15.襲撃したぞっ!!
近づいてみると、これはある種のテント状の物がいくつも建てられ、その下側を土嚢―土嚢だよね、あれ―で固めているという感じのものだった。
モンゴルのゲルと、ネイティヴ・アメリカンの三角テントを、足して2で割ったような感じのテントが、いくつも建てられていた。
一応、周囲には幅も深さも1メールくらいの溝が掘られていたけど、あれ、どうなんだろう。
あまり“堀”の役割を果たしてるようには見えないな。
“堀”の中は大体直径70メートルくらい。壁というか、城壁に当たるものは全くなく、この様子では、攻め込まれることを、ほぼ想定しないように見えるな。
でも、あの構造なら、テントの中で火が焚けるな。それは、向こうのほうが使い勝手がよさそうな感じ。
そして、いくつかあるテントの中には、いかにも“お偉いさん在中”って感じのちょっと飾りが豪華なテントが1つあり、大型のテントはどうやら物資の保管庫っぽい。
でも、遠目に見ているだけだから、確実にそうだとは言えない。
すると、クリスが俺の頭の上からするする降りて、任せろ、的な感じで脚を動かして見せた。
そして、自分の体を覆うように糸を吐いたかと思うと、それが周囲の土と同じ色や質感に変わった。
その状態で、ゆっくりと敵陣めがけて歩いていく。どのくらいゆっくりかと言うと……亀のほうが早いかも、という感じだった。
でも、ほんとに光学迷彩した状態で、動けるようになったんだ……
そうしてじわじわ敵陣に近づいていくクリスに、誰もなんか止めようとは思わず、辺りに溶け込んでよく見えないのを確認して、内心頑張れとエールを送る。
「……クリス、のろいな……」
「仕方ないと思うわよ。そういえば、出会った頃私たちもあんな感じだったのかもしれないわね」
「あ、そうよね。武器振るうのも、なんかおっかなびっくりだったし」
でもまあ、ゆっくり移動したほうが、目につきにくいとは思うよ。あの速さじゃ、敵陣に到着するまでかなりかかるとは思うけど。
敵陣の中には、少数だけど動く人影が見える。さすがに、陣地を空っぽにしていく間抜けはいないわな。
留守番らしい人影のひとつが、どうやら女性だな、と気が付いた時、急に脳裏に鮮明に浮かぶ上がる光景。
ピンクの髪、赤い目をした女の子の、すでに何も映さなくなった虚ろな瞳。
俺たちは、彼らを殺したんだ……
この眼に焼き付いて離れない、俺たちの罪の証……
あの子の死に顔が何とか消えるまで、少しかかった。
しばらくじっと様子を見ていたが、特に騒ぎが起こる気配もなく、こっちの集中力が切れて目を離している間に、いつの間にかクリスは戻ってきていた。
そして、器用に前脚で地面の上に図を描いていく。
描かれていくのは、陣地の細かい見取り図だった。
司令官がいるテントの場所とか、物資の保管場所なんかには、丸印がついている。
クリスに確認を取り、ちゃんとジェスチャーで〇の意味がその場所なんだと確認が取れた。
そしてクリスは、当たり前のように俺の頭の上に陣取り、光学迷彩で目立たないように偽装する。
じっくり見てみると、さすがに司令官がいる場所は、陣地の真ん中過ぎてそこまで行くのが大変だ。
まあ、魔法なら何とか届くとは思う。でも、いくら数が少なくなったとはいえ、敵陣には最低限2桁の人員がいる。こっちは4人しかいない。
それより、物資の保管場所のほうが外延部に近く、狙いやすい。
略奪は無理かもだけど、破壊することなら……
それに、物を狙ったほうが気が楽だし。
俺は、それを他の3人にも伝えてみた。
「……そうだな。オレたちが思いっきり魔法ぶちかませば、使い物にならなくすることは出来そうだな」
「特に火村さん、あなたが思いっきりやれば、燃えるかもね」
「その方が穏便に済みそうだし、燃やしちゃえば?」
「俺が、風魔法で火をあおる。やっちまえ」
当然、火を付けたあとは、全力で逃げる必要があるけど。
一目散に逃げるなら、<身体強化>をかければ加速出来る。
ただ、水谷さんだけは<身体強化>を持っていない。どうしようかと相談した結果、騎馬戦よろしく3人で馬を作って担いで走ればいい、ということになった。
さすがに、誰かがひとりで担いだら、負担がかかりすぎるからね。
それぞれの世界にも、いわゆる“騎馬戦”あるんだってわかって、へぇとなったのはここだけの話。
それから、敵の注意が物資の保管場所からほぼそれた瞬間を見計らって、火村が全力で<火球>を保管場所の大型テントに撃ち込んだ。
どうやら、灯り用の油かなんかを直撃したらしく、ドカーンともズゴーンとも聞こえる轟音とともに、一気に爆発的に燃え上がり、びっくりするほどドでかい火柱が上がった。
割と近くにいた連中が、パニック状態で逃げ出していく。
遠くの連中は、完全な棒立ちになっている。
俺たちも一瞬、あまりのことに動きが止まった。
でも、俺たちが我に返るのは早かった。だって、狙って撃ち込んだんだから。
だから直後、俺たちは<身体強化>をかけ、水谷さんを3人で担いで騎馬戦体勢になると、そのまま息を合わせて走り出す。もちろん、俺の頭の上には、クリスがちゃんと陣取っている。
向こうは、いきなり物資の保管場所が燃え上がったのが衝撃だったらしく、俺たちへの対処が後手に回ったようだ。
どうやら追っ手らしい相手が陣地から飛び出してきたときには、俺たちは陣地からかなり離れていた。
そのままとにかく走り続け、引き離す。
幸い、騎馬戦の状態で走ってる俺たちのほうが、普通に走ってる敵側より速かったらしい。
追っ手を振り切って、気が付くと戦闘中の両軍が見えるところまで戻ってきていた。
見ると、結構拮抗してるというか、なんか押してるような気もする。
どうやら、数を頼りに回り込もうとすると、こちらの陣地から矢が飛んできて牽制されるので、うまく回り込めずにかえって混乱し、本来の力を出せない状態らしい。
だって、陣地の目の前に敵軍だけが回り込んでくるんだから、そりゃ矢を射かけてくるのは当たり前だと思う。
攻撃がある前に、狭間を作ってたんだし、絶対狙うよね。
……なんとなくだけど、これ、差配してるの早見さんなんじゃね?
だってここの連中の戦術って、古代中国よりダメダメっぽいんだもん。
この世界に諸葛孔明が居たら、ものすごい軍師だと“神”扱いされてたと思うね。
「どうする? 加勢するか?」
先頭で騎馬を支えている火村が、問いかけてくる。
「……私たちが、下手に乱戦の中に入ったら、かえってまずくない? 敵味方入り乱れてる乱戦なんて、経験してないんだし。それより、味方に<回復>をかけまくって援護して、陣地に帰るっていうのはどう?」
水谷さんの返事に、俺たちみんながうなずいた。
藪の陰の目立たないところで一旦停止し、騎馬を解いて様子をうかがい、例のごとく射程を伸ばして<回復>―火村は<神聖魔法>―をひどい怪我をしていると遠目にもわかる味方を治療する。
それを、ひとり十数回―火村は限界の一歩手前まで―行うと、再び騎馬を組んで一気に駆け抜け、陣地に逃げ込んだ。
「お帰り。首尾はどうだった?」
早見さんが、落ち着いた声で出迎えてくれる。




