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第三十六話 ハルト

「で、どうだ? 新しい勇者の様子は?」


「今の所安定していますわ。連鎖して召喚した者達含め問題ありません」


 灯台の明かりに照らされた寝室は薄暗い。


 オレは2人の会話を盗み聞いていた。


「召喚早々に魔王城に乗り込んで返り討ちにあったそうではないか」


「ええそうですね。その後は仲間達と魔族狩りをして力を増強させています。このぶんですと来月か再来月には再挑戦するでしょうね」



 確かにそのつもりだ。しかしな。


『――クラクション。その後のことは覚えていない。』


 何がクラクションだ。おかしすぎるだろ。


 オレは死んだ。トラックに轢かれてだ。それはまあいい。よくはないがいいとしようありえる話だ。

 その後、このよくわからんファンタジーな世界に召喚。それもいいだろう。オレが勇者? 笑っちまうがそれもまぁよしとしよう。

 でもオカシイんだ。


 オレはあの日、オレが死んだ日の記憶が曖昧だ。いや、曖昧だった。

 でもコッチにきて死ぬたびに、死んで戻る度にちょっとずつ思い出してきた。


 あの日、オレは信号無視してつっこんでくるトラックを寸前で避けた。 ところがだ、家に帰るまでの間、乗用車、バイク、自転車、また乗用車、最後はトラックが左右からオレ目掛けてつっこんできた。

 オレが歩いていたのは歩道だ。

 どう考えてもオカシイ。


 召喚のために殺す必要があった? おそらくはそうだ。

 しかし女神はオレにはそう説明しなかった。

 何かの勘違い? いや違う。上手く説明は出来ないがオレは納得いっていない。そして直接問いただすのは危険だ。オレの勘がそう言っている。  

 だからレベルを上げて手に入れた気配遮断スキルと隠密スキルを使って情報を集める。


 集めた情報、オレの身に起きたことを元に考える。

 オレは考えなければならない。オレは死にたくない。

 死にたくないのに、殺された。

 死んでも、セーブポイントから戻るスキルがオレにはある。女神が言うには無限に使えるそうだが、オレは信用していない。


 最初は信じていた。

 何故かわからないが出会ったばかりの女神を信じていた。美しいと思った。この人のためなら何でもしよう。そう思った。それがいまはどうだ?

 美しい、しかし造りモノめいた存在感は人の温かみにかける。


 石畳の床や壁。何がファンタジーだ。ジメジメしたり冷たかったりゴツゴツしていたり実にキモい。どこに行っても土臭い。剣と魔法? んなもんゲームの中だけで十分だ。剣で何かを切ると手はジンジンしびれるし、セーブポイントがあったって死ぬのは怖い。魔法はちょっとだけ面白いけどな。あと飯もマズい、これも減点対象だ。


 シュンスケとマサヨシは何も感じないのか、おどろくほどこの世界に順応している。 

 いやいやいや、おかしいだろ。たとえば同じ国内でも急に引越ししたり転校したらちょっとキョドるだろ。


 オレを含め何かしらの処置をされている。そしてイレギュラーなんだ。今のオレの状態は。


 気づかれてはいけない。あいつ等の手の平の上にいる素振りをしなければ。思い通りに動いている。そう思わせておかないとな。もう少しだけ。もう少し、だれよりも強く。一人で全員を相手にすることが出来るぐらい強くなるまでは。


 オレのレベルは25。シュンスケ達の上がり幅に合わせた偽装だ。本当のレベルは86。

 オレはあいつらよりずっと多くの魔族を殺している。


 すまねーけど、オレにとっちゃここはファンタジー。フィクションと同じなんでな。オレは現実に帰る。そのためなら何だってやる。

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