10話
登校の足取りは重い。苛立ちは、歩くほどに冷めていき、代わりにじっとりとした不安が腹の底に居座り始めた。
校門が近づくにつれ、腹がきゅるきゅると鳴った。
ひゅーひゅー、と細い笛のような音を立てて、秋めいた風が昇降口を吹き抜けていく。季節の変わり目はいつだって気まぐれだ。今日の空気はことさら肌を刺した。
学ランの硬い襟に顎を沈めた一丸は、吐息をこぼした。
反射的に逃げ込んだ校舎の柱は、しんと冷え切っていた。背中から伝わるコンクリートは、この焦燥に答えてくれるはずもなく、ただ自身の惨めさを際立たせるだけだ。
――おれは何をしているんだ。
「おはよ。丸ちゃん、何してんの?」
突如降ってきた声に、肩がびくりと跳ねた。
「珍しいじゃん。丸ちゃんがこんなに早く登校するなんて」
普段なら、早起きくらいするわと噛みつくところだが、今はそれどころではない。「しっ、静かにしろ」と口に指を当てた。
こっちにこいと、ブレザーの裾を掴み、半ば強引に引き寄せる。指先に伝わる生地がやたらと柔らかくて、馬鹿みたいに力んだ自分を余計に虚しくさせた。
「ちょっと、何なのよ?」
舌打ちをした詩亜はあからさまに眉をひそめ、口を尖らせた。それでも、廊下の角を曲がっていく上級生の背中が完全に見えなくなるまで、沈黙に付き合ってくれる。
「もう、行った?」
恐る恐る訊くと、深く、重たいため息が返ってきた。
「あの金髪の人?」
呆れたように首も振る。
「たく。何やってんだか」
呟きだけを足元に残して、詩亜は校舎の奥へと消えていった。
わかっている。ちゃんちゃらおかしなことをしていることくらい。頭のどこかでは冷めた自分が嘲笑っている。
でも、どうすればいいのだ。
誰か教えてくれ。
行き場のない怒りの行き先を見かねたのだろうか。授業の合間には、ふらりと現れた駿に声をかけられる。騒がしい教室を背に眺める廊下の窓からは、体操着を着た下級生たちが、グラウンドに集まってくるのが見える。
「また、例の先輩?」
いくら駿とはいえ、今の鬱屈をぶつける気にはなれなかった。サドルの件も心配だ。
「駿の方は?」
「僕は平気だよ」
そう言いながら窓の外に目を向ける駿の景色は、下級生の女子なのか、それともその先の何かなのかは判断がつかなかった。
ひとまず安心はした。でも、自分だけが目をつけられている。その事実が、一丸の焦燥をじりじりと逆なでた。
「……あんまり学校では、おれと一緒にいない方がいいかもよ」
せめてもの虚勢。だけど駿は、「丸ちゃん、女子たちから人気あるからなあ。ファンクラブもあるみたいだよ」と冗談めかして受け流した。「やっぱり丸ちゃんはすごいよ」
そんなんじゃない。否定しようと口を開きかけたとき、窓の外から甲高い声が飛んできた。




