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第七十一話 魔物襲来!

「わぁーっ、俺の店が!」

「なんなのよ、こいつら!」

「おい、動画回せ! スクープだ!」

「みなさん、逃げてください!」 


 商店街はひどく混乱していた。

 あちこちから、悲鳴が聞こえてくる。

 さらに逃げ惑う人々。

 それを前に、俺たちは入口で茫然としていた。


「な、何が起きてるんだ……?」

 俺は目の前の阿鼻叫喚の光景に対して、そんなありふれた感想しか口を出ない。


 スライム(仮)と別れ、数分のこと。

 危険かもしれないと思いつつ、それは放置した。

 見るからによわっちそうだし。

 それで商店街への歩行を再開したのだが――


 実はアーケードをくぐる前から異変は察知していた。

 白昼堂々、誰かの叫び声がしたからだ。

 そして、慌てて来たらこの有り様。


 見たことない生き物たちが、我が物顔で闊歩していた。

 大きな一本角のウサギ、首が二股の大蛇、二足歩行のカブトムシなど。

 どれも大きさは腰くらいの高さがある。

 ひどいものだと、寧音くらいの背丈があった。

 つまり平均的な女子小学生とほぼ同じということ。


 それらが暴れまわったらしい。

 店舗やアーケード街の一部分は壊されて、破片散乱している。

 あとは景観保全のため植えられた樹々が、薙ぎ倒されていたり。

 ゴミ箱の中身が散らばったり。


「魔物、だよねぇ。どうみても」

「そう言われて、信じるのは俺たちくらいだろうよ」

「なに悠長なこと、言ってんの! 早く逃げるわよ!」

 うんうん、と今にも泣きそうな顔で安斉が首を振っている。


 今、魔物たちの暴力の矛先は物に向かっているみたいだ。

 しかし、それがいつ人に向かってもおかしくない。

 すでに何人も俺たちの横を走り抜けていったが、依然として残っている人は多かった。

 夕方の商店街は、さすがに人が多い。


 警察はまだ到着していないようだった。

 事態は一向に収拾する気配はない。

 誰もが、その生き物たちが異形の怪物だと悟ってるみたいだ。

 

 テレビでしか見たことない、災害特有の無秩序がそこにはあった。

 俺はあまりにも無力で、ただ見ていることしかできない。

 こうして、目を逸らさないでいるのが、まるで自らの仕事のように。


「――のぶ。晴信! 聞いてるかい?」

 思考の外から声が聞こえてきた。

 聞き慣れた友の声。たちまちに、現実に立ち返る。


「ごめん。聞いてなかった」

「なにぼーっとしてんのよ!

 逃げるわよ!」

 寧音のこちらを見る目は鋭い。

「あ、ああ。そうだな――」

 おぼろげに答えたとき、視界の端になにかが写った。


 鳥みたいな魔物が 今にも小さな男の子に襲いかかろうとしている。

 禍々しい紫を基調とした退職、鍵爪は鋭く、嘴はドリルのように渦巻き尖っている。

 それは高く飛翔して、ぐるぐると回転しながら飛んでいる。

 獲物を過度に脅かして楽しむように。


 彼は腰を抜かして、動けないようだった。

 ひたすらに泣きじゃくっているだけ。

 しかし、周りの大人たちに足を止める様子はない。

 俺は勝手に駆け出していた――


「ちょっと、晴信!」

「おわりく――きゃあああ! あれ、見て!」

「晴信っ、危ないってば!」

 友達の声が遠くに聞こえる。


 構うことなく、俺は走る。

 間に合え、間に合え――心に強く願いながら。

 一心不乱に、地面を蹴り飛ばしていく。


「はあーーーーっ!」


 どすん――急降下してきた魔物に、思いきりぶつかる。

 衝撃と共に、それが少しだけ吹っ飛んだ。

 すかさず子どもを守るようにして、彼を全身で覆う。


「大丈夫か?」

「ひっく、ひっく」

 男の子はただ泣きわめくばかり。

 見れば、まだ小学生の低学年くらいじゃないか。

 こんなに怯えるのも無理はない。


 俺は彼を抱きかかえた。思っていたよりも重い。

 しっかり抱きしめると、友の所に駆け出していく。


「晴信、後ろっ!」

 寧音の声に首だけで背後を見た。

 鳥の魔物が迫ってきている。


 距離はまだある。

 間に合いそうにはない。そう判断して、すぐにしゃがんだ。

 子どもを放す。その肩に手を置きながら。


「どこか痛い、大丈夫?」

「ぐすぐす……ううん、だいじょうぶ」

 嗚咽まじりに確かな言葉が耳に届く。


 懸命に彼は目元を拭った。

 目は真っ赤だけど、涙は止まったようだ。

 まっすぐに俺の目を見ている。


「あそこのおねえちゃんたちのとこまで走れるか?」

 俺は寧音の方を指差した。

 彼女は胸を張って頼もしげに頷く。


「うん」

「よし、あとちょっとだから頑張れ!」

 俺は少年の背中を押した。

 その姿が遠ざかっていくのを見て、急いで振り返る。


「ギャオオオオ!」

 全く執念深い。俄然、こちらに向かって飛んでくる。


 俺はその真ん前に立ち塞がった。

 腕を大きく横に広げて。

 絶対に、あの子を追いかけさせるわけにはいかない。


 ギュインギュイン。

 ドリルっぽい嘴がよく回っている。

 貫かれたら痛いな――自分の反射神経が頼りだ。

 しっかりとその動きをよく見て――


「ったく、それは蛮勇だよ、少年」

 女の声がした。人影が目の前に割り込んでくる。

「昇天魔法!」

 謎の言葉がして、魔物の姿が光に包まれた。

 それが晴れる頃には、もう何も異物は残っていない。


「あ。あんたは……」

 振り返ったその顔には見覚えがある。

「命の恩人にあんたはないだろ、あんたは」

 勇者はどこか苦く笑っていた。





 ところ変わって、豊富雑貨店。

 その店奥の休憩スペースに俺たちはいた。

 勇者の顔はその中にはない。

 彼女は未だ外で戦闘中だ。


 もちろん、トネリコの姿もない。

 鍵は掛かりっぱなし。

 もしかしたら一度来たのかもしれないが、目立つ痕跡はなかった。


 部屋の中の空気は重苦しい。

 いつもはやかましい寧音はさっきから一言も発しない。

 まだ、怒りが収まらないのかもしれないな。


 勇者に助けられた後、友人たちがすぐに集まってきた。

 寧音の顔は真っ赤で、その瞳は潤んでた。

 そして開口一番、なんてことすんのバカ、って怒鳴られた。

 見れば二人も似たような顔してる。


 心配をかけたことはよくわかっていたけど。

 身体が勝手に動いてしまったものは仕方ない。

 ああしなければ、子どもは魔物の餌食になっていたから。

 

 彼は勇者に自分の家へと送られていった。

 無事だったのが、本当によかったと思う。

 最後には笑顔で小さく手を振っていたのがかわいらしかった。

 

 ともかく。その時のきまずさが今もまだ残っているわけだ。 

 息苦しくて仕方がない。

 でも、それを招いたのは自分なわけで。


「やっぱり魔物だったんだね、あれ」

 沈黙に耐えかねたのは、やはり寧音ではなかった。

 いつもとは違って、今はひどく忍耐強い。

「ほんと、びっくりだよ……

 まさかあんなのがこの世界にいるなんて……」

「今は勇者を待つしかないな。

 事情を全て知ってるに違いない」

 

 勇者に護衛されて、俺たちはここまで来た。

 アーケード街からは、すっかり化物の姿は消えていた。

 なんでも彼女が全て倒したとか。

 大したことないように、語っていたけれど。


 そこで、奴らが魔物ということを改めて教えてもらった。

 詳しく聞こうとしたら、街を見回ると言ってどこかへ行ってしまった。

 すぐに戻ってくると言い残して。


「でもここは安全なのかな。

 勇者様はそう言ってたけど」

「信じるしかないよ。

 それにおっさんの荷物は奥にあるんだろ?」

 ……返事は誰からもなかった。


 今のは質問のつもりで、俺は言った。

 語尾まであげて、意図がはっきりと伝わるように。

 それも特定の人間の顔を見据えながら。


「寧音、違うのか?」

「ふん」

 鼻を鳴らされ、そっぽを向かれた。

 慎吾と安斉の視線が心配そうに、俺たちの間に行き交う。


 なるほど、どうやら徹底抗戦のつもりらしい。

 仕方ないので、慎吾に目配せをした。

 奴に聞いてもらうしかない。


「どうなのかな、寧音さん?」

「おじさんが回収してないなら、あると思うよ、慎吾君」

 ……またしても微妙な沈黙が出来上がる。

「おい、寧音。お前いつまで腹立ててんだ」

「ツーン」

「聞こえてんだろ。

 全く幼稚園児じみたことしやがって」

 いつもなら食い気味に突っかかってくるのに、今はシラーっと顔を背けたまま。

 

 これはもうなんともならない。

 それでも最後に、もう一度呼びかけようと思ったら――


 ガラガラガラ――店の扉が開く音がした。

 臨時休業の張り紙は貼ってあるというのに。

 勇者だろうか。いや、そもそもあそこの鍵は閉めたはず。


「なに今の音……?」

「誰だろう……まさか魔物?」

「奴らが馬鹿丁寧に扉を開くと思わないけどな」


 狭い部屋の中に緊張が走る。

 俺は次第に脈拍が上がっていくのを感じた。

 侵入者が近づいてくる音がいやにはっきりと聞こえてくる。


「みなさん! どうしてここに!」

 ほどなくして顔を表したのは、他でもない探し人その人だった。

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