47話
ゴーダチームの焦りと判断ミスがあったとはいえ、主席候補である彼らをメンバー(ルイ)が欠けた状態で軽々と倒してみせた。
ルーディスとレイリアの戦いぶりは見事、の一言に尽きた。
ユリアは二人の連携に素直に感心している様子で「すごい」とはしゃぎ、ケビンも「やるねぇ」と賞賛を口にしていた。
そんな二人の反応に対し、
「当然っ!」「僕なんてまだまだだよ」
と、強気のレイリアと謙遜するルーディスの言葉が同時に返ってきた。
その異なった反応に今度はゴーザが苦笑する。
そんな些細やかなやり取りの間、ルーディスがゴーダチームを縄で縛り、レイリアが彼らの身体チェックを行っていた。
そして、レイリアはクリストフの懐から一枚の羊皮紙を見つけて抜き取った。
「これだ。あったわよ、ルーディス。やっぱり、こいつらの狙いはこれだったみたい」
レイリアは手にした羊皮紙をルーディスに渡した。
「なにそれ?」
ユリアが素朴な疑問をすると、ルーディスは少し悩むような仕草を見せたが、すぐに思い直したようで口を開いた。
「ゴーダチームがこの屋敷から盗んできた書類みたいだね。僕達は司法局の依頼でこの書類を受け取りに来たんだ。依頼主から重要書類だからもしかしたら妨害や強奪に行く人間もいるかもしれないって警告を受けてはいたんだ。そうしたら屋敷に近づいたら騒ぎが起きてるみたいで、慌ててしまったよ。どうしたものかと思っていたんだけど、ルイ姉さんが急いで屋敷に飛び込めって言うもんだから、こうして塀を飛び越えて来たというわけさ。まぁ、結果的に良かったみたいだね。何とか、強奪を阻止できた」
「さすが、ルイさんの判断ってことなのかな」
ルーディスの説明をユリアは素直に受け止めている様子だった。
「そうだね。それよりも、ユリア。僕達はこの書類を急いで依頼主に届けないといけないんだよ。クリストフさん達を家主さんに引き渡しておいてくれないか? ついでに屋敷のご主人には書類を受け取ったことを伝えておいて欲しいんだ」
「それは構わないけど。あたし達の手柄みたいになっちゃうけど、それでもいいの?」
「構わないよ。それじゃ、僕達は急いでいるからこれで。行こう、レイ」
「あ、はいはい。んじゃね、ユリア」
ルーディスとレイリアはユリアに手を振って挨拶してから、塀を飛び越えて屋敷の外へ立ち去っていた。
「ケビン」
ゴーザはケビンに確認するかのように目線で何かを訴えてくる。
おそらく胡散臭かったルーディスの行動に対して何か言いたいのだろう。
ルーディスは『嘘』は言っていないようだったが、その代わりに意図的に真実の隠しているようだった。
そもそもルーディスの態度は最初から不自然だったのだ。
塀を越えて侵入という方法を使った時点ですでに怪しい。
その上、『騒ぎに便乗して飛び込んだ』とうっかり口を滑らせている。
正式な手続きで書類を受け取りに来たのならば、騒ぎを歓迎するような言葉を使うはずはない。
立ち去るときもそうだ。
司法局の依頼でこの書類を受け取りに来たと言っていたのに、持ち主の同意も取らずに書類を持ち去った。
これではゴーダチームの行動と何も変わらない。
ゴーザはユリアに助言ぐらいはすべきでは、と言外に訴えていた。
ケビンはそれに対して首を左右に振った。
「姐さんが判断した。責めるようなことをわざわざ言わなくてもいいさ。それにあながち間違った判断じゃねぇかも知れねぇぞ」
「どういうことだ?」
「気配で気付いてたんだろ。ルイが塀の外で待機していた。俺達がルーディスを呼び止めていたら動き出していた。ある意味、最悪の事態になってたかも知れねぇぜ?」
魔法使いのケビンが塀の向こうにルイが隠れている事を感知できたのだ。
ゴーザが気付かないはずはなかった。
「彼女にそれほど警戒する必要があるとは思えんが」
ルイの戦闘能力は恐れる対象ではないとゴーザは考えているようだった。
だが、ケビンの判断は違った。
「ああいう手合いは最も警戒すべきだぞ。ルイと殺り合うぐらいならルーディスとレイリアの二人を一人で相手にした方がマシだ。アレは実力云々を簡単に覆す手段を『ここ』から導き出せるからな」
そう言ってケビンは人差し指で自分の頭を指した。
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ルーディス達が立ち去ったすぐ後に混成チームが侵入者を追いかけて中庭に現れた。
倒れているクリストフ達に驚く彼らにユリアは事の顛末を説明した。
すると彼らは挙って何故彼らを逃がしたのか、とユリアを責めたてた。
ユリアは彼らに指摘されてもルーディスの「依頼を受けて書類を受け取りに来た」という言葉をまだ信じていた。
だが、極めつけはそのすぐ後に屋敷を訪ねてきた冒険者チームの存在だった。
彼らは家主の商売相手からの使いで、紹介状を持った書類の正式な受取人だった。
ユリアはここに到ってようやく事態の深刻さを把握した。
つまり、ルーディス達もゴーダチームと同じ強奪犯だったのである。
「そんな。ルーディス、どうして」
ルーディスは不正を行うような人間ではないし、それを許せる性格でもない。
それともユリアが勝手にそう思い込んでいただけだったのだろうか。
そんな風に落ち込んでいるユリアにケビンはこう謎かける。
「立場が変われば正義も変わる。見方を変えればなんだって正義でなんだって悪だ。さて、俺達は正義なのかな、悪なのかな?」
ケビンの試すような言葉にユリアはウンザリしながらも考えてみた。
でも冷静さを欠いていたユリアには答えを出す時間はなかった。
何故なら家主から新たな依頼を受けたからだ。
それは紹介状を持ってきた冒険者チームと共に書類を強奪していったルーディスチームを追えというものだった。
こうしてユリアチームは紹介状を持ってきた冒険者四人組、シューラスチームと共に追撃任務に向かった。
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ユリアチームとシューラスチームはルーディスチームを探して街を彷徨っていた。
数人で手分けして追撃任務に当たる事を最初に検討したのだが、最終的には一緒に動くことになった。
追いかける相手は今や主席に最も近いチームと言われているルーディスチーム。
個人で遭遇した際に対処が難しいだろうということから、その結論に至ったのである。
ルーディスが会話の中で「司法局」という単語を出したことから、公的組織の依頼を受けたものという推測をたてて、公的関連の施設を重点的に探して回った。
街中での聞き取り調査も並行して行った。
受験者達が行き交い人通りは多く、話しかける相手には困らなかったが、それぞれ任務の為に動いているせいか周囲に対する警戒心が強かった。
話しかけてもぞんざいな扱いを受ける場合が殆どだった。
結局、成果は実らず三時間程が経過した今もルーディス達の姿を見つけることも、目撃情報を得ることも出来なかった。
「困りましたね。危険は承知していますが、やはり手分けして行動した方が良くありませんか?」
そう提案してきたのは頭の上に鳥を乗せている奇妙な服装の自称奇術師の男、ブルム・リストンだった。
「捜索範囲の広さに対して、情報と人員が不足している。効率は上がるかもしれないが、果たして結果に繋がるかな」
渋い顔でそう口にしたのはシューラスチームのリーダー、シューラス・グローニアだ。
どちらも判断に迷う選択肢で、決定的な解決策ではない。
ユリアは頭を捻って第三の案を模索するが、答えが出ずに結局、
「ケビン。何かルーディス達を探す方法ないかな?」
と、仲間に救いを求めることにした。
「あるぞ」
「あ、あるの?」
深刻に悩んでいたユリアの問いにあっさり答えるケビン。
ユリアは思わず声を張り上げた。
シューラスチームの面々もケビンに注目する。
「まぁな」
「だったら最初に言ってよ」
「手間かかるし、時間かかるし、何より俺の負担がデカいんだよ」
「それ、どんな方法なの?」
「広域探査魔法を使う」
ユリアが納得して頭を抱えた。
シューラスチームに魔法使いはいないし、ユリアの魔法知識では協力できそうになく、その方法を使うと仮定するとケビンが一人で全部こなさなくてはいけないという事になる。
確かにケビンには大きな負担だ。
「その魔法って大変なの?」
「高位に分類される魔法ではあるな。なにせ現場の環境と探す相手によって探査の手順が極端に変わる魔法だ。現状の判断で言わせてもらえば、早くて数時間、最悪は一晩かかる。当てもなく歩いて探すのとどっちかマシかっていうとトントンだと思うぜ」
「でも、闇雲に探して歩くよりは可能性はあるわよね」
「確実に発見できるぜ。それは保証する。で、どうする姐さん?」
「そうね」
ユリアはケビンの意見を元にしばし思案して、シューラスに視線を向けた。
「シューラスさん。ブルムさんが言ってたように手分けして動きませんか? ケビンに魔法で探してもらって、あたし達はこのまま捜索続行ってことで」
「判った。それでいい。だが、一つ確認したいことがある。ケビンさん」
そう言ってシューラスはケビンに声をかけた。
「ん? なんだ?」
「その探査魔法とやらは現場の環境で手順が左右されると言っていたな。そして現状では時間もかかると。それはつまり、ややこしい儀式をしなくてはならないということか?」
「ま、そんなところだ。最適な環境を整えてやればある程度は時間を短縮できるはずだ。最適化した魔法陣を形成して、探査魔法を使う場所は試験会場の中心地点。中央広場がベストだな」
「なるほど。ありがとう、参考になった」
「参考? 何のだよ?」
ケビンの問いを無視するかのようにシューラスは含みのある笑みを浮かべて、ユリアに視線を向ける。
「ユリアさん。提案があるのだけど」
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ケビンは探査魔法を使うために中央広場へ向かっていた。
その右隣には小柄な女性シャロ・ラブリス。
左隣には地味な雰囲気の少女ミヨン・アイル。
可愛らしいと形容できる外見と表情の明るいシャロと化粧の一切なく表情の変化も乏しい印象の薄いミヨン。
対照的な雰囲気の二人であった。
「両手に花とは嬉しいねぇ」
言葉は喜びに満ちていたがケビンはまったく嬉しそうではなかった。
シューラスチームの女性コンビをケビンの同行者に推したのはシューラスだった。
思惑もおおよその見当がつく。
(チームで分かれて先を越されることを懸念しての人選か。んで、この二人は俺が抜け駆けしないように監視も含んでるって訳だ。それに同行者が女だけってのは俺の性格も把握されてるな。シューラスか。実力はともかく、人を見る能力はあるってことか)
シューラスのその才能は冒険者より商売人向けだ。
惜しい人材だとケビンは思う。
(他のメンバーも能力的には平凡。突出した資質もない。普通はそんなもんだよな)
ゴーザやレイリアのような化け物じみた実力者やルイのような天才、そしてルーディスやユリアのような異能者の方がやはり例外なのだ。
そんな事を考えながら無言で歩き、しばらくしてケビン達は中央広場に到着した。
中央広場には何組もの受験者の人だかりが出来ていた。
誰かを待っている様子であたりを窺う者が多い。
中央広場は立地の面でも目印の面でも待ち合わせ場所としては判りやすいから仕方ないのかもしれない。
その反面、人が多くて待ち合わせている人間が誰なのかも判らなくなりそうだ。
「ケビンさん。人いっぱい。ここら辺で仰々しい魔法使ったら目立つけどいいの? ちなみに、私は目立つの嫌いじゃないよー」
辺りを観察しながらシャロが陽気に言う。
「俺もその意見には賛同する。目立つのは大好きだ。ま、探査魔法をここで使ったら確実に注目の的だけどな」
「私は目立つの嫌い。早く始めてさっさと終わらせて」
ミヨンが小さな声で、しかし厳しい語調で訴える。
「わかった、わかった。んじゃまぁ、とりあえず陣取りだな」
ケビンは周囲を見渡して適当な場所を探した。
そして選んだのは広場の周囲に蜘蛛の巣のように広がる並木道の木陰だった。
それに安堵したようでミヨンは胸を撫で下ろしている。
もっとも、ケビンは別にミヨンの意見を取り入れて目立たない場所を選んだわけではなく、適度な広さがあって地面が土であるという理由からだ。
今回使おうとしている探査魔法は大地に浸透させるタイプのもので、広場の真ん中や通路は石畳より大地が剥き出しになっている場所が都合が良かっただけなのだ。
ケビンは足先で軽く地面を彫りながら、円陣を記して、その中に六芒星を描くとその中心に胡坐をかいて座り込む。
「んじゃ、始めるぞ。二人とも魔法陣に触れないように気をつけてくれ」
その指摘にシャロとミヨンが頷いてケビンから離れた。
それを確認するとケビンは杖を地面と平行になるように両手で持つ。
「魔力・走査・準備。大気に廃された魔を疎にして、命ありき、聖ありきを元に根を生やし、大地に問う」
呪文にあわせて地面に描かれた魔法陣に魔力の光が灯る。
閃光が周囲に走り、並木道の下に佇んでいた木の影を消し去っていく。
呪文が続くその間、閃光は治まる事はなく、むしろ周囲に広がり広場を覆っていく。
おそらく離れた場所から広場を観察すると広場が光の球体に包まれているように見えたことだろう。
「すげー」
と、純粋に感嘆しているのはシャロで、
「これは目立ちすぎでは……」
と、きょろきょろと周囲に視線を泳がせているのはミヨンだ。
なにせ今現在、広場の人々の目はケビンに釘付けなのだ。
閃光は淡くて目を傷めるようなものではないが、唐突にそんな光が放たれれば誰だってそちらを振り向くだろう。
「自然に従い、自然に反し、根源より求める。不自然で自然な存在を俺の為に探して来やがれ。走査・開始」
呪文の終了を宣言する発動文を口にして、ケビンは横にした杖を今度は地面に直角になるように突き立てた。
その瞬間、広がっていた光が一斉に細かく砕け、周辺に流星のように飛び散って、瞬く間に消えた。
呪文が始まったときに光が唐突に発せられたように、今度は逆に唐突に消えた。
そして残されたのは光る魔法陣。
「おぉ、なんか綺麗だったね、今の」
「いやいや、シャロさん。そういうことじゃないでしょ。今のなんだったの?」
興奮するシャロに、瞬きしながら戸惑いを見せるミヨン。
やはり対照的な反応を見せる二人に対してケビンは苦笑しながらこう言う。
「今のはただの準備だぜ。本番はここから。成果が出るまで俺は一歩もここを動けないからな」
ケビンは立ち上がると、魔法陣の外に出てそこで胡坐をかいて座る。
そこからケビンは魔法陣をじっと見つめ、まったく動かなくなった。
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一方のユリア達は、歩き回って地道な捜索活動を続けていた。ヒントが「司法局」しかなく、それに関連する施設は全部調べ終わっている。
もう当てなどなく、試験会場内を片っ端から探して歩くしかなかった。
「家主から奪われた書類の情報が聞けなかったのはやはり痛い。さてどうしたものか」
シューラスが思わずそう愚痴をこぼすのも仕方のないことだろう。
大人しくケビンがルーディス達を探し出してくれるのを待った方が懸命な気がした。
日も沈もうかという時間になってもルーディス達の行方は掴めなかった。
歩きつかれたユリアは思わずこう口にしていた。
「宿に戻りませんか」
するとシューラスとブルムに睨まれた、ような気がした。
「あ、いや。ほら歩いて疲れてるでしょ。それに食事もとってないし。そ、それにもしかしたらルーディスたちも宿に戻ってくるかもしれないし……」
失言した、と思ったユリアは慌てて言い訳を始めた。
だが、シューラスは意外にもユリアの判断に賛同してくれた。
「書類を奪われてから時間がたち過ぎている。ルーディスチームが依頼主に書類を手渡して依頼を終わらせているなら宿に戻ってくる可能性はなくはないか。いいでしょう。一度休憩して食事にしましょう」
こうしてユリアの提案は受け入れられ、宿に戻ることになった。
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宿に戻って食事をした後、ユリア達は捜索活動を休止して宿でルーディス達が戻ってくるのを待つという方法に切り替えた。
夜の捜索が困難であることと、翌日に備えての体力温存を図るためだった。
しかし、一夜が明けてもルーディス達は宿に戻ってくることはなかった。
そしてケビンからルーディスチームを発見したという報告が入ったのは早朝のことだった。




