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古都怪異帖(千年の時を超えて語り継がれる、京都の怪異譚集)  作者: カトラス


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『鳩の呪い絵馬』

 あれは、京都に引っ越して半年ほど経った頃のことだった。

 河原町にある専門学校に通っていて、新京極はいつもの帰り道。

 飲み屋、雑貨店、神社、おみくじ……昼間は観光客だらけでも、夜になると意外に静かで、歩いていると妙に心が落ち着く道だった。


 ある夜、友人の由梨とプリクラを撮った帰り、ふと小さな神社が目に留まった。

 四条通のすぐそば――“誓願寺”。

 朱色の鳥居に、小さな鈴と、鳩のマークが印象的だった。


「あ、ここさ、恋愛の願い叶うって噂だよ。鳩が“縁結びの神使”なんだって」


 由梨が言う。

「へー、可愛いじゃん」と、私もそのときは軽い気持ちでお参りした。

 隣には絵馬がずらりと並んでいて、見ていると――ちょっと、妙なことに気づいた。


 全部の絵馬が、鳩のイラストの目を黒く塗りつぶしている。


 しかも、願いごとの内容も普通じゃない。


「○○と△△を別れさせてください」

「□□が浮気しますように」

「元カレが地獄に堕ちますように」

「××の新しい彼女、交通事故に遭えばいい」


……え、なにこれ。怖い。


「呪い絵馬、って呼ばれてるやつじゃん。京都だし、こういうの多いのかもね」

 由梨は笑いながら、自分も1枚絵馬を買って、何か書き始めた。


「え、なに書いてるの?」

「ナイショ♡」

 そう言って、絵馬を鳩の絵の中に下げた。


 それから三日後。

 由梨が、突然連絡を絶った。


 LINEも既読にならない。電話も出ない。

「バイト辞めたらしいよ」とか、「専門も来てない」なんて噂が出始め、私も何度か彼女の家を訪ねた。けれど、誰もいない。


 一週間後。

 ようやく連絡が来た。

 でも――それは、由梨のスマホから送られた“知らない番号”のメッセージだった。


 ごめん。思い出せないの。


 あの人の顔も、名前も、声も。

 何を壊したのかも、何を願ったのかも。


 鳩が、夢に出てきてこう言ったの。

「忘れてあげる。ただし、おまえの恋もな」


 だから、もう恋愛が、何かわからないの。


 メッセージはそれきりで、既読がつくことはなかった。


 数ヶ月後、誓願寺の絵馬掛けにふと立ち寄ってみた。

 あのとき、由梨がかけたであろう絵馬は、すでに見つからなかった。


 けれど――新しい絵馬の中に、ひときわ古びた木札が混ざっていた。

 その絵馬の鳩の目は、黒インクではなく、爪で削ったような傷で塗り潰されていた。


 そして、そこにはこう書かれていた。


「愛された記憶を消してください。

 その代わり、あの人の恋も壊してください」


 私は無言で手を合わせ、

 もう二度とこの場所には来るまいと、強く誓った。



 都市伝説としての噂:


 願いを叶える代わりに、自分の恋の記憶が消えるという条件つきの絵馬。


 鳩の目を黒く塗る“縁を断ち切る”暗示行為とされ、書いた者に呪いが返る。


 一度奉納した者は、3日以内に“ある夢”を見る。夢に鳩が出てきて、条件を告げてくる。



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