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08.思っていたのと……違うかも

 ほんのちょっとだけ、グロく感じる一文があります。


 「さて、獲物の捌き方を教えるぞ。獲物によって少しずつ違うところもあるが、基本は一緒だ。ケラドは、仕留めてしまえば、捌くのは楽な方だ」


 ダニードさんが、刃渡り30センチ近くある大ぶりのナイフを取り出すと、さっそく獲物を解体し始める。俺たちに、よく見ているようにと告げて。


 ……うん、生き物の体を切り裂くって、こういうことなんだよね。

 首を切り落として血を抜き、腹を裂いて傷つかないように内臓を取り出し、こいつの場合は背中の甲羅を引きはがして肉をそぎ落としていく。


 正直、かなりグロかった。


 俺も含めた勇者4人は、表情を硬くして黙りこくったままダニードさんの手際を見ていた。

 誰もそこから逃げ出さなかったのは、そうしたらまずいと思っていたからだろうな。

 ……早見さんだけは、眉一つ動かさずにその光景を見ていたけど。

 この時点で、“この人は別格なんだ”と気付いていれば、心構えが多少は出来ていたかもしれない。


 全てが終わり、用意した皮袋に切り出した肉を入れ、背中の甲羅は加工すると盾に使えるというので近くで取ってきた大きな葉っぱに包んで持ち帰り、残りはひとまとめにして軽く土をかけておく。

 こうしておけば、死肉を漁る動物たちがやってきて、きれいに片付けてくれるという。

 肉の入った革袋や葉っぱに包んだ甲羅は、仕留めた土屋さんの空間収納(イベントリ)に入れることになり、次の獲物を探そうということになった。


 しばらく行くと、少し開けたところに出た。森の中にポツンと小さな草原があり、その片隅にきれいな水の湧いている泉と、ひときわ大きい、見上げるような巨木が生えているのが見えた。

 草原の広さは、教室の倍ぐらいだ。


 「ここはこの通り、水もあるし、一休み出来る場所だ。おれや仲間はここで野宿をしたこともある。あの大木が目印になるんで、ここを合流場所にしておけば、まず迷うことはないから、この周辺で獲物を探してみるか?」


 何でも、猟師になりたての若者が、修業するための場所なのだという。

 年齢的にも、俺たちと大差がないし、単独行動をしても、奥の方へ行かなければ、まず危険はないのだそうだ。

 ダニードさんの言葉に、俺たちはどうしようかと相談した。

 一応、方向を見極める方法なども教わっているし、目印の木が本当に大きくて目立つので、道に迷うことはないだろうということになり、ちょっと行動してみようということになった。


 「オレ、向こうへ行ってみる。さっき、藪の奥が揺れてたような気がするんだ」

 「私は、あちら側へ。ねえ土屋さん、一緒に行かない?」

 「そうね。やっぱり一人はちょっと怖いもんね」


 当然俺は、早見さんと一緒に行動することになった。


 「一つだけ、注意。さすがに、奥へは行くな。もし何かあったら、大声で知らせろ。そして、逃げる余裕があるなら、ここへ戻ってくるんだ。他の人も、誰かの声が聞こえたら、ここへ戻ってくること。いいな。おれはここで様子を見ているから、無理はするんじゃないぞ。昼飯の時間になったら、指笛を吹くから、それが聞こえたら戻ってくるんだぞ」


 ダニードさんの注意を胸に止め、俺たちはそれぞれ考えた方向へと歩き出した。

 早見さんと歩き出してしばらくすると、不意に早見さんが話しかけてきた。


 「……ところで、君たちが考える獲物って当然動物だろうけど、食べられる植物というのもあるよね。そういうのが見つかったら、どうする?」

 「え、それは……」


 もしかして、そういうのが見つかったの?


 「そう。僕も【鑑定】は持っているからね。そこに生えているのは、どうやら“芋”らしい。“美味”と出てるよ」

 「え、ほんと!?」


 俺も慌てて【鑑定】を使ってみた。あ、ほんとだ。


 『“ヤーム”と呼ばれる芋。冬場以外、見つけられる。火を通すと美味』


 そいつは、細めの木に茎が巻き付いているような見た目で、とても芋だとは思わなかったんだが、早見さんはこまめに【鑑定】を使い、見つけ出したらしい。

 こういうところは、堅実なんだねえ。

 試しにナイフを使って掘ってみたら、意外と深くまで埋まっている。

 見た目は、向こう(元の世界)の自然薯によく似てた。あれより、結構太いけど。


 「手伝おうか?」


 早見さんの申し出に、どうするつもりかわからなかったけど、大変そうだったのでうなずいた。

 そうしたら……


 「あ、下がってていいよ。一気にやるから」


 言うが早いか、芋の周囲の土がまるで小さな竜巻に吹き上げられるようにものすごい勢いで舞い上がる。

 それでも、割と近くにいる俺に一切土(ぼこり)がかからない。

 それこそあっという間に芋の周囲から土がなくなり、土の噴出が止まった時には、簡単に芋が抜ける状態になっていた。

 俺は、恐る恐る手を伸ばし、芋を真上に引っ張ってみた。思った通り、簡単に抜けた。

 芋の長さは1メートル近かった。これ、ナイフで掘ってたらきりがなかったな。

 そういう意味では、早見さんに感謝なんだけど……

 何だか微妙に納得出来ない気がする。

 どうやら、<念動(サイコキネシス)>で周囲の土を吹き上げたらしいんだけど、<念動(サイコキネシス)>でここまで出来るんかね? 出来るんだとしたら、この人どこまで器用なの? ものすごい超精密制御だわ。


 しばらく歩きまわったけど、めぼしいものは見つからない。

 そのうち、甲高い笛のような“ピーッ!”という音が聞こえた。


 「どうやら、呼ばれているね。帰ろう」


 早見さんが、少し向こうに見える大木を指さす。

 ああ、そうだね。指笛で呼ぶって言ってたもんね。


 2人で歩いて戻ると、他の3人も戻ってきていた。

 見ると、みんな手ぶらだ。俺たちだけが、芋を担いで帰ったわけだ。

 ダニードさんに芋を見せると、ダニードさんは顔をほころばせた。


 「お、いいものを見つけたな。こいつは,焼くと甘みが出て美味いんだ。子供のおやつにちょうどいいんだ」


 ダニードさんは、泉の近くの地面が剥き出しになっている場所に薪を組み、火を起こしていた。そこは、いつも火を焚く場所なんだそうだ。

 そういや、地面に焦げ跡があったな。

 その火を少しいじり、芋を人数分に切って、濡らした木の葉に包むと、灰の中にうずめるように入れ、芋が焼けるのを待つことになった。


 実際、俺たちは待ち遠しかった。だって“焼くと甘みが出る”って聞いたんだぞ。

 甘いものなんて、異世界に来てから食べてないもん。

 芋が焼けるまで、火を囲んでマントをお尻の下に敷いた形で座り、昼食用に持ってきた堅パンをお茶とともに流し込み、先程捕まえたケラドの肉を火で炙って、持参した塩を付けて食べた。脂身の少ない豚肉みたいな味で、結構美味かった。


 このリーフ王国は、そこそこ資源に恵まれている国で、農耕や牧畜で食料は自給出来、岩塩を含む各種の鉱山があるので塩や金属などもある。だから、持久戦が出来るんだろう。

 ただ、砂糖がないのがちょっと痛いけど。

 それと、お茶。お茶って言っても、実は向こう(元の世界)で言うところの香草茶(ハーブティー)で、いわゆる“お茶”じゃない。

 お茶っていうのは、向こう(元の世界)では“茶の木”の葉を加工したもの。

 こちらには、“茶の木”に当たるものがないらしい。

 だから、香草(ハーブ)を乾燥させ、いくつかのそれをブレンドしたものがこちらで言うところの“お茶”となる。

 今日、水筒代わりの専用革袋に入っていたのは、俺が割と気に入っている味の奴だった。

 だから、期待も余計に増したのかもしれない。


 いざ芋が焼けて、一人ずつ手渡されると、俺は熱さに手をわたわたさせながら、何とか皮をむき、思いがけず黄色くほくほくとした見た目の芋を、ぱくりと一口かじった。


 「……」


 うん、確かに美味(おい)しかったと言えば美味しかったよ。でも……

 味は正直、ジャガイモだった。ほんのり甘く感じる系の。

 俺は、周りを見てみた。

 他の勇者3人も、微妙な顔をしていた。


 わかる! ものすごくわかるぞ!! ()()焼き芋の味を想像してたんだろ?


 「……これはこれで美味しいじゃないか。栽培品種のサツマイモのことは考えちゃいけない。向こう(元の世界)のは、スイーツだ。これは、()()()()だよ?」


 早見さんが、俺たちに言い聞かせるように、ぼそりと言った。

 早見さん、器用に両膝で芋を挟み、皮をむいて食べていた。


 「あんた、まだ若いのにそんな身体で、大変だろう?」


 ダニードさんが、同情したような顔で、早見さんに話しかける。


 「いえ、もう慣れてます。この身体とは、10年以上の付き合いですからね」


 早見さんはそう言って、穏やかに笑った。それを見たダニードさんは、何故か気まずそうに視線を逸らした。

 何だかなあ。

 で、それを見ていた土屋さんが、なんか妙にニコニコしていたのが印象的だった。

 なんだか、いやな予感がそこはかとなくするんだが、なんでだろう……


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