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古都怪異帖(千年の時を超えて語り継がれる、京都の怪異譚集)  作者: カトラス


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32/67

『展示室Ⅴの女』

 京都・岡崎。

 平安神宮のすぐ近くに建つ、コンクリート打ちっぱなしの近代建築。

 国立京都国際近代美術館は、四季折々の企画展と洗練された収蔵品で、観光客や学生たちに人気の場所だ。


 だが、その美術館の最上階には、存在していないはずの展示室があるという。


 それは「展示室Ⅴ(ファイブ)」と呼ばれている。


◇

 その噂を聞いたのは、美大の学生時代。

 絵画科の友人・ミズキが、美術館のインターンに通い出してから、おかしくなった。


「ねえ……あの部屋、知ってる?」


 ミズキはある日、小声でそう言った。


「展示室Ⅴ。関係者しか入っちゃいけないって言われてる。でも……昨日、迷い込んじゃったの」


 それは、企画展示の入れ替え期間中のことだった。

 展示品の撤去が終わった夜、清掃スタッフがいなくなったあと――


 ミズキは、ひとりでエレベーターに乗っていたという。


 普段は止まらないはずの「4F」の上に、なぜか「5」のランプが灯った。


「気づいたら、ドアが開いてて……」


 そして、彼女はその階に足を踏み入れてしまった。


 そこは、真っ白な壁に囲まれた細長い空間。

 壁には、1枚だけ絵が掛けられていた。


 それは、白いワンピースの女が、誰もいない部屋の中で微笑んでいる――ただそれだけの絵。


 でもその女の顔が、どこかミズキに似ていたという。


「ねえ……あれ、なんだったんだろう。私、なんで涙が止まらなかったのかな……」


 それが彼女と話した、最後の言葉だった。


 翌朝、ミズキは行方不明になった。


 美術館の監視カメラにも、彼女が帰る姿は映っていない。


 ただ、夜の監視映像にだけ――エレベーターの5階ボタンが、勝手に点灯する瞬間が残っていた。


 館側は一切の詳細を公表していない。

 だが、その日を境に、**展示室の壁が一部「塗り直された」**という情報が、内部スタッフの間で密かにささやかれている。


◇

 数年後、私は再びあの美術館を訪れた。


 静かな展示室をめぐりながら、ふと一枚の絵に目がとまった。

それは、白いワンピースの女性が無人の展示室で微笑んでいるという、どこか既視感のある作品だった。


 解説プレートには、こう書かれていた。


 《無題(Ⅴ)》

 作者不明/発見場所不明/収蔵記録なし



※当館スタッフにより、倉庫より発見された作品。

 表面裏に“返さないで”の走り書きあり。


 私は、思わず後ずさった。

 なぜなら、その女の顔が――私の顔に、似ていたからだ。


 そしてその瞬間、ふいにエレベーターの「5」のランプが点灯した。

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