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第六十二話 友の豹変

「あ、あの、戸村、だよな?」

 おずおずと俺はクラスメイトに声をかけた。

 彼は腕を組んで目を瞑っている。


「……橋場。戸村さんだろ?」

「なに? なんでこの人さっきからかっこつけ――」

「しっ! 滅多なこと言うな」

 俺は寧音の口を思わず塞ぐ。

 

 どうにも戸村の様子がおかしい。

 先ほどまでのおどおどした感じはどこへやら。

 堂々とした姿がそこにはあった。


 机の上には読み終わった本が無造作に放置されている。

 やはりこの豹変の原因はそれにあるんだろうな。

 だとすれば、流石はおっさんの不思議なアイテム……恐ろしい程の効き目だ。


「放してよ! いつまで触ってるの、この変態!」

 寧音は力強く俺の手を祓った。

「……へいへい、すいませんでした」

 なおも彼女は顔をこちらに向けて、きつく睨んでくる。

 

「なんでもいいけど。お前は暫く黙ってろ」

 俺は戸村の様子を窺いながら、その耳元で囁いた。

「なによそれ、何様のつもりですか?」

「いいから。……戸村の様子がおかしいのお前も気づいてるだろ?」

「まあ、あんな強い物言いをする子じゃないよね」

 うんうん、としきりに頷く幼馴染。

「俺から話してみるから。ここは任せてくれ」

「そこまで言うなら、しょうがないわね」

 彼女はわざとらしく、お口チャックの仕草をした。


「悪だくみは済んだか?」

 そこに、戸村らしくない鋭い声が飛んできた。

 片目を開けて、じっとこちらを見ている。その瞳からは何の感情も読み取れない。


「悪巧みって、そんなつもりはないぜ」

「どうだかな」

 ふんと、一つ彼は鼻を鳴らした。

 見るからに不機嫌そうである。


 ここまで話してみた感じ、どうにも彼から冷たい感じがした。

 冷静沈着――クールというか。悪く言えばきざったらしい。

 寧音がさっきかっこつけてると言おうとしたのもわかる気がした。


「で、気分はどうだ? 本を読んで変わったところは?」

「ないな……全くとんだ茶番だったぜ」

 そう言うと、呆れた感じで戸村は立ち上がった。

「どこ行くんだ?」

「帰るんだよ。くだらない時間だった、ありがとう」

 厭味ったらしく言い放った後、彼は部屋から出て行った。


 まさか、数分も立たずして交渉が決裂するとは。

 あんな風に強く拒絶されるなんて、普段の戸村なら絶対にない。

 俺は暫く開いた口が塞がらなかった。眉間に皺を寄せながら、じっと出口を見つめていた。

 取り付く島もないとはあんな感じのことを言うんだろう。


「なにあれ! 嫌な感じ!」

「お前が渡した本のせいだからな」

「そうだけどさぁ……」

 彼女はすねた様に唇を尖らせた。


「でもまずいんじゃないかい、あのまま帰したら」

「なんだ、慎吾。勉強してたんじゃないのか?」

「いくら集中してても、友人が豹変したら気づくってば」

 そう言って、彼は少し苦笑した。


 突然のことで唖然としていたけれど、確かに慎吾の言うことも最もだ。

 彼の性格を変えるという願いは成功したけれど。

 あれではいきなり変わりすぎというか……

 余計なトラブルを招きかねない。特に家族と対したらどうなることやら。

 俺が立ち上がると、友人もまた腰を上げてくれた。やれやれといった顔をしている。

 

「いってらっさーい」

 しかし騒動の原因はというと。座ったままで力なく手を振るだけ。 

「お前も来るんだよ!」

 それを無理矢理引っ張って、立ち上がらせた。


「安斉、戸村どこ行った?」

 帳場に立っていた彼女に話しかける。

 すると彼女は少しキョトンとした表情をした。

「えっとね、店を出て左の方に」

 身振りで、戸村が行ったと思われる方向を示してくれる。 


「サンキュ」

「どうしたの? みんな、血相を変えて」

「ちょっとな」

「ねえ、琴乃ちゃん。さっき戸村君とあって変なことなかった?」

「いつにもまして不愛想というか……冷たい感じがしたけど。

 挨拶しても返ってこなかったし」

 言いながら、安斉は少し怪訝そうな顔をした。


「あーあ、拗らせてるね」

「拗らせてるな」

「昔の晴信みた――」

「余計なことを言わないでよろしい」

 俺は寧音の腕を強く引っ張って、店の外に出た。

「よくわからないけど、頑張ってね~」

 安斉の暢気そうな声が後ろから聞こえた。




 話を聞き終えたトネリコは、とても渋い顔をしていた。

「『一匹狼になる本』ですかね、たぶん」

 そして、ようやく謎のワードを吐き出した。


 結局、戸村にはの姿は見失ってしまい。

 先に彼の身に何が起きたか把握するためにも、フジミベーカリーを訪れた。

 ニコニコする里奈さんと交渉をして、おっさんを借りることに成功。

 今はひとまず豊臣雑貨店に戻る道中だ。


「文字通り、一匹狼的な性格になれますぞ」

「……寧音、お前どうしてそんな本を」

 チョイスを間違ってると思う。

「いや、よくわからなかったから適当に」

 彼女に悪びれたようすはなかった。

 仕方がないので、今度はおっさんを睨むことになった。


「い、いえ、私はちゃんと説明しましたからな。魔力の薬を片手に、『サーチス』を使って全二十五回!」

「寧音の記憶力が鶏以下なの忘れたのか?」

「……あっ!」

 はっとした顔をして、おっさんは大きく手を叩いた。

「ホント、失礼ね、こいつらっ!」

「まあまあ落ちついて、寧音さん。事実だから仕方ないだろ?」

「どさくさに紛れて、立見君まで! あんたたち、覚えておきなさいよ」

 プンプンと地団駄を踏む寧音。駄々をこねる子どもかよ……


「で、どうすれば元に戻る?」

 そんな幼馴染は放っておいて、話を戻した。

「お嬢さんに渡した本の中に白いものがありましてそれを読ませれば」

「素直に読んでくれると思えないけどねぇ……」

「そこは後で考えるとして、とりあえず戸村を探そう」

「さっきから連絡してるけど反応はないけど?」

「大丈夫だ。『千里眼の目薬』がある」

「晴信……立派にアイテムを使いこなしてるな」

 慎吾は呆れた眼差しを俺に注いできた。





 ……ということで。その後、何とか戸村を発見することはできた。

 幸いにして、家に帰る前。町をうろうろしているところだった。

 それで訳を話して、一緒についてきてもらおうとしたのだが――


「なにわけわからないこと言ってるんだ。俺は生まれてからずっとこの性格だ」

「いやいや、違うから。戸村君はもっと大人しかったから」

「ピーチクパーチクやかましいな……。子供なのはその見た目だけにしておけよ、豊臣」

「なんなのよ、こいつっ!」

「はいはい、お前はちょっと下がって様な」

 話が一向に進まないで、彼女を脇にどけた。


「いいって言うまで、耳をふさいで黙っててくれるかな?」

「……わかったわよ」

 すると、彼女は珍しく素直で、すぐにこちらに背を向けた。

 そして両手で耳を強く押さえる。


 さっきも思ったが、寧音とこういうクールぶったやつは相性が悪い気がした。

 まあ彼女が専ら我慢が利かないせいだけれど。

 なので、寧音はこうして道端に放置しておくことにして。


「なあ戸村。お前、本当にそんな性格でいいのか?」

「橋場、お前まで意味の分からないことを」

 すっかり戸村は自分の性格がこうだと思い込んでいるらしい。

 最早呪いの類じゃないか、あの本……焼却処分決定だな。


「仮にお前らが言う様に。元々俺の性格が臆病でうじうじとして情けなかったとして。そんな俺は願い下げだね」

「いやでもあの時の戸村の方が人間味があったというか……」

「やかましいぞ、がり勉野郎」

 ……一匹狼ってこんなに周りに毒を吐く性格だったっけ?


「もしかしたら、今までの鬱憤が爆発しているのかもしれませんな!」

 思わず、おっさんの方を見ると、他人事のように答えてくれた。

「そろそろ俺の怒りも爆発しそうだけどな」

 おまけにため息もつけておく。


 しかし、埒があかない。

 戸村に俺たちの話を受け入れる気配は微塵にもなかった。

 何か言っても、屁理屈を返すだけ。

 他人と関わるのが鬱陶しいのかもしれない。……一匹狼だし。


「ぼっちゃん、ここはわたしに任せてください!

 こういうああだこうだごねる人の相手は得意分野です」

 すると、なぜかトネリコが自信満々に進み出てくれた。

 不安しか感じないが、どうしようもないのも事実で。

「変な真似はするなよ」

 そう言うのが精一杯だった。

 

 おっさんは満面の笑みで頷くと――

「――ふんっ!」

 すごい勢いで、戸村の首筋を叩いた!

 彼の身体がそのまま崩れそうになるのを、おっさんが抱き止めた。


 ……よく漫画とかで見る首をトンってする奴だな。

 初めて見たぞ、というか大丈夫かこれ?

 戸村はすっかりと気を失っている様で、それをおっさんがひょいと簡単に担ぎ上げた。

 そしてのっそりと歩き出す。


「薄々思ってたけど、トネリコさんって脳筋よりだよね?」

「力とアイテムで何でも解決しようとする節はあるな……」

 呆れながらも、俺たちは奴の後ろに続いた。


「ちょっと、置いてくなっ!」

 その後、背後から幼馴染が猛追してきたことは言うまでもない。

 ……完全にこいつのこと、忘れていた。

       

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