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追放勇者の『星降り』カフェ~元勇者は魔王城の周辺でカフェを開きます~  作者: 石動なつめ


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ヒメと魔王は常連さん


 魔王城近くにカフェを開いてから、そろそろ1ヶ月ほど経つ。


 ヒメと魔王はほぼ毎日やって来て、2人でのんびりカフェのメニューを楽しんでくれている。

 そうしていると、今度は二人を探して魔王城の関係者も来てくれるようになって、今では周りに聞かれても問題がないくらいの仕事の打ち合わせでも利用してくれるようになった。


 閑古鳥が鳴いていた頃が嘘のように、カフェ『星降り』はお客さんで賑わっていた。

 明るい声で笑顔を見ながら仕事が出来て、僕としては本当にありがたいなって思っている。


 そう言えば魔王の事なんだけど……ヒメから彼が魔王だって聞いた時は本当に驚いたな。

 確かにこのカフェは魔王城まで徒歩5分という場所に開いたし、お客さんとして想定はしていたんだ。

 けれども、実際に来てくれたのを見ると「本当にいる……」って妙な感動があったよ。 


 ちなみに魔王は、初めて来てくれた時はやっぱり怒っていた。

 理由は僕が勝手にこの場所にお店を開いたからだ。

 今思い返せば怒られて当然だったよな……と反省してる。

 あの時は勇者をクビになった事で変なテンションになっていて、その勢いでやっちゃったからな……。


 でも今は僕の料理を食べて喜んでくれているので、申し訳ない気持ちを感じつつも良かったなぁと思っている。

 しかも常連さんだ。本当にありがたい事である。


「あ、そうだ。なぁレオ、聞いたんだけど、お前って人間の国(アストラル)で勇者をやっていたんだってな」


 そんな事を思い出していたら、ミルクレープを食べていた魔王が、そう言い出した。

 反射的に僕は肩をギクリと跳ねさせる。


「えっ、えーっと……どこでそれを……?」

「うちの秘書が調べてくれた。つーか、この辺りまで来た事がほとんどなかったから、顔を知らなかったんだよなぁ。話を聞いてちょっと驚いたぞ。まぁ、魔王城前に勝手に店を始める奴だから、ただもんじゃねぇとは思っていたけどさ」

「あー……はは……」

「勇者……レオ、そうなの?」

「うん、そうだよ」


 誤魔化すの難しそうなので、僕は頷いておく。

 一応、今の僕は()勇者ではあるけれど、魔王達にとってはそれは関係ないものな……。


 アストラル王国と魔族領は仲が悪い。

 だから勇者と魔王の関係も、当然ながら悪いのだ。


 僕は勇者になったばかりの頃に、歴代の勇者の行動をまとめた資料を呼んだ事があるんだけど、その中には『魔王城襲撃』や『魔王討伐』という文章も書かれていた。結果としてそれらは失敗したようだけど、双方でかなりのダメージがあったらしい。


 だから僕にも同じような事をやってほしいと言われていた。

 あくまで「無理が無い範囲で」と注意付きでだ。

 魔王や魔族領への対処よりは、国内の問題を優先して解決させたい雰囲気だったなぁ。

 だけど仲間達は――特に聖女や戦士はすごくやる気を出していた。魔法使いだけは興味がなさそうだったけど。


 でも、もしも魔王討伐を強く命令されても、僕はやらなかっただろう。

 だって僕は「殺さない」と決めているから。討伐って言葉を使うなら、命を奪えという意味になるからね。


 そういうわけ僕は魔王城へ来た事が無い。魔族領近くには、魔物関係の依頼で来た事があったけどね。

 だから正体は直ぐにはバレないかなと楽観視していたんだけど……さすがに甘かったようだ。


「確かに僕は勇者をやっていました。今はクビになってしまったから、元勇者なんですけどね」

「ああ、ま、そうじゃなきゃ、こんなところで呑気にカフェなんて開いてねーよな。油断させて後ろからバッサリってのはあるかもしれねぇけど?」

「お客さん相手にそういう事はしませんよ」

「ハハ、だよな~。ま、確認だ、確認。悪かったな」


 ……あれ? 思ったほど、悪い感情を持たれていない気がする……?

 少し緊張している僕とは反対に魔王は何とも思っていない様子だ。ミルクレープを綺麗に切って、ひょいと口に放り込んでいる。

 うーん、これはどう判断すれば良いのだろう。

 そう考えていると、ヒメが首を傾げた。


「ねぇ、レオ。レオはどうして勇者をクビになったの? 勇者がクビになるって聞いた事がない」

「あー……えっと」


 すると今度はヒメからストレートにそう聞かれてしまった。

 これは話してしまって良いものかのか少し迷うな……。

 アストラル王国の内情とか、機密事項とか、そういうものではなくて、単純に内容が情けなさ満載だからである。自分から人に聞かせるような話でもないし……。

 僕が迷っているとヒメと一緒に魔王まで、


「おうおう、もったいぶらねーで話せよー」

「そうだそうだ」


 なんて言い出した。

 いや、もったいぶっているわけじゃないんだけど……。

 ……まぁ、いいか。勇者だってバレているのなら、勇者をクビになった理由だってそのうち分かる事だろう。

 そう思って僕は話す事にした。


「聞いていても、あまり面白い話じゃないけど……いいの?」

「いい、構わん」

「構わん構わん」


 ……ヒメと魔王ってしょっちゅう喧嘩をしている印象だけど、こういう時は仲が良いよね。


「……いやぁ、その……ね。王様に、魔物を殺さない勇者はいらないって言われちゃって」

「魔物を殺さない? 何でよ? お前、勇者だろ?」

「元々僕は魔物——というか殺すことが嫌なんですよ。だから敵対しても可能なら説得したり、無理なら昏倒させて遠い場所へ運んだり、そういう事をしていたんです」


 両親との最後の約束で僕は誰も恨まないと決めた。

 でも恨まないっていう事が、どうすれば良いか分からなかったから――だから何も殺さない事にした。


 殺そうとすれば、殺される。そういう時には、自分も相手も良くない感情が生まれると僕は思った。

 だから殺さないと決めたんだ。


 その決まりを一度でも破ってしまえば、最初から――僕の両親の命を奪った魔物の事も、その魔物を討伐しきなかった人の事も、きっと恨んでしまうと思ったから。


「勇者として依頼された仕事にも、魔物の討伐というのがありました。でも殺さない方法を取ったから――手間も時間もずっとかかった。それに仲間達を付き合わせてしまっていて。その事で彼らが不満を持っていたのを、僕はこの間まで気が付かなかったんです。それで、その結果クビになりました」

「そっか。……その前に何か話はしなかったの?」

「……した。したんだと思う。だけど僕は気付かなかった」


 ヒメの言葉が胸に刺さる。

 今思えば、普段の会話の中にそれらしき話が出ていた事はあったと思う。


 だけど僕はそれに気が付かなかった。気付こうともしなかった。

 信念を曲げるつもりはないけれど、彼女達の気持ちに気付きもしなかった時点で僕は、勇者としてもパーティのリーダーとしても失格だったのだと思う。


「お前、鈍感だな~」

「ですよねぇ、あはは……」

「ま、だけどさ、別に良いじゃねーの? なぁ?」

「うん、別にいいと思う」

「いいって?」


 魔王の言葉にヒメも頷く。

 僕が鈍感なのは痛いほど分かったけど、でも何が良いのか分からない。


「だってレオは、魔物を殺さないって決めていたんでしょう? ずっとそうやって来たんでしょう? だったら仲間が何を言ったって、レオは曲げない。なら何を話し合っても結果は一緒」

「そうそう。後はお前の仲間が折れるかどうかっつー話だけなんだよ。でも、そうじゃなかったんだろ? じゃあ仕方ねーわ。なるようになったってだけだ。だからそう落ち込むなよ」

「あ、え……」

「それに、そうなったから、レオと会えた。レオの美味しいご飯が食べられて嬉しい。だから私は、レオが勇者じゃなくなって嬉しい。こう言うのはレオに悪いけど、でも……私は嬉しいよ」


 ヒメは嬉しいと何度も言ってくれた。魔王も頷いてくれている。

 気を遣っての言葉じゃないのは、何となくだけど分かる。

 二人の言葉が胸にじんわりと広がって、心に沁みて来る。

 出会って間もないのに、彼女たちは僕の事を理解してくれていた。

 それが純粋に嬉しかった。


「それに、ごめんなさいは、私の方」

「ヒメ?」

「アストラル王国の王様、私のお父さんだから」

「え?」

「お父さん」

「……ええっ!?」


 …………え、ちょっ、ちょっと待って。

 ヒメのお父さんが王様……ヒメ……。

 ……もしかして、ヒメって本当にお姫様って事!?


「ひ、ヒメって、お姫様だったの!?」

「ええ……? お前、今気が付いたのか? ずっと姫って呼んでただろ。さすがにそれ、鈍感過ぎない?」

「い、いや、だって……愛称か何かだと思っていて……」


 何なら魔王城の人かと思っていたんだ。人間がここまで来るとは思わなかったし……。

 だけどそう言えば確かに僕、アストラル王国の王族の顔、全員分は知らなかったな……。


「ど、どうしてヒメ……姫様はここにいるんですか?」

「姫様じゃなくてヒメがいい」

「あ、えーと……ヒメはどうしてここに?」

「魔王に攫われてここに来た」


 ヒメはけろっとした顔でそう言った。

 僕はぎょっとして魔王の方へ顔を向ける。


「えええ……何で攫ったんですか、魔王様?」

「いや~、何かさぁ、魔王ってそういうモンらしいし? でもさぁ、攫ったら中身コレじゃん。人間の国の連中も助けに来ねーし、本当に姫か疑問だったよ。本当に姫なの?」

「本当に姫。まぁ、うちは兄弟が多いし、お父さんは他の兄弟の方が大事だから、私は割と放置気味。でも王族だから、とても窮屈だった」


 ヒメはサラッと言っているけど、王家の闇をを知った気がする……。

 確かに勇者としての仕事の中に魔王の討伐はあったけど、姫の救出とは特に言われてなかったっけな……。

 これは言わないでおいた方が良いかもしれない。


「なので私は今とても自由。レオのカフェで、美味しい料理が食べられて幸せ」

「お前さぁ、やっぱり自分が囚われの身だっての、まったく理解していないよな? 自由じゃないよ? 囚われてるのよ? それっぽくしてくれない?」

「魔王城の警備がザルなのが悪い」

「くそっ、またそこに持って行くのか!」


 魔王は悔し気に言っているけれど……僕も魔王に同感だ。どう考えてもヒメは囚われの身には見えない。

 攫った事自体はダメだけど、でもヒメが今の方が自由だと言うのだから、良かった事でもあるのだろう。

 いや、良いのかな……?

 疑問は湧くけれど、ヒメが満足そうだから良かったんだよね……?

 考えていたら何だか良く分からなくなってきた。


「……ん?」


 なんて色んな話をしていると、不意に『星降り』の建物に、ピリッとした揺れが走った。

 ……何だ?


「『星降り?』」

『気配、遮断、遮断、遮断————撃退』


 『星降り』に声をかけると、そんな言葉が返ってきた。

 これは敵襲の時の『星降り』の反応だ。

 撃退と言っている当たり、何かを追い返したんだろう。


「どうしたんだい?」

『何か、魔法で見られていたから、追い返したぞー。魔王城の奴じゃないなー』

「見られて……偵察か?」


 こちらに魔王がいるから、魔族領の関係者ではないだろう。

 だけど、それならば誰が……。


「……カフェがしゃべった?」


 そんな事を考えていると、ヒメと魔王がポカンとした顔になっている。

 ……あ、そう言えば、2人にはまだ『星降り』の紹介をしていなかった。

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