27.入れ知恵というか知識チートというか……
もちろん、俺にとっても命の恩人だ。あそこですべてがガチっと止まらなければ、間違いなく切り付けられていたからな。
「……僕はこれでも、元の世界では霊能者でもあってね、時々妙にピンとくるというか、何かを感じる時があるんだ。今回、それだと直感したんで、急いで追いかけてきたんだよ」
「「「霊能者!?」」」
うん、早見さんの人間側のステータスに、確かに<霊能力>って出てたもんな。
だからこの人が、霊能者だっていうのも当然といえば当然。だから俺は驚かないんだけど……なんでほかの3人は驚いてるかなぁ……
早見さんがそう言ったせいか、どうやら3人が3人とも、慌てて【鑑定】を使ったらしい。
人間側のステータスはそれで見えるはずだから、<霊能力>っていう表示も見えたはずだ。
「……<霊能力>って出てる……」
改めて気づいた、という顔で、水谷さんがぼそりとつぶやく。
「霊能者って、ホントにいたんだ……。みんなインチキだって思ってた……」
土屋さんが、“霊能者”本人を目の前に、かなり失礼なことを口走る。まあ、気持ちはわからなくはないけどな。
霊感がある俺から見ても、なんか胡散臭いなってヤツ、いくらでもいるもん。ただ、早見さんはガチの本物だけど。
「スゲー! なんかわかんないけど、すげぇ!!」
……火村、お前ちょっと2人で話そうか?
こいつ、時々脳筋になるよな。
「まあ、君たちの世界に、本物の霊能者がいたかどうかは、僕にはわからない。ただ、僕たちの世界には、そういうモノがいて、霊能者も本物が存在していた。そして、僕はそういう力を持っていた。それだけだよ」
早見さんは、穏やかな表情をしながら、それでも淡々と告げる。
まあ、はたから見ればそうなんだろうけど……あの金縛りって、早見さんがやったんだよね!? あんたホントは半神だよね? 魔王様でもあるよね?
今日は、両方の力を見せてもらっちゃったけどさ……
「よし! この陣地は、我らのものだぁ!!」
「おぉー!!」
向こうのほうでは、勝利の雄たけびを上げている。まあ、占領出来たのは、間違いないもんな。
ただ……ここ、防備っていう意味では、どうしようもない造りだぞ。周囲に浅い空堀があるくらいで、いくらでも踏み込めるんだから。
もっとも、みんなそれは思っていたらしい。
せっかく手に入れた陣地なんだから、自分たちで手を入れようって話になってるっぽい。
ザウードラに乗った連中の一部が、戦勝報告のため自分たちの陣地に向かって走り去っていく。
それを見ながら、早見さんが連中に近づき、何かを話しかけた。
今回の突撃隊の隊長がそれに応じ、しばらく話をしていたが、やがて話がまとまったらしく、隊長が声を張り上げる。
「土魔法が使えるヤツ! 集合!!」
すると、20人ぐらいの騎士やら歩兵やらが集まってきた。一部、ローブを着た魔術師も交じってる。
そこで、隊長の号令の下、いきなり陣地の空堀の前に行くと、魔法で土壁を作り出していく。
人の背丈よりも高い、大体3メートル半ぐらいの高さまで壁が作られていく。すると一部が一か所ある出入口に向かった。
早見さんがそこにくっついていって、何事か指示している。
……なんだか、入口のところに、丸く突き出したような壁を造ってるぞ。
「……あれ、もしかして、『馬出し』じゃない?」
土屋さんが、そんなことを言い出した。そういや彼女、『郷土史研究会』って部活、やってたんだっけ。
聞けば、住んでた街には城跡があって、狭間とか、馬出しとか、桝形とか、残ってたんだって。
だから、作業が進むにつれて、馬出しどころか小ぶりだけど桝形まで造ってるのを見て、俺たちはなんだか遠い目になってしまった。
これ、絶対早見さんの入れ知恵に決まってる。いつぞや、『歴史マニアや元陸自の人と知り合いだった』って言ってたもんな……
勝利の知らせを聞いたエッシェンバッハ隊長が陣地にやってきたときには、ものの見事に陣地は変貌を遂げていた。
……元の陣地より、確実に防御力が上になってるな……
エッシェンバッハ隊長が、馬出しや桝形を見て唖然としてるんだもんな。
「……見たことがない構造だが……これはなんだ?」
「はあ、異世界人が元居た世界で、城の防備に使われていたものだそうで」
「……」
うん、唖然とするのも、わかるんだ。だって、もともとここは、中世ヨーロッパと同じくらいの文明度の世界。そこに、近世に近い時代の戦国の城の防御施設なんか組み込んだら、わけわからなくなるよね。
最終的には、属性が風で、土魔法と相性が悪い俺以外の、勇者3人も動員され、陣地は周囲に小さい空堀を巡らせただけのものから、どこの戦国の城だっていうものに変わっていった。
ただ、天守閣はない。そりゃそうだろ。
天守閣の代わりに、たまたまあった材木を使っての物見やぐらまで造られた。
物見やぐらは、木組みを核として、土壁で補強したかなり頑丈なもので、ちょっとぐらい魔法をたたきつけられても、簡単には倒れそうもない造りになった。
周囲に巡らせた土壁の上部には、いくつもの狭間が並び、その裏側には人が歩けるだけの幅の通路が作られ、迎撃が出来るようになっていた。幅が狭くて浅かった空堀は、身体能力に優れた有角族でも飛び越えられないほど(ざっと5メートルぐらい)の幅となり、深さも2メートルを優に超えるものになった。
絶対、元の陣地より防備固くなってる。
ちなみにエッシェンバッハ隊長は、帰ったら速やかに元の陣地も同じように強化することを決めていた。
ただ、さすがに土魔法使いがヘロヘロになっているんで、作業は明日以降だろうけど。
部隊の一部をその場に残し(もちろん、馬出しや桝形を使った戦い方をきっちり教わってから)、俺たちも含めた攻撃部隊が、元の陣地に帰還したのは、もうすぐ日が暮れる夕方だった。
暗くなる前に帰ってこれてよかった。
そのまま、流れの勢いで夕食となる。まず、腹を満たそうということらしい。
俺も、それには賛成。
そこで、森に出かけた時に取ってきたハーブとかが役に立つんじゃないか、という話になったわけで。
まず、早見さんが空間収納に取っておいてくれた残り物のポトフもどきを使って、味変を試みる。
そこはさすがに、女の子たちが工夫してくれた。
特に土屋さんの家が、町中華の知る人ぞ知る名店だったんだと。
お父さんが調理担当、お母さんが接客と経理担当、お兄さんが店を継ぐために、調理師学校に通っているんだそうだ。土屋さん自身、よく店を手伝っていたんだそう。
水谷さんも料理が趣味で、普段からいろいろ作っているんだって。
俺や火村がやったら、絶対食えないものが出来上がってたな。
早見さんも料理はするらしいんだけど、曰く『現代日本の恩恵で出来ているだけだから、ここで披露出来るほどの腕じゃない』とのこと。
「だって、向こうでは、火加減自由自在な調理器具に、『これを使えば味がきっちり決まる』調味料だってあるじゃないか。そういうのに頼ってたからね」
でも、それって普通では? 正直、俺の母さんでも、それがなかったら結構厳しいと思うぞ。
焚火で、細かい火加減なんか、出来るわけないし。
それでも、料理に結構造詣が深かったみたいな土屋さんと水谷さんのおかげで、ポトフもどきがほんのちょっぴりカレーっぽいものに変わった。
もちろん、微かにそれっぽく感じるってくらいだったけど、それでも何となくそう思わせてくれる味に、俺は思わずかぶりついた。
横を見ると、火村も同じようになっていた。
「うん。我ながら、よく出来たわ」
土屋さんが、納得したようにうなずく。
「お母さんがよく言ってたの。『スパイスは、とにかく使ってみること』って。時々失敗した時もあったみたいだけど、それでもお母さんの料理はおいしかった。だから、私も料理がしてみたくなったの」
なるほど、水谷さんが料理が趣味だっていうのは、そこからきてるんだな。
早見さんはというと、ふむふむと小さくうなずきながら、味わうように食べている。
「……なるほど。こちらの香辛料でも、これだけ風味が出せるんだね。なら、やってみる価値はあるか……」
「やってみるって、何をやってみるの?」
俺が尋ねると、早見さんはにっこり笑った。
「今はまだ内緒。うまく出来たら教えるよ。出来るかどうかわからないから、今ここで約束して、がっかりさせたら申し訳ないからね」
残り物だったポトフもどきはあっという間になくなって、火村が自分からお代わりをもらいに行った。
とにかく、勝利の余韻が陣地全体を包んでいたため、妙な興奮状態に俺たちも巻き込まれ、結局ほぼ夜通し起きていることになった。
今年一年間、作品を読んでいただき、ありがとうございました。
本年中の更新は、今回が最後です。
ですが、更新自体は来週やる予定です(笑)。来年も、よろしくお願いします。
多少早いですが、よいお年を。




