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友盟の絆  作者: Project_B.W
第1章 冒険者試験編
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48話

◆試験15日目 実技試験団体の部(2日目)



 郊外の東。

 試験会場の範囲にギリギリ入る森の木々に紛れた小屋にルーディスチームは潜んでいた。


 窓から射し込んでくる朝日でルイは目を覚ました。

 寝ぼけ眼を擦りながら右隣に視線を向けて首を傾げる。

 隣で寝ていたはずのルーディスとレイリアの姿がない。


 周囲を見渡すとルーディスは窓枠を椅子代わりにして、外を睨んでいた。

 その表情に警戒の色を見てルイの眠気は一瞬で醒めた。


「どうしたの、ルー君?」


 ルイは音を立てないようにルーディスに近づいて声をかけた。

 するとルーディスは振り向かずに外に視線を向けたままで言う。


「さっき、この小屋にかかっていた結界が消えた」


 小屋にはルーディスチームの依頼主の魔法で魔法を緩和及び中和する結界が張られてあったのだ。

 結界の持続時間は個人で張った場合、魔力や技量にもよるが普通は長くても数時間程度しか持たない。


「そう。まぁ、結界が半日も持ったんだから上々と考えるべきよね」

「そうなんだけど、それより問題があるんだ、ルイ姉さん。結界が消えた直後に誰かの魔力がこの小屋の中に飛び込んできたんだ」


 ルイの表情が険しいものになる。


「何者かの探査魔法の類に引っかかったわけか。こっちは身動き取れないってのに……マズいわね」


 ルーディス達はこの小屋でとある屋敷から強奪してきた書類の受け渡しをする予定になっている。

 受け渡し相手が来ない限り移動するわけにはいかないのだ。


「何者かって、やっぱりケビンさん?」


 探査魔法を広範囲で使えるような受験者は考えられる限りケビンとマステラの二人のみ。

 そしてゴーダチームは昨日の屋敷襲撃で倒して屋敷の人間に引き渡している。

 この試験で彼らはもう動くことが出来ないだろう。

 となれば、消去法で探査魔法を使ったのはケビンということになる。


「でしょうね。参ったわね。できれば彼らとは戦いたくないんだけどなぁ。ルー君だってユリアちゃんと戦いたくはないでしょ?」

「そうだね。できれば」


 書類を奪いに出向いた屋敷でユリア達と遭遇してしまった時点で、敵対するという可能性は覚悟していた。

 ユリア達が屋敷の護衛だけに留まっていてくれればぶつからなくてすむと、密かに期待していたが望みは薄そうだ。


「あれ? そういえばレイちゃんは?」

「レイなら外で朝練と称して暴れて……あ、いや。素振りしてますよ。昨日のことがよっぽどストレスだったみたいで」

「まぁ、そうでしょうね」


 昨日、書類を受け取るはずの相手が待ち合わせの教会に姿をみせずに数時間も待たされた挙句に依頼主から引渡し場所の変更を伝えられたのだ。

 そして指定されたのがこの小屋だ。

 依頼主は朝に受取人が小屋に来るからそれまで待つようにと言い、この小屋に結界を張って立ち去った。


 ゴーダチームとの戦闘以外は殆ど待つだけの時間だったのである。

 じっとしていることが嫌いなレイリアが不満を感じるのは当然だった。


(レイちゃんの課題は精神面の持久力かしら。今はまだいいけど、この程度で癇癪起こされても今後が困るのよね。そんなんじゃゴーザちゃんには勝てないわよ。お姉さんはちょっぴり心配かなぁ)


 妹の将来に一抹の不安を覚えるルイだった。

 そんなことをルイが思案していると、ルーディスが唐突に怪訝な顔をして窓の外に身を乗り出して外を見た。

 何かあったのだろうか、とルイが思ったのも束の間。

 外で男性の悲鳴が聞こえた。


「何?」

「……レイがやらかしたみたい」

「そう。行きましょ」


 ルイとルーディスは小屋を出て悲鳴の聞こえた方へ向かった。

 そこには地面にへたり込む依頼主と憮然とした様子で立ち尽くすレイリアの姿があった。

 ちなみに依頼主の名前は知らない。

 どうやらこの試験では依頼主は名前を名乗らないのがルールのようだ。


「レイちゃん」


 ルイが声をかけるとレイリアの肩がわずかに震えた。

 そして恐る恐るといった様子でルイとルーディスの方を振り向く。


「え~と、これはね、姉さん……」


 動揺を含む声音でレイリアが言い訳のような言葉を口にする。

 その様子を見てルイとルーディスは何となく状況を察した。

 素振りをしている最中に人の気配を感じて相手を確認もせずに剣を振るって牽制をかけ、依頼主はそれに驚いて尻餅をついてしまった、といったところだろう。


「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」


 ルーディスが依頼主に駆け寄って手を取って助け起こす。

 依頼主の「問題ない」という回答に胸を撫で下ろす。

 依頼主に怪我など負わせれば減点は免れなかっただろう。


 肩を落としているレイリアを見れば反省しているのは判る。

 それならば説教をする必要はないだろう。

 ルイはそう判断した。


「それはそうと、依頼主さん。何故あなたがここに? 書類の受け渡し相手はどうしたのかしら?」

「そのことなのですが、すいません。先方の都合で申し訳ないのですが、また受け渡し場所が変更になりました。これから案内します」

「え~、またなの」

「レイ」「レイちゃん」


 軽率な行動をとったばかりのレイリアの考えなしの発言を咎めるようにルーディスとルイが同時に睨んだ。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 ルーディス達が依頼主に案内されたのは小屋から南に位置する廃墟となった倉庫だった。

 貴族の屋敷のように大きな倉庫の内部は整理がまったくなされておらず、荷箱が乱雑に積み上がっていて迷路のように入り組んでいた。

 部屋も複数あるようでより複雑な構造になっている。


 依頼主はこの廃墟の倉庫まで案内するとそそくさと立ち去っていった。

 倉庫の中に入ると入り口付近で受取相手の三人組受験者ローランチームが待っていた。

 チームリーダーは重厚なフルプレートを身にまとった重量級の戦士ブルクス・ローラン。

 チームメイトは包帯を左腕に巻いた魔法使いダミアン・ロッツェルと大きな鞄を背負った薬剤師ヴィルナ・リル。

 ちなみにブルクスは個人武道の部の準々決勝でレイリアに敗北した人物である。


 そしてヴィルナはルイと工学の部の実技試験で知り合って意気投合した同志であった。

 ヴィルナはルイに会釈をして声を掛けてきた。


「奇遇ですね。ルイさんが仲間側なら心強いです」

「ホント、奇遇ね。ヴィルナがいるチームが共闘相手なら、なんとかなりそうね」


 ルイの言葉にヴィルナは首を傾げた。


「なんとか、ですか? これから何か起きる前提ですね。書類を受け取って終わりだと思っていたのですが」

「多分、そうはならないわ。ルー君」


 会話の途中でルイに話を振られたルーディスは意図を察してヴィルナ達(ローランチーム)に手に入れた書類を提示した。


「これが依頼を受けたお渡しする書類です」


 提示した書類をチームリーダーのブルクスが受け取った。


「受領した。少々待ってくれ。書類が本物かを確認する」


 そう言って書類の確認を始めるブルクス。


 待っている間にヴィルナがルーディスに手を振ってきた。

 ルーディスはそれに対して軽くお辞儀をして答えた。

 その様子にルイが訝しむ。


「ヴィルナ。ウチの弟に気でもあるの?」

「違いますよ。前に薬屋さんでたまたま会って少しお話をする機会があったってだけですよ。手を出したりはしませんから。それよりさっきの続き」

「何か起きるのかって話ね。今の私達は追ってから逃げてる最中なの。しかも相手に厄介なのが混じってる。だから多分このままじゃ終わらない」


 その会話の直後。

 耳に飛び込んできたレイリアの声が緊張感に拍車をかける。


「姉さん。ルーディス。北と南からこっちに近づいてきてるよ。結構な人数いるみたい」


 勘の鋭いレイリアがいち早く接近してくる気配に気が付いた。

 でもそれは予測の範囲内だ。

 探査魔法で何者か(恐らくはケビン)に足取りを掴まれている。

 追いつかれるのは時間の問題だった。

 北から接近してくる連中は間違いなくルーディス達の跡を追ってきている。

 そして南側の追っ手は恐らくローランチームの追跡している者達だろう。

 何度も書類の受け渡し場所が変更されたことを考えれば、ローランチームも恐らく何者かに追われて逃走を続けていたと考えられる。


「お互い、()けられてたってことか。とりあえず西に逃げて相手を撒くしかないわね」


 ルイの提案に反論する者はいなかった。

 唯一例外はレイリアだ。

 追っ手と戦いたいと思っているのだろう。

 その表情には不満の色が滲んでいた。


 ルーディスは、状況を見て自分の意見を飲み込んだレイリアを温かい目で見守った。


 全員の意見が一致したところでルーディス達とローランチームは廃倉庫を出て西に向かう。

 だが、すぐに敵と遭遇した。

 それは南側からの追っ手だった。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 ユリアチームとシューラスチームがルーディスチームの潜伏先だと思われる小屋に到着したが、そこはもぬけの殻であった。

 ただ小屋の周囲に複数の足跡が残っていたことと室内にまだ体温が残った毛布が残されていたことから数分前まで誰かが居たことは間違いない。


「入れ違いになっちまったみたいだな。ルーディスは魔法に敏感だからなぁ。気付かれて先越されちまったか」


 ケビンの推測にユリアがガッカリするように肩を落とす。

 しかし、


「悲観する必要はない。近くに人の気配が早足で移動して遠ざかろうとしている。今なら追える」


 というゴーザの救いの声にユリアは俯きかけた顔を上げた。

 ケビンがユリアの肩に手を置き、気を引き締めたような表情で訊く。


「今なら間に合うってさ。どうするよ、姐さん?」


 それに対するユリアの答えは決まっている。


「訊かれるまでもないわ。追いかけましょう」


 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 襲撃者は三人。

 面を被った曲刀を持つ男、深くフードを被った魔法使いらしき女、ケープで口元を隠して性別の判断ができない人物。


 対するルーディス達は六人。

 相手の実力は知れないが、ルーディス達は個人実技で上位に入った人間ばかりだ。

 人数的にも圧倒しているのだから倒せる相手だと思っていいだろう。

 しかし、南側の追っ手を目にした瞬間にルイが下した決断はまったく違っていた。


「みんな、さっきの倉庫に戻るわよ」

「なんだと?」「理解不能」「なぜです?」「了解」「わかったわ」


 ブルクスとダミアンが疑念を口にして、ヴィルナが理由を求めたが、ルーディスとレイリアが迷いなく即座に反転して走り出したため、有無を言わさず撤退することになった。


「どういうつもりだルイ・アトリス!」


 踵を返して逃げ出したルーディス達を追ってくる襲撃者の気配を背中に感じながらブルクス・ローランがルイを責めるような口調で怒鳴る。


「障害物のない場所で戦ってる間に北の追っ手に追いつかれたら私達は全滅するからよ」

「その根拠は?」

「北の追跡者の中にケビン・カラミティがいるわ。南の追っ手と戦ってる最中に追い着かれて遠距離から広範囲魔法を使われたら一網打尽にされて終わりよ。そんなリスクを抱えてまで強行突破するのは得策じゃないわ。だから一度退くのよ。あのだだっ広くて迷路みたいな倉庫なら身を隠せるし、ケビンちゃんもある程度魔法を制限するでしょう。こちらにも勝機が出てくるってものよ」


 ケビンの名に表情は変わらなかったもののローランチームの面々が口を噤み怯んだ気配を醸し出す。

 魔法の部の実技で見せたケビンの化け物じみた魔法の力を思い出したのかもしれない。


「接近戦に持ち込めば、一方的な敗北だけは回避できるわ。問題は北の追跡者あっちにゴーザ・バイルがいることね。接近戦でもこちらが不利。倉庫の障害物を利用して有利に勝負を持ってくのが理想ね」


「僕達の方が不利なんですか?」


 ルーディスが素朴な疑問を口にする。

 レイリアはゴーザと互角に渡り合った。

 勝利を勝ち取るには厳しい相手ではあるとは思うが不利というほどではない、とルーディスは考えているのかもしれない。

 しかし、そんなルーディスの考えをルイは断じる。


「この際だから、はっきり言っておくわ。『今の』ルーくんとレイちゃんじゃ、ゴーザちゃんにもケビンちゃんにも勝てない」


 ルイは迷いなくそう言いきった。

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