14.ミュート!
早見さん自身は『そこまで期待されても困る』って前に言ってたけど、結構軍師っぽい行動してるじゃん。
「とにかく今回は、時間との勝負だ。ぐずぐずしてると、ほんとにここが落とされかねない」
早見さんの言葉に押され、俺たちはこっそり出発した。クリスはと言うと、俺の頭の上に陣取って光学迷彩発動。ちゃんと俺の視界の邪魔にならない形でつかまってくれているため、俺が走っても案外邪魔にならない。
……意外と軽いんだな、クリス。蜘蛛だしなあ。
藪を伝って戦場になっているところを回り込み、さらにその向こうへ。
途中、弓兵部隊が矢を射かけているところに出くわしたが、俺たちに構うことなく、“一撃離脱しろ”という指示を守ってさっさと陣地へ向かって退却していく。
敵も、それに気がついてはいるが、下手に動くと後詰めがいなくなって戦線が乱れかねない状況で、ほんの数人が後を追いかけようと動き出した程度。
最初の“弾幕”が相当効いていたようで、出撃した王国軍の連中が、結構いい線いってる感じで戦っている。
今の矢の攻撃も、かなり効いてる感じで、倒れている敵が何人もいた。
どうやら弓兵部隊は、逃げ切れそうだ。
それでも俺たちは、それを横目に走り続ける。
戦場のほうをちらっと見て、女の子2人が痛ましそうな顔になる。火村も、すぐさま目を逸らした。
俺だって、血が流れるさまを、じっと見てなんかいたくない。
俺たちのほうを追いかけてくる連中は、誰もいなかった。
それを確認して、俺たちはある程度のところでスピードを緩めた。さすがに、ちょっと息が上がっている。
全員の息が整うまで、少しゆっくり目に歩いて落ち着かせると、改めて敵軍が移動した跡を探した。
早見さんの言うとおり、それはすぐに見つかった。
幅5メートルほどの、土が踏み固められた道の両脇の草むらが、踏み荒らされていた。
一気に進軍するために、道からはみ出して歩いて行ったんだろうなあ。
道の左右は、150~200メートルほど離れたところから、木々が生い茂っているのが見える。これって、以前聞いていた“魔獣や魔物が跋扈する森”なんだろうな。
例の緩衝地帯になっている森で、それを抜けられる場所が、ここだけということらしい。
だから、砦や陣地が作られてるわけだ。
(おそらく、そこからそう離れていないところに、敵軍の陣地があるはずだ)
いきなり、頭の中に響く早見さんの声。
また念話!?
俺、そういう素質、あったっけ?
(はっきり言えば、ないよ。僕が無理矢理回路を開いてるだけだ。ただ、そういう場合、本来は視認出来る距離じゃないと使えないんで、念話が出来るクリスに中継してもらってるんだ。そういう意味もあって、クリスを連れて行ってもらったんだよ)
あぁ~そういうことか……
なんか、すごく納得しました。偵察だけじゃなかったんだなぁ……
(わかってるとは思うけど、クリスが密着してるときじゃないと、中継は出来ないからね。それと、いくらなんでも逐一指示は出さないよ。君たちの判断で行動してほしい。クリスを通じて、君たちの状況は把握出来るから、いよいよとなったら指示を出す。それまで、自力で頑張ってほしい)
……これって、俺たちの自主性に任せてくれたっていうのかね。それとも、さっくり丸投げされた? まあどっちにしろ、俺たちが自分でやらなきゃならないってことには、違いがないわけで。
「この踏み跡をたどれば、敵陣にたどり着けるはずだ。早いとこ、たどってみようぜ」
俺がそう言うと、みんなうなずいてくれた。
「状況を考えると、ぐずぐずしてらんねえしな。行こうか」
火村の一言がきっかけで、俺たちは痕跡をたどり始めた。
こういうことに関しては、ほぼ素人同然の俺たちだったけど、跡がわかりやすいんで、迷うことなくたどることが出来る。
そうして20分以上は歩いた頃だろうか、途中から念のために藪を伝うようにしてたどっていたら、向こうのほうに何か建物じゃないにしても、人工物だと思えるものが見えてきた。
あれ、もしかして……?
他の3人も気が付いたらしく、藪に姿を隠しながら、お互いに顔を見合わせる。
「……あれって、敵の陣地かしら?」
「じゃないかな。後ろの方に、結構立派な藪があるから、そっちへ回り込めば、近づいてもバレないかも」
水谷さんと土屋さんが、こちらから見て陣の後ろ側に回り込む相談を始めた。
まあ、馬鹿正直に真正面から近づく必要なんて、ないわな。
俺も、回り込んで後ろの藪に行くのは賛成。
そこで俺はふと、思いついた。こういう場合、よくゲームとかでは音を消す魔法を使って、接近を試みたりしてたんだよね。
なら、ここでやってみてもいいんじゃないだろうか。<消音>と呼ぶべき魔法を。
そりゃ、誰にも習った事なんかないよ、そんな魔法。でも、充分にイメージは掴める。
試してみて、損はない。
これはどう考えても、<風魔法>の領域に入るはず。なら、試すのは俺だな。
音って確か、空気の振動が伝わっていくことによって聞こえるんだったな。なら、振動が伝わらないようにすれば、周囲に音が聞こえないようになるはずじゃん?
やってみよ。
頭の中で、一生懸命にイメージを膨らませ、小声でつぶやく。
「消音」
直後、俺を中心に直径3メートルくらいの白くぼんやりとした半透明の半球が現れる。
結果としては、音の遮断には成功してたんだけど、それが目に見えるようじゃダメだな。
もう1回念を込めて、『消音』と唱える。
すると、ちゃんと透明で音を遮断する空間が出来上がった。
「お、すげえ! オリジナル魔法じゃん!!」
火村がサムズアップする。水谷さんや土屋さんも、拍手してくれた。
そんなわけで、改めて全員が空間に入って、移動を開始してみる。
うん、ちゃんとくっついてきてくれてる。その場にとどまってたら、どうしようかと思った。
空間の中では、ちゃんと会話が出来るんだけど、外に音が漏れない代わりに、外の音も聞こえてこない。
まあ、音が伝わるのを遮断してるんだから、そうなるけどね。
その状態で、藪に隠れながら回り込むようにして、人工物に近づいていく。




