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勇者として異世界召喚されたんだが、巻き込まれて一緒に召喚された人が実はヤバかった件  作者: 鷹沢綾乃
Act.1 異世界召喚

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20.やっぱりこうなった

 俺の思いはさておいて、他の3人、特に火村は、かなりカチンときているようだった。あれなら、本気で相手をぶん殴れると思う。

 これって、事実上喧嘩になる気がする。まともな試合にはならんだろうね。きっと向こうも、俺たちのことコテンパンにして、留飲を下げるつもりだろうから。

 そんな気がするんだ。

 こういう時の勘て、外れないんだよ、俺。


 「オレは受けて立つ。オレたちは勇者だ。それにふさわしいって、ここで証明してやるぜ!!」


 火村が相手を指さしながら、吼えた。

 それに呼応して、向こうもにやりと嗤う


 「ふん、馬鹿が自分から出てきたか。何が勇者だ。胡散臭い異世界人のくせに」

 「おう。そういうのを、身の程知らずというのだ。我々が、きちんと躾(・)け(・)て(・)や(・)る(・)」


 こいつら、まだ煽るか。

 知らんぞ、本気で怒らせたらどうなるか。

 本気でキレたら、手が付けられなくなる可能性あるからな。


 とはいえ、そんなことは向こうはわからんわけで。そのまま流れで、2対2で試合をすることになった。

 早見さんはぼそっと『一応“試合”だからね。“死(・)合(・)”じゃないからね』と言っていたが、それってつまり、やり過ぎると相手を殺しかねないってこと!?


 「……素手で一発殴るくらいでやめておいた方がいいよ。おそらく、素手の一発だけで、戦闘不能になる可能性が高いからね」


 早見さんが、さらにぼそりと付け加えた。

 ……俺たちの能力値を考えると、そうか。

 【STR】だけ見ても、俺でさえ倍以上の数値だもんな。火村のヤツは、確かそれ以上だったはずだし。

 【DEX】だって、倍ぐらいの数値だ。俺たちが本気で動いたら、相手は全く追いついてこられない。

 一発は本気で殴ってもいいけど、やり過ぎるなってことだろうね。


 取りあえず、例の2人に対峙するのは、男である俺と火村になった。

 何せ、相手が俺たちのことを下に見て驕(おご)っている状態だから、下手に女の子を出すと、彼女たちが嫌な思いをするかもしれないしね。


 というわけで、武器を選んでさて試合……というところで、俺と火村は敢えて素手(ステゴロ)で勝負すると宣言した。

 無論向こうは一瞬唖然とし、次の瞬間笑いだした。


 「馬鹿だ! 馬鹿がいる!!」

 「いくら模擬剣とはいえ、武器を持っている相手に対して、素手はないだろうが! 異世界人っていうのは、ずいぶんめ(・)で(・)た(・)い(・)頭をしてるんだな!!」


 そうこうする間に、騒ぎを聞きつけた他の騎士たちも集まってきた。普段は俺たちと直接顔を合わせることがない連中だが、今回は俺たちが敢えて止めずに試合の様子を見せてくれ、と頼んだのだ。

 少なくとも、シャルロッテさんの動きについていけるだけの動体視力がついてきたからね。

 俺たちだって、今の自分たちの実力が、騎士団の中でどれだけのものか、知りたいし。

 自分が全力でいったらどのくらいになるのか、よくわからないからね。


 そして、ギャラリーが周囲を取り囲む中、俺たちと『勇者召喚反対派』2人の試合が始まった。

 俺たちは、相手の様子をじっくり見てみた。

 俺の相手は、男爵子息。火村の相手は子爵子息だ。

 それぞれ、悠然と剣と盾を構え、俺たちを馬鹿にしたようにニヤニヤ笑いながら、俺たちを挑発してくる。


 「先にかかって来い。受け止めてやるから。勝負はそれからだ」

 「そうそう、最初の一手は譲ってやるよ。ほれ、どうした?」


 俺と相手までの距離は大体5メートルくらい。

 隣の火村と俺の間も、同じくらいの間隔が空いている。

 これだけ開いてるなら、多少なんかあっても、隣に影響はしないだろ。

 俺は、火村のほうを見た。火村も俺のほうを見、にかっと笑った。


 次の瞬間、俺も火村も相手に向き直り、一気に距離を詰めた。

 無論、相手は全く反応出来ない。俺は掌底で相手の顎を一撃し、そいつはそのままひっくり返った。

 火村のほうは、本気のグーパンチを相手の左頬に叩き込む。うむ、見事な右フックですな。

 火村の相手も、当然のごとく吹っ飛んで倒れ込む。すごく痛そうな、“バキッ!”って音が聞こえた。いや、人間て殴られると、本当にああいう音するんだねえ。


 周囲が、息を飲んだのがわかった。

 俺の相手の男爵子息は、どうやら脳震盪でも起こしたらしく、完全に目を回している。

 火村の相手の子爵子息は、殴られた頬を押さえたまま、立ち上がることも出来ずに座り込んでいた。痛くて動けないらしい。


 「勝負ありだな。こうなるだろうと思ったから、止めたのだがな……」


 シャルロッテさんが呆れたように、見事に一発KOを喰らった2人を見ている。

 周囲はざわざわとしていた。小声だから聞き取りにくかったが、俺たちの実力を見て、『さすが勇者』と感心している連中と、『そんなバカな』と愕然としている連中に分かれている感じだった。


 「……私が最初に勇者たちに対峙した時も、動きだけは今とほとんど変わらぬ速さだった。私は、魔族どもの動きも実際に見ていたから、眼が慣れていて勇者たちの動きが見えたから、ある程度余裕を持って対処出来たが、実戦を経験していなければ、あの動きを目で追って対処するのは難しいぞ」


 シャルロッテさんは、まだざわついている周囲に向かってこう言った。

 周囲の連中はそれを聞き、ざわつきが静かになってくる。


 確かに、手合わせの初期に言われたな。『お前たちの動きは魔族に匹敵するほど素早いが、動きが直線的で単調だから、すぐに見切れる』って。

 実戦経験皆無の人間が、そんなに器用な動き、出来るわけないもん。

 今では、だいぶましになってきたらしいけどね。

 シャルロッテさんも、皆に見せたことはよかったんじゃないか、と思ったらしい。

 周囲の反応が、試合が始まる前とはがらりと変わったからね。


 程なくして、ひっくり返っていた男爵子息も気が付いて、のろのろと上体を起こした。ただ、相変わらずどこかボーっとしている。掌底で顎を思いっきりやったから、脳みそがシェイクされてまだおかしいんだろうな。

 それに、ひっくり返った拍子に、頭打ったかもしれん。大丈夫か?


 「グェルデン男爵子息、頭を打っているようなら、しばらく安静にしていたほうがいい。騎士の鍛錬など、激しい動きを伴うことも、ひと月ぐらいは控えたほうが無難だ」


 早見さんが、冷静に言葉をかける。


 「この、物を知らぬ異世界人め! 騎士がひと月も鍛錬を休んでなどいられると思うか!?」


 周囲を取り巻く連中から、声が上がる。

 だが、早見さんはあくまで冷静だった。


 「下手をすると、命に関わるかもしれないから、そう言ったまでのこと。神聖魔法でも、どなたかにかけていただいたらよろしいのでは? そうすれば、数日様子を見るだけで大丈夫なはず。頭を打った場合、その時は大丈夫そうでも、数日後に頭の中で出血が起こったりして、危険な状態になることがある。そのリスクを考えろと言ったまでだ。いくらなんでも、安静にしていれば助かるはずの命を、散らせる必要はないはずだ」


 早見さんの行っていることは、俺たちの世界での常識と言えるものだろう。俺も詳しいことはよく知らないけど、スポーツやってる友達が、『頭を打つのだけは気を付けている』って言ってたもんな。

 医学の水準が違うんだ。というか、ヘタに魔法があるせいで、医学の発達が遅れてる感じだもんな。


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