろう。あるのはそれぞれの身勝手な……、正しさの押し付け合いだろう?」
今の俺が、まさにそうだ。
俺が生かしたい奴を生かし、殺したい奴を殺す。
ただ、それだけのことだ。
「変わったな、中条聖夜。実験棟で泣きじゃくっていた人物とはまるで別人だ」
足を止める。壁に体重を預けていた天上天下が、姿勢を正して俺の方へと向き直った。あまり広くは無い学習院内の廊下で向かい合う構図となる。
「変えてくれたのはお前達だ」
天上天下が僅かに錫杖を揺らす。錫杖の輪形に通された計12個の遊環が澄んだ音を鳴らした。以前なら、その音を聞いただけで恐怖を感じていたかもしれない。しかし、今の俺には何の恐怖も感じない。
なぜだろう。
本当にこれっぽっちも恐怖を感じない。
あるのは、ただただ純粋なる殺意のみ。
「天上天下。戦う前に、1つだけ俺の我が儘なお願いを聞いてくれると嬉しい」
「……何だ?」
俺は、笑みが浮かぶのを隠し切れなかった。
とびっきりの笑顔を浮かべて願いを口にする。
「できるだけ、粘って死んでくれないか。可能な限り……、1秒でも長く、お前には長く苦しんで欲しいんだ」
一瞬の空白。
その意味が伝わったのか、天上天下の表情が露骨に歪んだ。
「……言うようになったな。リナリー・エヴァンスの犬風情が」
「それを言うなら、お前だってアマチカミアキの犬だろう?」
鼻で嗤いながら俺は続ける。
「陰でこそこそ逃げ回っているだけの屑に、なんでそんな盲目的に従っているんだ?」
俺の言葉に、天上天下の纏う空気が一変した。
「貴様ごときが、その尊き名を口にするな!!」
錫杖を一閃。
その一直線上にあった学習院の側壁が、斜めに切断された。
それをしゃがむことで回避した俺は、即座に『神の書き換え作業術』を発現する。
跳躍なんて必要ない。
だって、俺にはこの無系統魔法がある。
天上天下の真正面に転移した。
追撃の姿勢を見せていた天上天下の表情が、驚きの色に染まる。それでも、俺の姿を視認した瞬間から、すぐに防御の姿勢を取ろうとするあたり、この男の技量の高さが窺える。
しかし、だからどうしたという話だ。
錫杖が僅かに光を放ち始める。
それよりも早く、俺の身体強化魔法を纏った拳が、天上天下の左頬を捉えた。
天上天下が後方へと吹き飛ぶ。
感触で分かった。
咄嗟に魔力を纏ったな。
再び『神の書き換え作業術』を発現する。
転移対象は俺じゃない。
天上天下だ。
吹き飛んだ天上天下を呼び戻す。
手元に戻った天上天下の襟首を掴み、廊下へと叩き付けた。
吹き飛んだ勢いが残っていたが、身体強化を纏った拳で強引に圧し殺す。叩き付けられた天上天下の口から血の塊が溢れ出したので、『神の書き換え作業術』を発現して俺の顔にかかるのを防いだ。
左頬を腫らした天上天下が、苦悶の表情を浮かべながら呻いている。錫杖を握る手が動いたので、咄嗟に『神の書き換え作業術』で切り落としてしまった。
「あ……、失敗した」
思わず本音が漏れる。
本当なら、切断はもう少し先延ばしにするつもりだったのに。
激しく咳き込む天上天下を見下ろしながら、次はどうしようかと思いを巡らせる。
しかし、それにしても五月蠅いな。
お前だって、エマに同じ事をしていただろう。
何をそんなに苦しんでいるんだ。
踏みつける。
1発、2発、そして3発と。
殺さないように細心の注意を払いながら。
天上天下が痛みに転げまわろうとするので、足で食い止める。
「おい……、おいって。天上天下、こんなものかよ。お前の実力は」
踏みつけながら、エマを殺した張本人に聞く。
「蟒蛇雀は、もっと強かったぞ。お前、あいつより立場が上なんだよな。3人の側近と4人の最高幹部。美月から聞いたぞ、お前達『ユグドラシル』の組織構成を。お前、アマチカミアキって屑野郎の側近なんだろう。もっと気張れよ、ほら」
蹴り飛ばす。
2回ほどバウンドしてから、天上天下は廊下を転がった。
その勢いが消え去る前に、天上天下が跳ねるようにして起き上がる。
両腕が無いので、脚の力だけで体勢を整えたようだ。
その動きがなぜかムカついたので、『神の書き換え作業術』を使用して両脚を切断してやった。支えとするものが無くなったせいで、流石の天上天下もバランスを維持できずに、そのまま廊下に転がった。
「無様だなぁ……」
その様子を眺めながら言う。
仰向けに転がったまま、天上天下が動かなくなる。
しかし、まだ呼吸はあるようだ。
「本当に無様だよ、天上天下。お前、その程度の実力だったのか」
全然恐怖を感じない。
この程度の男が側近か。
蟒蛇雀さえいなければ、師匠の手を煩わせることなく俺1人で『ユグドラシル』を壊滅させられるかもしれない。そんな気さえしてしまう。
歩く。
天上天下のもとへと歩を進める。
仰向けに転がった天上天下の視線がこちらへと向いた。
「無駄だよ」
俺の死角で膨張を始めていた天上天下の錫杖を『神の書き換え作業術』で消し去る。
「どこへやったと思う?」
天上天下に問う。
しかし、本当に答えが欲しかったわけではないので、続けて答えを口にする。
「正解は、地中深く。俺だって学習するさ。実験棟での話はウリウムから聞いている。前回はそのせいで空から雨のように攻撃が降ってきたってな。だから、地中にした。地盤沈下させられるほど今のお前に力は残ってないだろう」
天上天下は答えない。
ただただ、その目を俺に向けるのみ。
「ただ、本音を言えばお前の身体の中に転移させたかったんだぜ。でも、しなかった。なぜか分かるか?」
天上天下は答えない。
その視線は、まだ俺に向いている。
「お前のその貧相な魔力じゃ、自分の攻撃を抑え込めないからだよ。お前の身体が汚い花火みたいに炸裂するのは構わないが、この学習院をこれ以上汚すのは忍びない。そういうわけだ」
足を止める。
俺の足元に、天上天下が転がっている。
四肢を切断され、達磨となった天上天下が。
俺は立ったまま、天上天下の顔へと自らの顔を寄せた。天上天下が血を俺に吐き出してきたので、それを『神の書き換え作業術』で再び天上天下の喉の奥へと転移させた。しかし、正確に食道の中へ転移させたわけではない。あくまで天上天下の喉の奥へと転移させただけだ。
俺の無系統魔法は、あくまで「事象の書き換え」によって成り立つ現象であり、転移魔法が発動された時点で全ての情報が書き換えられることになる。よって、転移先で障害物と重なった場合、書き換えられた座標が勝つ。
結果として、転移させた血液の塊が天上天下の食道や首の肉の一部を消し飛ばすことになった。
目の前では、限界まで目を見開いた天上天下が悶えている。
もはや、声すら出せないのだろう。
いや、呼吸もできない状態か。
構わず口を開く。
「お前は、何度でも殺す。これから俺が何度遡りをするかは分からない。だが、するたびにお前だけは必ず殺す。お前に仲間意識はあるか? あるならお前の前で仲間を殺した後に殺す。なければ……、やはりアマチカミアキか? お前の前で殺してやりたいが、師匠が許してくれるかなぁ。お前はどう思う?」
天上天下は答えない。
答えられない。
達磨になった身体を捩り、苦痛から逃げようと藻掻いている。
「まあ、いいか。先の事は後で考えよう」
どうせ、出会った瞬間に殺すのだ。
その時に利用できる奴を使えばいい。
どちらにせよ、『ユグドラシル』は殲滅する必要があるのだから。
「じゃあ、俺はそろそろ行くよ」
もうこれ以上は時間の無駄だろう。
そもそも、こいつと戦っている時間すら、ただの浪費だったのだ。このルートは無しにしてもらう必要があるのだから、ここでいくら戦果を挙げたところで意味を成さない。あくまでこれは俺の私怨によって実現した戦いだった。
未だ身体を捩り悶えている天上天下。
その顔面に足を振り下ろす。
強化魔法を纏った足だ。
頭蓋骨が割れる音。
そして、ぐちゃりという粘り気のある音。
それが同時にした。
それだけで、1人の命が消えた。
「こんな簡単に、人って死ぬんだよな」
誰かにとって大切な命も。
悪意を持った人間がいれば、こうも簡単に死んでしまうのだ。
だから、力がいる。
大切なものを守るためには、守る力がいるのだ。
「行こうか、ウリウム」
《……マスター》
か細い声だった。
「どうした?」
《マスター、大丈夫?》
「大丈夫さ」
確かに『神の書き換え作業術』は連用したが、副作用が出るほどじゃない。
そう言えば、ウリウムに活躍の場を与えてやれなかったな。
頼りにしている、と言っておきながらこれでは悪い事をしてしまったかもしれない。
《そうじゃなくて……、その、心の方。大丈夫?》
……こころ?
「はは」
何を言うのかと思えば。
「大丈夫さ」
もう一度、同じ言葉を返す。
強がりじゃない。
本当に問題ない。
だって、人を殺すと覚悟を決めた時から、既に壊れているから。
そうでなければ、この世界でやっていけないだろう。
なぜそんな当たり前のことを今更聞いてくるのだろうか。
俺は分からなかった。
次回の更新予定日は、2月26日0時です。




