↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古都怪異帖(千年の時を超えて語り継がれる、京都の怪異譚集)  作者: カトラス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/67

『祇園祭の骸』

 祇園囃子が町を包む七月の夜。浴衣の袖がすれ違う宵山の通りには、目を細めるほどの提灯の列が続いていた。


 僕は大学時代、写真サークルで「祇園祭の“裏”を撮る」というテーマを決めていた。ガイドブックに載らない、小さな町会や人通りのない路地を撮り歩くのが目的だった。


 その夜も、八坂神社から離れた西の裏通りをひとり歩いていた。鉾も山もない、静かな通り。

 けれど、なぜか風鈴の音だけがカラカラと響いていた。


 「……この辺、提灯ないのに」


 不思議に思って見上げると、そこに一対の駒形提灯が揺れていた。

 紙の色は古び、朱も褪せて、模様は読み取れない。だが、その真下に、何かがぶら下がっていた。


 人形だった。


 いや、違う。人形のように見える何か。藁か髪か、判然としない繊維が垂れていた。


 思わずシャッターを切った。


 その瞬間、耳元で声がした。


 「……まにあわへんかった……」


 振り返ると誰もいない。だが背中が氷のように冷たくなる。


 急いで帰宅し、写真データを確認した。


 その提灯の下には、たしかに“人”が写っていた。

 浴衣姿の少女。顔は白塗りで、口元が大きく裂けていた。


 翌日、町会の掲示板に目をやると、ある張り紙があった。


 「◎◎町青年団、昭和三十年に中止となった山鉾再建のため、今宵再興いたします」


 それは、昨夜僕が歩いた裏通りの町名だった。


 しかし、地図を見てもその町は存在しなかった。


 知人の地元民に訊ねたところ、彼は眉をひそめてこう言った。


 「あそこは昔、土地開発で町内会が吸収されて消えたんや。山鉾も、人も、名前も忘れられてしもうた。……再建の話? 聞いたことない。……あんた、ほんまに見たんか?」


 あの夜の写真は、今も僕のPCの奥底に残っている。

 その少女の顔だけが、日に日に解像度を増しているように思えるのは、きっと気のせいだと思いたい。


 ただ、祇園祭のたびに、あの風鈴の音が耳の奥で響くのだ。


 「まにあわへんかった……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。