買い出しの旅 2
魔族領を出発して数時間後。
ちょうど昼前くらいに、僕達を乗せた馬車はランプストーンという名前の町に到着した。
町の名前の由来は、近くの鉱山から光石と言う、自ら光を放つ鉱石が採れる事からだそうだ。
そんな光石はこの町の特産品でもある。
光石はそのままでも綺麗だけど、照明器具に使われたり、アクセサリーとして加工されたり、ちょっとした目くらまし用の道具に使われたりと、その用途は意外と幅広い。
そうそう、照明器具と言えば。
光石をカンテラの油が切れた時の代用品として持ち運ぶ冒険者もいるね。
外を歩くならいk通過携帯していて損はないものである。
「ねぇ、レオ。キラキラだね、綺麗だね」
そんな光石を歩きながら眺めていると、ロザリーが僕の服の袖を、くいくいっと引っ張ってそう言った。
ロザリーの表情の変化は薄いけれど、その瞳がいつもより輝いている。
楽しんでくれているようで何よりだ。
「うん、綺麗だよね。ここの光石は、他の産地寄り光が強くて、特に良いと思うよ」
「分かる。光の色も澄んでいて綺麗。……あ」
「どうしたの?」
「あそこで売られているランプ、『星降り』に似合うと思う」
ロザリーが露店で売られているランプを指差した。
星と花をモチーフとしたデザインのお洒落な光石ランプだ。
ああ、確かに良いなぁ。このランプを幾つか『星降り』に飾れば、夜になったら本当に星が輝いているように見えそうだ。
「いいね、すごく綺麗だ。『星降り』も喜びそう」
「ね」
ロザリーは満足そうに頷いた。
もしもランプを飾るなら、夜もお店を開けてみたくなるね。
うちのカフェは夜間営業をしていないけれど、こういうランプを飾ったら、たまになら夜に店を開いてみるのも悪くないかも。
そうすると、お酒に合う料理やお菓子のメニューをメインにすると良さそうだね。
この光石ランプはお洒落な分、値段が他よりちょっと高めだけど、予算内では買えそうだ。
一考の価値ありである。
そんな事を考えながらランプを見ていると、
「ほほーう? なら俺は、これが良いと思うぞ!」
ディも対抗するように、その2つ隣の光石ランプを指差した。
ドラゴンの細工が施されたかっこいいランプだ。こちらはアンティーク品だろうか。少し錆びのある古い雰囲気の色合いが、また良い味をだしている。
ドラゴンの細工が施された格好良いランプだ。
こちらはアンティークだろうか。少し古い感じの色合いがまた良い味を出している。
「か、かっこいい……」
「だろ! 男はやっぱコレだよな!」
こ、これはちょっと、自分の趣味的にも飾ってみたいな……。
ドラゴンも魔物の一種だけど、知性が高い事で有名だし、アストラル王国内でも暴れる事が少ない。
魔族領の外へ出ると理性を失う事が多い魔物の中では、その精神力耐えているらしいと聞いた事がある。
だから魔物であっても、僕はドラゴンの事はそんなに嫌いじゃないんだ。
星と花の光石ランプに、ドラゴンの光石ランプか……。
2種類そろえるとなると、さすがに予算が厳しいけれど、ロザリー達のおすすめでもあるし、見ているとどちらも欲しくなってきた。
そう言えば、冒険者や勇者として活動している間、こういう調度品を買おうと思った事がないな。
買っても持ち歩くわけにもいかないし、買ったところで置いておく場所もなかったからだ。
もちろん僕にも家はある。
魔物の暴走で破壊されてしまった我が家だ。
冒険者や勇者の仕事で貯めたお金で建て直したのだけど、実のところ数えるほどしか帰っていない。
仕事が忙しかったし、たまの休みも兵士達の訓練に付き合っていたから、時間がなかったんだ。それに家に帰っても誰もいないからね。
……ああ、でも改めて考えると、本当にしばらく帰っていないな。
家の中も埃がだいぶ溜まっていると思う。
状況がもう少し落ち着いたら、様子を見に一度帰ってみようかな。
お墓の中で眠る父さんと母さんに、カフェの報告もしたいから。
「ねぇ、レオ。ランプ、どっちがいい?」
「当然こっちだよな!」
ふっと別の事を考えていた僕に、ロザリーとディがこぞってランプを勧めて来る。
「私の推しランプはあれ」
「俺の推しランプはそれだ!」
「推しランプって何だい?」
「あの店の看板に書いてあるぞ。あなたの推しランプが見つかるかもって」
ディが指さした方をみると、先ほどの露店の前に、そんな言葉が書かれた看板が置かれていた。
色んな商売の仕方があるものである。うちのカフェも「今日の推しメニュー」みたいに宣伝した方が良いのだろうか。
そんな事を思いながら、視線を動かして光石ランプを見る。
どちらが良いかと訊かれれば、やっぱりどちらも良いなぁという答えになってしまう。
ううっ、予算が無限にあったらいいのに……。
「ロザリーのもディのも、どっちも好きだから迷うなぁ……」
魔族領へ向かう前に食器等を買ったあたりから、自分の中にある物欲が、どんどん大きくなっている気がする。
ちゃんとセーブしないとあっと言う間にお金がなくなってしまう。気を付けなければ。
「両方買いたいけれど、最優先なのは食材と調味料だよ」
「レオは食材推し……」
「調味料推しのレオ……」
「うん。さすがの僕でも、何か違う気がするのは分かるよ? 大事な存在だけどね?」
妙な称号をつけられそうになったけれど、それは横に置いておいて。
本来の目的は食材と調味料なのだから、光石ランプを買ってそちら用のお金がなくなってしまったら、カフェの営業が出来なくなるから本末転倒である。
先に目的のものを買って、その後でお金が残っていれば光石ランプを買おう。
それまで売れ残っているといいんだけどね。
後ろ髪を引かれる思いで光石ランプから目を逸らした時、不意に、ロザリーとディのお腹がぐうと鳴った。
反射的に顔を向けると、2人はそれぞれ自分のお腹を押さえて、恥ずかしそうな顔をしている。
「……レオの料理を食べるつもりだったから、お腹空いた」
「……そう言えば俺もそうだったわ」
そうだ、2人はもともとお客さんとして来てくれたんだった。
ランプストーンの中央にある時計塔を見上げれば、時計の針がそろそろ昼の12時を指す頃だ。 お腹が空くのも無理はない。
「ディのお腹の音、大きい」
「ロザリーの方が大きかっただろ」
「どっちも同じくらいだったと思うよ?」
そんな風に言い合う二人を見て、思わず噴き出してしまった。
2人は僕を見ると、むう、と口を尖らせる。
「レオ、笑った」
「あはは、ごめんごめん。でも、そっか。そろそろお昼だし、お腹空くよね。何か食べよっか」
僕がそう提案すると、2人は「やったー!」と声を揃えて喜んでくれた。
そうと決まれば食事処探しだと、僕達は歩き出す。
「ランプストーンって、食事が美味しい事でも評判なんだよ」
「そうなの?」
「うん。町近くの鉱山で働く人達が多いから、美味しくて量がある食事を提供するお店が多いんだって」
「へー! そいつは楽しみだ」
「楽しみ」
ロザリーとディがウキウキした様子で言う。
実はね、最初に買い出しに行こうと決めた時は、お弁当を作ろうかなって思ったんだ。その方が節約できるからね。
でもどうせ町に行くなら、その町ならではの料理をリサーチしたくなったんだ。カフェで出すメニューの参考にもなるし。
「ごっはんー、ごっはんー!」
「めーし! めーし!」
歩いていると、ロザリーとディの楽しそうな鼻歌が聞こえてくる。
良い感じのハーモニーになっているのが面白い。
自然と顔が緩むのを感じながら歩いていると『シロクマ亭』と書かれた看板が目に入った。
シロクマとは、スノーベアという魔物の別名だ。寒い地方に住む魔物で、全身が白い毛に覆われているらしい。温暖な気候のアストラル王国ではほとんど見かけない魔物だね。
店を見ていると、鉱山で働いているような服装をした人達が、ぞくぞくと中へ入って行く。
「レオ、あれ」
「うん。鉱山で働いている人達だろうね。食事処で間違いなさそうだ」
「へーえ! そんじゃ、期待出来そうじゃん」
「そうだね。じゃあ、あそこで決まり!」
「決まり!」
「おー!」
僕達は顔を見合わせ頷くと、シロクマ亭の中へと入ったのだった。




