18.破壊工作するぞ!
見つけたくなかったけど、見つけちゃった軍事拠点らしい場所。
早見さんはもう、『攻撃一択』だ。もちろん、正面切って突撃なんかしないだろうけど、何らかのダメージを与えてから去るというのは、確定らしい。
おまけに、土屋さんに声をかけていた。
土屋さんの土魔法を使えば、潜入出来るっていうんだ。
みんなで頭をひねって考えたんだが、思いつかない。
どうした、俺! これでもゲームやアニメ、漫画なんかずいぶん見てただろうが!
勇者組全員がうんうんうなっていると、早見さんが静かに言った。
「堀の周囲は土で、壁は石壁だろう? なら、土魔法でいくらでも変形させられるんじゃないかな? 土で橋をかけたり、積んでいる石に穴をあけたりとかね。前に、土壁に穴を開けたことがあっただろう? あれの応用というか、延長線上の話だよ」
「「「「あ……」」」」
そういやそうだった。なんでそんな単純なこと、ピンとこなかったんだろう。
言われてみりゃ、その通りじゃんか。
「……あぁ……。忘れてた。確かに、土壁に穴開けたっけ……」
土屋さんが、遠い目になった。
それに、占領した陣地を、さんざんいじくったじゃん。あの時、土魔法使いは土壁を盛り上げたり、その内側に足場を作ったりと、いろいろやりまくったんだ。
それを何で思い出さなかったというか、現在の状況に結びつかなかったのか、俺たち。
だから早見さんは、俺たちにずっとくっついているんだろうな。
どう考えても、早見さんが誘導してくれていたから、俺たちは自分たちが不利な状況に陥らずに済んでるんだろうな。
だって、ラミラ砦の関係者の中に、俺たちを使い倒そうとしようとしてた人がいたはずなんだ。
その人の思惑に乗せられることなく旅立てたのも、早見さんがうまく立ち回ってくれたおかげだ。
……保護者枠かな、きっと。否定しないと思う。
とにかく、真昼間に吶喊するほど馬鹿じゃないということで、俺たちは近くの藪の中のちょっとした隙間に陣取り、詳しい作戦を考えることになった。
こんな狭い藪の中なら、まず見つからないだろうから。
5人が肩寄せ合って何とか座れるくらいの、狭い空間だけど、土魔法で作った小さなかまどで火をおこし、小さなポットでお湯を沸かしてお茶を入れ、保存食をかじりながらの昼食となる。
早見さんに、以前土魔法で土を変形させたことを言われ、試しに造ってみたっていうかまどが、結構いい感じ。
……土魔法、もっと活用していいかもしれない。俺は反対属性の“風”だから、土魔法は苦手だけど。
「でも、いくら土魔法で地面や石壁を変形させるって言っても、それで潜入なんて、無謀だと思うわ。ちょっと荒っぽすぎない?」
水谷さんが、当然な疑問をぶつけてくる。
確かに、そんなことしたら、結構気付かれるんじゃないかって気がする。
有角族って、人族より魔法が得意だそうだから、魔法を使ったことに気付かれるかもしれないって、マジで思う。
「別に、明るいうちにやる必要などないと思っているし、暗くなってから、二手にわかれて行うのがいいんじゃないかと思う」
「二手に分かれるって、そうでなくても4人しかいないのに、それを分けるっていうの?」
水谷さん、さらにかみつく。
「二手といっても、1対3ぐらいだよ。ひとりが注意を引き、残りがその隙にこっそり入り込んで破壊工作をし、速やかに脱出する、という感じかな」
「なら、誰が単独行動をして、相手の注意を引くというの?」
水谷さんの追及に、早見さんはさらっとこう言った。
「風間くんだな。風は、音も操れるはずだ。音は、風に乗って届くんだから。だから、相手の注意を引く音を出して、自分は隠れればいいんじゃないかな」
それを聞いた途端、3人の視線が俺に集中する。
……確かにそれって理屈だけど……俺がやるの?
「確かに、それならありだよね。それなら単独行動しても、大丈夫そうだもんね」
土屋さんが、なるほどという顔で俺にニカッと笑いかける。
火村も水谷さんも、納得というようにうなずいている。
……ってことは、俺が相手の注意を引く音を出して、囮になるのは確定ってこと?
俺は思わず早見さんのほうを見、早見さんまでもうなずくのを見た。
「大丈夫だよ。いざとなったら、それこそ一目散に逃げればいいんだから」
あっさり言い切ってくれるな、おい。
……まあ、いざとなったら、絶対早見さんがフォローしてくれるだろうなとは思うけど。
それより、俺特訓しなきゃ。
相手の気を引く音って、どんな音だ? いっそのこと、明後日の方向から嘲ってやろうか。
でも、音が聞こえてくる方向を偽らないといけないんだから、それが出来るようにちゃんと感覚をつかんでおかなくちゃ。
これって結局新しい魔法なんだって気づいたのは、実際にそれが使えるようになってからだった。
新しい魔法<幻音>ってことになったんだわ、それ。
俺が、<幻音>を扱えるようになるまで、2~3日かかった。
でも、早いほうだと思うよ。
音の発生源を勘違いさせるような要素も、ちゃんと取り込めたしね。
……その間、当然のことながら、近くの藪の中でずっと野宿してましたとも。
狩りとかも出来ないもんだから、空間収納の中にストックしてある保存食を消費しながら。
……乾燥野菜と干し肉をぶっこんだ煮込みもどきは、まずくはないけどすごくおいしいとは言えないものだったな。まあ、食べたけど。
そして決行当日。
まず、髪の色を本来の黒に戻し、クリスに顔の上半分を糸で覆ってもらう。もちろん、中からは結構透けて見えるが、はた目には白い仮面をつけているかのように見える。
これで、素顔も隠せるわけだ。
そして、暗くなってからいよいよ本番。
火村と水谷さん、土屋さんは、それぞれ小さなランタンの中に<光珠>を封じて持ち、光が周辺に漏れないようにシャッターを絞って行動。
軍事拠点から少し離れたところで、息をひそめて待機。
俺はそれを見送った後、例のごとく身体を抜け出した早見さんとともに、拠点の反対側に移動。
俺の<幻音>を合図にして、作戦行動が開始される。
あ~緊張するぅ。
『落ち着いて。さんざん練習しただろう? もちろん、ボリューム最大限でやるのは初めてかもしれないけど、理屈は一緒だ』
早見さんが、おそらく俺にしか聞こえない声で話しかけてくる。
まあ、その通りなんだけどさ。
俺は深呼吸し、自分の魔力の流れを意識する。
行くぞっ!!
ズ ッ ド ォ ォ ォ ォ ン !!!
とにかく聞いたこともない音を、と思ったんで、爆発音を最大ボリュームでぶちかましてみた。
当然、俺がいる位置から、結構ずれた位置から聞こえるようにして。
俺たちは、ドラマやアニメで聞いてるから、そこまで耳慣れない音じゃないけど(実際聞いたら、やっぱりびっくりはするだろうけど)火薬が存在しないこの世界では、ほとんど聞いたこともない音のはず。
爆音の振動で、空気が震えているように感じた。
当然、拠点の中はいきなりの轟音に騒ぎが始まっている。
俺は、もう一発爆発音をぶちかます。
ド ッ ゴ ォ ォ ォ ォ ォ ン !!!
騒ぎが、音がしたほうに近づいてくるのがわかった。そろそろ逃げたほうがいいな。
俺が回れ右をして拠点から離れようとしたところで、遠目に見えていた出入り口の門が開き、中から人が出てくる。あれ、あそこが開くか。ちょっと計算ミス。
ヤバい。見つかるかも。
その時だった。
『逃げるぞ! 悪いが、急ぐからね。声を出さないように!』
早見さんがいうが早いか、いきなり俺の体が浮いた。
えっ!? えっ!? えぇ~!?
あっと言う間に、俺の体はどう考えても10メートル以上浮き上がる。
何が起こったかよくわからないまま、俺は焦ってじたばたと手足を振り回す。
『おとなしくしなさい。僕が<念動>で持ち上げたんだ。このまま移動するよ』
早見さん~~持ち上げるなら持ち上げるって言ってよ~!
俺のすぐ隣に、半透明で本性を現した早見さんが付き、早見さんの<念動>で引っ張られるようにして、空中移動。
ロープも何にもなしの、ジップラインみたいな感じ。
こんな時に、空中散歩なんかしたくなかったよ……
……おかげで、簡単に追っ手を撒くことが出来たけどさ。足跡なんて、絶対に残らないし……
どう考えても、人間が走るのよりずっと速いスピードで進んでるけど、俺には辺り一帯真っ暗で、どこをどう通ってるのか全然わからないんだけど……早見さん、大丈夫?
さっきは、拠点の明かりがあったから、少しは周りが見えてたけど、今は全然見えないんだもん。
『あのね、僕が闇を見通せないとでも?』
……デスヨネ……。
この人に、一般常識が通用するわけないんだよな……
で、本当にあっさりと、集合場所の野営地へと戻ってきた。
早見さんは、そこに横たわっている自分の身体に戻る……のかと思ったら、俺を地面に下ろした後、さっとその身をひるがえす。
『メインの3人の様子を見てくるよ。もし、危なくなっていたら、わからないように介入してくるから』
早見さん、あっと言う間に姿が見えなくなった。俺を運んでる時と違って、秒速2キロで飛ばしてったな?
そういや俺は、ほぼ安全圏だけど、ほかの3人は今、どうなってるんだろう……?




